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《書 誌》
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【文献番号】 25463213
【文献種別】 判決/東京地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 平成20年 2月20日
【事件番号】 平成18年(行ウ)第684号
【事件名】 消費税更正処分取消等請求事件
【事案の概要】 原告が、原告を委託者、中華人民共和国の法人Aを受託者とする水引製品の加工委託取引を行うことに関し、原告が輸入手続を委託したBが水引製品の保税地域からの引取に係る消費税等を納付したことから、消費税等の確定申告に際し、Bの納付した消費税は原告が負担したことを理由に仕入税額として控除したところ、かかる控除を否定され、更正処分等を受けたため、その取消を求めた事案で、本件においては、Bが輸入消費税の納税義務者であるということが公法上確定しており、本件における輸入消費税の仕入税額については、原則として、Bが課税事業者として納付すべき消費税において控除されることが予定されるものであるところ、原告が、実質的輸入者であるとして例外的に原告に仕入税額控除を認めるべき理由もないとして、請求を棄却した事例。
【判示事項】 〔TKC税務研究所〕
  1. 仕入税額控除制度の趣旨・目的。
(要旨文献番号:60054549)
  2. 保税地域からの引取に係る仕入税額控除制度の趣旨・目的。
(要旨文献番号:60054550)
  3. 第三者名義での輸入に係る輸入消費税を、原告会社の納付すべき消費税において控除することはできないとした事例。
(要旨文献番号:60054551)
  4. 消費税法基本通達11-1-6は、一般的に、実質的輸入者が仕入税額控除を受けるべきとする趣旨のものか(消極)。
(要旨文献番号:60054552)
  5. 実質的輸入者であり、仕入税額控除ができるとの原告会社の主張を排斥した事例。
(要旨文献番号:60054553)
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 確定
【裁判官】 定塚誠 中山雅之 進藤壮一郎
【掲載文献】 税務訴訟資料258号順号10897
【参照法令】 消費税法2条
消費税法4条
消費税法5条
消費税法30条
消費税法47条
消費税法50条
関税法6条の2
関税法67条
消費税法基本通達11-1-6
【評釈等所在情報】 〔日本評論社〕
週刊税務通信3025号21頁
消費税,消費税法30条1項により「保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された消費税額」の控除を受けられる事業者該当性(棄却)消費税更正処分取消等請求事件〈判決速報(20年1月~3月分)〉(判例紹介)
関野和宏・月刊税務事例42巻12号79頁
3 仕入税額控除〈平成20年分課税関係訴訟裁判例の動向5/実体法関係・消費税2〉〈判例紹介〉
金井恵美子・月刊税務事例43巻4号16頁
輸入消費税の仕入税額控除〈消費税の仕入税額控除等を巡る諸問題(特集)〉
図子善信・速報判例解説(法学セミナー増刊)8号249頁
輸入消費税を実質的に負担した事業者の仕入税額控除
月刊税務事例45巻3号
消費税:輸入消費税の申告名義人でない者が輸入消費税を控除することの可否〈判例カード〉〈判例紹介〉
月刊税務事例45巻3号
消費税:消費税法基本通達11-1-6と実質的輸入者による仕入れ税額控除の許否〈判例カード〉〈判例紹介〉
佐藤孝一・月刊税務事例45巻7号1頁
輸入消費税の申告者にも、実質的輸入者にも当たらないとして、仕入税額控除をすることはできないとした事例:輸入消費税に係る仕入税額控除の要件と消費税法13条及び納税申告の形成的効力との関係を中心として〈租税判例研究〉
【引用判例】 (当判例が引用している判例等)
最高裁判所第三小法廷 昭和44年(あ)第1032号
昭和46年 3月30日
東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)第81号
平成 2年10月 8日
東京高等裁判所 昭和59年(う)第1074号
昭和60年 2月25日
【全文容量】 約26Kバイト(A4印刷:約15枚)




 《全 文》

【文献番号】25463213  

消費税更正処分取消等請求事件
東京地方裁判所平成18年(行ウ)第684号
平成20年2月20日民事第3部判決
口頭弁論の終結の日 平成19年12月5日

