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《書 誌》
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【文献番号】 26012366
【文献種別】 裁決/国税不服審判所
【裁決年月日】 平成22年 3月12日
【裁決事項】 1. 法人税法施行令96条1項3号にいう「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」の意義。
(要旨文献番号:66014072)
  2. 貸出債権のうち担保権により担保されている部分の金額は、担保物件の売却価額から競売手続費用相当額を控除した残額とみるのが相当であるとした事例。
(要旨文献番号:66014073)
  3. 貸出債権のうち担保権により担保されている部分の金額は、各担保物件の売却価額からそれぞれの競売予納金の額を控除した残額とみるのが相当であるとした事例。
(要旨文献番号:66014074)
  4. ある物件の競売予納金の額を他の物件の評価額から控除することはできないとした事例。
(要旨文献番号:66014075)
【裁決結果】 一部取消
【掲載文献】 裁決事例集79集408頁
【参照法令】 法人税法52条
法人税法施行令96条
法人税基本通達11-2-5
【全文容量】 約14Kバイト(A4印刷:約8枚)




 《全 文》

【文献番号】26012366  

平22.3.12裁決
《裁決書(抄)》


1 事実
(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額の計算において、担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額について、担保物件の評価額から競売の手続の予納金(以下「競売予納金」という。)を控除して計算したところ、原処分庁が、競売予納金の控除は認められないとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、その認定に違法があるとして同処分等の一部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までに提出した。
ロ これに対し、A税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成21年2月27日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件事業年度の法人税について更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成21年4月24日に審査請求をした。
ニ その後、A税務署長は、調査担当職員の調査に基づき、平成21年6月30日付で、本件事業年度の法人税について、別表1の「再更正処分等」欄のとおり減額更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分をした(以下、当該減額更正処分後の更正処分及び変更決定処分後の過少申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。
(3)関係法令等
イ 法人税法第52条《貸倒引当金》第1項は、内国法人が、会社更生法の規定による更生計画認可の決定に基づいてその有する金銭債権の弁済を猶予され、又は賦払により弁済される場合その他の政令で定める場合において、その一部につき貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれる金銭債権(以下「個別評価金銭債権」という。)のその損失の見込額として、各事業年度において損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、当該繰り入れた金額のうち、当該事業年度終了の時において当該個別評価金銭債権の取立て又は弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額(以下「個別貸倒引当金繰入限度額」という。)に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。
ロ 法人税法施行令第96条《貸倒引当金勘定への繰入限度額》第1項第3号は、当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき破産法の規定による破産手続開始の申立てが生じている場合の貸倒引当金繰入限度額は、当該個別評価金銭債権の額(当該個別評価金銭債権の額のうち、当該債務者から受入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)の100分の50に相当する金額とする旨規定している。
ハ 法人税基本通達11-2-5《担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額》は、法人税法施行令第96条第1項第3号《貸倒引当金勘定への繰入限度額》に規定する担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額とは、質権、抵当権、所有権留保、信用保険等によって担保されている部分の金額をいう旨定めている。
ニ 民事執行法第14条《費用の予納等》第1項は、執行裁判所に対し民事執行の申立てをするときは、申立人は、民事執行の手続に必要な費用として裁判所書記官の定める金額を予納しなければならず、予納した費用が不足する場合において、裁判所書記官が相当の期間を定めてその不足する費用の予納を命じたときも、同様とする旨規定している。
ホ 民事執行法第42条《執行費用の負担》第1項は、強制執行の費用で必要なものは、債務者の負担とする旨規定しており、また、同法第194条《担保権の実行についての強制執行の総則規定の準用》は、第42条の規定は、担保権の実行としての競売について準用する旨規定している。
(4)基礎事実
 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、融資先であるB社が破産法に基づく破産手続開始の申立てを行ったことから、同社に対する債権を回収するため、次表のとおり、担保不動産について競売の申立てをし、競売予納金合計3,696,560円を支払った。
図表1
ロ 請求人は、融資先であるF(以下、B社と併せて「本件各貸出先」という。)が破産法に基づく破産手続開始の申立てを行ったことから、同人に対する債権を回収するため、次表のとおり、担保不動産について競売の申立てをし、競売予納金1,132,900円を支払った。
図表2
ハ E地方裁判所が作成した開札結果一覧及びD地方裁判所が作成した開札結果一覧によれば、q物件及びs物件については、次表のとおり、本件事業年度に競落されている。
担保不動産 q物件         s物件
競落日   平成20年○月○日   平成20年○月○日
売却価格  23,510,000円 27,899,900円
ニ E地方裁判所が作成したq物件の配当表及び保管金振込通知書、並びにD地方裁判所が作成したs物件の配当表及び保管金振込通知書によれば、q物件及びs物件については、本件事業年度の翌事業年度に配当され、次表のとおり、担保不動産の売却代金は、最初に競売予納金を支払った申立債権者へ手続費用相当額が償還された後、請求人の根抵当権への配当がなされ、その後に競売予納金と手続費用との差額が請求人に還付されている。
図表3
ホ 請求人は、p物件については、D地方裁判所に競売の申立てをしていたが、本件事業年度末である平成20年3月31日に任意売却した。
ヘ 請求人は、r物件については、E地方裁判所に競売の申立てをしていたが,先順位の根抵当権があったことから、本件事業年度末における評価額を零とした。
ト 請求人は、本件各貸出先に対する貸出金(以下「本件各貸出金」という。)について、法人税法施行令第96条第1項第3号により、個別貸倒引当金繰入限度額を計算し、算出した金額を本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入した(内訳は別表2の「確定申告」欄のとおりである。なお、請求人が取立て等の見込額から控除したB社分の競売予納金3,416,560円とF分の競売予納金1,132,000円を併せて、以下「本件各競売予納金」という。)。 
チ 原処分庁は、請求人が行った本件各貸出先に対する個別貸倒引当金繰入限度額の計算において、担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額に誤りがあるとして、〔1〕q物件の評価額を12,680,000円から競落価額である23,510,000円に評価替えするとともに、〔2〕各担保物件の評価額から本件各競売予納金を控除することはできないとして当該繰入限度額を再計算し、新たに算出された貸倒引当金繰入限度超過額を本件事業年度の所得金額に加算した(内訳は別表2の「更正処分」欄のとおりである。)。
リ 請求人は、本件各競売予納金の額を、裁判所に支払った時点で仮払金として処理し、償還等が行われた時点で仮払金を取り崩すという経理処理を行っている。
2 争点
 本件の争点は、個別貸倒引当金繰入限度額の計算において、担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる金額の計算上、担保物件の評価額から本件各競売予納金の額を控除することができるか否かである。

