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《書 誌》
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【文献番号】 26012663
【文献種別】 裁決/国税不服審判所
【裁決年月日】 平成25年 1月 8日
【裁決事項】 1. 相続税法32条3号に該当する場合は、遺留分減殺請求訴訟の判決確定又は確定判決と同一の効力を有する訴訟上の和解等に限られるか(消極)。
(要旨文献番号:66015406)
  2. 相続税法32条3号は、遺留分減殺請求に基づいて返還すべき又は弁償すべき額が確定した都度、更正の請求がされることを認容するものか(積極)。
(要旨文献番号:66015407)
  3. 遺産全部を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言の法的性質。
(要旨文献番号:66015408)
  4. 遺言により相続分の指定が遺留分を侵害する場合、民法1031条及び同法1040条が適用されることとなるか(積極)。
(要旨文献番号:66015409)
  5. 民法1040条の規定の趣旨。
(要旨文献番号:66015410)
  6. 民法1040条1項本文の規定は、遺留分権利者が目的物の占有や登記を回復することができた場合、これに加えて価額弁償の請求をも認めるものか(消極)。
(要旨文献番号:66015411)
  7. 全財産を請求人に「相続させる」旨の遺言は、相続分とともに遺産分割の方法を指定したものと認められるとした事例。
(要旨文献番号:66015412)
  8. 請求人が相続した土地相当額の弁償を求める遺留分減殺請求訴訟とは別訴である、同土地の移転登記訴訟において請求を認諾する前に、返還すべき又は弁償すべき額が確定したとは認められないとした事例。
(要旨文献番号:66015413)
  9. 相続税法32条3号に基づく更正の請求には理由があるとした事例。
(要旨文献番号:66015414)
【裁決結果】 認容
【掲載文献】 裁決事例集90集246頁
【参照法令】 相続税法32条
【全文容量】 約17Kバイト(A4印刷:約10枚)




