情報提供 TKC税務研究所
税法話題の判例紹介 ◆ 平成30年1月・通巻第221号
不存在であった土地に対する固定資産課税台帳に基づいた固定資産税等の賦課決定が無効とされ、不当利得返還請求が認容された事例

【文献番号】 25446255
【文献種別】 判決/大阪高等裁判所(控訴審)
【裁判年月日】 平成25年7月25日
【事件名】 誤納金還付・過誤納金不還付決定等取消請求控訴・附帯控訴事件
【判示事項】
1. 取消訴訟の対象となる「処分」。
(要旨文献番号:60061219)
2. Y市固定資産税及び都市計画税過誤納金返還事務要綱が、これに基づく市長の行為について処分性を付与しているとは解されないとした事例。
(要旨文献番号:60061220)
3. 課税処分が無効となる場合。
(要旨文献番号:60061221)
4. 台帳課税主義は、納税義務者及び課税標準の処理につき、特に例外を認めたものか(積極)。
(要旨文献番号:60061222)
5. 課税客体が存在しない場合には、台帳課税主義の適用がないとした事例。
(要旨文献番号:60061223)
6. 固定資産税等の賦課決定は無効であり、原告は、賦課決定に基づき納付した固定資産税等の還付請求権(不当利得返還請求権)を有するとした事例。
(要旨文献番号:60061224)
7. 地方税法17条以下の各規定は、過誤納金について民法上の不当利得の規定の適用を排除する趣旨であるとした事例。
(要旨文献番号:60061225)
【裁判結果】 控訴棄却・附帯控訴棄却
【上訴等】 ―(不明)
【参照法令】 地方自治法232条の2
地方税法17条、18条、341条、343条、349条、415条、416条、702条



《本判決の解説》

1. 事案の概要
(1)  X(控訴人兼被附帯控訴人・原告)は、昭和●年●月●日、相続によって父親Bから本件土地の所有権を取得した者であり、Y市長から、本件土地に係る固定資産税及び都市計画税(本件固定資産税等)の賦課決定(本件賦課決定)を受けて、昭和59年度から平成22年度までの本件固定資産税等を納付してきた。
(2)  分筆等
  本件土地は、昭和36年5月2日、Y市β×番1から分筆されて同番4の土地となり、昭和45年7月3日、Y市α×番の土地に変更の登記がなされた。
  同日、上記×番1の土地は、Y市α××番の土地(××番の土地)に変更の登記がなされ、昭和48年2月28日からC会社が所有していたものである。
  上記×番1の土地は、明治42年に、Y市β×番の土地が同×番1と同×番2とに分筆されたものであり、同×番2の土地は、Y市α×××番の土地(×××番の土地)に変更の登記がなされた。
(3)  別件訴訟
  本件土地周辺の土地を所有していたC会社は、Xらに対して、本件土地に係る表示登記の抹消登記手続請求及び本件土地と公図上隣接している××番の土地との間の境界確定を、Y市(附帯控訴人兼被控訴人・被告)に対して、境界確定などを求める訴訟を提起し、Xは、国に対して本件土地と公図上隣接している国有地との間の境界確定を求める訴訟を提起し、両訴訟の弁論は併合された。
  地方裁判所は、主要な争点は、本件土地が×××番の土地とは別個のものとして実在するか否かであるなどとした上で、本件土地は×××番の土地と同一であり、本件土地に係る表示登記は昭和36年にされた分筆時の過誤によって作出されたもので、当該登記は存在しない土地の所有権を表示する不実の登記である旨判示し、本件土地と××番の土地及び登記簿上隣接する国有地との間の境界確定を求める訴えをいずれも却下し、C会社のXに対する抹消登記手続請求は棄却した(別件判決)。
  Xは控訴したが、高等裁判所は、平成21年9月24日に控訴棄却の判決を言渡し、さらに、平成22年8月4日、最高裁判所が上告受理申立てを受理しない旨決定したことから、別件判決は確定した。
(4)  本件各通知
  Xは、平成23年4月28日付けで、民法703条、地方税法17条及び17条の4に基づき、Y市長に対し、Xが平成18年度から平成22年度までに納付した本件固定資産税等(合計234万8250円)及び還付加算金の還付を請求したが、Y市長は、同年5月20日付けで、Y市固定資産税及び都市計画税過誤納金返還事務要綱(本件要綱)に該当しないため還付はできない旨をXに通知した(本件通知1)。
  Xは、平成23年5月26日付けで、地方自治法232条の2及び本件要綱に基づき、Y市長に対し、Xが昭和59年度から平成17年度までに納付した本件固定資産税等及び利息相当額(合計2305万1400円)の還付を請求したが、Y市長は、同年7月6日付けで、本件要綱に該当しないため還付はできない旨をXに通知した(本件通知2)。
  Xは、本件通知1及び本件通知2に対して異議を申立てたが、いずれも却下された。
(5)  Xは、@主位的に民法703条に基づく不当利得返還請求として、予備的に国家賠償法1条1項の規定に基づく損害賠償請求として、平成18年度から平成22年度までに納付した本件固定資産税等及びこれに対する地方税法17条の4所定の還付加算金ないし民法所定の遅延損害金の支払を、A主位的に本件要綱に基づく返還請求として、予備的に民法703条に基づく不当利得返還請求として、昭和59年度から平成17年度までに納付した本件固定資産税等相当額及び民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払等を求めて本件各訴えを提起した。