       判   決

原告 株式会社A
同代表者代表取締役 甲
同訴訟代理人弁護士 藤枝純
同 平川雄士
被告 国
同代表者法務大臣 a
処分行政庁 飯田税務署長 b
被告指定代理人 c
同 d
同 e
同 f


       主   文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
1 飯田税務署長が平成16年6月14日付けで原告に対してした、原告の平成12年8月1日から平成13年7月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち消費税の納付すべき税額△819万0710円(△印は、還付金の額に相当する金額を示す。以下同じ。)を超える部分及び地方消費税の納付すべき譲渡割額△204万7677円を超える部分、並びに同更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち過少申告加算税9万5000円を超える部分をいずれも取り消す。
2 飯田税務署長が平成16年6月14日付けで原告に対してした、原告の平成13年8月1日から平成14年7月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち消費税の納付すべき税額△331万2175円を超える部分及び地方消費税の納付すべき譲渡割額△82万8043円を超える部分、並びに同更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
3 飯田税務署長が平成16年6月14日付けで原告に対してした、原告の平成14年8月1日から平成15年7月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち消費税の納付すべき税額△798万7809円を超える部分及び地方消費税の納付すべき譲渡割額△199万6952円を超える部分、並びに同更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち過少申告加算税9万5000円を超える部分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告を委託者、中華人民共和国(以下「中国」という。)の法人であるB有限公司(以下「B公司」という。)を受託者とする水引製品の加工委託取引を行うにつき、原告は、輸入手続をC株式会社(以下「C」という。)に委託し、Cにおいて水引製品の保税地域からの引取りに係る消費税及び地方消費税を納付していたところ、原告が、消費税及び地方消費税の確定申告に際して、Cの納付した消費税は原告が負担したことを理由に仕入税額として控除したのに対し、かかる控除は認められないとして上記第1の1ないし3記載の各更正処分及び賦課決定処分を受けたことから、それらの取消しを求めた事案である。
1 法令等の内容
(1)消費税法4条2項は、同法2条1項2号にいう保税地域から引き取られる外国貨物に消費税(以下「輸入消費税」という。)を課す旨を、また、同法5条2項は、外国貨物を保税地域から引き取る者は課税貨物に係る輸入消費税を納める義務がある旨を、それぞれ規定している。
 同法47条1項は、関税法6条の2第1項1号に規定する申告納税方式が適用される課税貨物を保税地域から引き取ろうとする者は、他の法律又は条約の規定により輸入消費税を免除される場合を除き、輸入消費税に係る申告書を税関長に提出すべき旨を、また、消費税法50条1項は、上記申告書を提出した者は、当該申告に係る課税貨物を保税地域から引き取る時までに、当該申告書に記載した輸入消費税を納付しなければならない旨を、それぞれ規定している。
 そして、関税法72条後段は、外国貨物に係る輸入消費税及び地方消費税(以下「輸入消費税等」という。)の納付を輸入許可の要件としている。
(2)消費税法30条1項柱書及び2号は、事業者が、保税地域から引き取る課税貨物については、保税地域から引き取る課税貨物につき同法47条1項の規定による申告書を提出した場合、当該申告に係る課税貨物を引き取った日の属する課税期間の同法45条1項2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき輸入消費税額の合計額を控除する旨を規定している。
(3) 消費税法30条7項本文は、事業者が当該課税期間の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、同条1項を適用しない旨を規定している。
 また、同条8項2号は、上記帳簿には、以下の事項が記載されていることが必要であるとしている。
