情報提供 TKC税務研究所
税法話題の判例紹介 ◆ 平成29年2月・通巻第210号
贈与税の連帯納付義務を履行した者から求償権の放棄を受けた他の連帯納付義務者 に対しては、みなし贈与税課税(相続税法8条)は適用されないとした事例

【文献番号】 25495329
【文献種別】 判決/東京地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 平成24年7月10日
【事件名】 無申告加算税賦課決定処分取消請求事件、訴えの追加的併合請求事件
【判示事項】
1. 処分の取消しの訴えの目的。
(要旨文献番号:60062390)
2. 取消訴訟の訴えの利益の存否を判断する際し、私人間の合意を考慮することは許容されるか(積極)。
(要旨文献番号:60062391)
3. 原告が無申告加算税賦課決定処分の取消しにより利益を享受し、又は不利益を被る地位にあるとは、認められないとした事例。
(要旨文献番号:60062392)
4. 相続税法8条の規定の趣旨。
(要旨文献番号:60062393)
5. 相続税法8条の規定が適用される場合。
(要旨文献番号:60062394)
6. 贈与税の連帯納付義務の法的性格。
(要旨文献番号:60062395)
7. 連帯納付義務者が他の連帯納付義務者に対する求償権を放棄した場合、放棄を受けた連帯納付義務者が相続税法8条本文の「利益を受けた場合」との要件を満たすことになるか(消極)。
(要旨文献番号:60062396)
8. 連帯納付義務者が本来の納税義務者に対する求償権を放棄した場合、相続税法8条本文により贈与税が課されることになるとした事例。
(要旨文献番号:60062397)
9. 相続税法基本通達8−3の(1)及び(2)の定めの趣旨。
(要旨文献番号:60062398)
10. 行政事件訴訟法36条にいう「法律上の利益を有する者」の意義。
(要旨文献番号:60062399)
11. 他者に対してされた滞納処分が無効であることの確認を求める訴えが、不適法であるとされた事例。
(要旨文献番号:60062400)
【裁判結果】 却下
【上訴等】 確定
【参照法令】 行政事件訴訟法3条、36条
相続税法8条
国税徴収法62条



《本判決の解説》
1. 事案の概要
(1)  戊が所有していた本件土地の登記記録の権利部には、@平成18年4月3日贈与(本件贈与)を原因として、戊から丙に所有権が移転した旨、A平成20年2月25日売買を原因として、丙からC会社に所有権が移転した旨の各記載がある。
(2)  戊は平成19年8月28日に死亡した。
 戊の法定相続人は、丁、X1(原告)、X2(原告)及びB(本件相続人ら)である。
(3)  丙は、平成19年9月3日、Y税務署長に対し、本件贈与に係る贈与税(本件贈与税)につき、期限後申告書を提出した(本件期限後申告)。
(4)  Y税務署長は、平成19年9月26日、丙に対し、国税通則法66条1項及び2項に基づき、本件期限後申告に係る無申告加算税の賦課決定処分(本件賦課決定処分)をした。
(5)  Y税務署長から、本件期限後申告及び本件賦課決定処分に係る丙の滞納国税(本件滞納国税)の徴収の引継ぎを受けた国税局長は、平成22年3月19日、本件相続人らに対し、それぞれ「納税義務承継通知決議書」(本件各通知決議書)を送付した。
 本件各通知決議書には、@丙が納付すべき本件滞納国税の額は、無申告加算税860万9000円、延滞税271万7434円であること、A本件滞納国税のうち、戊が連帯納付義務者として負う納付義務(本件連帯納付義務)については、相続があったため相続人に承継され、本件相続人らが相続分に対応する税額について納付しなければならないこと、B国税局において判明した相続分によると、X1及びX2(X1ら)の承継額は各1532万4350円であることが記載されていた。
(6)  国税局長は、平成22年4月14日、本件相続人らに本件滞納国税の納付を督促した。
(7)  国税局長は、平成22年4月26日、本件滞納国税を徴収するため、国税徴収法(徴収法)62条1項に基づき、丁に対し、同人が有する供託金還付請求権5250万円を差し押さえた(本件差押処分)。
(8)  国税局長は、平成22年5月17日、徴収法67条1項及び3項に基づき、差し押さえた供託金還付請求権のうち本件滞納国税に相当する金額を取り立て、本件滞納国税に充当し、本件滞納国税は完納となった。
(9)  E会社が丁を被告として提起した損害賠償請求訴訟において、平成22年11月24日、E会社と丁のほか、利害関係人としてX1ら、B及びD会社が参加して、裁判上の和解(本件和解)が成立した。
 本件和解の調書には、@丁は、E会社に対し、本件賦課決定処分が取り消された場合に丁が国に対して有することとなる本件滞納国税の過誤納金等の還付請求権を譲渡し、E会社はこれを譲り受ける、AE会社、丁、X1ら、B及びD会社は、和解条項に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する(本件清算条項)等の記載があった。
(10)  Xは、本件賦課決定処分には、前提となる本件贈与の事実が存在しない違法があるなどとして、同処分の取消しと本件差押処分の無効確認を求める訴えを提起した。