 《全 文》

【文献番号】26012663  

平成25年1月8日裁決
《裁決書(抄)》


1 事実
(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が遺留分減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したから相続税法第32条《更正の請求の特則》の規定に該当するとして行った更正の請求について、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成18年10月16日、同年1月○日に死亡したD(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表の「期限内申告」欄のとおり、期限内申告をした。
ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成20年11月11日、別表の「修正申告」欄のとおり、修正申告をした。
ハ 請求人は、平成23年4月1日、別表の「更正の請求」欄のとおり、更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ニ これに対し、原処分庁は、平成23年8月15日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件通知処分に不服があるとして、平成23年10月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月22日付で棄却の異議決定をし、その異議決定書謄本は、同月27日に請求人に対し送達された。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして、平成24年1月24日に審査請求をした。
(3)関係法令の要旨
イ 相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)第32条柱書きは、相続税について申告書を提出した者等は、当該申告等に係る課税価格及び相続税額が同条各号に掲げる事由のいずれかに該当することによって過大となったときは、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき国税通則法第23条《更正の請求》第1項の規定による更正の請求をすることができる旨を規定している。
 そして、相続税法第32条第1号は、同法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分等の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人等が当該分割により取得した財産に係る課税価格が、当該相続分等の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことを、同条第3号は、遺留分減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したことを、同条第5号は、前各号に規定する事由に準ずるものとして政令で定める事由が生じたことを、それぞれ、上記更正の請求をすることができる事由として規定している。
ロ 相続税法施行令(平成18年政令第126号による改正前のもの)第8条《更正の請求の対象となる事由》第1号は、相続税法第32条第5号に規定する政令で定める事由として、相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったことを規定している。
ハ 民法第902条《遺言による相続分の指定》第1項は、被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を定めることができるものの、遺留分に関する規定に違反することはできない旨規定している。
ニ 民法第908条《遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止》は、被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定めることができる旨規定している。
ホ 民法第1028条《遺留分の帰属及びその割合》は、兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、〔1〕直系尊属のみが相続人である場合は被相続人の財産の3分の1に相当する額を、〔2〕上記〔1〕以外の場合は被相続人の財産の2分の1に相当する額を受ける旨規定している。
ヘ 民法第1029条《遺留分の算定》第1項は、遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する旨規定している。
ト 民法第1031条《遺贈又は贈与の減殺請求》は、遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈の減殺を請求することができる旨規定している。
チ 民法第1040条《受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等》第1項本文は、減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない旨規定し、同条第2項は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について同条第1項の規定を準用する旨規定している。
リ 民法第1041条《遺留分権利者に対する価額による弁償》第1項は、受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる旨規定している。
(4)基礎事実
イ 本件被相続人は、平成18年1月○日に死亡し、本件相続が開始した。
 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長女である請求人、同二女であるE、同三女であるF、同四女であるG及び同五女であるHの5名である。
ロ 本件被相続人は、平成16年4月1日付で、本件被相続人の財産全てを請求人に相続させる旨の遺言(以下「本件遺言」といい、本件遺言に係る遺言書を「本件遺言書」という。)をし、本件遺言書は、平成18年8月○日、J家庭裁判所において検認された。
ハ 本件被相続人が所有していたa県b市d町○-○、同番○及び同番○並びに○番○ないし○の土地(以下「本件土地」という。)については、平成18年8月○日受付で、本件相続を原因として、本件被相続人から請求人への所有権移転登記が経由された。
ニ 請求人は、平成18年9月28日付で、K社(同19年4月○日商号変更後はL社。以下「K社」という。)との間で、請求人が本件土地を1,260,000,000円でK社に売り渡し、K社がこれを買受ける旨の不動産売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
 本件土地については、平成18年9月28日受付で、本件売買契約を原因として、請求人からK社への所有権移転登記が経由された。
ホ E及びG(以下、両名を「Eら」という。)は、平成19年2月13日付の内容証明郵便で、請求人に対して、本件遺言によりEらの遺留分が侵害されたとする遺留分減殺請求をし、また、同20年9月○日付で、請求人を被告として、J地方裁判所に対して、遺留分減殺請求訴訟(同○年(○)第○号。以下「本件遺留分減殺請求訴訟」という。)を提起した。
ヘ Eらは、平成21年8月○日付で、K社を被告として、J地方裁判所に対して、本件土地の真正な登記名義の回復を原因としてEらに各共有持分10分の1ずつの所有権移転登記手続をすることを求める共有持分移転登記請求訴訟(同○年(○)第○号。以下「本件移転登記請求訴訟」という。)を提起し、請求人は、Eら原告側に補助参加をした。
 K社は、平成22年12月○日に行われた本件移転登記請求訴訟の第10回口頭弁論期日において、請求を認諾(以下「本件認諾」という。)し、本件認諾は調書に記載された。

