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《書 誌》
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【文献番号】 25503537
【文献種別】 判決/名古屋地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 平成24年 7月26日
【事件名】 消費税及び地方消費税更正処分等取消請求事件
【判示事項】 〔TKC税務研究所〕
  1. 土地の取得は「課税仕入れ」に含まれないか(積極)。
(要旨文献番号:60065470)
  2. 「課税仕入れ」の判定は、取引の経済的実質に着目して行うべきか(消極)。
(要旨文献番号:60065471)
  3. 消費税法30条1項1号の「当該課税仕入れを行った日」の意義。
(要旨文献番号:60065472)
  4. 採石のための土地及び立木の取得に係る仕入税額控除の時期を、森林法等の許認可を受けた日と解することはできないとした事例。
(要旨文献番号:60065473)
  5. 租税法律主義と信義誠実の原則の適用。
(要旨文献番号:60065474)
  6. 過去の税務調査における指摘に従ったことをもって、信義則の適用があるということはできないとした事例。
(要旨文献番号:60065475)
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 確定
【裁判官】 福井章代 笹本哲朗 山根良実
【掲載文献】 税務訴訟資料262号順号12011
【参照法令】 消費税法2条
消費税法6条
消費税法7条
消費税法8条
消費税法30条
消費税法別表1
農地法3条
【引用判例】 (当判例が引用している判例等)
最高裁判所第三小法廷 昭和60年(行ツ)第125号
昭和62年10月30日
【全文容量】 約30Kバイト(A4印刷:約17枚)




 《全 文》

【文献番号】25503537  

消費税及び地方消費税更正処分等取消請求事件
名古屋地方裁判所平成●●年(○○)第●●号
平成24年7月26日民事第9部判決

       判   決

原告 A株式会社
同代表者代表取締役 甲
同訴訟代理人弁護士 加藤睦雄
同 林秀明
同 八木俊行
被告 国
同代表者法務大臣 滝実
処分行政庁 松阪税務署長 間瀬暢宏
同指定代理人 早川充
同 坂上公利
同 塚元修
同 松田清志
同 小西宏季


       主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 処分行政庁が平成20年11月26日付けで原告に対してした平成18年7月1日から平成19年6月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税に係る更正処分のうち、消費税額6365万8200円、地方消費税額1591万4500円を超える部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は、採石業者である原告が、採石のための土地及び立木の取得が課税仕入れに該当し、その課税仕入れに係る消費税額の控除の時期は採石法の認可又は森林法の許可が得られた時期であるとして、平成18年7月1日から平成19年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)の確定申告をしたところ、処分行政庁から、上記土地の取得は課税仕入れに該当せず、上記立木の取得に係る消費税額の控除の時期は引渡しを受けた日の属する課税期間であるとして、消費税等の更正処分を受けたため、上記更正処分のうち、原告の主張する金額を超える部分の取消しを求めた事案である。
2 消費税法の定め
(1)課税仕入れについて
ア 消費税法2条1項12号は、「課税仕入れ」の意義について、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、7条1項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び8条1項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう旨定めている。
 そして、消費税法2条1項9号は、「課税資産の譲渡等」の意義について、資産の譲渡等のうち、6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいうと定めている。
イ 消費税法6条1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さないと規定し、別表第一の1号は、「土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付け(一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)」を掲げている。