2. 本判決の要旨
(1)  課税処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのものであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、出訴期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に当該処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、上記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和48年4月26日第一小法廷判決・民集27巻3号629頁)。
(2)    固定資産税等の課税客体は、土地や家屋などの固定資産であり(地方税法342条1項、702条1項、341条1号)、本件土地は、本件賦課決定当初から登記簿上は存在するものの実際には存在しない土地であったものと認められるから、本件賦課決定は、課税客体という課税要件の根幹に関わる過誤を有するものである。
  Y市は、固定資産税は固定資産課税台帳に記載された情報に基づいて課税されるものであり、台帳課税主義の適用があるとした上で、本件土地は、登記簿上存在していたのであり、Y市は台帳課税主義に基づいて本件賦課決定をしたにすぎないから、その手続に何ら違法性はない旨主張する。
  ところで、台帳課税主義とは、固定資産税の課税を固定資産課税台帳(地方税法380条1項)に登録されたところに従って行うという建前をいい、その具体的な現れとして、同法は、固定資産税等について固定資産課税台帳に所有者として登録されている者を納税義務者とし(いわゆる名義人課税主義。343条2項、702条2項)、そこに登録された固定資産の価格を課税標準として課するとしている(349条1項、702条2項)。
  これは、本来、固定資産税等は、固有資産の真実の所有者に対して当該固定資産の適正な時価を課税標準として課されるべきものであるが(地方税法341条5号、343条1項、349条1項、702条1項、2項)、課税要件の早期確定による円滑迅速な課税事務処理の要請及び縦覧制度(固定資産税課税台帳の縦覧を通じて、納税者に対して固定資産の評価が適正に行われているか否かを確認する機会及び不服申立ての機会を与えること(415条、416条参照)。)に基づき、納税義務者及び課税標準の処理につき、特に例外を認めたものと解される。
  そうすると、台帳課税主義とは、あくまで課税客体となる固定資産が存在することを前提として、その納税義務者及び課税標準につき特則を定めたものと解するのが相当であり、そもそも課税客体が存在しない本件において、適用されるべきものではないというべきであり、したがって、Y市の主張は採用できない。
  また、本件土地は、Xの父(B)の資産管理会社であったD会社が昭和46年7月2日付け売買によって取得したもので、その後、昭和51年1月3日付け売買によりBが取得し、同人の死亡に伴い、相続によりXが所有するに至ったものと認められ、本件土地に係る登記作出の原因として別件判決が判示する、昭和36年の分筆時における表示登記の過誤につき、XやBが何らかの関与をしたと疑うに足りる事情も認められないことに加えて、Xが、本件固定資産税等を昭和59年度以降滞りなく支払続けていたことや別件訴訟において本件土地の存在を主張し続けていたことに照らすと、Xにおいて本件土地が不存在であるとして本件賦課決定に対する不服申立てをしなかったことを責めるのは酷というべきであって、出訴期間の徒過による不可争的効果の発生を理由としてXに当該処分による不利益を甘受させることは著しく不当であると認められる。
  Y市は、仮に不当利得返還請求が認められるとすれば地積更正の場合にも同様に認められることとなり、固定資産税の徴収実務が大混乱をきたす、Xは本件土地を担保物件として用いていたことによって利益を得ていたなどと主張するが、地積更正によって地積が減少した場合には、課税客体である一筆の土地の地積認識が補正されたに過ぎず、課税客体の存在自体に疑義はないのであるから、課税客体の存在しない本件とは事案を異にし、課税台帳主義の適用や出訴期間の徒過による不可争的効果の発生により固定資産税の徴収実務の安定性はある程度保たれ,混乱を来すとは考え難く、また、固定資産税等が、土地等の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課される租税と解されること(最高裁判所昭和59年12月7日第二小法廷判決・民集38巻12号1287頁参照)からすれば、担保物件として利用していたことから、直ちに固定資産税等の負担を強制することが正当化されるとも認め難いため、Y市の主張は採用できない。
(3)   以上より、本件賦課決定は当初から無効であり、Xは、本件賦課決定に基づき納付した本件固定資産税等の還付請求権(不当利得返還請求権)を有する。
=控訴棄却・附帯控訴棄却(上訴関係不明)=