イ 課税貨物を保税地域から引き取った年月日
ロ 課税貨物の内容
ハ 課税貨物の引取りに係る消費税額及び地方消費税額又はその合計額
 そして、同条9項3号は、同条7項に規定する請求書等として、書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称等が記載された、当該課税貨物の輸入の許可があったことを証する書類を挙げている。
2 争いのない事実
(1)原告は、B公司との間で、〔1〕原告が水引製品の加工に必要な原材料のほとんどを調達してB公司に無償で支給し、〔2〕B公司が原告の注文に応じて水引製品を加工し、〔3〕原告がB公司から水引製品のすべての引渡しを受け、〔4〕原告がB公司に加工賃を支払う旨の加工委託取引(以下「本件加工取引」という。)を行っていた。
(2)原告は、B公司から水引製品の引渡しを受けるに当たって、輸入手続をCに委託し、Cは、原告に代わって、製品の輸送、輸入に関する保険の締結、製品の保税地域への搬入を行っていたほか、輸入に当たり必要な仕入書(インボイス)の荷受人、輸入申告及び同許可の名宛人、輸入に際し課された関税並びに保税地域からの引取りに際し課された輸入消費税等の申告、納付の名義人となっていた(輸入申告、輸入消費税等の申告、納付について、Cが原告に代わってしたものであるか否かについては争いがある。)。
 原告は、Cに対し、上記役務の提供の対価として、水引製品の輸入金額の12パーセント相当額の手続費用を支払うとともに、あわせて上記輸入消費税等の額を支払っており、その金額は、平成12年8月1日から平成13年7月31日までの課税期間(以下「平成13年7月課税期間」という。)については1982万5500円(うち消費税1586万0400円)、同年8月1日から平成14年7月31日までの課税期間(以下「平成14年7月課税期間」という。)については1620万0814円(うち消費税1296万0652円)、同年8月1日から平成15年7月31日までの課税期間(以下「平成15年7月課税期間」という。)については1954万9900円(うち消費税1563万9920円)であった(以下これらを総称して「本件輸入消費税等」といい、このうち消費税部分を「本件輸入消費税」という。)。
(3)消費税法30条9項3号所定の事項が記載された輸入許可通知書及び輸入消費税等の納付書の原本はCが保存しており、原告はこれらを飯田税務署調査担当者に対し提示した。
(4)原告の前記(2)の各課税期間に係る確定申告及びこれに対する更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定処分(以下、審査裁決により一部取り消された後のものを、それぞれ「本件各更正処分」「本件各賦課決定処分」という。)の経緯は、別紙1記載のとおりである。
 また、被告が本訴において主張する本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の根拠は別紙2のとおりである。
3 争点及び当事者の主張
(1)原告は、本件輸入消費税の納税義務者に該当し、消費税法30条1項により「保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された消費税額」の控除を受けられる事業者であるといえるか。
(被告の主張)
ア 仕入税額控除について規定する消費税法30条1項により控除される消費税額は、当該事業者が「課された」消費税額であり、仕入税額控除を受ける事業者自身に消費税が課されたことを予定しているというべきである。そして、消費税法47条1項は、関税法6条の2第1項1号に規定する申告納税方式が適用される課税貨物を保税地域から引き取ろうとする者は、原則として輸入消費税に係る申告書を税関長に提出しなければならないと規定しているところ、そもそも申告納税制度は、納税申告に対し、原則として、既に国家と納税義務者との間に成立している納税義務の確定という公法上の効果を付与するものであるから、本件においては、輸入消費税の申告納税を行ったCが公法上確定した納税義務者であり、およそ輸入消費税の申告納税を行っておらず申告納税義務者でない原告は、消費税法30条1項によって仕入税額控除を受けることができる事業者には該当しない。
イ なお、Cは、各課税期間の全期間において、のべ266回にわたり、主体的に外国貨物の引取行為を行っており、実質的にみても、Cが仕入税額控除を受ける事業者であったというべきであって、原告が実質的な輸入事業者であるとする原告の主張もまた失当である。
(原告の主張)
