情報提供 TKC税務研究所
税法話題の判例紹介 ◆ 平成29年8月・通巻第216号
賃貸料収入は納税者に帰属するとの更正に当たり、賃貸料の費消に関する虚偽答弁を理由として国税通則法68条1項、70条5項を適用したことが違法とされた事例

【文献番号】 26012672
【文献種別】 裁決/国税不服審判所
【裁決年月日】 平成25年4月19日
【裁決事項】
1. 不動産所得の帰属者の判断基準。
(要旨文献番号:66015436)
2. 不動産賃貸料収入の帰属者は請求人であるとした事例。
(要旨文献番号:66015437)
3. 重加算税制度の趣旨・目的。
(要旨文献番号:66015438)
4. 重加算税の賦課要件。
(要旨文献番号:66015439)
5. 不動産賃貸料収入の帰属の判断に影響しない事項の請求人の虚偽答弁は課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいに当たらないとした事例。
(要旨文献番号:66015440)
6. 国税通則法70条5項に規定する「偽りその他不正の行為」の意義。
(要旨文献番号:66015441)
7. 不動産賃貸料収入の帰属の判断に影響しない事項の請求人の虚偽答弁は偽計その他の工作を伴う不正な行為に当たらないとした事例。
(要旨文献番号:66015442)
【裁決結果】 一部認容、一部棄却
【掲載文献】 裁決事例集91集11頁
【参照法令】 所得税法12条、26条1項
国税通則法68条1項、70条5項



《本裁決の解説》

1. 事案の概要
(1)  本件土地及び本件建物の登記名義人等
 請求人の父F及び母G(Fら)は、昭和56年1月13日売買を原因として、本件土地を取得した(共有持分はFが10分の8、Gが10分の2)。
 本件土地上には本件建物が在り、本件建物については、昭和62年6月21日新築を原因として、同年7月14日にHを所有者とする所有権保存登記がされた後、平成13年2月○日競売による売却を原因として、請求人に対する所有権移転登記がされ、さらに、平成24年10月4日受付で、平成13年3月1日贈与を原因として、請求人からFに所有権移転登記がされた。
(2)  本件建物賃貸借契約
 Kは、物件の表示を「本件建物(備考として、「敷地 本件土地」)」、業種及び使用目的を「エクステリア商品の販売、施工及び店舗」、契約期間を「平成13年1月9日から平成15年1月8日まで」、貸主を「請求人 他2名」、借主を「K」、賃料(本件建物賃貸料)を「R(請求人の義弟である。)名義の普通預金口座(本件R預金口座)に毎月末日までにその翌月分を振り込む。」と記載し、貸主として請求人の署名押印及び借主としてJ代表Kの記名押印がされた平成13年1月9日付の「建物賃貸借契約書」(本件建物賃貸借契約書)を作成し、賃貸借契約(本件建物賃貸借契約)を締結した。
 Kは、その後、エクステリア工事業等を業務目的とするJ社を設立し、代表取締役に就任した。
(3)  本件土地賃貸借契約
 M社は、物件の表示を「本件土地」、契約の目的を「請求人は、本件土地上に建築する・・建物の所有を目的として、M社に本件土地を賃貸し、M社はこれを賃借する。」、借地権の存続期間を「平成17年5月1日から平成22年4月30日までの5年間とする。」、土地賃貸料(本件件土地賃貸料)を「毎月末日までにその翌月分を本件R預金口座へ振り込む。」と記載し、賃貸人として請求人の署名押印及び賃借人としてM社の記名押印がされた平成17年4月30日付の「土地賃貸借契約書」(本件土地賃貸借契約書)を作成し、賃貸借契約(本件土地賃貸借契約)を締結した。(本件土地賃貸借契約と本件建物賃貸借契約とを併せて「本件各賃貸借契約」という。)
(4)  本件建物賃貸料及び本件土地賃貸料(本件各賃貸料)の支払状況
 K又はJ社(Kら)は、平成13年1月から平成16年11月までの間、翌月分の本件建物賃貸料を毎月末日頃に、本件R預金口座に振り込んでいた。
 M社は、平成17年5月以降、翌月分の本件土地賃貸料を毎月末日頃に、本件R預金口座に振り込んでいた。
(5)  原処分庁は、@本件各賃貸料は請求人に帰属する、A請求人が、本件各賃貸料をRに対する慰謝料・示談金として本件R預金口座に全部振り込ませ、自分は1円ももらっていない旨の虚偽の申立を原処分担当者にしたことが隠ぺい又は仮装の行為に当たるなどとして、平成16年分ないし平成22年分(本件各年分)の所得税に係る各更正処分(本件更正処分)及び各重加算税賦課決定処分(本件賦課決定処分)(本件課税処分)をした。
(6)  請求人は、本件課税処分の取消しを求めて、審査請求をした。

