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《書 誌》
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【文献番号】 25515326
【文献種別】 判決/東京地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 平成25年10月18日
【事件番号】 平成24年(行ウ)第104号
【事件名】 所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分取消請求事件
【判示事項】 〔TKC税務研究所〕
  1. 遺産のうちの特定の財産を共同相続人のうちの特定の者に相続させる趣旨の遺言の法的効果。
(要旨文献番号:60065993)
  2. 被相続人の遺言において、原告の相続分をないもの、すなわち零と定めたものと認められるとした事例。
(要旨文献番号:60065994)
  3. 遺言で一部の相続人の相続分を零と定める相続分の指定をすることは、許されるとした事例。
(要旨文献番号:60065995)
  4. 相続債務を含めて原告の相続分を定める意思が遺言に示されていないことは、原告の相続分を零とする指定があると認定判断する妨げとはならないとした事例。
(要旨文献番号:60065996)
  5. 国税通則法5条2項の規定により承継する所得税の額は0円であるとした事例。
(要旨文献番号:60065997)
  6. 特定遺贈又は包括遺贈に対してされた遺留分減殺請求により遺留分権利者に帰属した権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有するか(消極)。
(要旨文献番号:60065998)
  7. 特定の遺産を共同相続人の特定の者に相続させる旨の遺言に対してされた遺留分減殺請求により遺留分権利者に帰属した権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有するか(消極)。
(要旨文献番号:60065999)
  8. 遺留分減殺請求の効果として一定の権利を取得したことをもって、遺言でされた遺留分権利者についての相続分の定めが修正されるものとは解し難いとした事例。
(要旨文献番号:60066000)
【裁判結果】 認容
【上訴等】 確定
【裁判官】 八木一洋 田中一彦 川嶋知正
【掲載文献】 裁判所ウェブサイト
税務訴訟資料263号順号12313
【評釈等所在情報】 〔日本評論社〕
市野瀬啻子・税研JTRI30巻1号91頁
被相続人から承継する所得税額相続分の指定と遺留分減殺請求〈TAINS推薦判例〉
岩崎宇多子・税理57巻7号142頁
遺言による相続分の定めが遺留分減殺請求により修正されるか〈判決インフォメーション〉
林仲宣、高木良昌・税務弘報62巻8号146頁
遺留分減殺請求と準確定申告における所得税の負担割合〈実務に役立つ判例研究74〉
林仲宣・法律のひろば67巻8号70頁
遺留分減殺請求と被相続人の所得税負担額〈ザ・税務訴訟〉
越田圭・月刊税務事例47巻3号49頁
遺言により定められた相続分につきその後の遺留分減殺請求による修正が認められるかが争われた事例〈特集/遺留分減殺請求を巡る諸問題〉
越田圭・月刊税務事例47巻3号49頁
遺言により定められた相続分につきその後の遺留分減殺請求による修正が認められるかが争われた事例〈遺留分減殺請求を巡る諸問題(特集)〉
藤岡祐治・ジュリスト1481号98頁
遺留分減殺請求と国税通則法5条2項の「相続分の指定」の意義〈租税判例研究509〉
【引用判例】 (当判例が引用している判例等)
最高裁判所第二小法廷 平成1年(オ)第174号
平成 3年 4月19日
東京高等裁判所 平成2年(行コ)第33号
平成 3年 2月 5日
最高裁判所第三小法廷 平成19年(受)第1548号
平成21年 3月24日
最高裁判所第一小法廷 平成3年(行ツ)第84号
平成 4年11月16日
最高裁判所第一小法廷 平成23年(許)第25号
平成24年 1月26日
最高裁判所第二小法廷 平成3年(オ)第1772号
平成 8年 1月26日
最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)第1084号
昭和41年 7月14日
最高裁判所第二小法廷 昭和50年(オ)第920号
昭和51年 8月30日
最高裁判所第一小法廷 平成9年(オ)第802号
平成10年 2月26日
東京高等裁判所 昭和41年(ネ)第1556号
昭和45年 3月30日
東京高等裁判所 昭和51年(ネ)第2777号
昭和60年 8月27日
最高裁判所第三小法廷 平成11年(受)第385号
平成12年 7月11日
最高裁判所第一小法廷 平成10年(オ)第989号
平成13年11月22日
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 《全 文》

【文献番号】25515326  

所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分取消請求事件
東京地方裁判所平成24年(行ウ)第104号
平成25年10月18日民事第3部判決
口頭弁論終結の日 平成25年7月5日

       判   決

原告 P1
同訴訟代理人弁護士 中根克弘
同 三宅大輝
被告 国
同代表者法務大臣 P2
処分行政庁 鶴見税務署長 P3
被告指定代理人 P4 外5名


       主   文

1 鶴見税務署長が原告に対して平成22年11月9日付けでしたP5の平成19年分の所得税に係る決定のうち原告が納めるべき額につき0円を超える部分及び無申告加算税の賦課決定(ただし,いずれも平成23年12月8日付け裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
 本件は,平成19年12月26日に死亡したP5(以下「P5」という。)の共同相続人の1人である原告が,鶴見税務署長から,P5に課されるべき同年分の所得税を納める義務について,法定相続分によりあん分して計算した額を承継したとして,P5の平成19年分の所得税に係る決定の処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定の処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件決定処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたことに対し,P5は遺言で原告の相続分を零と定めたから,原告が納める義務を承継するP5に課されるべき平成19年分の所得税の額は0円であり,このことはその後に原告が遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をしたことによっても左右されるものではないなどと主張して,本件各処分(ただし,いずれも平成23年12月8日付け裁決(以下「本件裁決」という。)により一部取り消された後のもの)の取消しを求める事案である。
1 関係法令の定め
(1)国税通則法(以下「通則法」という。)5条1項前段は,相続があった場合には,相続人は,その被相続人に課されるべき,又はその被相続人が納付し,若しくは徴収されるべき国税(その滞納処分費を含む。)を納める義務を承継する旨を定めている。
(2)通則法5条2項は,同条1項前段の場合において,相続人が2人以上あるときは,各相続人が同項前段の規定により承継する国税の額は,同項の国税の額を民法900条から902条まで(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)の規定によるその相続分によりあん分して計算した額とする旨を定めている。
2 前提事実
 以下の各事実(以下「前提事実」という。)は,当事者間に争いがないか,又は弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1)P5の相続の経緯
ア 原告は,P5の子であるP6(以下「P6」という。)の子である。
 P5は,平成19年12月26日に死亡した。原告は,P6が平成元年4月11日に死亡していたことから,P6を代襲してP5の相続人となった。P5の相続人には,原告のほかに,P5の配偶者であるP7(以下「P7」という。)並びにP5の子であるP8(以下「P8」という。),P9(以下「P9」という。),P10(以下「P10」という。)及びP11(以下「P11」といい,P7,P8,P9及びP10と併せて「他の相続人ら」という。)がおり,原告の法定相続分は,10分の1である。
イ P5は,平成3年1月28日,公正証書(甲2の1。以下「本件公正証書」という。)によって以下の旨の遺言(以下「本件公正証書遺言」という。)をした。
(ア)横浜市α区β字γ×××番×の土地をP7に相続させる(第1条)。
(イ)横浜市α区β字γ×××番△及び同×××番◇の各土地並びに同×××番地△所在の建物をP10に相続させる(第2条)。
(ウ)横浜市δ区ε字ζ××××番××の土地及び同土地上の建物をP11に相続させる(第3条)。
