情報提供 TKC税務研究所
税法話題の判例紹介 ◆ 平成29年3月・通巻第211号
死亡した税理士の関与先等を継承した税理士がその旨を記載した「個人事業の開廃業等届出書」等を提出していても、死亡した者に所得税法63条が適用されるとした事例

【文献番号】 26012701
【文献種別】 裁決/国税不服審判所
【裁決年月日】 平成25年7月5日
【裁決事項】
1. 従業員に対する退職金の支払債務が発生する場合。
(要旨文献番号:66015663)
2. 従業員に対する退職金の支払債務が確定していたとは認められないとした事例。
(要旨文献番号:66015664)
3. 税理士が関与先との間で締結した委任契約は、税理士の死亡により終了するか(積極)。
(要旨文献番号:66015665)
4. 税理士業務を行っていた税理士の死亡により、所得税法63条に規定する事業の「廃止」があったと認められるとした事例。
(要旨文献番号:66015666)
5. 税理士業務を行っていた税理士の死亡により、所得税法63条に規定する事業の「廃止」があったと認められるか否かは、「健康保険・厚生年金保険適用事業所名称変更(訂正)届(管轄内)」及び「個人事業の開廃業等届出書」の記載内容に左右されないとした事例。
(要旨文献番号:66015667)
【裁決結果】 一部認容
【掲載文献】 裁決事例集92集226頁
【参照法令】 所得税法27条1項、63条