3. 本判決に対するコメント
(1)  課税処分の無効事由
  課税処分の瑕疵と無効に関しては、一般に、行政処分が無効であるというためには、単に当該処分に違法の瑕疵があるというだけでは足りず、重大かつ明白な瑕疵が存在することが必要であり、行政処分の無効原因である瑕疵が明白であるとは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが、処分成立の当初から、外形上、客観的に明白であること、すなわち、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであることをいうが、課税処分が法定の処分要件を欠く場合、行政上又は司法上の救済手続のいずれにおいても、比較的短期間に大量的にされる課税処分を可及的速やかに確定させることにより徴税行政の安定とその円滑な運営を確保しようとする要請から、その不服申立てについては法定期間の遵守が要求されており、一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を勘案すれば、当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしんしゃくしてもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を無効ならしめると解されている(最高裁昭和48年4月26日第一小法廷判決・裁判所HP・民集27巻3号629頁・LEX/DB21042490、東京高裁平成21年11月26日判決・税務訴訟資料259号順号11332・LEX/DB25500827、東京地裁平成17年7月12日判決・税務訴訟資料255号順号10075・LEX/DB25420218等参照)。
(2)  本件土地の不存在と本件賦課決定の効力
  納税義務の成立という法律効果を生ずる法律要件を「課税要件」といい、各租税の共通の課税要件として、納税義務者、課税物件、課税物件の帰属、課税標準及び税率があると解され、固定資産税等の課税物件は固定資産(土地、建物及び償却資産)とされている(地方税法341条1号、342条1項、702条1項)から、本件土地が不存在であったという事実は、本件賦課決定には課税物件が全く存在しなかった(課税要件の欠缺)という、本件賦課決定の内容上の根幹についての過誤に当たることになる。
  そして、昭和36年の分筆時における表示登記の過誤につき、XやBが何らかの関与をしたと疑うに足りる事情は認められないこと、本件固定資産税等を昭和59年度以降滞りなく支払続けていたこと、別件訴訟において本件土地の存在を主張し続けていたことに照らし、本判決が認定判断しているように、Xにおいて本件土地が不存在であるとして本件賦課決定に対する不服申立てをしなかったことを責めるのは酷であったと認めるの相当であり、したがって、本件は、上記にいう「当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしんしゃくしてもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められる」場合に当たり、本件賦課決定は無効と解するの相当といえる。
  Y市は、「本件土地は、登記簿上存在していたのであり、台帳課税主義に基づいて本件賦課決定をしたにすぎないから、その手続に何ら違法性はない」旨主張していたが、@地方税法343条1項ないし3項が、登記簿、土地補充課税台帳、家屋課税補充台帳、又は償却資産課税台帳に所有者として登録された者を納税義務者とし、同法349条1項又は349条の2が、固定資産税の課税標準は当該土地若しくは家屋の基準年度の価格又は賦課期日における当該償却資産の価格で土地課税台帳、土地補充課税台帳、家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録されたもの又は償却資産課税台帳に登録されたものとする旨規定し、A同法702条1項・2項が、都市計画区域内に所在する土地及び家屋に対し、当該土地又は家屋に係る固定資産税について所有者とされた者に対し、当該土地又は家屋に係る固定資産税の課税標準となるべき価格を課税標準として都市計画税を課する旨規定していることから明らかなように、登記簿、土地課税台帳、土地補充課税台帳、家屋課税台帳、家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳(固定資産課税台帳)に登録されたところに従って固定資産税等の課税を行うという台帳課税主義は、固定資産税等の納税義務者又は課税標準についての建前である(遠藤 浩ほか編「現代法辞典」647頁、佐々木喜久治「固定資産税」62〜63・123頁、金子 宏「租税法〔第22版〕」693頁参照)から、台帳課税主義に基づいて本件賦課決定を行ったということをもって、本件賦課決定に課税物件の欠缺という瑕疵がないということにはならない。
(3)  本判決について
  以上のとおりであるから、本件賦課決定を無効とした本判決の判断は正当なものということができ、地積更正の場合には、「課税客体である一筆の土地の地積認識が補正されたに過ぎず、課税客体の存在自体に疑義はないのであるから、課税客体の存在しない本件とは事案を異にし、課税台帳主義の適用や出訴期間の徒過による不可争的効果の発生により固定資産税の徴収実務の安定性はある程度保たれ,混乱を来すとは考え難」いとの判断を含め、課税要件を欠いた課税処分の効力についての判断を示した事例として、実務上、参考となる。


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