(エ)神奈川県鎌倉市η×丁目××××番地×××所在の建物をP8に相続させる(第4条)。
(オ)現金及び預貯金債権を他の相続人らに均等の割合で相続させる(第5条)。
(カ)前記(ア)から(オ)までの財産を除く遺産全部(株式,ゴルフ会員権,動産等を含む。)をP7に相続させる(第6条)。
ウ P5は,平成5年4月18日,自筆証書(甲2の2。以下「本件自筆証書」という。)によって以下の旨の遺言(以下「本件自筆証書遺言」といい,本件公正証書遺言と併せて「本件遺言」という。)をした(これにより,本件公正証書遺言のうち前記イ(カ)に係る定めについては,本件自筆証書遺言のうち後記(ア)に係る定めと抵触する限度で,その一部が撤回されたものとみなされる(民法1023条1項)。)。本件自筆証書は,平成20年3月4日,東京家庭裁判所により検認された。
(ア)タキゲン製造株式会社(以下「タキゲン製造」という。),タキゲン精工株式会社,タキゲン産業株式会社(以下「タキゲン産業」という。)及び有限会社タキゲン育英会(以下「タキゲン育英会」という。)等(以下,これらを総称して「タキゲン製造等」という。)の「持株の配分」は,P7,P9,P10及びP11に等分とする。
(イ)タキゲン製造等の後継者は,代表取締役にP7を,取締役にP9,P10及びP11をそれぞれ指名する。
エ 原告は,平成20年3月26日に差出した内容証明郵便(乙1)をもって,他の相続人らに対し,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示(以下「本件遺留分減殺請求」という。)をした。
(2)課税処分の経緯
 原告は,P5の平成19年分の所得税2億7988万7100円について,所得税法125条1項の規定に基づく確定申告書を提出しなかったところ,鶴見税務署長は,原告に対し,平成22年11月9日付けで本件各処分をした。なお,本件決定処分において原告が納める義務を承継したとされた上記の所得税の額は,原告の法定相続分である10分の1の割合によりあん分して計算されたものであった。
 本件各処分,本件各処分についての原告の異議申立て並びにこれらに対する鶴見税務署長の決定,これらの決定を経た後の本件各処分についての原告の審査請求及びこれに対する国税不服審判所長の裁決(本件裁決)の経緯は,別表「課税処分等の経緯」記載のとおりである。
 なお,本件裁決は,本件公正証書及び本件自筆証書には原告の相続分に関する記載がないものの,P5が原告の相続分を零と定めたものと解するのが相当であるとした上で,原告による本件遺留分減殺請求の結果,民法902条による原告の指定された相続分は20分の1であるとして,原告が上記の割合によりあん分して計算した額のP5の上記の所得税を納める義務を承継したとするものであった。
(3)本件訴えの提起
 原告は,平成24年2月24日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3 本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張
 本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は,後記4において引用する別紙1「争点に関する当事者の主張の要旨」第1(被告の主張の要旨)記載のほか,別紙2「本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張」記載のとおりである。
4 争点及びこれに関する当事者の主張の要旨
 本件の争点は,本件各処分(ただし,いずれも本件裁決により一部取り消された後のもの)の適法性であり,具体的には,まず,本件遺言が原告の相続分を定めたものといえるかどうか(争点1)が問題となり,これが肯定される場合には,通則法5条2項の規定に従って原告が納める義務を承継するP5に課されるべき平成19年分の所得税の額は,本件遺言で定められた相続分の割合により計算されることになるところ,この計算の基礎となる相続分が本件遺留分減殺請求によって修正されるかどうか(争点2)が問題となる。
 本件の争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙1「争点に関する当事者の主張の要旨」記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件遺言が原告の相続分を定めたものといえるかどうか)
(1)前提事実のとおり,本件遺言は,P5の遺産のうち各不動産をP9を除く他の相続人らにそれぞれ相続させ(前提事実(1)イ(ア)から(エ)まで),現金及び預貯金債権を他の相続人らに均等の割合で相続させ(前提事実(1)イ(オ)),タキゲン製造等の株式をP8を除く他の相続人らに均等の割合で相続させ(前提事実(1)ウ(ア)),その余の全ての遺産をP7に相続させる(前提事実(1)イ(カ))旨のものである。P5の共同相続人のうち,本件公正証書及び本件自筆証書に記載がないのは,原告だけである。
 遺言書において遺産のうちの特定の財産を共同相続人のうちの特定の者に相続させる趣旨の遺言者の意思が表明されている場合,当該遺言は,当該遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,遺産の分割の方法を定めたものと解するのが相当であり,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして被相続人の死亡の時に直ちに当該財産は当該相続人に相続により承継されるものと解するのが相当であるところ(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照),本件遺言においてはこうした特段の事情はいずれも認められないから,P5の全ての遺産はP5の死亡の時に直ちにそれぞれ本件遺言で定められた他の相続人らのいずれかに承継されるというべきである。
 そして,このとおりP5の全ての遺産を他の相続人らに承継させるものとすれば,おのずと原告においてP5の遺産を承継する余地が奪われることになるのは明らかであるところ,本件遺言は本件公正証書及び本件自筆証書をもって2次にわたってされたものであり,そのいずれにも原告についての記載はなく,本件自筆証書にはタキゲン製造等の後継者についての記載もあり,P5の相続についての生前の意思としてはこれらの遺言書をもって尽くされていると認められることに照らすと,本件遺言については,P5の共同相続人のうち原告の相続分をないもの,すなわち零と定めたものと認めるのが相当である。
(2)これに対し,被告は,相続分の指定は,共同相続に際して各相続人が取得し得べき相続財産の総額に対する分数的割合で示されるものであり,遺言者が法定相続分についていかなる分数的割合に変更するかを明らかにしている場合にのみ相続分の指定があったと解すべきであるなどとして,本件遺言は相続分を定めるものではないなどと主張するところ,本件遺言について,他の相続人の各人の相続分を定めるものとは解し難いことに関しては,当事者間に争いがないが,民法902条2項の規定は,その文言に照らし,共同相続人の一部について遺言で相続分を定めることができることを前提とするものと解され,また,遺言で一部の相続人の相続分を零と定める相続分の指定をすることそれ自体を否定するものでもないものというべきであって,本件遺言について,既に述べたように,原告の相続分を零と定める限度で相続分の指定があると認めることが妨げられるものと解すべき根拠は見当たらないというべきである。
 また,被告は,P5には銀行からの借入金等の債務が存するところ,本件遺言にはこうした相続債務をも含めて原告の相続分を定める意思が示されているとみることはできないなどとして,本件遺言は原告の相続分を定めるものではないとも主張するが,前記(1)で述べた本件遺言の内容等から相続債務については他の相続人らに全てを相続させる旨の意思のないことが明らかであるなどの特段の事情はうかがわれないから,本件遺言においては,他の相続人らに相続債務も全て相続させる旨の意思が表示されているものと解するのが相当であり(最高裁平成19年(受)第1548号同21年3月24日第三小法廷判決・民集63巻3号427頁参照),相続債務はこのことを前提として承継されることとなるのであって,被告の上記主張に係る点も前記のように認定判断することを妨げるものとは解し難い。
 以上のほか,本件遺言が原告の相続分を定めるものではないとする被告の主張は,これまで判示したところ照らし,いずれも採用することができない。
2 争点2(通則法5条2項の計算の基礎となる原告の相続分が本件遺留分減殺請求によって修正されるかどうか)
(1)通則法5条1項は,相続があった場合には,相続人は,その被相続人に課されるべき国税を納める義務を承継する旨を定め,同条2項は,その場合に,相続人が2人以上あるときは,各相続人が承継する国税の額は,同項の国税の額を民法900条から902条まで(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)の規定によるその相続分によりあん分して計算した額とする旨を定めている(前記第2の1)。
