情報提供 TKC税務研究所
税法話題の判例紹介 ◆ 平成29年1月・通巻第209号
請求人所有の自動車の差押えを行った国が差押登録を行っていない以上、同処分後に車両法所定の登録を行った請求人に対抗できないとして処分を取り消した事例

【文献番号】 26012610
【文献種別】 裁決/国税不服審判所
【裁決年月日】 平成24年7月3日
【裁決事項】
1. 代物弁済の予約の可否(積極)。
(要旨文献番号:66015216)
2. 代物弁済による対象物の所有権移転時期。
(要旨文献番号:66015217)
3. 自動車の所有権移転があったことを第三者に対抗するためには、その旨の登録をしなければならないか(積極)。
(要旨文献番号:66015218)
4. 滞納法人に所有権がない自動車を差し押さえたことに帰着するとして、差押処分が取り消された事例。
(要旨文献番号:66015219)
5. 自動車に係る差押処分後の登録をもって、処分庁に対して、自己に所有権があることを主張することができるとした事例。
(要旨文献番号:66015220)
【裁決結果】 取消
【掲載文献】 裁決事例集88集413頁
【参照法令】 国税徴収法47条
国税徴収法71条
民法482条



《本裁決の解説》
1. 事案の概要
(1)  審査請求人(請求人)は、F社(本件滞納法人)の代表者の実父Jと婚姻関係にある。
(2)  本件自動車は、道路運送車両法(車両法)22条に規定する、登録事項その他の自動車登録ファイルに記録されている事項を証明した書面である「登録事項等証明書(現在記録)」によれば、「自動車登録番号」欄に「○」、「初度登録年月」欄に「平成15年11月」、「車名」欄に「e自動車」及び「車台番号」欄に「●」として登録されている自動車である。
(3)  本件自動車については、平成20年3月1日に売主をL社、買主を本件滞納法人とする売買契約がされている。
 また、請求人が本件自動車の所有権を取得したと主張する平成21年8月31日までは、他に本件自動車の所有権を移転させる行為は認められない。
(4)  原処分庁は、平成23年3月15日付で、本件滞納法人の滞納国税を徴収するため、本件自動車に対する差押処分(本件差押処分)をした。
 本件自動車の差押えについては、国税徴収法71条1項で準用する同法68条3項の規定に基づく自動車登録ファイルへの登録はされていない。
(5)  本件自動車の平成23年3月16日付「登録事項等証明書(現在記録)」には、「所有者の氏名又は名称」欄に「K社」、「登録年月日/交付年月日」欄に「平成20年3月○日」と記載されている。
(6)  請求人は、@本件自動車は、平成20年2月29日に請求人が本件滞納法人に貸し付けた2,000万円で本件滞納法人が購入したものであり、当該貸金債権を弁済できなかった場合に備え、請求人と本件滞納法人との間で、本件自動車を担保とする合意がなされ、併せて、本件滞納法人が自由に処分できないようにするため、K社名義で登録がされていた、A請求人は、平成21年5月頃、本件滞納法人に当該貸金債権の弁済を求めたが返済されなかったため、3か月以内に完済しない場合には本件自動車等を引き上げる通告をし、同年8月31日、請求人と本件滞納法人との間で、担保権実行の合意がなされ、請求人は、本件自動車を自宅に引き上げて所有権を取得し、かつ、本件滞納法人は、本件自動車の名義をK社から請求人にすることを約束し、いつでも名義を請求人に変更できる状態になっていた、B平成24年4月27日、請求人は、自己の所有権に基づき本件自動車の登録名義をK社から請求人の名義に移転登録したものであり、したがって、本件自動車は差押時には請求人に所有権があり、その後に名義登録も得たのであるから、本件差押処分は差押対象財産の帰属判断を誤った違法な処分であるとして、平成23年7月7日、その取り消しを求めて審査請求をした。
(7)  本件自動車の平成24年5月18日付の「登録事項等証明書(保存記録)」によれば、「登録年月日/交付年月日」欄に「平成24年4月27日」と記載され、K社から請求人に本件自動車の名義の移転登録がされている。