3 主張
原処分庁
 以下の理由により、請求人は個別貸倒引当金繰入限度額の計算において、担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額の計算上、担保物件の評価額から本件各競売予納金の額を控除することはできない。
(1)法人税法施行令第96条第1項第3号に規定する「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」とは、貸金等の額のうち、質権等の目的となっている物又は権利(担保物)の処分見込額に相当する金額をいうものであり、競売予納金を控除することとしていない。
 同号は、旧法人税基本通達9-6-5の取扱いが政令化されたものであるが、同通達では、競売費用を見積もり、担保物の処分見込額から控除することとはしていなかった。
 企業会計においても、破産更生債権等の貸倒見積高の算定に当たっては、担保の処分見込額を控除することとしており、担保の処分見込額の算定において競売費用を見積もって控除する仕組みとはなっていない。
(2)本件各競売予納金は、裁判所が競売手続上の個別的な費用を支出する前に、競売申立人がそれに充てるべきものとしてその概算額をあらかじめ提供する金員であって、そのすべてが手続費用に充てられるとは限らず、また、その金額は裁判所ごとにあらかじめ定められた一定の額であることから、一般に実際の手続費用の金額に相当するものともいえない。
(3)本件各競売予納金は、本件事業年度終了の時において、各担保不動産の開札結果が明らかとなっていることから、そのうち一定の金額は手続費用に充てられていることはうかがえるものの、その金額は明らかではなく全額が手続費用に相当する額ともいえないのであるから、担保権の実行により取立ての見込みがあると認められる部分の金額の計算上、本件各競売予納金を手続費用相当額として各担保不動産の評価額から控除すべきではない。
請求人
 以下の理由により、請求人が個別貸倒引当金繰入限度額の計算において、担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額の計算上、担保物件の評価額から本件各競売予納金の額を控除したことは適法である。
(1)法人税法施行令第96条第1項第3号に規定する「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」とは、担保権の実行による取立て見込額、すなわち回収可能額をいうから、競売予納金の額を控除すべきである。
 旧法人税基本通達の規定がそのままの文言で法制化されたわけではなく、また、同通達は法制化により廃止されたのであるから、法制化後の法律の解釈は、法律の文言によって解釈すべきである。
 企業会計基準(金融商品に関する会計基準及び同実務指針)等においては、担保物の処分見込額は合理的に算定した時価を原則としているのであり、税法の解釈には影響しない。
(2)本件各競売予納金は、法律により競売手続等の費用に充てるため裁判所に支払うものであり、裁判所も過去の実績などから予納額を定めていると思われるところ、担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額の計算上、手続費用等の見込額を控除したとしても、そのことが計算の合理性を欠いたものとはいえない。
(3)手続費用等の額が確定したものではないから本件各競売予納金の額の控除を認めないとする原処分庁の主張は、見込み計算を基本とする貸倒引当金そのものの否定にもつながりかねない。手続費用の額が確定するのは、競売手続がすべて終了し、競売配当が確定する時であり、貸倒引当金ではなく貸倒損失が確定する時である。したがって、原処分庁の主張は貸倒損失の計上の場合には妥当するも、貸倒引当金の計上の場合には妥当しないといわざるを得ない。