 そして,前記1のとおり,本件遺言は原告の相続分を零と定めるものと認められるところ,これは民法902条の遺言による相続分の指定に当たるから,原告が納める義務を承継するP5の平成19年分の所得税の額は,通則法5条2項の規定に従い,P5の平成19年分の所得税の額に零を乗じて計算した額である0円となるというべきである。
(2)これに対し,被告は,最高裁平成23年(許)第25号同24年1月26日第一小法廷決定・裁判集民事239号635頁が,遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分がその遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解するのが相当である旨の判示をしたことなどに照らし,本件遺留分減殺請求により,原告の指定相続分は遺留分の割合に相当する割合に修正されるから,原告が納める義務を承継するP5に課されるべき国税の額は,その遺留分割合に相当する割合である20分の1の割合によりあん分して計算されることになるなどと主張する。
 しかし,前記1(2)に述べたところからすると,原告の遺留分の侵害額の算定に際しては,本件遺言で原告の相続分が零と定められたことを前提に,原告の法定相続分に応じた相続債務の額は遺留分の額に加算することなく計算されることとなると解される(前掲最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決参照)。その上で,特定遺贈又は遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有する包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺を請求した場合,これらの遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し,受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に遺留分権利者に帰属するところ,このようにして帰属した権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないものであって(最高裁平成3年(オ)第1772号同8年1月26日第二小法廷判決・民集50巻1号132頁参照),このような性質のものとして権利が帰属したことに伴い,当該遺留分権利者の遺留分の侵害額の算定に当たりその基礎とされた指定による相続分について,その内容が修正されることとなるものと解すべき根拠は格別見いだし難い。そして,遺産のうちの特定の財産を共同相続人のうちの特定の者に相続させる旨の遺言により生じた,当該財産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がされたのと同様の遺産の承継関係に基づき,被相続人の死亡の時に直ちに当該財産が当該相続人に相続により承継された場合についても,当該遺言による被相続人の行為が特定の財産を処分するものであることにおいて,特定遺贈又は包括遺贈と同様のものであることに照らすと,当該遺言による当該財産の承継に対して遺留分権利者が減殺を請求したときに遺留分権利者に帰属する権利に関し,上記に述べたところと異なって解すべき理由は見当たらないところである。
 本件においては,原告がした本件遺留分減殺請求について,本件遺言による他の相続人における上記のような財産の取得以外の事由に対してされたものと認めるべき格別の証拠等は見当たらず(なお,本件遺言が他の相続人らの各人につき相続分の指定をしたものとは見難いこと及び本件遺留分減殺請求が他の相続人らについてされた相続分の指定に対してされたものとは見難いことは,本件において被告も自認するところである。),上記に述べたところからすると,原告が本件遺留分減殺請求をしその効果として一定の権利を取得したことをもって,本件遺言でされた原告についての相続分の定めが被告の主張するように修正されるものとは解し難いというべきである。
 前掲最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定は,遺言による相続分の指定が減殺された場合に,その後に行われる遺産の分割における具体的相続分の算定に当たって,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される旨を判示したにすぎず,そもそも本件とは事案を異にするものである。
 したがって,被告の上記主張は,採用することができないというべきである。このほか,原告が納める義務を承継するP5に課されるべき国税の額が20分の1の割合によりあん分して計算されるとする被告の主張は,これまで判示したところに照らし,いずれも採用することができない。
3 小括
 以上によれば,本件決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)は,原告が納める義務を承継するP5の平成19年分の所得税の額を0円としなかった点で,違法なものであるといわざるを得ない。そして,このことを前提にすると,本件賦課決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)もまた,その全部が違法なものであるということになる。
第4 結論
 よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 八木一洋 裁判官 田中一彦 裁判官 川嶋知正

(別紙1)争点に関する当事者の主張の要旨
第1 被告の主張の要旨
1 争点1(本件遺言が原告の相続分を定めたものといえるかどうか)
(1)相続分とは,共同相続に際して各共同相続人が相続財産を承継すべき割合であり,各相続人が取得し得べき相続財産の総額に対する分数的割合として示されるものである。現に,法定相続分について規定する民法900条は,同順位の相続人が数人ある場合の各相続人の相続分として,共同相続する相続人の種類によって異なる分数的割合を定めている。
 遺言による相続分の指定について規定する民法902条1項は,法定相続分に関する規定にかかわらず,遺留分の規定に反しない限り,遺言で,共同相続人の相続分を定めることができる旨を定めている。この相続分の指定は,分数的割合をもって定められている法定相続分を修正ないし変更するものであるし,また,上記のとおり,そもそも相続分が相続財産を承継すべき割合をいうものであることからすると,相続財産の何分の何というように相続財産全体に対する分数的割合で示されるべきである。このことは,同条2項が,共同相続人のうちの1人又は数人の相続分のみについて遺言で相続分が定められた場合には,他の共同相続人の相続分は分数的割合をもって定められている法定相続分の規定により定められる旨を定めていることからも裏付けられる。
(2)前掲(本文第3の1(1)参照)最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決は,遺産のうちの特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺贈と解すべきではなく,遺産の分割の方法を定めたものと解すべきである旨を判示しているが,特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がされた場合であっても,それにより相続財産全体に対する相続すべき分数的割合が指示されている限り,相続分の指定と解される。もっとも,相続分の指定が遺言者の意思によって分数的割合である法定相続分に修正ないし変更を加えるものであることからすれば,特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言が相続分の指定をしているといえるのは,遺言者の意思に照らして,遺言者が分数的割合である法定相続分を修正ないし変更していると判断でき,かつ,その修正ないし変更によっていかなる分数的割合にすると指定しているかが明らかにされている場合に限られると解すべきである。遺言者が当該特定の財産の相続財産全体に対する分数的割合を明示していない場合であっても,相続開始時において,遺言者以外の者が,相続財産全体及び当該特定の財産の価額を割り出して,当該特定の財産の価額の相続財産全体の価額に対する割合を算出することは可能ではあるが、指定相続分は,飽くまでも遺言者の意思に基づいて決定されるものであり,遺言者は,各相続人との身分関係及び生活関係,各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係,特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人の関わり合いの関係等各般の事情を考慮して遺言をするのであるから(前掲最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決参照),相続開始時において遺言者以外の者が客観的な価額のみから算出した分数的割合をもって,これを遺言者の意思とみなすことは許されないというべきである。
