LEX/DBインターネット

《書 誌》
提供 TKC
【文献番号】 25463539
【文献種別】 判決/札幌高等裁判所(控訴審)
【裁判年月日】 平成19年11月21日
【事件番号】 平成19年(行コ)第11号
【事件名】 所得税更正処分等取消請求控訴事件
【審級関係】 第一審 25463353
札幌地方裁判所 平成17年(行ウ)第26号
平成19年 5月14日 判決
上告審 25470663
最高裁判所第三小法廷 平成20年(行ヒ)第102号
平成20年 4月22日 決定
【事案の概要】 倶知安税務署長から所得税の更正処分及びこれにかかる過少申告加算税賦課決定処分並びに消費税、地方消費税の各決定処分及びこれらにかかる無申告加算税賦課決定処分を受けた控訴人が、被控訴人に対し、上記各処分には違法事由があるとして、その一部又は前部の取消しを求めた事案の控訴審において、資産の譲渡等に関する権利確定主義は、資産の譲渡があった以上、対価の支払がなくても収益は実現しているとして、適正な期間損益計算の観点から対価額を収益に計上することを求めるものであり、後に確定した対価額を収益に計上することを求めるものではない等として、原判決を支持し、本件控訴を棄却した事例。
【判示事項】 〔TKC税務研究所〕
  1. 所得税法36条1項の「その年において収入すべき金額」の意義。
(要旨文献番号:60057023)
  2. 所得税基本通達36・37共-1(販売代金の額が確定していない場合の見積り)の合理性。
(要旨文献番号:60057024)
  3. 農産物の引渡しに係る総収入金額を概算額によったことに合理性があるとした事例。
(要旨文献番号:60057025)
  4. 未確定であった馬鈴薯の販売代金が課税処分時に確定していた場合もその収入金額は見積計上額によるべきであるとした事例。
(要旨文献番号:60057026)
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 上告受理申立て
【裁判官】 末永進 千葉和則 住友隆行
【掲載文献】 税務訴訟資料257号順号10829
【参照法令】 所得税法36条
所得税基本通達36・37共-1
【全文容量】 約6Kバイト(A4印刷:約4枚)




 《全 文》

【文献番号】25463539  

所得税更正処分等取消請求控訴事件
札幌高等裁判所平成19年(行コ)第11号
平成19年11月21日第2民事部判決

       判   決

控訴人 甲
訴訟代理人弁護士 岩本勝彦
同 佐藤昭彦
同 甲斐寛之
被控訴人 国
代表者法務大臣 鳩山邦夫
処分行政庁 倶知安税務署長事務承継者函館税務署長 飯田秀孝
指定代理人 平手里奈
同 小松昭久
同 山西由一
同 行場孝之
同 西谷英二
同 天満三樹
同 佐藤未来