ア 消費税法30条1項は、「課税貨物につき」「課された」「消費税額」を控除する旨規定し、誰に課された消費税であるかは問題とせず、その課税貨物について課された消費税額を控除するとしている。したがって、消費税法は、課税貨物につき真に権利、利益を有する者、すなわち課税貨物の実質的な輸入者が仕入税額控除を受け得ることを前提としており、控除を受けるためには、消費税の申告名義人であることを要しないと解すべきである。
イ また、仕入税額控除制度の趣旨は、取引の各段階における消費税の課税の累積を排除することにあるところ、事業者が「外国貨物を保税地域から引き取る者」(消費税法5条2項)、すなわち実質的な輸入者に該当して輸入消費税の納税義務を負っている場合には、当該事業者はまさに輸入消費税の負担を負っていることになるから、仕入税額控除により消費税の課税の累積が排除されるべき場合に当たる。
ウ そして、事業者が行った国内における課税仕入れについて仕入税額控除を受ける場合、課税仕入れを行った事業者の判定は消費税法13条の実質行為者の原則により実質的な判断がなされ、その相手方において納付すべき消費税の税額が公法上確定していることを要しないところ、課税貨物の保税地域からの引取りに係る仕入税額控除はこれと同趣旨のものであり、その要件も同様に解すべきである。
エ さらに、消費税法基本通達11-1-6は、いわゆる限定申告の場合に、輸入申告を行う者が単なる名義人であって、実質的な輸入者が別に存在するとき、実質的な輸入者が輸入消費税の仕入税額控除を受けることを認めている。すなわち、上記通達は、消費税法30条1項に関する課税庁の公権的解釈として、輸入申告名義人ではない実質的な輸入者に対し、輸入消費税の仕入税額控除を受け得ることを正面から認めたものである。
オ 本件加工取引は、すべて原告とB公司との間でされており、Cは製品の輸入及び原材料の輸出の手続を原告に代わって行う以外には関与することはなかったし、加工賃の支払に用いられた輸入手形は、Cを名宛人としていたものの、実際には原告の銀行口座から決済されていたのであるから、原告は、本件加工取引についての実質的な輸入者であり、仕入税額控除を受けるべき「事業者」に該当する。
(2)原告は、消費税法30条8項、9項等所定の記載がある同条7項所定の帳簿及び請求書等を保存していたか。
(被告の主張)
ア 原告は飯田税務署の担当調査官に、帳簿(乙11号証の1ないし3)、C名義の輸入許可通知書(乙5号証の1ないし3)、輸入消費税等の申告書(乙3号証の1、2)及び納付書(乙4号証の1、2)を提示しているが、このうち帳簿は、消費税法30条8項2号イ(課税貨物を保税地域から引き取った年月日)、ロ(課税貨物の内容)の記載を欠き、また、輸入許可通知書に記載された事業者はCとなっており、同条9項3号に規定された記載を欠く書類であって、同条7項所定の帳簿及び請求書等の保存義務を果たしていない。
イ そして、輸入許可通知書については、Cが保存していたというにすぎず、原告がこれを保存していたということはできない。
(原告の主張)
ア 原告の帳簿であるB公司に係る仕入先元帳(甲26号証)には課税貨物の内容が、Cに係る仕入先元帳(甲28号証)には課税貨物を保税地域から引き取った年月日が、それぞれ記載されている。また、輸入許可通知書の書類の交付を受ける事業者の名称については、輸入消費税の申告名義人と仕入税額控除を受け得る者が乖離することが認められる場合は、その申告名義人の輸入許可通知書を保存することで足りると解すべきである。したがって、原告は、消費税法30条7項所定の帳簿及び請求書等の保存義務を果たしていた。
イ なお、原告は、C名義の輸入許可通知書等の原本を、原告の履行補助者であるCを通じて保存していた。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告は本件輸入消費税の納税義務者に該当し、消費税法30条1項により「保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された消費税額」の控除を受けられる事業者か。)について
(1)消費税法30条1項は、いわゆる仕入税額控除(課税貨物の引取りの場合を含めて「仕入れ」と解する。以下同じ。)について規定しているところ、この仕入税額控除の制度は、消費税の課税事業者が納付すべき税額を算定する際に、仕入れの際に含まれていた税額(仕入税額)を控除することによって、納税事業者が、仕入れの際に負担した税額を累積して納税することを防止するためのものである。すなわち、そもそも仕入税額控除の制度は、本来、消費税を納付する課税事業者が、仕入れの際に自ら負担した税額を控除することを予定した制度であると解される。