 裁判例においても,相続分の指定は,分数的割合をもって相続人の相続分が表示される場合をいうとされており,遺言によって遺産の全部が一部の相続人のみに割り当てられたとしても,そのような遺言は,飽くまでも遺産分割方法の指定であり,遺言書に記載のない相続人との関係においてであっても,相続分の指定をしたものとは解されないとされている。例えば,東京高裁平成2年(行コ)第33号同3年2月5日判決・金融・商事判例911号22頁は,7名の共同相続人のうちの2名に遺産の全部(ただし,関係法人に遺贈がされた残余のもの)を相続させるとした遺言について,上記の2名の相続分を各2分の1とする相続分の指定がされたと当該遺言書に記載のない他の相続人のうちの一部が主張した事案において,「相続分は分数的割合によって定められており,相続分の指定は,被相続人によってされる相続分の修正であり,個々の相続財産のどれを相続人に与えるかとの被相続人の意思とは目的を異にするものであるから,同じく分数的割合によるべきである」と判示している。これに対しては,遺言書に記載のない相続人らが上告し,「原判決は相続分の指定とは遺産全体に対する「分数的割合」をもって相続分が表示されている場合をいうと解すべきであるというがそのように狭く解する理由はなく誤りである」と主張した上で,遺言で相続分を零と定められた旨を主張したが,最高裁平成3年(行ツ)第84号同4年11月16日第一小法廷判決・裁判集民事166号613頁は,「被相続人のした本件遺言が相続分を指定したものとは解されないとした原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,結論において正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない」と判示して,上告を棄却している。 
 原告の指摘する前掲(本文第3の1(2)参照)最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決は,相続人2人のうち1人の者に財産全部を相続させる趣旨の遺言がされた当該個別事案において,当該遺言が当該相続人の相続分を全部と指定したものであるとの合理的意思解釈をしたものにすぎず,遺言に記載されていない相続人の指定相続分を零と解すべきとの一般論を判示したものではなく,本件とは事実関係も異なるから,その判示内容は,本件における各相続人の相続分を確定する根拠とはなり得ず,原告の主張は同判決を正解しないものであり,前提において失当である。
(3)ところで,通則法5条2項は,「相続による納税義務の承継につき,民法の相続制度と一層調整を図るとともに徴税の合理化に資する」(乙6・49頁)ことを趣旨としていた昭和37年法律第66号による削除前の国税徴収法27条2項の規定を引き継ぐものとして制定されたものであるところ,同規定は,昭和34年法律第127号による改正前の同法4条の2において,相続による納税義務の承継について,相続人が2人以上あるときは相続又は遺贈によって得た財産の価額によりあん分した額により承継する旨が定められていたものを,民法899条に規定する共同相続人による一般相続債務の承継との調整を図って改めたものであった(乙6,7)。そして,通則法5条2項及び昭和37年法律第66号による削除前の国税徴収法27条2項は,相続人が2人以上ある場合に各相続人が承継する国税の額の計算に用いられる「相続分」については,計算の簡明性等の観点から,民法が規定する法定相続分(民法900条),代襲相続分(同法901条),遺言による相続分の指定(同法902条),特別受益者の相続分(同法903条,904条)及び特別寄与者の相続分(同法904条の2)の5つの相続分のうち,前三者のみを採用している。寄与分を採用しなかったのは,そもそもこれについて定める民法904条の2が権利に関する規定であり,形式的にみて義務に係る相続分の基礎とはなり得ないことなどに理由があるとされているが,他方,特別受益者の相続分を採用しなかったのは,過去に遡って事実の調査をすることを要し,各相続人の承継する国税の額の確定が極めて繁雑となるからであるとされている。
 このように計算の簡明性等が要請されていることに照らせば,通則法5条2項にいう民法902条の規定による相続分とは,相続財産全体に対する分数的割合と解すべきである。このように解することは,前記(1)のとおり,民法が相続分の指定について分数的割合をもって表示されることを予定していると解されることとも合致するし,通則法5条2項が民法における一般相続債務の承継と調整を図ることを趣旨とする昭和37年法律第66号による削除前の国税徴収法27条2項の規定を引き継いだものであることとも整合する。
 仮に,特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言について,遺言者が各相続人の相続分をいかなる分数的割合にする意思であったかが明らかでないのに,相続分の指定を伴うものと解し,これに基づいて国税の承継額を計算するとなれば,当該特定の相続人又は課税庁が,遺言者の意思とは無関係に,申告や処分を行う時点における当該相続財産全体及び当該特定の財産の客観的な価額を割り出して,当該特定の財産の当該相続財産全体に対する分数的割合を算出せざるを得ないこととなり,民法が,遺言者の意思を尊重し,これに基づいて法定相続分を修正ないし変更できるとした趣旨に反することになる。加えて,国税債権は,国家財政上,簡明な計算方法により可及的速やかに確定すべきであるところ,相続財産全体及び特定の財産の価額についての調査は,極めて煩雑かつ困難な作業であって,これを納税者又は課税庁に負わせることは,計算の簡明性等を重視する通則法の趣旨に照らし,およそ法が予定しているものではない。
 現行課税実務においても,計算の簡明性の観点から,通則法5条2項にいう民法902条の規定による相続分とは,分数的割合により定められているものをいうと解し,また,相続させる旨の遺言については,遺産の分割の方法の定めたものであり,相続分を定めたものではないと解する運用がされている。この運用は,前掲東京高裁3年2月5日判決の判示するところにも沿うものである。
(4)本件遺言については,P5の合理的な意思解釈として,特定の財産を特定の相続人に単独で相続させようとする趣旨のものと認められ,本件公正証書及び本件自筆証書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情があるとはいえないから,本件遺言は,遺産の分割の方法を定めたものと解される(前掲最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決)。
 そして,前記(2)のとおり,相続分の指定は,分数的割合をもって規定されている法定相続分を修正ないし変更するものであるから,相続財産全体に対する分数的割合で示されるべきものであり,民法が遺言者の意思を尊重していることに照らせば,遺言者がいかなる分数的割合に修正ないし変更するかを明らかにしている場合にのみ,相続分の指定があったと解すべきであるところ,本件遺言においては,他の相続人らに相続させるとされた土地及び建物その他の遺産について,その価額や,相続財産全体に対する割合などが何ら示されていないから,P5が当該特定の財産を相続財産全体に対してどのような分数的割合で捉えていたかは明らかにされていないといえる。したがって,本件遺言は,遺言者がいかなる分数的割合に修正ないし変更するかを明らかにしたものとは解することができず,相続分の指定を伴うものであると評価することはできない。
 なお,本件公正証書及び本件自筆証書には原告が記載されていないが,他の相続人のいずれについても各相続人の相続分を分数的割合で示しておらず,相続分の指定がされていないと解すべきである上,単に本件遺言に記載がないというのみの原告についてだけ相続分を零と指定するという他の相続人と異なる取扱いをあえてしたとの事情は何らうかがわれず,前掲東京高裁平成3年2月5日判決及び前掲最高裁平成4年11月16日第一小法廷判決が判示するところからも明らかなとおり,原告が本件公正証書及び本件自筆証書に記載されていないことから直ちに原告の相続分を零と定めたものと解されるわけではない。そもそも,相続分とは,積極財産のみならず消極財産をも含めた各共同相続人が取得し得べき相続財産の総額に対する分数的割合を示すものであり,遺言によって積極財産の分割の方法が示されたのみでは,消極財産をも含めたその余の相続財産をいかなる割合で分割するか,すなわち相続分をどのように修正ないし変更するかまで明らかにされたとはいえない。そして,P5には,銀行からの借入金等の債務が存するところ(乙8,9),本件遺言では,P5の積極財産をどのように分割するかについては定められているものの,上記債務をどのように分割するかについては,明らかにされているとはいい難い。さらに,本件遺言には,確かに積極財産を原告に相続させる旨は定められていないが,消極財産を原告に割り当てないとか,積極財産も消極財産も含めて原告の相続分を零とする意思が表示されているとみるのも困難である。このように,本件遺言からは,他の相続人らはもとより,原告についても,その指定相続分を読み取ることはできないのであるから,本件遺言で原告の相続分が零と指定されたと解することはできない。