     
2. 本裁決の要旨
(1)  本件各賃貸料は、請求人に帰属するか否か。
 所得税法26条1項は、不動産所得とは、不動産等の貸付けによる所得をいう旨規定し、同法12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとする旨規定しているから、同条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判断すべきであり、資産の真実の権利者が誰であるかが明らかでない場合も多いことから、所得税基本通達12−1は、そのような場合には、その資産の名義人が真実の権利者であると推定する旨定めており、当該取扱は相当である。
 本件各賃貸借契約の目的物
(ア) 本件建物賃貸借契約の目的物
  本件建物賃貸借契約書の「物件の表示」には本件建物、「使用目的」には店舗と記載されていること、Kらは、本件建物を店舗として使用するとともに、本件土地をエクステリア商品の展示場及び来客用駐車場として本件建物と一体で使用していたことからすると、本件建物賃貸借契約の目的物は、本件建物であると解される。
(イ) 本件土地賃貸借契約の目的物
  M社は、本件土地賃貸借契約の締結後、直ちに本件建物を改装するなどした上、ショールーム及び事務所として継続して使用しており、本件土地は、ショールーム及び事務所に必要な来客用駐車場として本件建物と一体で使用されていることからすると、M社は、本件土地賃貸借契約の締結当時から、本件建物を一時的に使用する目的でなく、継続的に使用する目的であったと認められるから、本件土地賃貸借契約の目的物は、本件建物であると解される。
(ウ) 本件建物の所有者
  民事執行法上の競売手続による所有権移転は、同法79条の規定により、買受人が代金を納付した時に不動産を取得することとなり、また、買受人とは、同法69条の規定により売却の許可を言い渡された者であると解され、請求人は、平成13年1月●日付で地裁a支部から買受人として売却許可決定を受け、同年2月●日に代金を納付していることから、請求人が、同日、競売手続により本件建物を取得したものと認められ、その後、これをFに移転したとは認められないため、本件各年分において、本件建物の所有者は請求人であったと認められる。
 まとめ
 本件各賃貸借契約の目的物、すなわち本件各賃貸料収入の基因となる資産は本件建物であり、本件建物の所有者は請求人であるから、本件各年分において、本件各賃貸料は請求人に帰属する。
(2)  請求人に隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。
 重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい・仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい・仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要する。
 原処分庁は、請求人が、慰謝料の発生原因がないにも関わらず、原処分担当者に対し、Rに対する慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行い、本件各賃貸料が自己の収入に帰属することを隠ぺいし、申告しなかったことが、平成23年法律114号による改正前国税通則法(通則法)68条1項に規定する隠ぺいの行為に当たる旨主張するが、本件各賃貸借契約の目的物はいずれも本件建物であり、本件各年分において、本件各賃貸料は請求人が享受すべき者となるので、本件R預金口座への振込みは請求人が収受すべき本件各賃貸料の使途の問題にすぎないことからすれば、仮に、請求人が、慰謝料の発生原因がないにも関わらず、原処分担当者に対し、Rに対する慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行ったとしても、それにより本件各賃貸料の帰属の判断に影響しないのであるから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいと評価すべき行為には当たらないため、主張は採用できず、他に隠ぺい・仮装と評価すべき行為を行ったとは認められないため、通則法68条1項に規定する「隠ぺい又は仮装」の行為があったとは認められない。
(3)  請求人に偽りその他不正の行為があったか否か。
 通則法70条5項に規定する「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいい、偽計その他の工作を伴う不正な行為とは、名義の仮装、二重帳簿を作成する等して、法定の申告期限内に申告せず、税務署員の調査上の質問に対し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作出した虚偽の事実を呈示して、正当に納付すべき税額を過少にして、差額を免れることと解するのが相当である。
 原処分庁は、請求人が、本件各賃貸料を請求人に帰属する本件R預金口座に入金させながら、慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行い、本件各賃貸料を不動産所得として申告していない事実が偽りその他不正の行為に当たる旨主張するが、仮に、請求人が、平成16年分ないし平成19年分において、本件各賃貸料を請求人に帰属する本件R預金口座に入金させながら、慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行ったとしても、上記(2)イと同様、それにより本件各賃貸料の帰属の判断に影響しないから、偽計その他の工作を伴う不正な行為には当たらず、他に偽りその他不正の行為を行ったとは認められないため、請求人には、平成16年分ないし平成19年分において、通則法70条5項に規定する「偽りその他不正の行為」があったとは認められない。
(4)  本件課税処分の適否
 平成16年分ないし平成19年分の各更正処分及び各重加算税賦課決定処分
 請求人には、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為があったとは認められず、同条1項の規定により、法定申告期限から3年を経過して更正処分をすることができないから、上記の各更正処分は、その全部を取り消すべきであり、また、これに伴い、上記の各重加算税各賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。
 平成20年分ないし平成22年分の各更正処分及び各重加算税賦課決定処分
(ア) 各更正処分
  本件土地賃貸料に係る不動産収入は請求人に帰属すると認められ、これに基づき請求人の平成20年分ないし平成22年分の不動産所得の金額を計算すると、異議決定後の各更正処分の額と同額となるから、同処分は適法である。
(イ) 各重加算税賦課決定処分
  請求人に通則法68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められないため、重加算税を賦課することはできないが、通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められず、同条1項に規定する過少申告加算税の賦課要件は満たしているため、各重加算税賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すべきである。
  =一部取消=