       主   文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。


       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 倶知安税務署長が平成16年3月11日付けで控訴人に対してした平成12年分の所得税の更正処分のうち、所得金額835万4507円、所得税額59万2300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、8万円を超える部分を取り消す。
3 倶知安税務署長が平成16年3月11日付けで控訴人に対してした平成13年分の所得税の更正処分のうち、所得金額949万0324円、所得税額89万1700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、6万6500円を超える部分を取り消す。
4 倶知安税務署長が平成16年3月11日付けで控訴人に対してした平成14年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の各決定処分並びに無申告加算税賦課決定処分を取り消す。
5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、倶知安税務署長から所得税の更正処分及びこれにかかる過少申告加算税賦課決定処分並びに消費税、地方消費税の各決定処分及びこれらにかかる無申告加算税賦課決定処分を受けた控訴人が、被控訴人に対し、上記各処分には違法事由があるとして、その一部又は全部の取消しを求めた事案である。
 倶知安税務署長が平成16年3月11日付けで控訴人に対して行った上記各処分は次のとおりである。
〔1〕平成12年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「平成12年更正等処分」という。)
〔2〕平成13年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「平成13年更正等処分」といい、平成12年更正等処分を併せて「本件各更正等処分」という。)
〔3〕平成14年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の決定処分並びに無申告加算税賦課決定処分(以下「本件消費税等決定処分」という。)
 控訴人が、上記各処分につき主張する違法事由は次のとおりである。
〔1〕平成12年更正等処分には、本来同年分の収入に算入すべきでない平成11年分の馬鈴薯売却の精算金を算入した違法がある。
〔2〕平成13年更正等処分には、本来同年分の収入に算入すべきでない平成12年分の馬鈴薯売却の精算金を算入した違法がある。
〔3〕本件消費税等決定処分には、基準期間における課税売上高が消費税支払義務の免除される3000万円以下であるにもかかわらず消費税等を課税した違法がある。
 原審が控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は、控訴の趣旨記載の裁判を求めて控訴した。
 なお,上記各処分を行ったのは倶知安税務署長であったが、原審判決の後、控訴人が住所を移転したため、控訴人の現住所地を所轄する函館税務署長がその権限を承継した(行政事件訴訟法11条1項、国税通則法30条、33条)。 
2 関係法令等の定め、前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決5頁15行目から同頁16行目の「(甲10)」を「(甲9、10)」と改めるほか、原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 前提となる事実(争いのない事実以外は、末尾に証拠を掲記した。)」、「2 争点」及び「3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の本件請求はいずれも棄却するべきであり、本件控訴は理由がないと判断する。その理由は、原判決書「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の争点についての判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 なお、控訴理由にかんがみ、付言する。
(1)控訴人は、本件における控訴人とAとの馬鈴薯取引における第1次概算金及び第2次概算金の合計額は、所基通36・37共-1にいう「適正見積」に該当しない旨主張し、その理由として、〔1〕上記馬鈴薯の取引は、もともと3回に分割して支払うことが予定されていたこと、〔2〕第2次概算金には不確定要素が多く精算が前提となっていることを挙げる。
 しかしながら、控訴人のAへの馬鈴薯売却は、各年度内に引渡しを完了し、また、販売した数量も、総重量から土砂分5%を控除した重量と確定しており、未確定なのは単価のみであること、その単価は、B農業協同組合が推算した単価と同額の単価を用いていることが認められる(乙6)。そして、B農業協同組合では、第1次概算金の単価は1キログラム当たり30円と決まっているが、第2次概算金については、毎年11月下旬ころに担当者が東京、大阪及び名古屋の市場に赴き、市場関係者から最終的にはどれ位の単価を見込めるのか等の感触を聴取り、不確定要素も加味しながら一定の幅の範囲内で決定する。その際、B農業協同組合としては、その価格帯の範囲内で、最低限度これ位払っても大丈夫であろうという安全値として第2次概算金を定めており、その単価と最終的価格との差は、これまでの経験上、概ね10円前後である(乙7)。
 以上によれば、第2次概算金は、合理的な根拠に基づく「適正見積」ということができる。控訴人は、第2次概算金が安全を見積もって最終価格より低い金額になるように算出されていることから、それが「適正見積」であるとの被控訴人の主張を批判するが、それはあくまで、予測された最終価格の幅の範囲内にある金額であり、単なる一部先払いではないのであるから、控訴人の主張に理由がないことは明らかである。
(2)控訴人は、更正処分等が馬鈴薯の最終的な販売価格が確定した後に行われる場合には、権利確定主義の観点からすれば、既に販売価格が確定している以上、確定した代金額を総収入に算入すべきであって見積を要求すべきではない旨主張する。
 しかしながら、資産の譲渡等に関する権利確定主義は、資産の譲渡があった以上、対価の支払がなくても収益は実現しているとして、適正な期間損益計算の観点から対価額を収益に計上することを求めるものであり、後に確定した対価額を収益に計上することを求めるものではない。むしろ、期間損益計算を前提とする以上、その対価額は未確定の課税期間の末日の段階での見積金額で計上するのが本則であるというべきである。本件において販売価格が確定するのは課税期間末日から約半年が経過した後であり、納税申告が終了した後であるから、通常に確定申告をする者は第2次概算金で販売収益を計上するしかない。控訴人のケースの場合は、たまたま更正処分により税額確定時点が販売価格確定後となったに過ぎず、かかる場合にのみ確定金額を用いるのは、租税公平主義の観点からも相当でない。
 以上によれば、この点に関する控訴人の主張にも理由がない。
3 よって、控訴人の請求には理由がなく、その請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
札幌高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官 末永進 裁判官 千葉和則 裁判官 住友隆行


 

LEX/DBインターネットに関する知的所有権その他一切の権利は株式会社TKCおよび情報提供者に帰属します。