4 判断
 個別貸倒引当金繰入限度額の計算において、担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額の計算上、担保不動産の評価額から本件各競売予納金の額を控除することができるか否か争いがあるので、判断する。
(1)認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 競売予納金の額は、競売手続を進めるために必要な差押えの登記の嘱託に基づく登録免許税、債権者に対する債権届出の催告に要する費用、現況調査に要する費用、評価に要する費用等から構成されており、これらの費用等を基礎として、各執行裁判所によって合理的に定められたものである。
ロ q物件及びs物件の配当表によれば、上記1の(4)のニのとおり、競売に係る手続費用相当額は、担保不動産の売却代金から他の債権に優先して競売予納金を納付した請求人に償還されているが、E地方裁判所及びD地方裁判所から請求人に競売予納金と手続費用との差額が還付されていることからすれば、請求人に償還された手続費用相当額は、各裁判所から競売予納金(競売予納金と手続費用との差額部分を除く。)の返還を受けたものである。
(2)法令解釈
イ 法人税法施行令第96条第1項第3号は、貸倒引当金の対象となる金額は、事業年度終了の時において、個別評価金銭債権の額から「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」を除いたものであると規定し、「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」とは、質権、抵当権、所有権留保、信用保険等によって担保されている部分の金額をいうと解される。
ロ 民事執行法第42条第1項及び第194条は、上記1の(3)のホのとおり、競売に必要な手続費用は債務者が負担するものであるが、申立債権者は、競売の申立てをするに当たり、同法第14条第1項の規定により、債務者に代わって競売に必要な手続費用を競売予納金として立替払する必要がある。
(3)本件各競売予納金の額を控除することができるか否かについて
イ q物件及びs物件については、本件事業年度末までに競売が実行され、売却価額(評価額)がそれぞれ23,510,000円及び27,899,900円で確定しており、申立債権者(請求人)には、その額から債務者が負担すべき競売に係る手続費用が優先的に償還され、担保権者である請求人にはその残額が配当されることになるが、請求人が債務者から本件各貸出金に関する競売に係る手続費用相当額部分を別途回収する見込みがない本件の場合には、本件事業年度末における本件各貸出金のうちq物件及びs物件について担保権によって担保されている部分の金額は、両物件の売却価額(評価額)から当該手続費用相当額を控除した残額とみるのが相当である。
 そして、上記(1)のイのとおり、各執行裁判所は競売手続上の費用に充てるものとして合理的と認められる金額を競売予納金の額としていることからすれば、本件事業年度末において見込まれる競売に係る手続費用相当額は競売予納金の額とするのが相当であり、請求人自らが競売予納金の額を取立不能の手続費用相当額であると認識してq物件及びs物件に係る担保権によって担保されている部分の金額を算出していることを踏まえると、本件事業年度末のq物件及びs物件における「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」については、q物件においては、売却価額(評価額)23,510,000円から同物件に係る競売予納金の額1,086,800円を控除した額、また、s物件においては、売却価額(評価額)27,899,900円から同物件に係る競売予納金の額1,132,900円を控除した額とみるのが相当である。
 なお、請求人は、上記両物件の売却代金から競売に係る手続費用相当額の償還を各裁判所から受けているが、これは、上記(1)のロのとおり、請求人が競売の申立債権者として立替払をした競売予納金の返還を受けたものと認められるから、当該手続費用相当額がq物件及びs物件に係る担保権により担保されている部分の金額とはならない。
ロ p物件及びr物件については、担保物件の評価は物件ごとに行うことから、担保権によって担保されている部分の金額は個々の担保物件ごとに計算すべきところ、上記1の(4)のホ及びヘのとおり、p物件は本件事業年度末である平成20年3月31日に任意売却され、また、r物件については、本件事業年度末における評価額を零としているのであるから、これらの物件に係る競売予納金の額をq物件の評価額から控除することはできない。
ハ なお、請求人は、q物件の評価額から、当該物件に係る競売予納金のほか、p物件及びr物件に係る競売予納金の合計額2,609,760円についても控除すべきである旨主張するが、審判所の判断は上記ロのとおりであるから、この部分についての請求人の主張は採用できない。
 また、原処分庁は、「担保権の実行により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」とは、その貸金等のうち担保物の処分見込額に相当する金額をいうものと解されると主張し、また、本件各競売予納金は概算額であって、その金額も裁判所ごとに異なるから、一般に実際の手続費用の金額に相当するものともいえないとして、担保権の実行により取立ての見込みがあると認められる部分の金額の計算上、本件各競売予納金をq物件及びs物件の評価額から控除すべきではないと主張するが、当審判所の判断は、上記イのとおりであり、原処分庁の主張は採用できない。
(4)本件更正処分について
 以上のことから、本件事業年度の請求人の本件各貸出金に係る貸倒引当金繰入限度超過額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、これらの金額は同表の「更正処分」欄の金額を下回るから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。
(5)本件賦課決定処分について
 上記(4)のとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についてはその一部を取り消すべきである。
(6)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表1
別表2


 

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