《本裁決の解説》

1. 事案の概要
(1)  A及び関係者等の概要
 Aは、昭和37年に税理士登録をし、平成3年頃から、区分所有建物(本件建物)内にA税理士事務所(A事務所)を設けて税理士業を営んでいたが、平成21年4月に死亡した(本件相続)。共同相続人は妻H、子E及び同J(Eら)である。
  Aは、平成21年度固定資産税の賦課期日において、税理士業務の用に供していた本件建物の専有部分及びその敷地(A所有土地建物)の登記簿に所有者(土地の持分は13,223分の2,237)として登記されていた。
 K社は、昭和41年に設立され、平成3年頃から本件建物内に本店を置く、計理、一般事務代行業務等を目的とする会社であり、Aは、設立時から死亡するまで、代表取締役に就任していた。
 Eは、平成元年に税理士登録をし、Aの死亡当時、本件建物内に自らの税理士事務所(E事務所)を設けて税理士業を営んでいた。
(2)  Aの税理士業務に係る従業者等
 Aは、死亡当時、本件各従業者及びEとの間で雇用契約を締結し、Aの税理士業務(A税理士業務)に使用していた。
 K社は、Aの死亡当時、各従業員を雇用し、記帳代行業務(K社業務)を行わせていた。本件各従業者の多くは、K社の従業員でもあった。
 Aの死亡当時、A税理士業務に係る就業規則又は退職金規程は存在しなかったが、K社には就業規則及び退職金規程(K社退職金規程)があった。
  K社退職金規程によれば、退職金は、原則として、退職時の基本給与の金額に退職事由別に定められた勤続年数に対応する支給基準率を乗じる方法で算定される。
 A及びK社は、Aの死亡当時、それぞれの従業者等のうち、A税理士業務及びK社業務の両方に従事した者については、各業務に従事した事務量を基に各々の基本給与の金額を算出していた。
(3)  Aの相続
  Eは、本件相続に係る遺産分割協議により、A所有土地建物、A事務所の売掛金、仮払金などA税理士業務に係る事業用資産を取得するとともに、Aの借入金、A所有土地建物に係る平成21年度の固定資産税及び都市計画税(本件固定資産税等)、Aの平成20年分及び平成21年分の事業税などA税理士業務に係る債務を引受けた。
(4)  A死亡後のEの税理士業
 Eは、Aの死亡後、本件相続により取得又は引き受けた事業用資産及び債務を用い、本件各従業者を使用して税理士業務を行った。
 Eは、本件各従業者との間で雇用に係る明示の合意をしておらず、勤務条件もAの死亡の前後で変更しなかった。
 A税理士業務に係る関与先は、Aの死亡後、全てEがその関与税理士となった。
(5)  Aの死亡に伴う各種届出
 Eは、平成21年4月14日、日本税理士会連合会に対し、Aの死亡を理由としてAの「税理士登録まつ消届出書」を提出して税理士登録を抹消させるとともに、E事務所の所在地を「a市d町○−○ A税理士事務所内」から「a市d町○−○」に変更した旨記載した「変更登録申請書」を提出した。
 Eは、平成21年5月12日、M社会保険事務所長に対し、事業所名称を「N税理士事務所 A」から「N税理士事務所 E」に変更した旨記載した「健康保険・厚生年金保険適用事業所名称変更(訂正)届(管轄内)」に「前事業主の債権債務をすべて新事業主が引き継ぎ致します。」と記載した「債権債務引き継ぎ書」と題する書面を添付して提出した。
 Eは、平成21年8月7日、原処分庁に対し、廃業(事由)欄に「死亡」、事業の引継先の住所・氏名欄に「a市d町○−○」及び「E」と記載したAの「個人事業の開廃業等届出書」を提出した。
(6)  A本件未払退職金の計上等
 Eは、本件各従業者のうち、Aの死亡時点で、K社退職金規程により、退職金の支給に必要な勤続年数が満たない等の理由で退職金を支給しない者を除く21名(本件未払退職金対象者)分の退職金として15,346,100円(本件未払退職金)をA税理士業務に係る平成21年分の退職金勘定(相手勘定は「未払費用」)に計上した。
 Eは、本件各従業者に対し、Aの死亡を退職事由として発生、確定したとする退職金を支払っていない。
(7)  本件未払固定資産税等の計上
 a市長は、平成21年4月1日付で、A宛に、A所有土地建物に係る平成21年度固定資産税・都市計画税納税通知書を送付し、当該納税通知書は、Aの死亡後、E、H及びJ(Eら)に到達した。
 Eは、Aの死亡後、納税通知書に記載された本件固定資産税等の年税額を基に、平成21年1月1日からAが死亡した日までの経過月数に応じて按分した金額(本件未払固定資産税等)をA税理士業務に係る平成21年分の租税公課勘定(相手勘定は「未払費用」)に計上した。
(8)  本件未払事業税の計上
  Eは、Aの死亡後、県税事務所に照会するなどして、A税理士業務に係る平成20年分事業税及び平成21年分事業税の課税見込額(平成21年分事業税)(本件未払事業税)を、A税理士業務に係る平成21年分の租税公課勘定(相手勘定は「未払費用」)に計上した。
(9)  Aに係る平成21年分の所得税の確定申告
  Eらは、平成21年7月30日、本件未払退職金、本件未払固定資産税等及び本件未払事業税(本件未払事業税等)を必要経費に算入した、Aの平成21年分の所得税の確定申告書を提出した。
(10) 事業税に係る納税通知書
  県税事務所長は、平成21年8月15日付で、A宛に、平成20年分事業税の金額を○円とする「平成21年度個人事業税納税通知書」を送付し、同年10月15日付で、Aの相続人代表としてE宛に、平成21年分事業税の金額を○円とする「納税通知書兼領収証書」を送付した。
(11) 原処分庁は、本件未払退職金は支払債務が発生、確定しておらず、本件未払事業税等はAの死亡後に確定しているから必要経費に算入できないとして、Aの平成21年分所得税の更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税賦課決定処分(本件更正処分等)をした。
2. 本裁決の要旨
(1)  本件未払退職金の必要経費算入の可否
 使用者の従業員に対する退職金の支払債務は、雇用契約の終了、すなわち退職の事実が生じたことにより当然に発生するものでなく、就業規則、退職金規程等で退職金を支給すること及び支給基準が予め定められているか、少なくとも明確な条件に従って退職金が反復、継続的に支払われ労使慣行が成立したといえる場合に発生するものと解される。
 Aは、A事務所の退職者に対し、K社退職金規程の定めに従って退職金を反復、継続して支払っていたとはいえず、A事務所において、本件未払退職金の発生を根拠付ける労使慣行が成立していたとはいえないため、本件未払退職金の対象者に退職の事実があるか否かにかかわらず、Aの死亡により、本件未払退職金の支払債務が発生、確定していたとは認められない。
  したがって、本件未払退職金を必要経費に算入することはできない。
(2)  本件未払事業税等の必要経費算入の可否
 法令の解釈
 税理士が行う業務は、税理士と関与先との間の契約に基づいて行われるところ、この契約は、個々の税理士の専門知識、経験、技能等及びこれらに対する関与先との信頼関係を基礎とするものであり、当該専門知識、経験、技能等とこれらに対する関与先との信頼関係はいずれも事業主である税理士の個人的な信頼関係に基づく委任契約と解すべきであり、委任契約は受任者の死亡によって終了する(民法653条1号)ことから、税理士が関与先との間で締結した委任契約も税理士の死亡により終了すると解すべきである。
 また、所得税法63条の規定は、事業を廃止して事業所得が生じなくなると、事業廃止後に生ずる当該事業に係る費用又は損失を事業所得の金額の計算上控除する機会がなくなることを考慮して、上記費用又は損失につき、事業所得に係る総収入金額があった最後の年分あるいはその前年分の所得の金額の計算上必要経費に算入できるとしたものでり、同条に規定する事業を「廃止」した場合に当たるか否かは、社会通念に照らして客観的に判断すべきである。
 当てはめ
(ア) A税理士業務の基となる関与先との間の契約(本件契約)は、Aの専門知識、経験、技能等及びこれらに対する関与先との個人的な信頼関係を基礎とするものであるから、Aの死亡によりEに承継されることなく終了しており、また、Eは、同人の税理士業務についてAの関与先との委任契約を新たに締結し、Aの死亡によりその税理士登録が抹消され、Eの税理士名簿に登録された事務所の所在地が「A事務所内」を表記しないものに変更されたことが認められるから、Eが、Aの死亡後に、Aと同様に本件建物内において事業用資産及び債務並びに本件各従業者を用いて税理士業務を行っていたとしても、Eの税理士業務は、A税理士業務とは別個の業務であり、EがAの事業を承継し、Aと同一内容の事業を行っていたとは認められないという、Aの死亡後の法律関係及び事実関係を社会通念に照らして判断すれば、A税理士業務については、Aの死亡により、所得税法63条に規定する事業の「廃止」があったと認めるのが相当である。
 したがって、本件未払事業税等を必要経費に算入することができる。
(イ) 原処分庁は、事業主の死亡により事業経営者としての地位を承継した相続人が事業を廃止する場合には、相続人が直ちに事業継続の意思を放棄し、相当の期間内に事業の廃止に伴う業務を行う必要があり、本件においては、Eが、M社会保険事務所長に提出した「健康保険・厚生年金保険適用事業所名称変更(訂正)届(管轄内)」にAの債権債務を全てEが引き継ぐ旨記載され、原処分庁に提出した「個人事業の開廃業等届出書」にEを事業主としてA税理士業務を承継した旨記載されていることからすると、Eが事業継続の意思を放棄したということはできず、所得税法63条に規定する事業の「廃止」があったとはいえない旨主張するが、本件契約は、Aの専門知識、経験、技能等及びこれらに対する関与先との個人的な信頼関係を基礎とするものであるから、Aの死亡により、Eに承継されることなく終了するのであるから、相続人が事業承継の意思を放棄したか否か以前の問題として、Eが相続によりAの事業経営者としての地位を承継したとはいえないのであって、このことは「健康保険・厚生年金保険適用事業所名称変更(訂正)届(管轄内)」及び「個人事業の開廃業等届出書」の記載内容に左右されるものでもないため、主張には理由がない。
(3)  本件更正処分等の適否
 当審判所が、必要経費に算入できる本件未払事業税等の金額を認定し、事業所得の金額を計算すると、総所得金額が本件更正処分のそれを下回るため、本件更正処分等はその一部を取り消すべきである。
  =一部取消=