(2)仕入税額控除について
 消費税法30条1項は、事業者が、国内において行う課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、同項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の45条1項2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に105分の4を乗じて算出した金額をいう。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額の合計額を控除する旨規定し、30条1項1号は、「国内において課税仕入れを行った場合」について、「当該課税仕入れを行った日」と定めている。
3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告の事業
 原告は、砂利・砕石製造販売、コンクリート製品及びセメント製品の製造・加工・販売、土木工事一式、建築工事の設計・施工等を目的とする株式会社である。
(2)従前の経緯
ア 原告は、三重県多気郡等地内の山林(いわゆるB山)につき、地権者から順次土地を購入し、その都度、採石法33条に基づく採取計画の認可を得た上で、岩石採取を実施し、採取した岩石から砂利・砕石等を製造して販売してきた。
 また、原告は、三重県度会郡等地内の山林(いわゆるC山)につき、地権者から順次土地を購入し、森林法10条の2に基づく開発行為の許可を得た上で、土砂採取を実施し、採取した土砂を販売してきた。
イ 名古屋国税局の職員は、平成6年1月1日から同年12月31日までの事業年度(課税期間)を対象とした平成7年7月の税務調査及び平成11年7月1日から平成12年6月30日までの事業年度(課税期間)を対象とした平成13年5月の税務調査の際、前記アの土地購入について、原告が行っていた課税仕入れとして消費税の仕入税額控除をするという経理処理を否認せず、立木の取得に係る仕入税額控除の時期を採石法33条に基づく採取計画の認可又は森林法10条の2に基づく開発行為の許可(以下、併せて「森林法等の許認可」という。)の時点とする修正申告をしょうようした。
(3)本件各土地等の購入等
ア 原告は、平成6年4月13日から平成18年11月4日までの間,岩石及び土砂(以下「岩石等」という。)を採取する目的で、地権者から、別表1記載の三重県多気郡内の各土地(以下「本件各土地」という。)及び本件各土地に存する立木(以下「本件各立木」といい、本件各土地と併せて「本件各土地等」という。)を同別表記載のとおり購入した。
イ 原告は、平成18年8月14日付けで、三重県松阪建設事務所長に対し、本件各土地に係る採取計画の認可を申請した。これを受けて、三重県知事の権限の委任を受けた同事務所長は、同年9月1日付けで、採石法33条に基づき、同採取計画を認可した。(甲9、10、弁論の全趣旨)
ウ 原告は、平成18年9月15日付けで、三重県知事に対し、本件各土地を含む91筆の土地につき、開発行為地の拡大等に係る林地開発変更許可申請をした。これを受けて、同県知事は、同年10月10日付けで、森林法10条の2第1項に基づき、同申請に係る開発行為を許可した。(甲3、4の1)
エ 原告は、本件各土地等について、本件各土地等の代金を支払った日までに、支払った金額の一部を「土地勘定」に計上するとともに、上記代金額から「土地勘定」に計上した金額を差し引いた残額と本件各土地等の取得のために協力者等から受けた役務の提供(以下「本件各役務提供」といい、本件各土地等の取得と併せて「本件各土地取得等」という。)の対価の額との合計額を「原料地原石仕入勘定」に計上した(以下「原料地原石仕入勘定」に計上された額を「本件各土地取得等計上額」という。)。本件各土地取得等計上額については、森林法等の許認可が得られるまでの間、そのまま留保された。 
(4)本件更正処分に関する経過
ア 原告は、平成19年8月29日、処分行政庁に対し、本件課税期間の消費税等について、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出した。(乙3)
 本件確定申告書においては、本件各土地の取得が課税仕入れに該当し、かつ、本件各土地等の取得及び本件各役務提供に係る仕入税額控除の時期が森林法等の許認可を得た日の属する課税期間であるという前提の下に、別表1記載の差引金額(本件各土地等の代金及び本件各役務提供の対価の合計額から、土地勘定計上額及び平成18年6月期より前の課税期間において仕入税額控除の対象とした金額を差し引いた金額)の合計額のうち2億7798万7412円を本件課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額に算入して、合計3億5724万3166円の仕入税額控除が行われていた。