 そして、保税地域からの貨物の引取りに係る輸入消費税の場合は、原則として課税事業者が輸入時に自ら納付するものとされているところ(消費税法5条1項、47条1項、50条1項)、消費税法30条1項が、行為の主体としては冒頭に「事業者」のみを掲げ、他に主体となるべき者の記載をしていないことは、保税地域からの引取りに係る仕入税額控除の制度が、まさに上記のとおり、原則として、課税事業者が自ら輸入段階で納付した税額を控除する仕組みであることを念頭に置いたものであると解すべきである。
 さらに、課税貨物を引き取る事業者が、同事業者の氏名又は名称の記載された輸入許可通知書を含む、帳簿及び請求書等を保存すべきとされている(同法30条7ないし9項)のも、課税事業者が自ら輸入段階で納付した税額を控除することを当然の前提として規定したものと解される。
(2)そして、関税法6条の2第1項1号に規定する申告納税方式が適用される課税貨物については輸入消費税についても申告納税制度が採用されているところ、申告納税制度は、法定の納税義務者に対し、その課税内容を最も知悉する者として、法律の定める手続に従って、一定の要式により、できるだけ正確な課税内容を申告することを期待する一方、この納税申告に対し、原則として、既に国家と納税義務者との間に成立している納税義務の確定という公法上の効果を付与するものであり,納税義務者が第三者名義で納税申告することは法が予定していないところであると解される(最高裁昭和46年3月30日判決・刑集25巻2号359頁参照)ところ、前記争いのない事実(第2の2の(2))記載のとおり、本件において、輸入消費税の申告納付は、Cの名義で行われたものであると認められる。
 そうすると、Cが本件輸入消費税の納税義務者であったということが公法上確定されたというべきであるから、本件輸入消費税については、原則として、Cが課税事業者として納付すべき消費税において控除されることが予定されるものであるというべきであって、特段の事情がない限り、輸入消費税の申告名義人ではない原告が課税事業者として納付すべき消費税において控除されることはないと解すべきである。 
(3)この点については、たしかに、消費税法基本通達11-1-6は、輸入申告者が単なる名義人であって実質的な輸入者が別にいるときに、実質的な輸入者に仕入税額控除の適用を認めるべき場合があることを示している。しかしながら、この通達は、例えば、関税定率法13条1項の規定により、飼料の製造のための原料品であるとうもろこし等の輸入については、一定の条件の下に関税が免除されるが、その免除を受けるためには、同項に規定する税関長の承認を受けた製造者の名をもってしなければならない(いわゆる限定申告)こととされており(関税定率法施行令7条2項)、このように輸入申告をする者が限定されているような場合には、実質的な輸入者である商社等と、申告をするいわゆる限定申告者との名義が異なることが想定されることから、そのような例外的な場合には、仕入税額控除の趣旨を全うさせるために、実質的な輸入者が引取りに係る消費税について仕入税額控除を受け、いわゆる限定申告者は実質的な輸入者からの買取りについての消費税額について仕入税額控除を受けることとして、仕入税額控除制度の趣旨を全うさせようとしたものであると解され、この通達が存在することによって、およそ消費税法30条1項について、一般的に実質的輸入者が仕入税額控除を受けると解釈すべきことにならないことはいうまでもないところである。
 そして、本件の取引が、消費税法基本通達11-1-6が例外的に定める要件に該当するとは認められない。
(4) また、原告は、Cが申告名義人であることから直ちに実体法上の納税義務者となるわけではない上、仮に申告名義人であるCが実体法上の納税義務者であったとしても他に実質的な輸入者がいれば、その者も実体法上の納税義務を負うと解すべきであるから、実質的な輸入者であれば、輸入消費税の申告、納付をしていない者に対しても仕入税額控除の規定を適用すべきであると主張する。
 しかしながら、Cが本件輸入消費税の申告名義人となって申告したことは、本件輸入消費税の内容を知悉するCが国家との関係では納税義務者となることを自認して、公法上の納税義務を確定させたことに他ならないというべきであるし、また、そもそも前記のとおり、国家との関係で、申告名義人以外の者に納税義務が生じることは想定し難いといわざるを得ない(原告が言及する東京地裁平成2年10月8日判決・行政事件裁判例集41巻10号1609頁、東京高裁昭和60年2月25日判決・刑事裁判月報17巻1、2号1頁は、いずれも複数の者が共同して輸入したことにより、実質的な輸入者が複数いると認められる事案を前提とした判示であり、本件とは事案を異にする。)。