3. 本裁決に対するコメント
(1)   本件契約の法的性格
 税理士が、いわゆる関与先のために、税務代理、税務相談、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行等、税理士法に定める事務及びこれに付随する会計事務を行うことを内容とする契約は委任契約であると解されている(東京高裁昭和63年5月31日判決・判例時報1279号19頁・LEX/DB27801963。最高裁昭和58年9月20日判決・裁判所HP・LEX/DB21078632参照)。
 本裁決の認定事実においては、本件契約の具体的な内容は示されていないものの、その認定判断によると、本件契約はAの税理士業務の基となるものであった(前記1(2)ア、同(4)ウ、前記2(2)イ(ア))ということであるから、上記判決に照らし、本件契約は委任契約であったと解するのが相当である。
(2)  Aの死亡と本件契約の終了
 委任は、契約一般に共通の終了原因として、委任事務の終了、委任事務の履行不能、終期の到来、解除条件の成就等によって終了するほか、解約によっても終了する(民法651条1項)が、民法653条は、委任が個人的信頼関係を特に重視するものであることから、@委任者又は受任者の死亡、A委任者又は受任者の破産、B受任者の後見開始によって終了する旨規定している(幾代・広中「審判注釈民法(16) 債権(7)」293頁参照)から、本件にあっても、受任者であったAの死亡によって本件契約は終了した、ということになる。
(3)  Aの死亡と所得税法63条に規定する事業の「廃止」
 上記(2)のとおり、Aの死亡により本件契約は終了したものであるから、Aが営んでいた税理士業務(A税理士業務)は終了し、所得税法63条に規定する事業の「廃止」という事実が生じたと解されることになる。
 原処分庁は、Aの「個人事業の開廃業等届出書」又は「健康保険・厚生年金保険適用事業所名称変更(訂正)届(管轄内)」の提出及び記載を主張の根拠としているが、前者には、廃業(事由)欄に「死亡」、事業の引継先の住所・氏名欄に「E」と記載され(前記1(5)ウ)、後者には、事業所名を「N税理士事務所 A」から「N税理士事務所 E」に変更した旨が記載され、「前事業主の債権債務をすべ新事業主が引き継ぎ致します。」との書面が添付されている(前記1(5)イ)から、A税理士業務の事業主であったAが死亡し、A税理士業務が廃業となったことの届出、あるいは、事業主がAからEに変更になったことの届出であることは明らかであって、いずれも、主張の根拠となり得ないものであり、原処分庁の主張は、原処分庁のいう「事業経営者としての地位の承継」ないし「事業継続」後の事業は死亡したAの事業でなく、Eの事業であることを看過しているものであって、失当というほかない。
(4)  本裁決について
 税理士業務を行っていた税理士が死亡し、関与先を含めた業務を他の税理士が引き継いだ場合における所得税法63条の適用関係について判断を示した事例として、実務上の参考となる。



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