イ これに対し、処分行政庁は、平成20年11月26日付けで、別表2の「更正処分等」欄のとおり、本件課税期間の消費税等に係る更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。(甲2)
 本件更正処分は、本件各土地の取得は課税仕入れに該当せず、かつ、本件各立木の取得及び本件各役務提供に係る仕入税額控除の時期は引渡し又は役務の提供を受けた日の属する課税期間であることを前提として、課税仕入れに係る支払対価の額の減算及び加算を行い(原告が課税仕入れに係る支払対価に算入した前記アの2億7798万7412円のうち、本件課税期間に引渡しのあった別表1順号37の立木の代金額4085円については、課税仕入れに係る支払対価として認め、その余の2億7798万3327円については、これを認めないこととする一方、別表3の立木の代金額556万8215円については、原告の確定申告では、課税仕入れに係る支払対価に算入されていなかったものの、本件課税期間に引渡しがあったことから、課税仕入れに係る支払対価として加算した。)、仕入税額控除を3億4686万6927円の限度でのみ認めるものであった。
ウ 原告は、本件更正処分を不服として、平成21年1月20日付けで、処分行政庁に対し、別表2の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたが、処分行政庁は、同年4月17日付けで、これを棄却する旨の決定をした。
エ 原告は、上記決定を不服として、平成21年5月12日、国税不服審判所長に対し、別表2の「審査請求」欄のとおり審査請求をしたが、同所長は、平成22年4月9日付けで、本件更正処分に係る部分についてはこれを棄却する旨の裁決をした。(乙1)
オ 原告は、平成22年7月5日、本件更正処分の取消しを求める本件訴えを当庁に提起した。
4 被告が主張する消費税等の額
 被告が主張する本件課税期間における原告の消費税等の課税標準額及び納付すべき税額等並びにその算出根拠は、別紙「消費税等の額」のとおりである。
5 争点
(1)本件各土地の取得が課税仕入れに該当するか否か。
(2)採石のための本件各土地等の取得及び本件各役務提供に係る仕入税額控除の時期はいつか。
(3)本件更正処分は、信義則に違反して違法となるか否か。
6 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件各土地の取得の課税仕入れ該当性)について
(被告の主張)
 土地の取得が消費税法2条1項12号所定の課税仕入れに該当しないことは、同法2条1項9号、6条1項の規定から明らかである。
 原告が岩石等の採取のために本件各土地を購入したのであるとしても、契約締結の動機・目的にすぎず、取引の内容としては、「土地の譲渡」にほかならないから、これを「岩石等の譲渡」であるとか「岩石等の採掘権の設定」であるなどと評価することはできない。本件各土地の売主も、本件各土地の売買代金のうち立木の対価を除く全額について、土地の譲渡による所得として確定申告をしているのであるから、本件各土地について行われた取引が採石権や土石の売買ではなく土地の売買であることは明らかである。
 したがって、本件各土地の取得は、課税仕入れには該当しない。
(原告の主張)
 原告は、本件各土地を購入したものの、実質的には、地中及び地表に存する岩石等の購入を目的としており、売主も、原告が岩石等を購入する意思であることを十分承知していた。このため、代金も、採石量によって算出されているから、実質的には、本件各土地の対価ではなく、岩石等の採取権の設定に係る対価(採石権ないし土石の対価)であった。本件各土地は、岩石等の採取以外に利用方法のない山林で、岩石等の価値を除くと経済的には無価値であるばかりか、採石後には三重県条例により植林等環境保全措置が義務付けられているから、本件各土地そのものの経済的価値としてはマイナスとなる。こうした当事者の意思や取引の実態等に照らすと、本件各土地について行われた取引の対象は、採石の対象となる岩石等であって、その法的実質は、採石権の設定ないし土石の売買に当たるというべきである。
 したがって、本件各土地の取得は、「土地の譲渡」ではなく、課税仕入れに該当するというべきである。
(2)争点(2)(仕入税額控除の時期)について
(被告の主張)
ア 消費税法30条1項1号によれば、国内において課税仕入れを行った場合、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間において、課税標準額に対する消費税額から、当該課税仕入れに係る消費税を控除することになるところ、この場合の「課税仕入れを行った日」とは、課税仕入れに該当することとされる資産の譲受けをした日又は役務の提供を受けた日をいうものと解されている。