2. 本裁決の要旨
(1)  法令解釈
 代物弁済の成立要件
  民法482条によれば、債務者が債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は弁済と同一の効力を有するとされ、その成立要件は、@債権が存在すること、A本来の給付と異なる他の給付をなすこと、B給付が履行(弁済)に代えてなされること、C債権者の承諾があることであり、このような代物弁済を将来において行う旨の契約をすること(代物弁済の予約)も可能と解される。
  また、代物弁済による対象物の所有権移転の効果は、原則として当事者間の代物弁済契約(代物弁済合意)の成立時に、その意思表示の効果として生じると解される。
 登録自動車の所有権の得喪の対抗要件
  車両法による登録を受けている自動車については、登録が所有権の得喪並びに抵当権の得喪及び変更の公示方法とされている(同法5条1項、自動車抵当法5条1項)ところ、不動産に関する物権変動については、不動産について法令に従った契約に基づき所有権移転がなされた場合においても、当該所有権移転があったことを当該契約当事者以外の第三者に対抗するためには、その旨の登記をしなければならないとされており(民法177条)、この理は、所有権の得喪について登録をもって対抗要件とする登録済みの自動車においても同様に解される。
(2)  本件自動車に係る代物弁済の予約の合意及び代物弁済の予約実行の合意(本合意)があったか否か。
 請求人は、平成20年2月29日、本件自動車の購入資金として本件滞納法人に2,000万円を貸し付け、その貸付金を担保するために、返済ができなかった場合には本件自動車をもって代物弁済を行う旨の予約を行い、以後全く弁済がされなかったことから、平成21年8月31日、本件滞納法人との間で本合意が行われ、その弁済の履行として本件自動車が請求人に引き渡され、さらには、平成24年4月27日に登録がされたとみるのが相当である。
(3)  請求人は本件自動車の所有権の取得を原処分庁に主張できるか否か。
 請求人は、平成24年4月26日まで、本件自動車について所有権の登録がなく、それまでは真実の所有権者とは異なるK社名義での所有権登録がされており、登録自動車に係る権利の得喪は登録をもって公示方法すなわち対抗要件となり、本件差押処分時に、請求人には登録がなかったのであるから、所有権を取得していたとしても、請求人は、登録を経るまでは、自己に所有権があることを差押債権者である原処分庁に主張できず、本件差押処分の取消しを求めることはできなかったが、請求人は審査請求中の平成24年4月27日、自己の所有権に基づき本件自動車の登録を行っている。
  他方、原処分庁は、本件自動車について差押えの登録を行っておらず、請求人が本件自動車の所有権の登録を行ったのは、本件差押処分後である平成24年4月27日であるが、請求人が本件自動車の所有権を得たのは平成21年8月31日であり、本件差押処分が行われた平成23年3月15日よりも以前であるから、請求人は差押処分に登録がないことを主張できない背信的悪意者には当たらないことになる。
  以上によれば、請求人は、平成24年4月27日に登録を行うことにより本件自動車の所有権を確定的に取得し、その反面で、本件滞納法人はその所有権を確定的に喪失したことになり、本件差押処分は本件滞納法人の財産でない財産を差し押さえたことに帰着するため、本件差押処分は違法な処分として取り消されるべきである。
 原処分庁は、本件差押処分が行われた時には、本件自動車の所有権は本件滞納法人にあったから、適法な処分である旨主張するが、本件審査請求をした後である平成24年4月27日、請求人は本件自動車の所有権の登録を行っており、当該登録により、原処分庁は本件滞納法人に所有権のない財産を差し押さえたことに帰着するので、違法な差押処分というべきであるから、主張は採用できない。
  また、原処分庁は、請求人による平成24年4月27日にされた所有権移転の登録は、本件差押処分がされた後にされたものであり、差押えによる処分禁止効に抵触する旨主張するが、そもそも、原処分庁は本件自動車の差押えの登録をしておらず、差押えの効力を請求人に及ぼすことはできないのであるから、主張は採用できない。
  =取消=