 さらに、本件についていえば、Cは、平成13年7月課税期間から平成15年7月課税期間までの間に延べ266回にわたって(乙1)、本件加工取引に係る水引製品の輸送及び保税地域への搬入をし、その輸入申告及び輸入許可の名宛人、関税及び本件輸入消費税等の名義人となって、これらの申告、納付をしたことに加え(前記第2の2(2))、B公司への加工賃の決済に使用された輸入手形の名宛人となり(弁論の全趣旨)、原告とB公司との間に立って交渉に当たり(甲37)、原告から本件輸入消費税等相当額を受領した後も輸入許可通知書及び輸入消費税等の納付書の原本を原告に引き渡すことなく自ら保管していた(甲17)のであるから、客観的にはCが水引製品を輸入して処分権をいったん取得した上、原告が輸入手形を決済し手数料及び輸入消費税等相当額を支払うこと(前記第2の2(2))と引換えに、水引製品の処分権を移転したとみるのが自然であって、真実の輸入者がCではなく原告であるとはいえないから、この点からも原告の主張は失当である。
(5) さらに、原告は、本件輸入消費税を実質的に原告が負担していること、かつて神戸税関から輸入者を原告として扱うべきである旨の指摘を受け、その指摘に従った処理をせざるを得ない状況にあったこと、対中国貿易実務の知識・経験を有するCに輸入手続を委託する必要があったことなどから、原告に仕入税額控除の適用を認めないのは著しく酷である旨を縷々主張する。
 しかしながら、そもそも本件は、原告において、本件輸入消費税等の申告、納付がC名義でされるのを容認しながら、仕入税額控除の適用のみ原告名義でしようとしたことに起因するものであるし、仮に原告が輸入消費税についての控除を受けたいのであれば、自ら輸入申告をし、あるいは輸入手続に詳しい業者を代理人として原告に輸入申告の効果を帰属させればよかったのであり、本件においてそのようなことをすることができない障害が存在したことを伺わせる事情も見られないのであるから、本件輸入消費税に係る仕入税額控除を受けられないのは、原告自らの責任に帰すべきものであって、原告の上記主張もまた理由がない。
2 以上のとおり、本件においては、Cが輸入消費税の納税義務者であるということが公法上確定されており、本件における輸入消費税の仕入税額については、原則として、Cが課税事業者として納付すべき消費税において控除されることが予定されるものであるというべきであるところ、原告が、実質的輸入者であるとして例外的に原告に仕入税額控除を認めるべき理由もないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は理由がないと言わざるを得ない。このほか、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を違法とすべき理由はなく、これらはいずれも適法である。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 定塚誠 裁判官 中山雅之 裁判官 進藤壮一郎

(別紙1) 本件課税処分等の経緯
(別紙2)
1 本件各更正処分の根拠について
(1)平成13年7月課税期間(別表1参照)
ア 課税標準額(別表1・順号〔1〕) 6億2937万9000円
 上記金額は、原告の平成13年7月課税期間の消費税等の確定申告書(以下「平成13年7月課税期間申告書」という。)に記載された金額と同額である。
イ 課税標準額に対する消費税額(別表1・順号〔2〕) 2517万5160円
 上記金額は、消費税法29条に基づき、上記アの金額に税率100分の4を乗じて算出した金額であり、原告の平成13年7月課税期間申告書に記載された金額と同額である。
ウ 控除対象仕入税額(別表1・順号〔3〕) 1750万5549円
 上記金額は、消費税法30条に基づき算出した金額であり、下記エの金額に105分の4を乗じた金額である。
 なお、原告は、平成13年7月課税期間申告書において、課税貨物に係る消費税額1586万7840円を控除対象仕入税額に算入しているが、当該消費税額は、原告の控除対象仕入税額には該当しないため、算入できない。
エ 課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)(別表1・順号〔4〕) 4億5952万0685円
 上記金額は、下記(ア)の金額から(イ)の金額を控除した金額である。
(ア)確定申告額(別表1・順号〔5〕) 4億7621万7792円
 上記金額は、原告が平成13年7月課税期間申告書に記載した課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)である。