イ 本件各土地についての取引においては、売主は代金受領又は所有権移転登記申請と同時に本件各土地の引渡しを行うものとされており、本件各立木もこれと同時に引き渡されることが予定されていたから、本件各立木は、いずれも代金支払日までには引渡しが完了している。また、本件各役務提供は、契約締結を円滑に進めることへの協力を内容とするものであるから、契約の締結日に完了したとみるのが相当である。
 したがって、本件各立木の取得に係る仕入税額控除の時期は、その引渡しのあった日すなわち代金支払日の属する課税期間であり、本件各役務提供に係る仕入税額控除の時期は、本件各役務提供を受けた日すなわち契約締結日の属する課税期間である。
ウ 原告は、確定申告において、別表1記載の本件各土地等の代金及び本件各役務提供の対価を課税仕入れに係る支払対価に算入している。このうち、同表順号37の立木(代金4085円)については、本件課税期間中に契約締結及び代金支払が行われており、引渡しもあったと考えられるから、本件課税期間における仕入税額控除の対象となるが、それ以外のものは、平成18年6月以前に契約締結及び代金支払が行われているので、本件課税期間における仕入税額控除の対象にはならない。
 そこで、本件更正処分では、別表1記載の本件各土地等の代金及び本件各役務提供の対価のうち同表順号37の立木の代金以外については、仕入税額控除を認めなかったものである。なお、別表3の立木の代金額556万8215円については、原告の確定申告では、課税仕入れに係る支払対価に算入されていなかったものの、本件課税期間中に引渡しが行われているため、本件更正処分においては、本件課税期間における仕入税額控除の対象としている。
 したがって、本件更正処分は、適法である。
(原告の主張)
ア 本件各土地等についての取引では、森林法等の許認可を受けた段階で、初めて岩石等の採取や立木の伐採が可能となり、本件各土地等の実質的な支配が可能となるから、この段階で初めて原料仕入れと評価することができる。他方、仮に上記許認可がされなければ、売買契約自体が錯誤又は履行不能による解除により無効となって、代金を返還することになるから、仕入税額控除の必要性がなくなる。このような状況は、農地の譲渡の時期が農地法上の許可のあった日とされることと実質的に類似する。
 そうすると、採石のために行われた本件各土地等の取得及び本件各役務提供に係る仕入税額控除の時期は、森林法等の許認可を受けた日の属する課税期間と解すべきである。
イ 別表1記載の本件各土地等の代金及び本件各役務提供の対価については、本件課税期間中にこれらに係る森林法等の許認可があったから、いずれも本件課税期間における仕入税額控除の対象となる。ところが、本件更正処分においては、別表1記載の本件各土地等の代金及び本件各役務提供の対価のうち、同表順号37の立木の代金以外の仕入税額控除を認めなかったものであるから、本件更正処分のうち、これによって増額となった部分(消費税額6365万8200円、地方消費税額1591万4500円を超える部分)は、違法というべきである。
(3)争点(3)(信義則違反の有無)について
(原告の主張)
 原告は、平成7年7月及び平成13年5月の各税務調査において、森林法等の許認可を受けた土地については、消費税の仕入税額控除をし、かつ、上記許認可の時を仕入額控除の時期とする旨の税務指導(以下「本件税務指導」という。)を受けた。本件税務指導は、多年度にわたって名古屋国税局の調査部による組織的な税務指導として行われたものであるから、税務官庁の公的見解の表示であることは明白であり、原告は、本件税務指導を信頼して、これに従った税務申告を継続的に行ってきた。
 本件更正処分は、本件税務指導に明らかに反する内容であり、原告の上記信頼を不当に侵害するものである。原告は、本件税務指導に従って税務申告してきた結果、立木に関する消費税の仕入税額控除の時期を失し、その仕入税額控除が不可能となるという不利益を被ったばかりか、採石権の設定又は採石のための賃借権の設定という仕入税額控除の可能な取引ではなく、本件各土地の売買という取引を選択し、それについての仕入税額控除を認められないという不利益を被った。
 したがって、本件更正処分は、信義則に違反して違法というべきである。
(被告の主張)
 租税法律関係において信義則が適用されるためには、少なくとも、〔1〕税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したこと、〔2〕納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと、〔3〕後に公的見解の表示に反する課税処分がされたこと、〔4〕その課税処分のために納税者が経済的不利益を受けたこと、〔5〕納税者が税務官庁の表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要条件となる。
