情報提供 TKC税務研究所
税法話題の判例紹介 ◆ 平成30年3月・通巻第223号
数年分の貸付金利息の収入すべき時期は各年の利息計算期間の末日であるとして、当事者間の合意によるその全額の履行日であるとした課税処分を取消した事例

【文献番号】 26012775
【文献種別】 裁決/国税不服審判所
【裁決年月日】 平成26年9月1日
【裁決事項】
1. 所得税法36条1項に規定する「収入すべき金額」の意義。
(要旨文献番号:66016026)
2. 貸付金利息の権利確定時期。
(要旨文献番号:66016027)
3. 所得税基本通達36−8による取扱の当否。
(要旨文献番号:66016028)
4. 所得税基本通達36−14(2)による取扱の当否。
(要旨文献番号:66016029)
5. 貸付金利息が雑所得に当たるとした事例。
(要旨文献番号:66016030)
6. 雑所得に当たる貸付金利息の収入すべき時期は、年中の期間に対応する部分の利息については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)であるとした事例。
(要旨文献番号:66016031)
7. 所得税基本通達36−8における「その年に対応するもの」とは、その年における利息の計算期間の経過に対応するものをいうと解するのが相当であるとした事例。
(要旨文献番号:66016032)
【裁決結果】 一部認容
【掲載文献】 裁決事例集96集95頁
【参照法令】 所得税法35条、36条
所得税基本通達36−5、36−8(7)、36−14(2)



《本裁決の解説》

1. 事案の概要
(1)  歯科医師業を営む審査請求人(請求人)及びその母Dは、平成3年頃、Dが請求人の弟E及びその家族に対して生前贈与を行うための金銭を請求人がDに対して貸し付ける旨並びにDが所有する不動産を売却して現金化したとき又はDの死亡に係る相続のときに当該借入金を返済する旨の合意(本件基本合意)をした。
(2)  Dは平成4年3月10日に本件土地を購入しており、本件土地の購入後においては、請求人及びDは、本件土地が本件基本合意における「Dが所有する不動産」に該当するものと考えていた。
(3)  請求人は、Dに対し、本件基本合意に基づき、平成4年ないし平成9年に●円(本件各貸付金)を貸し付けた。
(4)  請求人及びDは、平成7年11月1日、同日付の確認書(本件確認書)を作成した。本件確認書の記載内容は、次のとおりである。
  DがE及びその家族に対して生前贈与を行うために、請求人がDに金銭を貸し付けること。
  Dは、その所有する不動産を現金化した場合又は請求人がDの死亡に係る相続を受けた場合に、請求人に対して、上記の貸付けに基づく借入金を返済すること。
  上記の貸付けに関する利息は年●%とし、返済時にまとめて精算すること。
(5)  Dは、平成23年2月13日、請求人ほか3名の本件土地の共有者とともに、Fほか2名との間で、売買物件を本件土地、売買代金を1億円、引渡日を売買代金全額受領日とする不動産売買契約を締結し、同日、請求人は、売主を代表し、手付金として本件土地の売買代金の一部である1000万円を受領した。
(6)  請求人は、平成23年3月18日、売主を代表し、本件土地の売買代金の残額9000万円を受領し、同日、Dは、請求人ほか3名の共有者とともに、本件土地をFほか2名に引き渡した。
 上記のとおり、請求人が本件土地の売買代金の残額を受領し、Dらが本件土地を引き渡したことにより、本件土地が現金化され、Dは本件各貸付金を返済することとなったため、本件各貸付金の貸付期間は平成23年3月18日に終了した。
(7)  原処分庁は、本件各貸付金に係る利息(本件利息)の全額について、その履行期の到来する平成23年分の収入すべき金額であるとして、平成23年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件課税処分)を行った。
(8)  請求人は、適法な異議申立を経て、本件課税処分の取消しを求めて審査請求をした。

