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《書 誌》
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【文献番号】 26012672
【文献種別】 裁決/国税不服審判所
【裁決年月日】 平成25年 4月19日
【裁決事項】 1. 不動産所得の帰属者の判断基準。
(要旨文献番号:66015436)
  2. 不動産賃貸料収入の帰属者は請求人であるとした事例。
(要旨文献番号:66015437)
  3. 重加算税制度の趣旨・目的。
(要旨文献番号:66015438)
  4. 重加算税の賦課要件。
(要旨文献番号:66015439)
  5. 不動産賃貸料収入の帰属の判断に影響しない事項の請求人の虚偽答弁は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいに当たらないとした事例。
(要旨文献番号:66015440)
  6. 国税通則法70条5項に規定する「偽りその他不正の行為」の意義。
(要旨文献番号:66015441)
  7. 不動産賃貸料収入の帰属の判断に影響しない事項の請求人の虚偽答弁は、偽計その他の工作を伴う不正な行為に当たらないとした事例。
(要旨文献番号:66015442)
【裁決結果】 一部認容、一部棄却
【掲載文献】 裁決事例集91集11頁
【評釈等所在情報】 〔日本評論社〕
吉田利彦・税務弘報62巻13号126頁
賃貸借契約の目的物とその賃料収入の帰属〈租税法務学会裁決事例研究237〉名裁(所)平24-39
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 《全 文》

【文献番号】26012672  

平成25年4月19日裁決
《裁決書(抄)》


1 事実
(1)事案の概要
 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の父母が所有する土地及び当該土地上の請求人名義の建物に係る不動産賃貸料収入は請求人に帰属するものであり、請求人が当該不動産賃貸料収入を申告しなかったことは隠ぺい又は仮装の行為に基づくものであるなどとして、所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、不動産賃貸借契約の目的物は当該土地のみであり、当該土地の所有者は請求人の父母であるから、当該不動産賃貸料収入は請求人に帰属するものではないなどとして、当該各処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯
 平成16年分、平成17年分、平成18年分、平成19年分、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらの年分を併せて「本件各年分」という。)の所得税について、審査請求(平成24年8月10日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
(3)関係法令等
イ 所得税法
(イ)第12条《実質所得者課税の原則》
 本条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する旨規定している。
(ロ)第26条《不動産所得》
 第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定している。
ロ 所得税基本通達12-1《資産から生ずる収益を享受する者の判定》
 本通達は、所得税法第12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判定すべきであるが、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する旨定めている。
ハ 国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)
(イ)第68条《重加算税》
 第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
(ロ)第70条《国税の更正、決定等の期間制限》
 第1項第1号は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては、することができない旨規定し、第4項第2号は、加算税の賦課決定は、その納税義務の成立の日から5年を経過した日以後においては、することができない旨規定し、また、第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税(当該国税に係る加算税を含む。)についての更正及び加算税の賦課決定は、第1項及び第4項の規定に関わらず、更正はその更正に係る国税の法定申告期限から、加算税の賦課決定処分はその納税義務の成立の日から、それぞれ7年を経過する日まですることができる旨規定している。