(イ)本件加工取引の対価の額(別表1・順号〔6〕) 1669万7107円
 上記金額は、原告が確定申告において課税仕入れに係る支払対価の額に含めた、大連公司に対し支払った本件加工取引に係る対価の額であり、国外取引であるため課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない(争いがない。)。
オ 納付すべき消費税額(別表1・順号〔7〕) 766万9600円
 上記金額は、上記イの金額から同ウの金額を控除した金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
カ 地方消費税の課税標準となる消費税額(別表1・順号〔8〕) 766万9600円
 上記金額は、地方税法72条の77第2号及び同条の82に基づき、前記オの金額と同額である。
キ 納付すべき譲渡割額(別表1・順号〔9〕) 191万7400円
 上記金額は、地方税法72条の83に基づき上記カの金額に税率100分の25を乗じて算出した金額である。
(2)平成14年7月課税期間(別表2参照)
ア 課税標準額(別表2・順号〔1〕) 5億9563万5000円
 上記金額は、原告の平成14年7月課税期間の消費税等の確定申告書(以下「平成14年7月課税期間申告書」という。)に記載された金額と同額である。
イ 課税標準額に対する消費税額(別表2・順号〔2〕) 2382万5400円
 上記金額は、消費税法29条に基づき、上記アの金額に税率100分の4を乗じて算出した金額であり、原告の平成14年7月課税期間申告書に記載された金額と同額である。
ウ 控除対象仕入税額(別表2・順号〔3〕) 1417万6923円
 上記金額は、消費税法30条に基づき算出した金額であり、下記エの金額に税率105分の4を乗じた金額である。
 なお、原告は、平成14年7月課税期間申告書において、課税貨物に係る消費税額1296万0652円を控除対象仕入税額に算入しているが、当該消費税額は、原告の控除対象仕入税額には該当しないため、算入できない。
エ 課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)(別表2・順号〔4〕) 3億7214万4248円
 上記金額は、原告が平成14年7月課税期間申告書に記載した課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)である。
オ 納付すべき消費税額(別表2・順号〔6〕) 964万8400円
 上記金額は、上記イの金額から同ウの金額を控除した金額(ただし、通則法119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
カ 地方消費税の課税標準となる消費税額(別表2・順号〔7〕) 964万8400円
 上記金額は、地方税法72条の77第2号及び同条の82に基づき、前記オの金額と同額である。
キ 納付すべき譲渡割額(別表2・順号〔8〕) 241万2100円
 上記金額は、地方税法72条の83に基づき上記カの金額に税率100分の25を乗じて算出した金額である。
(3)平成15年7月課税期間(別表3参照)
ア 課税標準額(別表3・順号〔1〕) 6億3098万2000円
 上記金額は、原告の平成15年7月課税期間の消費税等の確定申告書(以下「平成15年7月課税期間申告書」という。)に記載された金額と同額である。
イ 課税標準額に対する消費税額(別表3・順号〔2〕) 2523万9280円
 上記金額は、消費税法29条に基づき、上記アの金額に税率100分の4を乗じて算出した金額であり、原告の平成15年7月課税期間申告書に記載された金額と同額である。
ウ 控除対象仕入税額(別表3・順号〔3〕) 1758万7189円
 上記金額は、消費税法30条に基づき算出した金額で、下記エの金額に105分の4を乗じた金額である。
 なお、原告は、平成15年7月課税期間申告書において、課税貨物に係る消費税額1563万9900円を控除対象仕入税額に算入しているが、当該消費税額は、原告の控除対象仕入税額には該当しないため、算入できない。
エ 課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)(別表3・順号〔4〕) 4億6166万3719円
 上記金額は、下記(ア)の金額から(イ)の金額を控除した金額である。
(ア)確定申告額(別表3・順号〔5〕) 4億7850万8714円