2. 本裁決の要旨
(1)  法令等解釈
 所得税法36条1項は、各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、その年において「収入すべき金額」とする旨規定し、「収入した金額」とは規定していないことからすると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、その権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用したものと解される。
 上記の収入の原因となる権利が確定する時期については、それぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきものであるところ、貸付金利息については、元本使用の対価であって、元本が返還されるまで日々発生するものであるから、特段の事情のない限り、現実の支払の有無を問わず、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定すると解するのが相当である。
 所得税基本通達36−8(7)(本件通達)は、事業所得である金銭の貸付けによる利息でその年に対応するものに係る収入金額の収入すべき時期については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)によるものとし、ただし、利息を天引きして貸し付けたものに係る利息以外の利息について、その者が継続して、その貸付けに係る契約の内容に応じ、所得税基本通達36−5(1)に掲げる日により収入金額に計上している場合には、その掲げる日によるものとする旨定めているところ、この定めは、一般の企業会計慣行に従い、原則的に、その年中の期間に対応する部分の利息の額をその年の収入として計上するという期間対応計算を採用したものであり、貸付金利息は、特段の事情のない限り、現実の支払の有無を問わず、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定するものと解するのが相当であるという上記アの解釈に沿うものであるから、当審判所においても本件通達に定める取扱いは相当と認められる。
 所得税基本通達36−14(2)は、公的年金等以外の雑所得の総収入金額の収入すべき時期については、その収入の態様に応じ、他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準じて判定した日によるものとする旨定めているところ、この定めは、収入の態様が種々である雑所得について、その収入の態様に応じて総収入金額の収入すべき時期を定めようとするものであり、合理的であるといえるから、当審判所においても当該通達に定める取扱いは相当と認められる。
(2)  認定事実
 請求人及びDは、平成7年11月1日、同日以降に貸し付ける金銭については貸付けの時から年●%、同年10月31日以前に貸し付けた金銭については同年11月1日から年●%の利息をそれぞれ付す旨、及び借入金の返済時に利息もまとめて精算する旨を合意した上、かかる合意の内容及び本件基本合意の内容を明らかにするため、本件確認書を作成した。
 請求人は、本件利息について、記帳等の経理処理を一切行っていない。
(3)  当てはめ
 本件利息に係る所得は、本件各貸付金が請求人の営む事業に係る活動とは関係なく、請求人とDとの親子関係に由来して個人的に貸し付けられたものと認められることから、事業所得には該当せず、また、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないことは明らかであるから、雑所得に該当する。
 公的年金等以外の雑所得の総収入金額の収入すべき時期については、その収入の態様に応じ、他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準じて判定した日によることが合理的であるところ、本件利息については、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定するものとはいえないような特段の事情は見当たらないから、本件利息の収入すべき時期は、事業所得である貸付金利息の収入すべき時期に係る取扱いを定めた本件通達により判断することが相当と認められる。
 そして、請求人は、本件利息について記帳等の経理処理を一切しておらず、請求人が継続して本件利息を収入金額に計上しているとは認められないから、本件通達のただし書の適用はなく、本件利息の収入すべき時期は、その年中の期間に対応する部分の利息については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)となり、したがって、本件利息に係る収入金額のうち、上記(2)アの利息に関する合意がなされた平成7年から平成22年までの各年中の期間に対応する部分の金額に係る収入すべき時期は、それぞれの年の末日であり、貸付期間の終了した平成23年の期間に対応する部分の金額に係る収入すべき時期は、貸付期間の終了した平成23年3月18日である。
(4)  原処分庁の主張について
 原処分庁は、利息債権については、その履行期が到来すれば、権利が確定し、所得税法36条1項に規定する「収入すべき金額」に当たり、本件通達における「その年に対応するもの」とは、同項の規定によりその年に権利が確定したものをいうとの解釈を前提として、本件利息については、その履行期である平成23年3月18日にその全額が確定したものであるから、本件通達により、同日が本件利息の全額の収入すべき時期となる旨主張するが、貸付金利息については、元本使用の対価であって、元本が返還されるまで日々発生するものであるから、特段の事情のない限り、現実の支払の有無を問わず、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定するものと解するのが相当であり、また、本件通達は、期間対応計算を採用したものであるから、「その年に対応するもの」との文言については、その年における利息の計算期間の経過に対応するものと解するのが相当であり、これらと異なる解釈に基づく原処分庁の主張を採用することはできない。
 原処分庁は、請求人とDは本件基本合意をした当時に、本件利息を年●%とする旨合意をしたと主張するが、請求人とDが本件基本合意をした当時に、本件利息を年●%とする旨合意したという事実を認めることはできず、上記(2)アのとおりの事実があったと認めるのが相当であり、原処分庁の主張を採用することはできない。
(5)  以上によれば、本件利息のうち、平成23年1月1日から同年3月18日までの期間(77日)に対応する部分の金額が同年において収入すべき金額となるから、同年分の雑所得の金額は本件各貸付金の合計額●円に年●%の利率を乗じ、更に同年中の貸付期間77日が占める割合を乗じて算出された●円に、当初申告分の●円を加えた●円となる結果、請求人の平成23年分の総所得金額及び納付すべき税額は本件更正処分に係る総所得金額及び納付すべき税額に満たないから、本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。
=一部取消=