ニ 借地借家法第2条《定義》
 第1号は、この法律において、借地権は、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう旨規定している。
ホ 民事執行法
(イ)第69条《売却決定期日》
 本条は、執行裁判所は、売却決定期日を開き、売却の許可又は不許可を言い渡さなければならない旨規定している。
(ロ)第79条《不動産の取得の時期》
 本条は、買受人は、代金を納付した時に不動産を取得する旨規定している。
(4)基礎事実
 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。
イ 不動産賃貸料収入に係る土地及び建物の登記名義人等
(イ)土地
 請求人の父F及び母G(以下、Fと併せて「Fら」という。)は、昭和56年1月13日売買を原因として別表2の番号1記載の土地(以下「本件土地」という。)を取得した。
 なお、それぞれの共有持分は、Fが10分の8、Gが10分の2である。
(ロ)建物
 本件土地上には別表2の番号2記載の建物(以下「本件建物」という。)が在り、本件建物については、昭和62年6月21日新築を原因として、同年7月14日にHを所有者とする所有権保存登記がされ、その後、平成13年2月○日競売による売却を原因として、請求人に対する所有権移転登記がされた。
 なお、平成24年10月4日受付で、平成13年3月1日贈与を原因として、請求人からFに所有権移転登記がされた。
ロ 建物賃貸借契約書による賃貸借契約
 e市f町○-○においてJの屋号で造園業を営んでいたKは、平成13年1月9日付の「建物賃貸借契約書」(以下「本件建物賃貸借契約書」という。)により、賃貸借契約(以下「本件建物賃貸借契約」といい、本件建物賃貸借契約に係る賃料を「本件建物賃貸料」という。)を締結した。なお、Kは、その後、e市f町○-○を本店所在地として、エクステリア工事業等を業務目的とするJ社を設立し、代表取締役に就任した。
 また、本件建物賃貸借契約書には、貸主として請求人の署名押印及び借主としてJ代表Kの記名押印がされており、記載内容は、要旨以下のとおりであった。
(イ)物件の表示 本件建物(「備考」として、「敷地 本件土地」)
(ロ)業種及び使用目的 エクステリア商品の販売、施工及び店舗
(ハ)契約期間 平成13年1月9日から平成15年1月8日まで
(ニ)貸主 請求人 他2名
(ホ)借主 K
(ヘ)賃料 月額180,000円
(ト)支払方法 R名義のL信用金庫g支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件R預金口座」という。)に毎月末日までにその翌月分を振り込む。
(チ)第1条 使用目的
 借主は、上記(イ)の物件を上記(ロ)の業種及び使用目的にのみ使用する。
ハ 土地賃貸借契約書による賃貸借契約
 h市i町○-○に所在し、宅地建物取引業等を営んでいたM社(現:N社。)は、平成17年4月30日付の「土地賃貸借契約書」(以下「本件土地賃貸借契約書」という。)により、賃貸借契約(以下「本件土地賃貸借契約」といい、本件建物賃貸借契約と併せて「本件各賃貸借契約」という。また、本件土地賃貸借契約に係る賃料を「本件土地賃貸料」といい、本件建物賃貸料と併せて「本件各賃貸料」という。)を締結した。
 また、本件土地賃貸借契約書には、請求人とM社は請求人が所有する本件土地について借地権の設定契約を締結する旨記載され、賃貸人として請求人の署名押印及び賃借人としてM社の記名押印がされており、記載内容は、要旨以下のとおりであった。
(イ)第1条(契約の目的)
 請求人は、本件土地上に建築する後記(ホ)のBに記載する建物の所有を目的として、M社に本件土地を賃貸し、M社はこれを賃借する。
(ロ)第2条(存続期間)
 借地権の存続期間は、平成17年5月1日から平成22年4月30日までの5年間とする。
(ハ)第3条(賃料)
 本件土地賃貸料は、月額180,000円とし、M社は、毎月末日までにその翌月分を本件R預金口座へ振り込む。
(ニ)第14条(特約条項)
A 本件土地上には現状本件建物が在るため、第1条に関わらず、契約時点での、後記(ホ)のBの「建物の表示」は記載しないものとし、後日、本件土地上に現状有する本件建物を増改築・解体する場合は請求人に承諾を得なければならない。
B M社は本件土地上に現状有する本件建物を利用することができ、その利用料は本件土地賃貸料に含むものとする。
(ホ)物件の表示
A 土地の表示 本件土地
B 建物の表示 無し
ニ 本件各賃貸料の支払状況
(イ)本件建物賃貸料の支払状況
 K又はJ社(以下「K等」という。)は、平成13年1月から平成16年11月までの間、翌月分の本件建物賃貸料180,000円を毎月末日頃に、本件R預金口座に振り込んでいた。
(ロ)本件土地賃貸料の支払状況
 M社は、平成17年5月以降、翌月分の本件土地賃貸料180,000円を毎月末日頃に、本件R預金口座に振り込んでいた。