 消費税の非課税範囲及び課税仕入れの時期に関する公的見解は、消費税法を始めとする法令、消費税法基本通達等の公開通達及び国税庁のホームページ等により明らかにされているのであって、原告の指摘する調査担当者の申告指導をもって税務官庁による公的見解の表示と解することはできないから、上記〔1〕の要件を満たさない。
 また、原告は、本件税務指導を信頼したために本件各土地等についての取引をしたというわけではないから、上記〔2〕の要件も満たさない。
 さらに、仮に、原告が主張するとおり、立木の取得に係る消費税額の一部について仕入税額控除を行う時機を失し、その結果、控除できない消費税額が生じたのであるとしても、当該消費税額は、そもそも本件更正処分の対象となっていない課税期間の仕入税額控除に係るものであるから、本件更正処分によって生じた不利益とはいえない。逆に、原告は、その課税期間においては、本来は仕入税額控除の対象とならない、立木の取得価格の2倍ないし8倍もの土地の取得対価について、調査担当者の誤った指導により課税仕入れとしている可能性が極めて高く、本件税務指導によって不利益を受けているどころか、利益を受けているとすらいい得る。そうすると、上記〔4〕の要件も満たさない。
 以上によれば、本件更正処分において、信義則が適用される余地はないというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各土地の取得の課税仕入れ該当性)について
(1)消費税は、流通の各段階において、課税資産の譲渡等に対し、その譲渡等の対価の額を課税標準として課税されるものであり、消費税法においては、取引の各段階で課税されることによる税負担の累積を防止するため、当該課税の前段階の税額にあたる課税仕入れに係る消費税額を課税資産の譲渡等に係る課税標準額に対する消費税額から控除するものとされている。このような観点から、消費税法は、「課税仕入れ」の意義について、2条1項12号において、「事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、7条1項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び8条1項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。」旨規定し、「課税資産の譲渡等」の意義について、同項9号において、「資産の譲渡等のうち、6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。」旨定めている。そして、同法6条1項は、「国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。」と規定し、別表第一の1号には、「土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付け(一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)」を掲げている。
 このような課税仕入れの仕入税額控除の趣旨や目的、消費税法の規定等に照らすと、同法上、非課税取引とされている「土地の譲渡」が同法2条1項12号所定の課税仕入れに含まれないことは明らかである。
(2)証拠(甲19、乙9、10、12、13)及び弁論の全趣旨によると、〔1〕原告と地権者(売主)との間では、本件各土地等を目的物とする不動産売買契約書が取り交わされ、土地代及び立木代として代金の授受が行われたこと、〔2〕本件各土地については、地権者(売主)から原告に対する所有権移転登記がされたこと、〔3〕本件各土地の地権者(売主)のうち、別表1記載の順号15ないし21の土地の売主、順号22及び23の土地の持分の売主、順号30ないし32の土地の売主並びに順号34ないし36の土地の売主は、いずれも本件各土地の取引による所得が土地の譲渡所得に該当することを前提として、その代金額全額を分離課税の長期譲渡所得として確定申告をしたことが認められる。
 上記認定事実によると、本件各土地の取引は、本件各土地の売買契約であって、消費税法において課税仕入れには当たらないとされている「土地の譲渡」に該当するというほかはない。
(3)これに対し、原告は、〔1〕原告は、岩石等の購入を目的として本件各土地の取引を行ったものであり、売主もこれを承知していた、〔2〕代金額は、採石量によって算出された、〔3〕本件各土地は、岩石等の価値を除くと経済的に無価値であるとして、本件でされた取引は「土地の譲渡」ではなく、採石権の設定ないし土石の売買に該当する旨主張する。