2 争点
 本件更正の請求は、相続税法第32条第3号又は第5号に規定する事由に該当する適法なものか否か。


3 主張
請求人
 以下のとおり、本件更正の請求は、相続税法第32条第3号及び第5号に規定された事由に該当するから、本件通知処分は違法である。
(1)相続税法第32条第3号事由について
 本件認諾は、確定判決と同一の効力を有するものであるところ、本件認諾により、価額弁償請求権を基礎づけるEらの「所有権(共有持分権)不存在の事実」が遮断される結果、Eらは、本件土地に関する遺留分割合に相当する持分を取得したことが確定したことになる。
 したがって、本件認諾は、相続税法第32条第3号に規定する事由に該当する。
 そして、請求人は、本件認諾の日である平成22年12月○日に相続税法第32条第3号事由に該当する事実を知ったものであるから、同日から4月以内にした本件更正の請求は適法なものである。
(2)相続税法第32条第5号事由について
 本件認諾がされたことで、請求人が相続した財産のうち、本件土地の共有持分10分の1ずつが、遺留分減殺を原因としてEらに帰属することが確定したものであり、上訴が認められず、判決確定と同一の効力が生じることから、相続税法第32条第5号が委任する相続税法施行令第8条第1号に該当する。
原処分庁
 以下のとおり、本件更正の請求は、相続税法第32条第3号及び第5号に規定された事由には該当しないから、本件通知処分は適法である。
(1)相続税法第32条第3号事由について
 本件認諾の既判力は、主文に包含される所有権移転登記手続の可否に関する判断の結論についてのみ生じるのであり、遺留分減殺請求を原因とするか否かの判断についてまで及ぶものではない。
 また、本件更正の請求の時点では、Eらは本件土地に関する価額弁償請求を含めた本件遺留分減殺請求訴訟を係争中であったことから、本件土地に関して遺留分減殺請求における確定的な判断がされたものとは認められない。
 以上のことから、本件認諾は、相続税法第32条第3号事由には該当しない。
(2)相続税法第32条第5号事由について
 相続税法第32条第5号が委任する相続税法施行令第8条第1号は「相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと」と規定しており、国税通則法第23条第2項第1号のように、判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む旨の規定もないことからすると、相続税法施行令第8条第1号の「判決」には訴訟上の和解等を含むと解することはできない。