ホ 重加算税の賦課決定処分等
(イ)原処分庁
 原処分庁は、請求人が本件各賃貸料に係る不動産収入(以下「本件各賃貸料収入」という。)を申告しなかったことについて、請求人が本件各賃貸料をRに対する慰謝料・示談金として本件R預金口座に全部振り込ませ自分は1円ももらっていない旨虚偽の申立てをしたことにより隠ぺい又は仮装の行為があったものと認められるとして、本件各年分の重加算税の各賦課決定処分をした。
(ロ)異議審理庁
 異議審理庁は、請求人が本件各賃貸料収入を申告しなかったことについて、請求人が本件各賃貸料を請求人の名義ではない本件R預金口座に入金させることにより本件各賃貸料が請求人に帰属することを秘匿したことが隠ぺい又は仮装の行為に当たるとして、本件各年分の重加算税の各賦課決定処分に係る異議決定をした。

2 争点
(1)争点1 本件各賃貸料収入は、請求人に帰属するか否か。
(2)争点2 本件各年分について、請求人には、隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。
(3)争点3 平成16年分ないし平成19年分について、請求人には、偽りその他不正の行為があったか否か。

3 争点に対する当事者双方の主張
(1)争点1 本件各賃貸料収入は、請求人に帰属するか否か。
原処分庁
 本件各賃貸借契約の目的物は、次のイ及びロのとおり、いずれも本件建物であり、その所有者は、次のハのとおり、請求人であるから、本件各賃貸料収入は、請求人に帰属する。
イ 本件建物賃貸借契約の目的物
 本件建物賃貸借契約書において、「物件の表示」は本件建物、「使用目的」は店舗となっており、K等は、本件建物を展示場として使用していたことから、本件建物賃貸借契約の目的物は、本件建物である。
ロ 本件土地賃貸借契約の目的物
 本件土地賃貸借契約の目的物は、次の理由から、本件建物である。
(イ)本件土地賃貸借契約書によれば、M社は、本件建物を本件土地の賃貸借に伴い利用することができ、利用料は、本件土地賃貸料に含まれる旨記載されている。
(ロ)M社は、本件建物を改装し、同社の展示場兼事務所として使用しており、本件建物を取り壊したり、新たな建物を建てたりする具体的な計画は認められず、本件土地は、本件建物の敷地及びM社が本件建物を使用して業務を営む際に必要な駐車場として使用されているにすぎないという利用状況に鑑みれば、本件土地賃貸借契約の目的物が本件土地であると解することはできない。
ハ 本件建物の所有者
(イ)請求人は、本件建物を取得して以降、本件土地をFらから使用貸借により借り受けていることからすると、本件建物賃貸料は、請求人に帰属する。
(ロ)本件建物は、平成13年2月○日競売による売却を原因として請求人に所有権移転登記がされていることから、その所有者は請求人である。
 なお、Fは、請求人が本件建物を競落したことは知らなかった。
請求人
 本件各賃貸借契約の目的物は、次のイ及びロのとおり、いずれも本件土地であり、その所有者は、次のハのとおり、Fらであるから、本件各賃貸料収入は、請求人に帰属しない。
イ 本件建物賃貸借契約の目的物
 K等は、ガーデニング商品を本件土地上に陳列して販売しており、本件土地を使用していたことは明らかであるから、本件建物賃貸借契約の目的物は、本件土地である。
ロ 本件土地賃貸借契約の目的物
 本件土地賃貸借契約の目的物は、次の理由から、本件土地である。
(イ)本件土地賃貸借契約書の「物件の表示」の「土地の表示」には本件土地と表示され、「建物の表示」には「無し」と表示されていることから、本件土地賃貸借契約は、専ら、本件土地を対象として締結されたものであると解するのが相当である。
(ロ)原処分庁の答弁書に記載されているM社の代表取締役Pの供述も、本件土地賃貸借契約の目的物が本件土地であることを裏付ける内容となっている。
ハ 本件建物等の所有者
(イ)本件土地の所有者(名義者)はFらであることから、その収益の基因となる資産の真実の権利者はFらである。
(ロ)本件建物の所有名義が請求人となっている訳は、平成13年の競売の際、Fが高齢であるため、Fから依頼を受けた請求人が手続を行い、費用を立替えたためであるから、その真実の所有者はFである。
(2)争点2 本件各年分について、請求人には、隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。
原処分庁
 請求人には、本件各年分において、次のとおり、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい」に当たる行為があった。
イ 請求人が申述した慰謝料の発生原因については、次の理由から、その事実があったとは認められない。
(イ)請求人は、本件建物の所有者に関すること及びやくざ等が請求人のところに来た理由についての申立ての内容を変遷させており、その申立てには信ぴょう性があるとは認められない。