 しかしながら、〔1〕の点については、契約締結に当たっての動機にすぎず、〔2〕の点については、仮にそのような事実があったとしても、代金額の定め方の問題にすぎないから、いずれも前記(2)の認定を左右するものではない。〔3〕の点についても、仮に、原告が主張するように、本件各土地が岩石等の価値を除くと実質的には無価値であるため、本件でされた取引が経済的には採石権の設定ないし土石の売買と同等に評価できるものであるとしても、これによって直ちに原告と地権者(売主)との間で行われた本件各土地の取引の法的性質が左右されるわけではないから、前記(2)の認定を覆すものではない。
(4)なお、原告は、〔1〕消費税にあっては、法形式にとらわれることなく、取引の経済的な実質に着目して、課税仕入れに該当するか否かを判断すべきである、〔2〕岩石等の採取が土地の賃貸借契約によって行われるか、あるいは、土地の売買契約によって行われるかによって、課税仕入れの該当性について異なる取扱いとなるのは、公平原則に反する、〔3〕本件各土地の課税仕入れを認めないのは、土石又は砂利の採取と目的で取得した土地の取得価額のうち土石又は砂利に係る部分について、損金算入を認める法人税の取扱いと矛盾するなどと主張する。
 しかしながら、〔1〕の点については、課税仕入れに該当するためには、消費税法6条1項による非課税取引でないことを要することは、前記(1)のとおり、法律で明確に定められているものであるところ、非課税取引に該当するか否かの判断を私法上の法律関係に即して行うことは当然であって、仮に、当事者が選択した法形式にかかわらず「経済的な実質」によって上記該当性を判断することとなれば、法的安定性が害されることは明らかである。また、〔2〕の点については、岩石等の採取が土地の賃借権に基づき行われる場合と土地を購入した上で行われる場合とで、課税仕入れの該当性の点で異なる取扱いを受けることは、土地の利用権の設定と所有権の移転という法的性質の違いから生じるものであるから、何ら不合理なこととはいえず、これをもって公平原則に反して違法であるということもできない。さらに、〔3〕の点については、法人税法が、法人の所得の適正な計算という観点から損金算入の可否を定めているのに対し、消費税法は、前示のとおり、課税の累積を排除するために、流通の前段階の税額を控除する仕組みを採ったことから、課税仕入れに係る仕入税額控除を定めているのであって、両者の趣旨、目的が異なる以上、その取扱いに差違があることに問題があるということはできない。
(5)以上のとおり、本件各土地の取得は、課税仕入れに該当しないから、仕入税額控除の対象にはならない。
2 争点(2)(仕入税額控除の時期)について
(1)消費税法30条1項1号によれば、本件のように国内において課税仕入れを行った場合、仕入税額控除の時期は、「当該課税仕入れを行った日」の属する課税期間であるところ、同法2条1項12号の「課税仕入れ」の定義に照らせば、「当該課税仕入れを行った日」とは、当該課税仕入れに該当することとされる資産を譲り受けた日又は役務の提供を受けた日をいうことは明らかであり、資産を譲り受けた日としては、その引渡しを受けた日をいうものと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに、証拠(甲19、乙9、10、12、13)及び弁論の全趣旨によれば、〔1〕本件各立木は、本件各土地と共に原告に譲渡され、代金支払と同時に引き渡されることが予定されていたこと、〔2〕本件各立木のうち、別表1順号37の立木(代金4085円)については、本件課税期間中に代金支払が行われたが、その余の立木については、平成18年6月以前に代金が支払われたこと、〔3〕本件各役務提供は、本件各土地等についての売買契約締結を円滑に進めることへの協力を内容とするものであるため、本件各土地等の売買契約締結日には完了していたところ、本件各土地等の売買契約の締結は、全て平成18年6月以前に行われたものであることが認められる。
 上記認定事実によると、本件各立木及び本件各役務提供のうち、別表1順号37の立木(代金4085円)については本件課税期間における仕入税額控除の対象となるが、それ以外のものは、本件課税期間中に課税仕入れが行われたとはいえないから、本件課税期間における仕入税額控除の対象にはならないというべきである。
(3)これに対し、原告は、本件各土地等の取引は採石を目的とするものであるから、本件各立木の取得及び本件各役務提供に係る仕入税額控除の時期は、森林法等の許認可を受けた日の属する課税期間であると主張する。
 しかしながら、原告の上記解釈は、消費税法30条1項1号、2条1項12号の文理から離れる上,課税の累積を排除するために流通の前段階の税額を控除するという仕入税額控除の趣旨からすれば、採石のための立木の伐採等が可能となる時期まで仕入税額控除を待つ意味はないというべきである。