 原告が本件遺留分減殺請求をするに当たり他の相続人らに宛てて郵送した遺留分減殺請求書(乙1)をみても,それが相続分の指定に対して行われた旨の記載はなく,その他,原告が本件遺留分減殺請求をするに当たり,本件遺言により相続分の指定がされたと解していることがうかがわれる記載等は存せず,かえって,原告がその後に横浜家庭裁判所に対して他の相続人らを相手方として申し立てた本件遺留分減殺請求に係る家事調停事件(同裁判所平成20年(家イ)第2523号事件)の申立書(乙2)には,他の相続人らに対して本件遺言により遺贈がされた旨の記載がされていたものである。
 原告は,P5が本件遺言の作成当時に原告に対しては自分の財産を与えたくないという気持ちを有していたことが推察されるなどと主張するが,原告が侵害された遺留分の回復を求めてP7,P10及びP11の3名を被告として横浜地方裁判所に提起した訴え(横浜地方裁判所平成21年(ワ)第6673号共有持分登記移転手続等請求事件)においてP7,P10及びP11が提出した平成22年4月30日付け準備書面(1)(甲11)には,P6は原告の父との離婚に際して解決金として1300万円の小切手を受領したところ,それまでP5から経済的援助を受けていたことなどから,これをP5に贈与した旨の記載があり(甲11・2頁),これが真実であれば,P5が生前にP6に対して行った経済的援助の額は相当多額であったことが推認されるのであって,本件公正証書及び本件自筆証書に原告の記載がないことの理由の一つとして,原告の被代襲者であるP6に対する多額の生前贈与(特別受益)の存在があったとも解し得る。いずれにせよ,原告の上記主張は,憶測にすぎないのである。
(5)以上のとおり,本件遺言は,遺産の分割の方法を定めたものであり,相続分を定めたものではないから,原告が承継するP5に課されるべき平成19年分の所得税の額は,通則法5条2項の規定に従い,原告の法定相続分である10分の1の割合によりあん分して計算されることになる。
 上記計算によれば,原告が承継する納付すべき税額は2798万8700円であるところ(別紙2・1(2)),本件決定処分に係る原告が承継する納付すべき税額(別表のAの欄の順号17)は,これと同額であるから,本件決定処分は適法である。
2 争点2(通則法5条2項の計算の基礎となる原告の相続分が本件遺留分減殺請求によって修正されるかどうか)
(1)本件遺言は,前記1のとおり,相続分の指定を伴うものではないから,原告が承継するP5に課されるべき国税の額は,原告の法定相続分である10分の1の割合によりあん分して計算されるべきであるが,仮に,本件遺言が相続分の指定を伴うとされた場合であっても,以下のとおり,本件遺留分減殺請求により,原告の指定相続分はその遺留分割合に相当する20分の1に修正されるから,原告が承継するP5に課されるべき国税の額は,20分の1の割合によりあん分して計算されることになる。
ア 遺留分とは,一定の相続人(遺留分権利者)に留保されることが法律上保障された相続財産の一部をいう。
 遺留分制度には,ゲルマン=フランス型とローマ=ドイツ型の二つの系統があり,ゲルマン=フランス型では,法定相続人が相続人の資格において遺留分を有しており,遺留分が相続分の一部としての形をとっているが,ローマ=ドイツ型では,推定法定相続人には法定相続人としての地位の保障がなく,遺留分はそれに代わる一定の財産額であるとされているところ,我が国の明治民法における遺留分法は,この二つの系統のうち,ゲルマン=フランス型に属するとされており,現行民法における遺留分法も,ゲルマン=フランス型としての特徴は変わっていないと解されている。我が国の民法では,法定相続権が遺留分権の基礎を成しているので,遺留分権利者の資格・範囲・順位については,相続権のそれに関する法理がそのまま適用されている。
イ 民法は,遺留分権を実現する方法として,遺留分権利者にその利益を強制するのではなく,遺留分権利者の自由意思をもって遺留分の保全に必要な限度において遺贈や贈与を減殺することができるものとした。遺留分を侵害する行為の効力については,その行為が当然に無効となるのではなく,単に減殺を請求され得るにとどまるとされており,「遺留分に関する規定に違反することができない」(同法902条1項ただし書)などの定めに抵触する行為についても,これを無効と解するのではなく,遺留分減殺請求の対象となるにとどまると解する立場が通説である。遺留分減殺請求権の法的性質については,「遺留分権利者が民法1031条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって,その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り,必ずしも裁判上の請求による要はなく,また一たん,その意思表示がなされた以上,法律上当然に減殺の効力を生ずるもの」(最高裁昭和40年(オ)第1084号同41年7月14日第一小法廷判決・民集20巻6号1183頁)とされている。
ウ 遺留分減殺請求の効果については,「遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し,受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するものと解するのが相当」(最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁)とされている。また,相続分の指定に対して遺留分減殺請求がされた場合に,遺留分減殺請求が相続分の指定に与える効果については,「相続分の指定が,特定の財産を処分する行為ではなく,相続人の法定相続分を変更する性質の行為であること,及び,遺留分制度が被相続人の財産処分の自由を制限し,相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保障することをその趣旨とするものであることに鑑みれば,遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解するのが相当である(最高裁平成9年(オ)第802号同10年2月26日第一小法定判決・民集52巻1号274頁参照)」(前掲(本文第3の2(2)参照)最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定)とされている。このように解することは,我が国の民法が,遺留分を法定相続人としての地位の保障に代わる一定の財産額であるとするローマ=ドイツ型ではなく,遺留分を相続分の一部とするゲルマン=フランス型に属することとも整合するものといえる。
 この点に関し,原告は,前掲最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決は共同相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言につき相続分の指定としての法的意義をも認める立場を明らかにしたものといえるとした上で,指定された共同相続人間の内部関係における相続債務の承継割合が遺留分減殺請求によっても修正されることなく維持されることを前提とするものと解されると主張するが,同判決は,飽くまでも相続開始の時を基準としての遺留分の侵害額の算定方法について判示したものであって,上記の主張は失当である。
エ 前記ウのとおり,遺留分を侵害する相続分の指定に対して遺留分減殺請求がされた場合には,当該遺留分権利者の指定相続分は,遺留分割合と同じ割合に修正されるから(前掲最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定),本件遺留分減殺請求により,原告の指定相続分は,その遺留分割合に相当する20分の1に修正される。
 したがって,P5に課されるべき平成19年分の所得税の額は,通則法5条2項の規定に従い,上記のとおり修正された指定相続分である20分の1の割合によりあん分して計算した額(1399万4300円)となる。本件決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)に係る原告の納付すべき税額は,この額と同額であるから,本件決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)は,適法である。
(2)これに対し,原告は,前掲最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決の判示するところに照らせば,本件遺言によりP5の全ての遺産は他の相続人らに物権的に移転するであるとか,前掲最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決の判示するところに照らせば,本件遺留分減殺請求によって原告はその対象とされた財産の共有持分を物権的に取得するなどした上で,P5の遺産については,本件遺留分減殺請求の前後を問わず遺産分割の余地は全くなく,遺産分割における分配基準としての指定相続分を観念する必要もなければ,遺留分減殺請求によって修正された指定相続分を機能させる場面もないなどとして,本件遺留分減殺請求によっても,原告の指定相続分は修正されないなどと主張する。