(ロ)請求人の義弟であるRは、請求人が困っていたため仲裁に入った時の相手方が誰であるか、また、どのように仲裁をしたかについては覚えていない旨申述しており、これにより離婚にまで追い込まれたとする本人であるRが覚えていないというのはあまりにも不自然である。
(ハ)Fは、本件建物にやくざ等が押しかけて来たことについて、知らない旨申述している。
ロ 請求人は、上記イのとおり、慰謝料の発生原因となった事実がないにも関わらず、原処分庁所属の原処分調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)に対して、Rに対する慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行い、本件各賃貸料収入が自己の収入に帰属することを隠ぺいし、申告していなかった。
請求人
 請求人には、本件各年分において、上記(1)の「請求人」欄の事実及び次のとおり、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい又は仮装」に当たる行為はなかった。
イ 請求人は、次の理由から、本件各賃貸料収入について申告の必要性を全く認識していなかった。
(イ)本件各賃貸料は、本件R預金口座に、各賃借人から直接振り込まれており、請求人が本件各賃貸料を受領した事実はなく、また消費もしていない。
(ロ)本件R預金口座は、次の理由から、Rに帰属するもので、請求人には帰属しない。
A 本件R預金口座の預金通帳及び使用印鑑は、Rが管理している。
B 本件R預金口座から請求人に対し金銭の移動の事実はない。
C 請求人は、本件R預金口座の出金について、全く関与していない。
ロ 請求人は、本件調査担当職員から、本件各賃貸料収入が請求人の所得となるとの指摘を受けて初めて申告の必要性を知ったもので、その後の調査にも言われるとおりに従い、協力していた。
(3)争点3 平成16年分ないし平成19年分について、請求人には、偽りその他不正の行為があったか否か。
原処分庁
 本件各賃貸料収入に係る不動産所得を申告していないことについて、上記(2)のとおり、請求人に隠ぺい行為があったと認められ、当該行為は、通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する。
 すなわち、請求人が、平成16年分ないし平成19年分において、本件各賃貸料を請求人に帰属する本件R預金口座に入金させながら、慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行い,本件各賃貸料収入を不動産所得として申告していない事実は、偽りその他不正の行為に当たる。
請求人
 本件各賃貸料収入に係る不動産所得を申告していないことについて、上記(2)のとおり、請求人に隠ぺい又は仮装の行為はなかったので、平成16年分ないし平成19年分において、通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」はなかった。 


4 判断
(1)争点1 本件各賃貸料収入は、請求人に帰属するか否か。
イ 法令等解釈
 前記1の(3)のイのとおり、所得税法第26条第1項は、不動産所得とは、不動産等の貸付けによる所得をいう旨規定しており、また、同法第12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとする旨規定している。したがって、同条の規定の適用上、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判断すべきものと解されるが、資産の真実の権利者が誰であるかが明らかでない場合も多いことから、同ロのとおり、所得税基本通達12-1において、そのような場合には、その資産の名義人が真実の権利者であるものと推定する旨定めており、当審判所においても、当該通達の取扱いは相当であると認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件建物の競売手続等
A Q地方裁判所a支部(以下「地裁a支部」という。)は、請求人に対し、平成13年1月○日付で本件建物を○○○○円で売却することを許可し、同年2月1日付で本件建物の代金納付期限が同年3月13日午後2時、納付すべき代金の額は受領済の入札保証金○○○○円を控除した○○○○円である旨を通知した。
B 請求人は、平成13年2月○日に上記Aの○○○○円を地裁a支部名義の口座に振り込み、納付した。
(ロ)本件土地及び本件建物の利用状況等
A K等は、本件建物賃貸借契約の締結後、平成16年12月頃までの間、本件建物を店舗として使用し、本件土地をエクステリア商品の展示場及び来客用駐車場として使用していた。
B M社は、本件土地賃貸借契約の締結後、本件建物をショールーム及び事務所として使用し、また、本件土地を来客用駐車場として使用し、駐車場東側に看板を設置した。
(ハ)M社による本件建物の改装等