4 判断
(1)法令解釈
イ 相続税法第32条第3号について
 相続税法第32条は、国税通則法に定める更正の請求の事由に該当しない場合において、相続税又は贈与税に固有の事由が発生した場合に、税負担の公平の観点から更正の請求を認めるものであり、同条第3号は、遺留分減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したことを理由として更正の請求を認めるものであるところ、その趣旨及び同号の文言に照らせば、同号に該当する場合とは、遺留分減殺請求訴訟についての判決が確定した場合や、遺留分減殺請求訴訟についての訴訟上の和解等が調書に記載されて確定判決と同一の効力を有することとなった場合に限られるものではないと解される。
 そして、〔1〕受贈者又は受遺者は、民法第1041条第1項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産につき価格弁償をしてその返還義務を免れることができると解されること(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1886頁)、〔2〕相続税法第32条第1号が各個の財産について分割が行われ得る未分割遺産の分割が行われたことを更正の請求の事由として規定していることに照らすと、同条第3号は、遺留分減殺請求に基づき、各個の財産について返還すべき又は弁償すべき額が確定したその都度、更正の請求がされることを認容するものであると解される。
ロ 遺産全部を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言の法的性質について
 被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言書において遺産全部を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、遺言者の意思は、遺産全部を当該相続人に単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではなく、上記「相続させる」旨の遺言は、民法第908条に規定する遺産の分割の方法とともに同法第902条第1項に規定する相続分を指定した遺言であると解するのが相当である。
ハ 遺留分減殺請求に関する規定について
(イ)遺言により法定相続分と異なる割合で相続分の指定がされ(民法第902条第1項本文)、当該相続分の指定が遺留分を侵害するものであった場合、同項ただし書が遺留分に関する規定に違反する相続分の指定を禁じていることに照らすと、遺留分減殺請求権者の遺留分減殺請求権の行使が妨げられるものではないと解され、当該遺言について、遺留分減殺請求に関する規定である同法第1031条及び同法第1040条が適用されることとなると解するのが相当である。
(ロ)ところで、遺留分減殺請求は、遺留分の保全に必要な限度で減殺の対象である処分を失効させるものと解されるところ(最高裁昭和41年7月14日第一小法廷判決・民集20巻6号1183頁)、このような減殺請求の効果により、遺留分減殺請求権者(遺留分権利者及びその承継人)は、目的物の所有権を取り戻し、減殺を受けるべき者に占有や登記の回復を求めることが可能となる。しかしながら、減殺を受けるべき者が減殺請求の前に目的物を第三者に譲渡し又は目的物に権利を設定してしまっていた場合には、遺留分減殺請求権者による目的物の返還請求を認めると当該第三者に不測の損害を生ずるおそれがあることから、民法第1040条は、当該第三者に対する追及効を原則として遮断し、それによって目的物の回復が不能となった場合に、減殺を受けるべき者は遺留分権利者に価額の弁償をしなければならないこととしたものと解される。
 この趣旨に照らせば、民法第1040条第1項本文の規定は、遺留分権利者が、遺留分減殺請求によって目的物を取り戻して占有や登記を回復することができた場合に、これに加えて価額弁償の請求をも認めるものと解することはできないというべきである。
(2)認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件売買契約の解除について
 請求人及びK社は、請求人が本件土地に係る相続について係争中であることを理由として、平成19年9月28日付で,〔1〕同年6月末日をもって本件売買契約を解除し、〔2〕請求人がK社に対して賠償金を支払うこと等を合意し、その旨の合意書を作成した。
 なお、当該合意においては、上記〔2〕の賠償金支払債務その他の当該合意書に定める請求人の債務の履行の担保として、本件土地に譲渡担保を設定することとされ、本件売買契約の解除に伴うK社から請求人に対する所有権移転登記は留保することとされた。 
ロ 本件遺留分減殺請求訴訟の経過等について
(イ)本件遺留分減殺請求訴訟において、Eらは、請求人に対し、当初、本件土地とは別の不動産について、平成19年2月13日遺留分減殺を原因とするEら各共有持分10分の1ずつの各所有権移転登記手続を求める旨の請求をしていたが、平成21年4月6日付書面により、本件土地について、遺留分相当額(各10分の1)の価額弁償を求める請求を追加し、同月23日付書面により、当該価額弁償を求める額を各155,642,300円と拡張した。
(ロ)他方、請求人は、当初、価額弁償の抗弁を主張していたが、平成21年9月14日付書面により、上記価額弁償の抗弁を撤回するとともに、Eらには特別受益があるとして本件遺言による遺留分侵害割合を争い、Eらが主張するように各10分の1ではなく、Eについては333,550,687分の33,736,677(約10.11%)、Gについては1,000,652,061分の89,761,781(約8.97%)である旨主張した。
(ハ)請求人は、平成22年11月25日に行われた本件遺留分減殺請求訴訟の第16回弁論準備手続期日において、上記(ロ)のEらの特別受益についての主張を撤回し、Eらが各10分の1の遺留分を持つことを認めた。
ハ 本件移転登記請求訴訟の経過等について