ア しかし,相続させる旨の遺言により全ての遺産が特定の相続人に承継される場合であっても,家庭裁判所における遺産分割調停で,関係当事者間に当該遺言の対象遺産も含めて分割の協議をしてみようとの空気が醸し出され,又は当該遺言による遺産の承継により遺留分侵害の結果になることが明らかであるときには,前掲最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決の判示に係る遺産の承継の効果はさておいて,柔軟で妥当な遺産分割の方途を目指すべきであると指摘されていることからすれば(最高裁判所判例解説民事篇平成3年度230頁),遺産分割調停が行われる余地は残されているというべきである。原告の上記主張は,P5の遺産について遺産分割の余地はないとする点で,失当である。
 また,前記1(1)のとおり,相続分とは,共同相続に際して各共同相続人が相続財産を承継すべき割合であり,各共同相続人が取得し得べき相続財産の総額に対する分数的割合として示されるものであるところ,この割合は,特定の財産をどの相続人に取得させるかという遺産の分割の方法によって左右されるものではない。特定の相続人がその相続分を超える特定の財産を取得した場合であっても,補償金等による調整をもって(家事事件手続法195条),取得した特定の財産が自己の相続分を下回る相続人も,なおその相続分を確保し得るのであるから,遺言により全ての遺産について物権変動が生じたとしても,相続分の意義に影響が及ぶものではない。原告の上記主張は,本件遺言によりP5の全ての遺産についてその相続開始の時に物権変動が生じたことをもって相続分の意義が失われるとする点でも,失当である。
イ さらに,前記(1)アのとおり,我が国の明治民法における遺留分法及びそれを踏襲した現行民法における遺留分法は,ゲルマン=フランス型に属するものであるところ,ゲルマン=フランス法における遺留分制度については,相続人がその資格において遺留分権を有することから,遺留分権は相続権としての性格を有しており,遺留分減殺請求によって取り戻された財産は,当然に相続財産を構成するという特徴があるとされているから,仮に遺留分権利者が遺留分減殺請求によって取戻した財産について遺産分割をする余地がないとしても(前掲最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決参照),その相続財産性が失われるものではない。
 加えて,遺留分権利者が限定承認をした場合に被相続人の債権者が遺留分減殺請求権を代位行使し得るかについては,民法起草者は否定説に立っていたが,近時では肯定説が一般であるところ,肯定説の根拠は,相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合には,これによって取り戻された財産は相続債権者の債権の引当てとなるのに,相続人が遺留分減殺請求権を行使しないときには,相続財産が債務超過であっても債権の完済を得られないというは,均衡を失することにある。すなわち,遺留分減殺請求によって取り戻された財産は,他の相続人との間で遺産共有の関係にならず,遺産分割の対象にはならないものの(前掲最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決参照),限定承認に際して相続債権の引当てとなる意味で,責任の面からは相続財産であるといえるのであって,このことからも,遺産分割の余地がないことと相続財産性を有することとは両立するものとして考えられるのである。
 このとおり遺留分減殺請求により取り戻された財産の相続財産性が失われない以上,これについては相続分が観念されることになる。そして,各共同相続人はその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継すると定める民法899条の規定は,遺産分割前における法律関係のみを定めたものとみるべきではないから,相続分に応じた被相続人の権利義務の承継は,遺産分割がされる前後のいずれであるかや遺産分割の手続が必要とされるか否かなどに関わりなくされるものといえる。したがって,遺留分権利者である相続人が,相続させる旨の遺言によって財産を取得した他の相続人に対して遺留分減殺請求をした場合であっても,各相続人がその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継することに変わりはなく,ここに前掲最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定の射程が及ぶことによって,その相続分は遺留分減殺請求により修正された指定相続分となるのである。このことは特定の財産が物権的に当該他の相続人に移転したものであるか否かや,遺産分割の手続が必要とされか否かによって左右されるものではないというべきである。前掲最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決は,遺留分減殺請求により取り戻された財産が「遺産分割の対象となる」相続財産であることを否定したにすぎないのであって,遺留分減殺請求により取り戻された財産が相続財産性を有することや,これについて相続分が観念されることまでをも否定するものではないのである。
 原告の上記主張は,遺留分減殺によって取り戻された財産について遺産分割の余地がないから相続分を観念することができないとする点で,失当である。
(3)さらに,原告は,本件遺留分減殺請求により原告の指定相続分がその遺留分割合に相当する割合である20分の1に修正され,原告が承継するP5に課されるべき国税の額がこの割合によりあん分して計算した額になるとすると、求償問題の発生を回避しようとする通則法5条2項の趣旨が没却される,担税力に応じた税負担を実現しようとする同項の趣旨が没却される,法的安定性が害されるといった問題が生ずるとも主張する。
ア しかし,通則法5条2項の趣旨は,前記1(3)のとおりであり,求償問題の発生を回避しようとすることにあるわけではない。相続分の指定があるかどうかが不明であるため法定相続分に応じた納税の告知等を行った場合に,後になって相続分の指定があると判明したときであっても,将来に向かって承継する額を修正するにすぎないのであって,このことからしても,同項に基づく賦課徴収手続は,相続人間の求償問題の発生を回避することを目的とはしていないことは明らかである。そもそも,原告の上記主張は,原告がP5から承継した国税の額はその遺留分額に加算されないことを前提とするものであるが,前掲最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決は,相続人のうち1人が相続債務も全て承継したと解される場合に,相続債務を承継していない遺留分権利者に係る遺留分侵害額の算定において,法定相続分の割合に応じた相続債務の額を遺留分額に加算しないと判断したにとどまり,それ以上に,遺留分額に加算すべき相続債務をどのように考えるかを判示したものではないのであって,同判決の判示するところから原告がP5から承継した国税の額がその遺留分額に加算されないという結論が一義的に導かれるものではない。 
イ また,通則法5条2項の趣旨は,担税力に応じた税負担を実現しようとすることにあるわけでもない。同項は,各相続人が被相続人から承継する国税を納める義務について,遺産分割により現実に取得した積極財産の価額に応じてではなく,民法の規定による相続分に応じてこれを計算することとしたものであるから,各相続人の租税の支払能力を考慮する趣旨の規定ではないというべきである。現に,同条3項には,資力がない者が国税を納める義務を承継することがあり得ることを考慮した規定が置かれている。そもそも同条2項が規定しているのは,担税力を考慮して構築された課税制度に基づいて被相続人の国税を納める義務の内容が確定した後において,その額をどのような割合で各相続人に承継させるかであって,担税力そのものが問題となる場面ではない。
ウ さらに,遺言で相続分が定められている場合,相続人は,その遺言で定められた相続分に応じて被相続人に課されるべき所得税を納める義務を承継し,これを申告することになるところ,申告時までに遺留分減殺請求がされていなければ,遺言で定められた相続分の割合に応じて計算した額による申告をすればよく,申告時までに遺留分減殺請求がされていれば,遺留分減殺請求によって修正された指定相続分の割合に応じて計算した額による申告することになるだけのことであって,相続人が申告すべき所得税の額は,申告期限内に遺留分減殺請求がされたか否かで確定しているのであるから,法的安定性が損なわれることもない。
第2 原告の主張の要旨
1 争点1(本件遺言が原告の相続分を定めたものといえるかどうか)