 M社は、平成17年9月頃、本件建物の改装及び本件土地上に看板設置等を行い、その費用として総額8,092,164円(消費税及び地方消費税を除く。)を支払った。
ハ 請求人の答述及びFの申述
(イ)請求人は、平成24年11月9日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 本件建物賃貸借契約書の記載条項等について
本件建物賃貸借契約書に、貸主として「請求人 他2名」と記載されていることについては、分からないが、多分Fらではないかと思う。
B 本件建物の入札手続等について
 本件建物の入札手続については、よく覚えていないが、近所の人が代行してくれたと思う。また、本件建物の競売の買受代金については、請求人とFのどちらが負担したかは分からない。
C 平成24年10月4日受付の所有権移転登記等について
 本件建物の所有権移転登記の原因である贈与の日を、平成13年3月1日としたことについて、特別な事情や合理的な理由はない。これは、請求人が法務局に赴き、登記名義を本来の姿にするにはどうすればよいか相談したところ、日付は同年2月○日以降の切りの良い日になったと思う。
 請求人とFとの間の贈与に係る契約書はない。
(ロ)Fは、平成24年5月24日、異議審理庁所属の異議調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
A 本件建物の購入等について
 本件建物の競売開始について、裁判所から手紙が来ていたと思うが、請求人に任せていたので、請求人が購入したかは分からない。
 また、今、本件建物の所有者が誰であるかも分からない。
B M社との賃貸借契約等について
 平成17年頃にM社が本件土地を使用することについても、分からない。
ニ 判断
(イ)本件建物賃貸借契約の目的物
A 結論
 前記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件建物賃貸借契約書の「物件の表示」には本件建物、「使用目的」には店舗と記載されていること、K等は、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件建物を店舗として使用するとともに、本件土地をエクステリア商品の展示場及び来客用駐車場として本件建物と一体で使用していたことからすると、本件建物賃貸借契約の目的物は本件建物であると解するのが相当である。
 なお、前記1の(4)のロの(イ)のとおり、本件建物賃貸借契約書の「物件の表示」に「備考」として「敷地 本件土地」と記載されているが、本件建物の賃貸借に際して、本件建物の敷地の範囲を示したものにすぎないと認められ、また、同(ニ)のとおり、「貸主」に「請求人 他2名」と記載されているが、他2名が誰なのかは本件建物賃貸借契約書からは明らかではなく、請求人は、上記ハの(イ)のAのとおり、他2名は分からないが多分Fらではないかと思う旨答述しているにとどまり、貸主としての署名押印は請求人のみで請求人以外の者の押印もないことからすれば、請求人以外の者が本件建物以外の物件を賃貸したものとは認められず、これらをもって、本件建物賃貸借契約の目的物が本件建物であるとの判断に影響を与えるものではない。
B 請求人の主張の採否
 請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、K等が本件土地を使用していたことは明らかであるから、本件建物賃貸借契約の目的物は、本件土地である旨主張するが、そうすると、前記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件建物賃貸借契約書の「物件の表示」に本件建物、「使用目的」に店舗と記載されていることに明らかに反するから、請求人の主張は採用できない。
(ロ)本件土地賃貸借契約の目的物
A 結論
 M社は、上記ロの(ロ)のB及び(ハ)のとおり、本件土地賃貸借契約の締結後、直ちに本件建物を改装するなどした上、ショールーム及び事務所として継続して使用しており、本件土地は、ショールーム及び事務所に必要な来客用駐車場として本件建物と一体で使用されていることからすると、M社は、本件土地賃貸借契約の締結当時から、本件建物を一時的に使用する目的ではなく、継続的に使用する目的であったものと認められる。
したがって、本件土地賃貸借契約の目的物は、本件建物である。
B 請求人の主張の採否
(A)前記1の(4)のハの(ホ)のとおり、本件土地賃貸借契約書の「物件の表示」の「土地の表示」には本件土地、「建物の表示」には「無し」と記載されていることから、請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のロの(イ)のとおり、本件土地賃貸借契約は、専ら、本件土地を対象として締結されたものである旨主張する。