3. 本裁決に対するコメント
(1) 登録された自動車の得喪と対抗要件
 民法上、不動産の物権の得喪及び変更の公示方法は登記とされ、登記をしなければ第三者に得喪及び変更を対抗することができないとされている(177条)のに対し、動産の譲渡の公示方法は目的物の引渡しとされ、引渡しをもって第三者に譲渡を対抗することができるとされている(178条。「引渡し」とは、目的物の占有の移転をいい、現実の占有移転のほか、簡易の引渡し(182条2項)、占有の改定(183条)、指図による引渡し(184条)を含むと解されている。)(舟橋・徳本編「審判 注釈民法(6) 物権(1) 〔補訂版〕」770頁参照)が、車両法においては、「登録を受けた自動車の所有権の得喪は、登録を受けなければ、第三者に対抗することができない。」とされている(5条1項)から、登録された自動車を取得し、引渡を受けた者であっても、同法6条1項所定の登録(自動車登録ファイルへの登録)を受けない限り、その取得を第三者に主張できないことになる。
 したがって、本件差押処分時において、本件自動車の登録を行っていなかった請求人は、本件自動車の所有権が自己に帰属することを第三者である差押権者(国)に対して主張することができず、そのことを事由として、本件差押処分の取消しを求めることができなかったことになる。
(2) 登録された自動車の差押えと対抗要件
 民法177条は、不動産の物権変動の対抗要件につき、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定しており、「差押え」はここにいう「変更」に該当し、不動産の差押えを第三者に対抗するためには、差押えの登記がなされなければならないと解されているが(吉国・志場共編「平成27年改訂 国税徴収法精解」532頁参照)、これに対して、登録された自動車の物権変動の対抗要件について定める車両法5条の規定は、民法177条とは異なり、「登録を受けた自動車の所有権の得喪は、登録を受けなければ、第三者に対抗することができない。」というものであって、その文言上、「得喪」に限定されており、ここにいう「得喪」には、民法177条と同様、「差押え」が含まれないと解されることから、登録された自動車を差し押さえた者は、車両法6条1項所定の登録を得ることなく、差押えの効力を第三者に主張できるのではないか、との疑義を生ずることになる。
 上記の疑義については、車両法5条1項は、不動産と異なって多種多様な動産にあっては、その全てについて権利関係を公簿上で示すことは不可能であることから、民法177条と同様、物権取引の安全を図るために、動産の譲渡の対抗要件とされた「引渡し」原則につき、商品取引の発展に伴って生じることとなった不備ないし不都合を解決する方法として定められたものであり(前掲:舟橋・徳本768頁参照)、自動車抵当法においては、自動車の抵当権の得喪及び変更について、「道路運送車両法に規定する自動車登録ファイルに登録を受けなければ、第三者に対抗することができない。」と規定されている(5条1項)ことに加え、国税徴収法において、登録を受けた自動車の差押えについては、「税務署長は、不動産を差し押さえたときは、差押の登記を関係機関に嘱託しなければならない。」とする規定(68条3項)が、何ら変更を加えることなく、準用されている(71条2項)ことに鑑みれば、登録された自動車を差し押さえた者は、不動産の差押えにおけると同様、車両法6条1項所定の登録を受けない限り、差押えの効力を第三者に主張することができないと解するのが相当である。
  「請求人による平成24年4月27日にされた所有権移転の登録は、本件差押処分がされた後にされたものであり、差押えによる処分禁止効に抵触する。」との原処分庁の主張に対する、「そもそも、原処分庁は本件自動車の差押えの登録をしておらず、差押えの効力を請求人に及ぼすことはできないのであるから、主張は採用できない。」との本裁決の判断は、上記の解釈を前提としたものと理解される。
(3) 「第三者」と背信的悪意者
 民法178条にいう「第三者」とは、不動産物権変動における「第三者」と同じく、「引渡ノ欠缺ヲ主張スルニ付正当ノ利益ヲ有スル第三者」(大判大14.12.25)、あるいは「引渡ナカリシコトヲ主張スルニ付キ正当ナル法律上ノ利益関係ヲ有スル者」(大判大8.10.16)をいい、登記ないし登録の欠缺を主張することが自己の過去の行為に矛盾し、信義則に反することになる者や、不当・不正な意図や動機をもって権利を取得した者等のいわゆる「背信的悪意者」は「第三者」から排除されると解されている(前掲:舟橋・徳本177・686・779頁参照)。
(4) 本裁決について
 本裁決の認定事実によると、請求人は、平成21年8月31日、本件自動車の所有権を代物弁済によって取得し、本件差押処分に係る審査請求の係属中である平成24年4月27日に車両法6条1項所定の登録を得たということができ、また、請求人は背信的悪意者に当たらないと解されるから、請求人は、本件自動車が自己の所有物であることを、本件差押処分の取消事由として、差押権者(国)に対して主張できるということなり、したがって、本件差押処分を違法とした本裁決の判断は、正当なものということができる。
 賦課処分については、実質課税の原則があり、第三者対抗要件に関する規定の適用がないことから、例えば、Aが、Bに対して、所有する不動産を譲渡したが、対抗要件を具備していなかった場合、一方において、Aに対して譲渡所得の課税がなされ、他方において、譲渡された財産をAの財産として差し押さえることができるかという問題が生じることになる(浅田久治郎ほか共著「租税徴収実務講座―第2巻 一般徴収手続―」43頁参照)。
  本裁決は、物権変動における公示手続の重要性を指摘したものとして、実務上の参考となる。



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