3. 本裁決に対するコメント
(1)  所得税の課税時期については、「所得税法36条1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条2項は、同条1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定しているところからすれば、同項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するいわゆる権利確定主義を採用したものと解すべきであり、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである」(東京地裁平成24年7月24日判決・税務訴訟資料262号順号12010・LEX/DB25495335。最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決・裁判所HP・民集32巻1号43頁・判例時報881号97頁・判例タイムズ361号210頁・税務訴訟資料97号291頁・LEX/DB21061000参照。)と解されている。
(2)  課税実務上、事業所得に当たる貸付金利息の収入すべき時期については、貸付金利息で「その年に対応するものに係る収入金額については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日。)」とするが、「利息を天引きして貸し付けたものに係る利息」以外の利息について、その貸付契約の内容に応じて、継続して、支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日(請求があったときに支払うべきものとされているものについては、その請求の日)により収入金額に計上している場合には、これらの日とする旨の取扱いが示されており(所得税基本通達36―8(7))、そして、雑所得に当たる貸付金利息の収入すべき時期については、上記取扱いに準じて判定した日とする、とされている(同36―14(2))。
(3)  本件は、上記にいう「その年に対応するもの」の解釈が争われた事案であり、本裁決は、本件利息の権利確定時期はその履行期である旨の原処分庁の主張に対して、「貸付金利息については、元本使用の対価であって、元本が返還されるまで日々発生するものであるから、特段の事情のない限り、現実の支払の有無を問わず、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定するものと解するのが相当であり、また、本件通達は、期間対応計算を採用したものであるから、『その年に対応するもの』との文言については、その年における利息の計算期間の経過に対応するものと解するのが相当であ」ると判断している(前記2(4)ア)。
 この判断は、貸付金利息は、金銭使用の対価であり、民法88条2項に規定する法定果実に該当すると解され(大審院明治38年12月19日判決・大審院民事判決録11輯1790頁・LEX/DB27520908参照)、法定果実の帰属については、「天然果実とは異なり、分離という問題を生ずる余地はなく、使用許容期間中、刻々に生じつつあるものと認められる」から、民法89条2項は「法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。」と定めたものであり(林 良平・前田達明「新版 注釈民法(2) 総則(2)」651頁)、そして、本件通達は、「貸金業の利息収入についても、一般の企業会計の方法に従って期間計算することを明らかにしたものであるが、個人の場合は、既収、未収の利息の期間配分をして収入金額を計算することは必ずしも記帳能力からみて適当でない場合もあること」などから、その例外として、継続適用を条件として、ただし書きにおいて、支払日又は請求日によって計上することを認めたものである(森谷義光ほか編「所得税基本通達逐条解説」289頁参照)ことに照らし、相当なものと思われる。
(4)  本裁決は、本件通達にいう「その年に対応するもの」の意義を明らかにしたものとして、実務上参考となる。


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