 しかしながら、前記1の(4)のハの(ニ)のAによれば、本件土地上には現状本件建物が在るため、第1条に関わらず、契約時点での、後記物件の表示の「建物の表示」は記載しないものとしており、本件土地賃貸借契約書の「物件の表示」の「建物の表示」の「無し」という記載は、本件土地上に本件建物が存在している現状と矛盾すること、本件土地の所有者はFらであって、請求人には本件土地を他人に賃貸する権原がないことからすれば、本件土地賃貸借契約書自体が不合理であって、このような本件土地賃貸借契約書をもって、本件土地賃貸借契約が、専ら、本件土地を対象として締結されたものであるとはいえない。
 なお、請求人は、本件土地賃貸借契約に係る手続は請求人がFらの代わりに行っただけであり、当該契約はFが締結した旨主張するが、上記ハの(ロ)のBのとおり、FはM社が本件土地を使用することについて分からない旨申述している上、本件土地賃貸借契約書には請求人がFらの代理人である旨の顕名もないことからすれば、請求人の主張は採用できない。
(B)請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、原処分庁の答弁書に記載されているM社の代表取締役Pの供述も、本件土地賃貸借契約の目的物が本件土地であることを裏付ける内容となっている旨主張する。
 しかしながら、原処分庁がPの応答内容について同人に読み聞かせ同人から相違ないものとして署名押印を徴した書類がないため、同人が答弁書記載のような、本件土地を賃借し、本件建物は勝手に使ってもよいというイメージでいたなどの供述をしたのかは必ずしも明らかではなく、仮にそのような供述をしたとしても、前記1の(3)のニのとおり、借地借家法第2条にいう借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権であり、「建物の所有を目的とする」とは、借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を建築し、これを所有することにある場合を指すところ、本件建物の所有者はM社ではなく、M社が本件建物の所有を目的として本件土地を使用することはできないので、Pの供述をもって本件土地賃貸借契約の目的物が本件土地であることを裏付けるものとはいえない。
(C)請求人は、平成22年4月30日付の「土地賃貸借契約書」を当審判所に提出しており、当該契約書は、本件土地賃貸借契約書と比べて、「物件の表示」、本件土地賃貸料及びその支払方法等に変更がなく、異なる主な点は、賃貸人をFとしていること及び借地権の存続期間を「平成22年5月1日から平成27年4月30日まで」としていることなどである。
 しかしながら、本件土地はFらの共有であるところ、賃貸人をFのみとしているのは不自然であることからすれば、当該契約書は信用することができず、これをもって本件土地賃貸借契約書の目的物が本件土地であることを裏付ける証拠とすることはできない。
(ハ)本件建物の所有者
A 競売手続における本件建物の取得者
 前記1の(3)のホのとおり、民事執行法上の競売手続による所有権移転は、同法第79条の規定により、買受人が代金を納付した時に不動産を取得することとなり、また、買受人とは同法第69条の規定により売却の許可を言い渡された者であると解されるところ、請求人は、上記ロの(イ)のA及びBのとおり、平成13年1月○日付で地裁a支部から買受人として売却許可決定を受け、同年2月○日に代金を納付していることから、請求人が、同日、競売手続により本件建物を取得したものと認められる。
B 請求人の主張の採否
(A)請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のハの(ロ)のとおり、本件建物の登記名義が請求人となっているのは、平成13年の競売の際、Fが高齢であるため、Fから依頼を受けた請求人が手続を行い、費用を立替えたためであるから、その真実の所有者はFである旨主張し、当該主張に沿った証拠として、Fに本件建物の所有者としての意思あるいは賃貸人としての意思があったことを前提とする平成13年5月付の「念書」を提出している。
 しかしながら、上記ハの(イ)のBのとおり、請求人は、買受代金を請求人とFのどちらが負担したかは分からない旨答述していること、同(ロ)のAのとおり、Fは、請求人が購入したかは分からない旨申述していること、また、前記1の(4)のニの(イ)のとおり、本件建物賃貸料の支払開始日は平成13年1月であるところ、上記念書は同年5月付であり、作成年月が不自然であることからすると、Fが本件建物を競売で取得したと認めることはできず、請求人の主張は採用できない。
(B)また、前記1の(4)のイの(ロ)のとおり、本件建物については、平成13年3月1日贈与を原因とするFへの所有権移転登記がされている。
 しかしながら、上記ハの(イ)のCのとおり、請求人とFとの間の贈与に係る契約書はない上、所有権移転登記の原因である贈与の日を、平成13年3月1日としたことについて、特別な事情や合理的な理由はないこと、同(ロ)のAのとおり、Fは、申述当時、本件建物の所有者が誰であるかも分からないことからすれば、当該所有権移転登記をもって請求人が同日贈与を原因として本件建物の所有権をFに移転したと認めることはできない。