2. 本判決の要旨
(1)  本件賦課決定処分の取消しを求める訴えの利益の有無
 X1らは、本件清算条項により、丁がX1らに有する各自の本件連帯納付義務の負担部分に係る求償権(本件求償権)が放棄されたとすると、相続税法8条の「対価を支払わないで、債務の免除を受けた場合」に該当し、丁がX1らに求償し得る額については「贈与により取得したものとみな」され、X1らに贈与税が課税されることになるから、これを避けるため、そもそも本件滞納国税が発生しておらず、本件求償権も発生していないと主張する必要があり、したがって、X1らには、本件賦課決定処分の取消しを求める訴えの利益があると主張する。
 相続税法8条本文は、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨定めており、これは、法律的には贈与によって財産を取得したものとはいえないが、そのような法律関係の形式とは別に、実質的にみて贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に租税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、その取得した経済的利益を贈与によって取得したものとみなして贈与税を課税することとしたものである。
  このような相続税法8条の趣旨に鑑みると、同条に基づき贈与税を課税されることになるのは、@贈与により財産が移転した場合と同様の実質的な経済的利益の移転があり、Aその取得した経済的利益に対して贈与税の課税をすることが租税回避行為を防止し、税負担の公平の見地から相当である場合に限られると解される。
 本件和解の成立によりX1らが履行を免れたのは、贈与税の連帯納付義務者相互間に発生した求償権の行使に係る債務であるところ、この贈与税の連帯納付義務については、@相続税法が贈与税の徴収の確保を図るため贈与者に課した特別の責任であり、本来の納税義務者が負担する納税義務と連帯納付義務の関係は、民法上の主たる債務と連帯保証債務の関係に類似しているため、連帯納付義務者がその義務を履行した場合には、本来の納税義務者である受贈者に対して求償権を行使することができること、A連帯納付義務者のうち自己の負担部分を超えて義務を履行した者は、他の連帯納付義務者に対して求償権を行使することができるが、その場合にも求償を受けた連帯納付義務者は、本来の納税義務者に対して更に求償することができること、B連帯納付義務者は、本来の納税義務者とは異なり、贈与した財産の価額を限度として連帯納付の責めに任ずるにすぎないことなどの特徴を有し、民法上の連帯債務とは性質を異にするものである。
  このような贈与税の連帯納付義務の性質等に鑑みると、連帯納付の責任は、納税義務者の範囲を拡大するものではなく、贈与税の徴収の確保を図るため、贈与者に特別の履行責任を課すものと解され、贈与税の連帯納付義務者は、本来の納税義務者(受贈者)と異なり、国に対して租税債務自体を負っているとはいえないものと解されるし、義務を履行した場合には本来の納税義務者に求償権を行使することができる。
  そうすると、自己の負担分を超えて納税したことにより他の連帯納付義務者に対して求償権を取得した連帯納付義務者が、当該求償権を放棄したとしても、当該他の連帯納付義務者は租税債務を負担していなかったのであるし、求償権を取得した連帯納付義務者には本来の納税義務者に対する求償権がまだ残っているのであるから、求償権を放棄した連帯納付義務者と求償権の放棄を受けた連帯納付義務者との間で、贈与と同様の実質的な経済的利益の移転があったとは認められず、相続税法8条本文の「利益を受けた場合」との要件を満たさないものと解され、また、丁は、戊の相続人に対してだけでなく、本来の納税義務者である丙に対しても求償権を取得しているところ、丁が丙に対してもその求償権を放棄した場合には、丙は、国に対して負っていた租税債務を免れるという利益を受けたことになるから、相続税法8条本文により贈与税を課税されることとなる。
  X1らの主張を前提とすると、丁がX1らと丙の双方に対して求償権を放棄した場合には、X1らと丙の双方を義務者として贈与税が課税されることになるが、このような結論は、実質的に同一の課税原因による贈与税の課税を許容するものであり、租税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、その取得した経済的利益を贈与によって取得したものとみなすという相続税法8条の趣旨に反するものである。
  そして、相続税法基本通達8−3の(1)及び(2)が、求償権の放棄を受けた連帯債務者や主たる債務者につき贈与税が課税される旨を述べているのは、連帯債務者や主たる債務者には、第三者に請求することのできない最終的な自己負担分があるため、求償権の放棄を受けることにより当該負担分につき、贈与と同様の実質的な経済的利益の移転があったとみなすことが可能であるからであると解され、連帯債務者や主たる債務者の置かれた法的地位は、最終的に負担を負う租税債務が帰属していない連帯納付義務者のそれとは異なると解される。
 以上によれば、本件求償権の放棄によりX1らが贈与税を課税されることはないから、X1らの主張は採用することができず、他に、X1らに本件賦課決定処分の取消しにつき訴えの利益があることを認める証拠は存在しないため、同処分の取消しを求める本件訴えは不適法である。
(2)  本件差押処分の無効確認を求める訴えの適否
 X1らが本件差押処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるとは認められないから、本件滞納処分が無効であることの確認を求める訴えは、行政事件訴訟法36条の規定する要件を満たさず、不適法である。
  =却下(確定)=