(1)本件遺言において,原告が相続するP5の遺産は皆無とされている。すなわち,本件公正証書遺言の第1条から第5条まで及び本件自筆証書遺言において,特定の遺産を原告以外の特定の相続人に相続させる旨が記載されているのみならず(前提事実(1)イ(ア)から(オ)まで,ウ(ア)),本件公正証書遺言の第6条において,本件公正証書遺言に物件を特定して掲げられていない全ての遺産が包括してP7に相続させる旨が記載されていることから(前提事実(1)イ(カ)),P5の全ての遺産は他の相続人らに相続されることになり,P5の財産が新規に発見されるなどの事態が生じたとしても,原告が相続する遺産は必然的に皆無のままとなるのである。このように原告を遺産の配分から完全に排除していることは,とりもなおさず,原告の相続分を零としようとすることにほかならない。
 原告は,侵害された遺留分の回復を求めて,P7,P10及びP11の3名を被告とする訴え(前記(第1の1(4)参照)横浜地方裁判所平成21年(ワ)第6673号事件)を提起しているところ,同訴訟においてP7,P10及びP11が提出した前記準備書面(1)には,P5の認識として,P6が原告の父との婚姻中に原告の父及びその両親に冷遇され,離婚に追いやられ,原告の親権についても譲歩を強いられた上,原告の父の家族と絶縁状態になった旨の記載があり(甲11・2頁から3頁まで),このことからも,P5が,本件遺言の作成当時に,P6の子である原告に対しては自分の財産を与えたくないという気持ちを有していたことが推察される。被告は,本件公正証書遺言及び本件自筆証書遺言に原告の記載がないことの理由の一つとして,P6に対する多額の生前贈与(特別受益)の存在があったとも解し得るなどと主張するが,P5の遺産が純資産価額として26億円を超える超富裕層レベルのものであったことからすれば(甲14),P5がP6に経済的援助をしていたとしても,それは結婚に際しての費用であるとか小遣いにすぎないものというべきであって,その程度の経済的援助であれば,P8も受けていたはずである。
 以上によれば,本件遺言は,原告の相続分を法定相続分である10分の1ではなく零と定めるもので,相続分の指定(民法902条)に当たるというべきである。
(2)これに対し,被告は,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は,遺産の分割の方法を定めたものであり,法定相続分の分数的割合を別の分数的割合に変更するという遺言者の意思が明らかでない限り,相続分の指定を伴うものとは解されないなどとして,本件遺言は,遺産の分割の方法を定めたものであり,相続分を定めたものではないなどと主張する。
 しかし,以下のとおり,本件遺言は,遺産の分割の方法を定めるとともに相続分を定めるものであり,いわゆる「相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定」に当たるといえるから,被告の上記主張は失当である。
ア 遺言で相続分を定める態様には様々なものがあり,相続人の全員又は一部について法定相続分とは異なる相続分の割合を定めるという態様が典型ではあるが,これに限らず,特定の遺産を特定の相続人に相続させるという態様であっても,それにより相続財産全体に対する相続すべき割合が指示されている限り,その遺言は相続分の指定としての法的意義を有すると解されている(甲5・198頁)。
イ そして,遺産分割方法の指定と相続分の指定とは,必ずしも両立しない関係にあるものではなく,ある遺言が遺産分割方法の指定としての法的意義と相続分の指定としての法的意義を併有することがあり得ると解されている(甲5・198頁から199頁まで)。裁判例においても,東京高裁昭和41年(ネ)第1556号,第1639号同45年3月30日判決・判例時報595号388頁(甲6)が「被相続人が自己の所有に属する特定の財産を特定の相続人に取得させる旨の指示を遺言でした場合に,これを相続分の指定,遺産分割方法の指定もしくは遺贈のいずれとみるべきかは,被相続人の意思解釈の問題にほかならないが,被相続人において右の財産を相続財産の範囲から除外し,右特定の相続人が相続を承認すると否とにかかわりなく(たとえば相続人が相続を放棄したとしても),その相続人に取得させようとするなど特別な事情がある場合は格別,一般には遺産分割に際し特定の相続人に特定の財産を取得させるべきことを指示する遺産分割方法の指定であり,もしその特定の財産が特定の相続人の法定相続分を超える場合には相続分の指定を伴う遺産分割方法を指定したものであると解するのが相当である」と判示し,東京高裁昭和51年(ネ)第2777号同60年8月27日判決・判例時報1163号64頁(甲7)が「被相続人が特定の相続財産を特定の相続人に取得させる旨の遺言をした場合には,特別の事情のない限り,これを特定の財産の遺贈とみるべきではなく,遺産分割において右特定の財産を当該相続人に取得させるべきことを指示する遺産分割方法の指定(民法908条)とみるべきものであり,もし右特定の財産の価額が当該相続人の法定相続分を超えるときは,相続分の指定(同法902条)を併せ含む遺産分割方法の指定をしたものと解するのが相当である」と判示しているように,相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定という概念が定着している。
 前掲最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決は,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は,特段の事情がない限り,民法908条にいう遺産の分割の方法を定めたものと解すべきである旨を判示しているが,これは,ある遺言が遺産分割方法の指定としての法的意義と相続分の指定としての法的意義を併有することがあることを否定するものではない。むしろ,前掲最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決が「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である」と判示しているのは,相続させる旨の遺言に対し,遺産分割方法の指定としての法的意義のみならず,相続分の指定としての法的意義をも認める立場を明らかにしたものといえる。
ウ 不動産にしても,株式にしても,特定の相続人が取得した遺産の評価額をめぐって常に争いが生ずる余地があるから,本件遺言に基づいてP5の遺産を相続した他の相続人らについては,各自が取得する遺産の遺産全体に対する割合を一義的な数値をもって確定することができず,国税を納める義務の承継の場面では通則法5条2項にいう「相続分の指定」が存すると認めることはできないと解されることも理解できる。
 他方,本件遺言において間違いなく一義的に確定しているのは,原告がP5の遺産の配分から完全に排除され,これを承継する割合が零であるということである。被告は,相続分の指定は相続財産全体に対する分数的割合で示されなければならないなどと主張するが,原告の相続分を零と定めることは,被告の主張する指定相続分の要件である「分数的割合」として一義的な数値でそれが確定していることを当然に満たすものである。
 これに対し,被告は,前掲東京高裁平成3年2月5日判決及び前掲最高裁平成4年11月16日第一小法廷判決の判示するところから,本件遺言がその名宛人としていない原告の相続分を零と定めたものとは解されないなどと主張するが,最高裁平成6年(オ)第2365号同11年4月23日第二小法廷判決・登記情報453号129頁は,被相続人が6名の相続人のうちの5名に対してその相続分を各5分の1と定めて遺産を包括的に相続させる旨の遺言をした事案において,遺言書に記載のない相続人について,その遺言により相続分はないものと指定された旨の判示をしている。
 また,被告は,本件遺言では,P5の積極財産をどのように分割するかについては定められているものの,消極財産をどのように分割するかについては明らかにされていないことから,他の相続人らはもとより,原告についても,その指定相続分を読み取ることはできないなどと主張するが,遺言で相続分を定めるに当たって,消極財産の承継割合を定めることは必ずしも不可欠なことではなく,特段の事情のない限り,積極財産の承継割合が定められていれば,その承継割合によって相続分が定められたものと認めることができるというべきである。前記イでも引用したとおり,前掲最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決は,「遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり」と判示している。
2 争点2(通則法5条2項の計算の基礎となる原告の相続分が本件遺留分減殺請求によって修正されるかどうか)
(1)民法899条は,各共同相続人は,その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する旨を定めているところ,これについては,遺言で相続分が定められたときは,共同相続人間の内部関係においては債務についても指定相続分に応じて承継されるものの,相続債権者との関係では指定相続分に応じた承継を対抗することはできないと解されている。このように共同相続人間の内部関係と相続債権者との対外的関係とを区別する解釈は,相続債権者の保護の観点からは,やむを得ないものと理解できる。