 上記金額は、原告が平成15年7月課税期間申告書に記載した課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)である。
(イ)本件加工取引の対価の額(別表3・順号〔6〕) 1684万4995円
 上記金額は、原告が確定申告において課税仕入れに係る支払対価の額に含めた、大連公司に対し支払った本件加工取引に係る対価の額であり、国外取引であるため課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない(争いがない。)。
オ 納付すべき消費税額(別表3・順号〔7〕) 765万2000円
 上記金額は、上記イの金額から同ウの金額を控除した金額(ただし、通則法119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
カ 地方消費税の課税標準となる消費税額(別表3・順号〔8〕) 765万2000円
 上記金額は、地方税法72条の77第2号及び同条の82に基づき、前記オの金額と同額である。
キ 納付すべき譲渡割額(別表3・順号〔9〕) 191万3000円
 当該金額は、地方税法72条の83に基づき上記キの金額に税率100分の25を乗じて算出した金額である。
2 本件各賦課決定処分の根拠について
 本件各更正処分はいずれも適法であるところ、原告は本件各課税期間の消費税等について、納付すべき税額を過少に申告していたものであり,納付すべき税額を過少に申告していたことについて、通則法65条4項に規定する正当理由は存しないことから、本件各更正処分に伴って課されるべき過少申告加算税の額は、それぞれ以下のとおりとなる。
(1)平成13年7月課税期間 292万7000円
 上記金額は、通則法65条1項及び2項並びに地方税法附則9条の4第2項及び9条の9に基づき、平成13年7月課税期間に係る更正処分(審査裁決により取り消された後のもの)によって新たに納付すべき消費税等1968万円(上記更正処分における納付すべき消費税額及び譲渡割額と、確定申告における納付すべき消費税額及び譲渡割額との差額。ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切捨てた後のもの。)に100分の10の割合を乗じて算出した金額と、当該新たに納付すべき消費税等1968万5600円のうち50万円を超える部分に相当する金額(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に100分の5の割合を乗じて算出した金額との合計額である。 
(2)平成14年7月課税期間 228万8000円
 上記金額は、通則法65条1項及び2項並びに地方税法附則9条の4第2項及び9条の9に基づき、平成14年7月課税期間に係る更正処分(審査裁決により取り消された後のもの)によって新たに納付すべき消費税等1542万円(上記更正処分における納付すべき消費税額及び譲渡割額と、確定申告における納付すべき消費税額及び譲渡割額との差額。ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に100分の10の割合を乗じて算出した金額と、当該新たに納付すべき消費税等1542万9200円のうち50万円を超える部分に相当する金額(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に100分の5の割合を乗じて算出した金額との合計額である。
(3)平成15年7月課税期間 288万8000円
 上記金額は、通則法65条1項及び2項並びに地方税法附則9条の4第2項及び9条の9に基づき、平成15年7月課税期間に係る更正処分(審査裁決により取り消された後のもの)によって新たに納付すべき消費税等1942万円(上記更正処分における納付すべき消費税額及び譲渡割額と、確定申告における納付すべき消費税額及び譲渡割額との差額。ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に100分の10の割合を乗じて算出した金額と、当該新たに納付すべき消費税等1942万0900円のうち50万円を超える部分に相当する金額(ただし、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に100分の5の割合を乗じて算出した金額との合計額である。
以上
別表1 平成13年7月課税期間の消費税等の額
別表2 平成14年7月課税期間の消費税等の額
別表3 平成15年7月課税期間の消費税等の額


 

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