3. 本裁決に対するコメント
(1)  通則法68条1項は、納税者が、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、隠ぺいし又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたときは、政令で定めるところにより、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定し、同法70条5項1号は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税についての更正決定等は、その国税の法定申告期限(還付請求申告書に係る更正については、当該申告書を提出した日)から7年を経過する日まですることができる旨規定していた。
(2)  本件賦課決定処分及び平成16年分ないし平成19年分の各更正処分の適法性つき、原処分庁は、「請求人が、慰謝料の発生原因がないにも関わらず、原処分担当者に対し、Rに対する慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行い、本件各賃貸料が自己の収入に帰属することを隠ぺいし、申告しなかったこと」が通則法68条1項にいう「隠ぺい」に当たり、また、「請求人が、本件各賃貸料を請求人に帰属する本件R預金口座に入金させながら、慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行い、本件各賃貸料を不動産所得として申告していない事実が偽りその他不正の行為に当たる」と主張していたが、本件課税処分は、本件各賃貸料が請求人に帰属することを理由としたものであり、その帰属が争われている(請求人は、本件各賃貸料はFらに帰属する、本件R預金口座はRに帰属する、請求人が本件各賃貸料を受領した事実も、消費した事実もない、と主張していた。)本件においては、通則法68条1項、同法70条5項の規定内容に照らし、「隠ぺいし又は仮装し」、「偽りその他不正の行為」とは、いずれも、本件各賃貸料の発生ないし帰属に関する事実についてのものでなければならないと解するのが相当であり、したがって、「Rに対する慰謝料等が発生しているかのような虚偽の答弁」を行ったという、本件賃貸料の費消に関する虚偽答弁をもって「隠ぺいし」、「偽りその他不正の行為」に当たるとする原処分庁の主張は失当であったいうほかない。
 この点に関する、「仮に、請求人が、慰謝料の発生原因がないにも関わらず、原処分担当者に対し、Rに対する慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行ったとしても、それにより本件各賃貸料の帰属の判断に影響しないのであるから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいと評価すべき行為には当たらない」等(前記2(2)イ、同(3)イ)の本裁決の判断は、上記の趣旨をいうものと理解される。
(3)  通則法68条に規定する重加算税の賦課要件については、「重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない」と解され(最高裁判所第二小法廷昭和62年5月8日判決・裁判所HP・税務訴訟資料158号592頁・LEX/DB22002117)、「ここでいう故意があるというためには、当該納税者が隠ペい又は仮装行為と評価されるべき客観的事実を意図的に実現したことが必要である」(仙台地裁平成5年8月10日判決・税務訴訟資料198号482頁・LEX/DB22007941)、「仮装隠ぺいに該当するというためには、本人又は本人から依頼された第三者が申告に際し虚偽事実(誤った事実)をもって申告することの認識、すなわち仮装隠ぺいの故意をもって行ったということは必要であり、それがなく結果的に不注意により虚偽事実をもって申告したという場合には仮装隠ぺいがないために重加算税は成立しない」(東京高裁平成11年2月24日判決・税務訴訟資料240号895頁・LEX/DB28061133)と解されている。
 請求人が本件各賃貸料を自己に帰属するものとして申告しなかったことについては、本裁決書記載の事実関係、請求人の主張等からは、請求人は、本件各賃貸料が自己に帰属することを認識した上で(故意に)申告しなかったものでなく、自己に帰属しないとの法解釈の認識(誤認)の下に申告しなかったものとの認定が相当であり、この意味においても、重加算税の賦課要件等が満たされていないことになるように思われる。
(4)  本裁決は、「隠ぺいし又は仮装し」(通則法68条1項)、「偽りその他不正の行為」(同法70条5項)とは、当該課税要件に該当する事実についてなされたものでなければならない旨の判断を示した事例として、実務上、参考となる。


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