(イ)Eらは、平成22年12月○日に行われた本件移転登記請求訴訟の第10回口頭弁論期日において、本件土地に関する請求の趣旨は、「K社は、Eらに対し、本件土地につき、真正な登記名義の回復を原因とするEら各共有持分10分の1ずつの所有権一部移転登記手続をせよ。」である旨陳述した。
 また、Eらは、上記期日において、上記の本件土地に関する請求は、請求人とK社との間の本件売買契約が解除され、請求人に遡及的に所有権が復帰した本件土地について、Eらの遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めるという本来のプロセスを、真正な登記名義の回復を原因とするという形で登記するものである旨陳述した。
(ロ)請求人は、Eらの上記(イ)の各陳述について、異議を述べなかった。
(ハ)本件移転登記請求訴訟は、K社が本件認諾をしたことによって、平成22年12月○日に終了した。
(3)当てはめ
イ 本件遺言は、本件被相続人の全財産を請求人に「相続させる」旨の遺言である(上記1の(4)のロ)ところ、本件遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるとはいえず、遺贈と解すべき特段の事情の存在も認められないから、相続分とともに遺産分割の方法を指定したものと認められる。
 そして、上記(1)のハの(イ)のとおり、このような相続分の指定がされた遺言についても、遺留分減殺請求に関する民法第1031条及び同法第1040条が適用されることとなる。
ロ 上記(2)のロの(イ)及び同ハの(イ)のとおり、Eらは、本件土地について、本件遺留分減殺請求訴訟において請求人に対する価額弁償の請求をしながら、同時に、本件移転登記請求訴訟においてK社に対する現物返還の請求として所有権一部移転登記手続の請求をしていたものであるところ、本件遺留分減殺請求訴訟については、平成22年11月25日に請求人がEらの遺留分割合を認める(上記(2)のロの(ハ))まで、請求人はEらが主張する遺留分割合を争い、また、本件移転登記請求訴訟については、平成22年12月○日に本件認諾がされる(上記(2)のハの(ハ))まで、K社はEらの請求を争っていたものである。
 したがって、本件認諾がされる前、本件土地について遺留分減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したとは認められない(この点については、請求人及び原処分庁の間に争いがない。)。
ハ ところで、〔1〕本件認諾は、K社が、本件土地に設定されていたK社の譲渡担保権に基づく所有権移転登記について、Eら各共有持分10分の1の所有権移転登記手続をすることを認めたものであり、また、〔2〕本件認諾の前に、請求人がEらの遺留分割合が各10分の1であると認めていたことからすると、Eらは、本件認諾により、本件土地の遺留分に係る各共有持分の登記を回復することができたものと認められる。
 そして、上記(1)のハの(ロ)のとおり、民法第1040条第1項本文の規定は、遺留分権利者が、遺留分減殺請求によって目的物を取り戻して占有や登記を回復することができた場合に、これに加えて価額弁償の請求も認めるものではないから、Eらは、本件認諾の後、本件遺留分減殺請求訴訟において本件土地に係る価額弁償を請求することはできず、本件土地について遺留分減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が変動することはない。
ニ そうすると、本件認諾の日に、遺留分減殺請求権者であるEらは、本件土地について遺留分に相当する共有持分権を取り戻すことが確定し、これにより、請求人が遺留分減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したというべきである。
ホ したがって、本件更正の請求は、相続税法第32条第3号に規定する事由に該当し、本件更正の請求には理由がある。
(4)原処分庁の主張について
 原処分庁は、〔1〕本件認諾の既判力は、主文に包含される所有権移転登記手続の可否についてのみ生じ、遺留分減殺請求を原因とするか否かの判断についてまで及ぶものではないこと、〔2〕本件更正の請求の時点では本件遺留分減殺請求訴訟が係属中であり、本件土地に関して遺留分減殺請求における確定的な判断がされたとは認められないことを理由として、本件更正の請求は、相続税法第32条第3号に規定する事由に該当しない旨主張する。
 しかしながら、相続税法第32条第3号に該当するか否かの判断は、遺留分減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したと評価し得る事実が認められるか否かによるべきものであって、上記(1)のイのとおり、遺留分減殺請求訴訟についての判決が確定した場合や、遺留分減殺請求訴訟についての訴訟上の和解等が調書に記載されて確定判決と同一の効力を有することとなった場合に限られるものではないから、〔1〕本件認諾に係る既判力の客観的範囲を根拠として同号該当性を判断することはできないというべきであるし、〔2〕本件においては、本件認諾の日に本件遺留分減殺請求訴訟が終了していなかったことは、同号該当性の判断の結論に影響を及ぼすものではない。
 したがって、原処分庁の主張は、採用することができない。
(5)本件通知処分について
 上記(3)のとおり、本件更正の請求には理由があり、また、本件更正の請求は、本件認諾の日であり請求人が相続税法第32条第3号に規定する事由に該当することを知ったとする日である平成22年12月○日の翌日から4月以内の同23年4月1日にされた適法なものである。
 そして、本件更正の請求の理由に基づき本件相続に係る請求人の相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、本件更正の請求における各金額と同額となるから、その他の主張について判断するまでもなく、本件通知処分は、その全部が取り消されるべきである。

別表 審査請求に至る経緯(省略)


 

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