C 結論
 したがって、請求人は、上記A及びBのとおり、平成13年2月○日に競売によって本件建物の所有権を取得しており、その後、これをFに移転したとは認められないことからすると、本件各年分において、本件建物の所有者は請求人であったと認められる。
(ニ)まとめ
 以上のとおり、本件各賃貸借契約の目的物すなわち本件各賃貸料収入の基因となる資産はいずれも本件建物であり、本件建物の所有者は請求人であるから、本件各年分において、本件各賃貸料収入はいずれも請求人に帰属する。
 なお、請求人は、本件R預金口座に振り込まれた本件各賃貸料収入を享受していないから、本件各賃貸料収入は請求人に帰属しない旨主張するが、請求人が現実に本件各賃貸料を収受していないとしても、上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件各賃貸借契約の目的物はいずれも本件建物であり、本件各賃貸料収入は請求人が享受すべき者となるので、本件R預金口座への振込みは、請求人が収受すべき本件各賃貸料の使途の問題にすぎず、本件各賃貸料収入の帰属の判断に影響するものではない。
(2)争点2 本件各年分について、請求人には、隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。
イ 法令解釈
 通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をしたことについて隠ぺい・仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい・仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい・仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであると解される。
ロ 原処分庁の主張の採否
(イ)原処分庁は、前記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、請求人が、慰謝料の発生原因がないにも関わらず、本件調査担当職員に対し、Rに対する慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行い、本件各賃貸料収入が自己の収入に帰属することを隠ぺいし、申告していなかったことが、通則法第68条第1項に規定する隠ぺいの行為に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のニの(ニ)のとおり、本件各賃貸借契約の目的物はいずれも本件建物であり、本件各年分において、本件各賃貸料収入は請求人が享受すべき者となるので、本件R預金口座への振込みは請求人が収受すべき本件各賃貸料の使途の問題にすぎないことからすれば、仮に、請求人が、慰謝料の発生原因がないにも関わらず、本件調査担当職員に対し、Rに対する慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行ったとしても、それにより本件各賃貸料収入の帰属の判断に影響しないのであるから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいと評価すべき行為には当たらず、原処分庁の主張は採用できない。
(ロ)なお、原処分庁及び異議審理庁は、請求人の隠ぺい・仮装の行為について、前記1の(4)のホの(イ)及び(ロ)のとおりとし、その後、上記(イ)のとおり虚偽の答弁を行って本件各賃貸料収入の帰属を隠ぺいし申告していないことが通則法第68条第1項に規定する隠ぺいの行為に当たるという主張へ変遷しているところ、合理的な理由もなく主張を変遷させることはできるだけ避けるべきであるが、その点をさておくとしても、仮に、請求人が本件各賃貸料を請求人の名義ではない本件R預金口座に入金させたからといって、上記(イ)と同様、それにより本件各賃貸料収入の帰属の判断に影響しないのであるから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい・仮装と評価すべき行為には当たらず、原処分庁の主張が採用できないことに変わりはない。
ハ 結論
 したがって、上記ロのとおり、原処分庁の主張は採用することができず、また、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、他に請求人が隠ぺい・仮装と評価すべき行為を行ったとは認められないので、請求人には、本件各年分において、隠ぺい・仮装の行為があったとは認められない。
(3)争点3 平成16年分ないし平成19年分について、請求人には、偽りその他不正の行為があったか否か。
イ 法令解釈