 この点について、原告は、〔1〕森林法等の許認可を受けるまでは、本件各立木を実質的に支配したことにはならないから、引渡しを受けただけでは課税仕入れがあったとはいえない、〔2〕上記許認可がされなければ、売買契約の効力が失われるから、農地の譲渡の時期が農地法上の許可のあった日とされるのと同様に解すべきであるなどと縷々主張するけれども、本件各土地等の取引において、引渡しがあったにもかかわらず、本件各立木に対する私法上の支配が買主に移転しない特段の事情は見当たらないし、上記許認可は、農地法3条の許可とは異なり、所有権移転の効力を左右するものではなく、本件各土地等の取引において上記許認可が意思表示の効力発生要件とされていたわけでもないから、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。 
3 争点(3)(信義則違反の有無)について
(1)租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、上記法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて上記法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、上記特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に上記表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない(最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁参照)。
(2)原告は、本件更正処分は本件税務指導に反するから、信義則に違反する違法な処分である旨主張する。
 しかしながら、税務調査を担当した税務職員が修正申告のしょうようをしたからといって、直ちに税務官庁による公的見解の表示とまでいうことはできないし、証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によると、採石のための土地の譲渡については、遅くとも平成7年頃には、消費税法上の非課税取引に当たるという解釈の下に、その譲渡の対価の額を非課税とする取扱いが広く一般に行われ、消費税実例回答集等においても、このような税務実例が紹介されていたことが認められるのであるから、原告の指摘する本件税務指導をもって、税務官庁の公的見解の表示に当たるということはできない。
 また、原告は、本件税務指導に基づいて税務申告してきた結果、〔1〕立木の仕入税額控除の時機を逸して、その仕入れ税額控除が不可能となる不利益を被るとともに、〔2〕採石権の設定又は採石のための賃借権の設定といった仕入税額控除の可能な取引ではなく、土地の売買という取引を選択し、その仕入税額控除が認められないという不利益を被った旨主張するけれども、〔1〕の点については、本件更正処分の対象となっていない課税期間の仕入税額控除に係るものであるから、そもそも本件更正処分のために経済的不利益を受けることになったものということはできない。また、〔2〕の点については、証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によると、山林における採石事業は、相当長期間にわたって継続されるものであるため、土地の賃貸借の方法で事業を行うのは容易ではなく、原告の資源開発課長自身、山林の採石事業は土地の賃貸借には馴染まないとの見方を示していることが認められるのであって、このことに加え、どのような契約形態を選択するかは、原告が一方的に決められる事柄ではなく、本件各土地の地権者の意向を踏まえた交渉によって決せられるものであることをも考慮すると、本件税務指導がなければ、本件各土地について、売買ではなく、採石権の設定又は採石のための賃借権の設定が行われていたはずであるなどと断定することはできない。したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。
(3)そうすると、本件においては、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお本件更正処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存するとまでいうことはできないから、本件更正処分について信義則の法理の適用を考える余地はないというべきである。
4 本件更正処分の適法性について
 以上を前提として、本件課税期間における原告の消費税等についてみると、被告が本訴において主張する前記第2の4の根拠はいずれも相当であり、かつ、その根拠に基づいて算定した原告の消費税等の税額は、被告が主張する消費税等の額のとおりであると認められる。本件更正処分による原告の消費税等の額は、この金額と一致するから、本件更正処分は適法というべきである。
5 結論
 以上の次第で、本件更正処分は適法であり、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 福井章代 裁判官 笹本哲朗 裁判官 山根良実

別表1及び3 省略
別表2 課税の経緯