3. 本判決に対するコメント
(1)  相続税法8条は、対価を支払わないで又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引き受け又は第三者のためにする債務の弁済(債務免除等)による利益を受けた場合には、当該債務免除等があった時に、当該債務免除等による利益を受けた者が、当該債務免除等に係る債務の金額に相当する金額(対価の支払があった場合は、その対価の額を控除した金額)を当該債務免除等をした者から贈与(当該債務免除等が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす旨規定しており、本判決の事実認定によると、本件和解の成立により本件求償権が放棄されたと認められるということから、本件賦課決定処分の取消しを求める訴えの利益との関係において、本件求償権が放棄されたことにより、同条に基づき、X1らに贈与税が課されることになるかが争われていた。
(2)  相続税法34条4項所定の贈与税の連帯納付義務は、相続税法が、贈与税の徴収の確保を図るため、贈与者に課した特別の「責任」であって(東京高裁平成20年8月28日判決・裁判所HP・LEX/DB25440472。最高裁昭和55年7月1日判決・裁判所HP・LEX/DB21070351参照)、「債務」ではないから、本件求償権の放棄は相続税法8条が規定する債務免除等に当たらず、また、国税通則法8条は、国税に関する法律の規定により国税を連帯して納付する義務には民法442条の規定を準用する旨規定し、同条は連帯納付義務にも適用があると解されており(横浜地裁平成21年5月27日判決・税務訴訟資料(徴収関係)平成21年1月〜平成21年12月順号21−20・LEX/DB25501251)、連帯納付義務を履行した連帯納付義務者及びその者から求償を受けて応じた他の連帯納付義務者は、本来の納税義務者に対して求償ないし請求をすることができることになり(民法442条、500条参照)、連帯納付義務の制度上、連帯納付義務者は当該責任に係る国税の最終負担者として予定されていないということができるため、本件求償権の放棄をもって、連帯納付義務者であるX1らが、相続税法8条にいう「利益を受けた者」に当たるということはできない。
 したがって、「自己の負担分を超えて納税したことにより他の連帯納付義務者に対して求償権を取得した連帯納付義務者が、当該求償権を放棄したとしても、当該他の連帯納付義務者は租税債務を負担していなかったのであるし、求償権を取得した連帯納付義務者には本来の納税義務者に対する求償権がまだ残っているのであるから、求償権を放棄した連帯納付義務者と求償権の放棄を受けた連帯納付義務者との間で、贈与と同様の実質的な経済的利益の移転があったとは認められず、相続税法8条本文の『利益を受けた場合』との要件を満たさない」として、相続税法8条の適用がないとした本判決の判断(前記2(1)ウ)は相当なものと思われる。
(3)  課税実務上、連帯債務者及び保証人による求償権の放棄と相続税法8条の適用については、@連帯債務者が自己の負担に属する債務の部分を超えて弁済を行い、その超える部分の金額について他の債務者に対し求償権を放棄したときには「その超える部分の金額」について、A保証債務者が主たる債務者の弁済すべき債務を弁済し、その求償権を放棄したときには「その代わって弁済した金額」について、それぞれ相続税法8条の規定による贈与があったものとみなす旨の取扱は示されていたが(相続税法基本通達8−3)、相続税又は贈与税の連帯納付義務を履行した者が、他の連帯納付義務者に対して、その求償権を放棄した場合の相続税法8条の適用については明らかでなかったところである。
 本判決は、この適用関係について初めて判断を示したものであり、相続税法8条の規定の趣旨及び相続税法基本通達8−3の取扱の趣旨に関する判断等を含め、実務上の参考となる。



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