 通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」とは,税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解される。 
 そして、偽計その他の工作を伴う不正な行為とは、名義の仮装、二重帳簿を作成する等して、法定の申告期限内に申告せず、税務署員の調査上の質問に対し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作出した虚偽の事実を呈示したりして、正当に納付すべき税額を過少にして、その差額を免れることと解するのが相当である。
ロ 原処分庁の主張の採否
 原処分庁は、前記3の(3)の「原処分庁」欄のとおり、請求人が、本件各賃貸料を請求人に帰属する本件R預金口座に入金させながら、慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行い、本件各賃貸料収入を不動産所得として申告していない事実は、偽りその他不正の行為に当たる旨主張する。
 しかしながら、仮に、請求人が、平成16年分ないし平成19年分において、本件各賃貸料を請求人に帰属する本件R預金口座に入金させながら、慰謝料が発生しているかのように虚偽の答弁を行ったとしても、上記(2)のロの(イ)と同様、それにより本件各賃貸料収入の帰属の判断に影響しないのであるから、偽計その他の工作を伴う不正な行為には当たらず、原処分庁の主張は採用できない。
ハ 結論
 したがって、上記ロのとおり、原処分庁の主張は採用することができず、また、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、他に請求人が偽りその他不正の行為を行ったとは認められないので、請求人には、平成16年分ないし平成19年分において、偽りその他不正の行為があったとは認められない。
(4)本件各年分の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分の適法性
イ 平成16年分ないし平成19年分の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分
 請求人には、上記(3)のハのとおり、通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為があったとは認められないことから、前記1の(3)のハの(ロ)のとおり、同条第1項の規定により、法定申告期限から3年を経過して更正処分をすることができない。
 したがって、平成16年分ないし平成19年分の各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。
 また、これに伴い、平成16年分ないし平成19年分の重加算税の各賦課決定処分も、いずれもその全部を取り消すべきである。
ロ 平成20年分ないし平成22年分の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分
(イ)各更正処分
 本件土地賃貸料に係る不動産収入は、上記(1)のニの(ニ)のとおり、請求人に帰属すると認められ、これに基づき請求人の平成20年分ないし平成22年分の不動産所得の金額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄の各「〔5〕不動産所得の金額」欄のとおり、いずれも異議決定を経た後の各更正処分の額と同額となり、また、納付すべき税額も、いずれも異議決定を経た後の各更正処分の額と同額となることから、平成20年分ないし平成22年分の各更正処分は、いずれも適法である。
(ロ)重加算税の各賦課決定処分
 請求人には、上記(2)のハのとおり、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められないから、重加算税を賦課することはできず、平成20年分ないし平成22年分の各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該各更正処分の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項に規定する過少申告加算税の賦課要件を満たしていることとなる。
 したがって、平成20年分ないし平成22年分の重加算税の各賦課決定処分は、いずれも過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すべきである。
(5)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表1 審査請求に至る経緯
別表2 本件土地及び本件建物の明細(省略)
別表3 不動産所得の金額(省略)
別紙1~3 取消額等計算書(省略)


 

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