(別紙)消費税等の額
1 消費税
(1)課税標準額 105億3092万7000円
 上記金額は、次のアないしウの合計金額(ただし、国税通則法118条1項により1000円未満の端数金額を切捨てた金額)である。
ア 確定申告された課税資産の譲渡等の対価の額(税抜き) 105億0359万7015円
 上記金額は、原告が本件確定申告書の〔15〕欄に記載した課税資産の譲渡等の対価の額と同額である。
イ D駐車場敷砂利工事の請負代金の額(税抜き) 733万円
 上記金額は、原告が請け負ったD駐車場敷砂利工事の請負代金である。同工事は、本件課税期間においてその工事を完了し、引渡しも了していることから、本件課税期間における課税資産の譲渡等に該当するため、上記金額は、本件課税期間の課税標準額に算入される。
ウ し尿処理施設放流管付設工事の請負代金の額(税抜き) 2000万円
 上記金額は、原告が請け負ったし尿処理施設放流管付設工事の請負代金である。同工事は、本件課税期間においてその工事を完了し、引渡しも了していることから、本件課税期間における課税資産の譲渡等に該当するため、上記金額は、本件課税期間の課税標準額に算入される。
(2)課税標準額に対する消費税額 4億2123万7080円
 上記金額は、消費税法29条に基づき、前記(1)の課税標準額に税率100分の4を乗じて算出した金額である。
(3)控除対象仕入税額 3億4686万6927円
 上記金額は、次のアの金額にイ及びウの金額を加算し、エの金額を減算した金額91億0525万6856円に、消費税法30条1項に基づき105分の4を乗じて算出した金額である。
ア 確定申告された課税仕入れに係る支払対価の額(税込み) 93億7763万3118円
 上記金額は、原告が本件確定申告書付表2の〔8〕欄に記載した課税仕入れに係る支払対価の額と同額である。
イ 立木の取得に関する課税仕入れに係る支払対価の額(税込み) 556万8215円
 上記金額は、別表3記載の各土地に存する立木の代金の合計額である。原告は、本件課税期間において、上記立木を取得しているため、上記金額は、立木の引渡しのあった日の属する課税期間である本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に算入される。
ウ 平坦性試験の対価の額(税込み) 3万8850円
 上記金額は、本件課税期間において完了した株式会社Fに委託した平坦性試験の対価の額であり、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に加算される。
エ 土地の取得に関する課税仕入れに係る支払対価の額(税込み) 2億7798万3327円
 上記金額は、本件各土地に関する別表1記載の差引金額の合計額2億8090万8492円のうち、原告が前記アの課税仕入れに係る支払対価の額に含めた金額2億7798万7412円から、別表1記載順号37の土地に係る立木の代金で本件課税期間における課税仕入れと認められる金額4085円を控除した金額である。土地の取得は課税仕入に該当せず、かつ、立木の代金及び役務の提供に係る消費税額は、立木の引渡しのあった日及び役務の提供を受けた日の属する課税期間の控除対象仕入税額となることから、上記金額は、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に算入されない。
(4)貸倒れに係る税額 40万1623円
 上記金額は、原告が本件確定申告書に記載した貸倒れに係る税額と同額である。
(5)差引税額 7396万8500円
 上記金額は、前記(2)の課税標準額に対する消費税額4億2123万7080円から、前記(3)の控除対象仕入税額3億4686万6927円及び前記(4)の貸倒れに係る税額40万1623円を差し引いた金額(ただし、国税通則法119条1項により100円未満の端数金額を切り捨てた金額)である。
(6)納付すべき税額 1146万9500円
 上記金額は、前記(5)の差引税額7396万8500円と、原告が本件確定申告書の〔9〕欄に記載した差引税額6249万9000円との差額である。
2 地方消費税
(1)地方消費税の課税標準となる消費税額 7396万8500円
 上記金額は、前記1(5)の消費税の差引税額である。
(2)譲渡割額納税額 1849万2100円
 上記金額は、地方税法72条の83に基づき、前記(1)の課税標準額に税率100分の25を乗じて算出した金額(ただし、地方税法20条の4の2第3項により100円未満の端数金額を切り捨てた金額)である。
(3)納付すべき譲渡割額 286万7400円
 上記金額は、前記(2)の譲渡割額納税額1849万2100円と、原告が本件確定申告書の〔20〕欄に記載した譲渡割額納税額1562万4700円との差額である。


 

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