 他方,通則法5条2項は,上記の民法の解釈とは異なり,遺言で相続分が定められたときは,国税債務は法定相続分ではなく遺言で定められた相続分に応じて承継されるものとしている。これは,遺言でその相続分を定められた相続人は,法定相続分ではなく遺言で定められた相続分に応じた権利を承継するところ,常に法定相続分に応じた国税債務を承継するものとすると,遺言で法定相続分を下回る相続分を定められた相続人にとっては承継する国税債務の負担が過度に重い苛酷なものとなる一方で,遺言で法定相続分を上回る相続分を定められた相続人にとっては,相続分を少なく定められた他の共同相続人の犠牲において,承継する国税債務の負担が軽くなって,共同相続人間に不公平が生じ,更には求償問題をも生じさせかねないからであると解される。同項は,共同相続人間の内部関係と対外的関係とを一致させ,遺産の分配状況と国税債務の承継状況とに比例関係を持たせることにより,担税力に応じた税負担を実現するとともに,求償問題の発生をも回避することができるものとしたのである。
(2)前掲最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決は,前記1(2)に掲げたように判示した上で,「遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ,これに応じた場合も,履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず,相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである」と判示しているところ,これは,共同相続人間の内部関係における相続債務の承継割合が遺留分減殺請求によっても何ら修正されることなくそのまま維持されることを前提とするものであると解される。前記(1)のとおり,通則法5条2項の趣旨が共同相続人間の内部関係と対外的関係とを一致させることにあると解されることからすれば,前掲最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決の判示するところに照らし,原告が承継するP5に課されるべき国税の額の計算の基礎となる相続分についても,本件遺留分減殺請求によって何ら修正されることなくそのまま維持されるものと解すべきである。
 さらに,前掲最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決が,「民法は,遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(1031条),遺留分減殺請求権を行使するか否か,これを放棄するか否かを遺留分権利者の意思にゆだね(1031条,1043条参照),減殺の結果生ずる法律関係を,相続財産との関係としてではなく,請求者と受贈者,受遺者等との個別的な関係として規定する(1036条,1037条,1039条,1040条,1041条参照)など,遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者,受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえる」と判示していることからしても,本件遺留分減殺請求の効果は,原告と他の相続人との関係において個別的な法律関係の変更が生ずるにとどまると解すべきであり,この法律関係の外部にある国との間の国税債務の承継関係については,本件遺留分減殺請求による影響を受けないものと解すべきである。
(3)これに対し,被告は,前掲最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定の判示するところから,本件遺留分減殺請求により,原告の指定相続分は,その遺留分割合に相当する割合である20分の1に修正されるなどと主張するが,以下のとおり,被告の主張は失当である。
ア 前掲最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定は,遺言で遺産の分割の方法が定められず,相続分だけが定められていた事案において,相続分の指定に対して遺留分減殺請求がされた場合について判断したものである。相続分を指定するだけの遺言は,相続開始後に相続人間で遺産分割を行うことを予定し,その遺産分割に当たっての分配基準としての相続分を定めるにすぎないから,このような遺言があったとしても,遺産の共有状態は持続することになり,遺産が相続人に物権的に移転するためには,遺産分割を要することになる。そして,相続分の指定に対して遺留分減殺請求がされたとしても,この分配基準が修正されるにすぎないから,遺産の共有状態が解消されるわけではなく,遺産の物権的な移転のために遺産分割を要することに変わりはない。前掲最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定が「遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される」と判示しているのは,遺産の共有状態を前提に,修正後の指定相続分が遺産分割に当たっての分配基準として機能することを述べているのである。
イ ところが,本件遺言は,相続分だけを定めるものではなく,P5の全ての遺産について相続人を割り当てる「相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定」に当たるのであって,主従を言えば,遺産分割方法の指定が主であり,それによって共同相続人間の遺産の取得割合に修正ないし変更が生ずるという意味で,相続分の指定は従である。このため,本件遺言に対してされた本件遺留分減殺請求は,原告の遺留分が侵害される状態を生じさせた原因である遺産分割方法の指定に対して作用することになる。
 そして,前掲最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決が,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言があるときは,相続開始と同時に当該遺産が当該相続人に自動的に物権的に移転する旨を判示していることに照らすと,本件遺言によりP5の全ての遺産は他の相続人らにそれぞれ物権的に移転することになるから,遺産共有状態が生ずることはなく,遺産分割の余地はないことになる(甲15)。さらに,前掲最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決が「特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない」と判示していることに照らすと,原告は,本件遺留分減殺請求によって,その対象となった財産の共有持分を物権的に取得することになる。すなわち,当該財産について物権法上の共有関係が生ずるのであって,ここにも遺産分割の余地はない。
 このように,本件遺言については,本件遺留分減殺請求の前後を問わず,遺産分割の余地が排除されるものであるから,遺産分割における分配基準としての指定相続分を観念する必要はなく,遺留分減殺請求によって修正された相続分を機能させる場面もないのである。
ウ ところで,被告は,現行民法の遺留分法がゲルマン=フランス型に属するものであるという見解に立ち,これを重視して演繹的な解釈をしようとするが,平成時代に入ってからの遺留分に関する判例の流れは,前掲最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決や「受贈者又は受遺者は,遺留分減殺の対象とされた贈与又は遺贈の目的である各個の財産について,民法1041条1項に基づく価額弁償をすることができる」と判示した最高裁平成11年(受)第385号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1886頁などに現れているとおり,遺留分権利者に遺留分相当の財産価値を保障するローマ=ドイツ型に親和的な方向に向かっているといえる。
 また,被告は,遺留分権利者が遺留分減殺請求をした場合に取得する財産について,遺産分割をする余地がなくても相続財産性を失うものではないなどと主張するが,従来,遺留分減殺請求により取り戻された財産に関しては,相続財産性を認めてその分割は遺産分割によるべきであるとする審判説と相続財産性を否定してその分割は共有物分割によるべきであるとする訴訟説とが対立していたところ,前掲最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決が訴訟説に立つことを明らかにした現在において,遺産分割の対象とならない相続財産なるものを観念する意味が理解できない。そもそも遺留分減殺請求により取り戻される財産は,他の相続人から遺留分権利者に移転するのであって,被相続人から遺留分権利者が承継するのではない。それに,実際の減殺比率(遺留分減殺請求の対象となる財産について減殺を求める持分の比率)は,特別受益などを踏まえた複雑な計算過程によって導かれるものであって,遺留分割合のような整った分数的割合にはなることはまずないのであるから,遺留分減殺請求によって取り戻された財産から修正された指定相続分が想起されるものではない。
 なお,遺留分権利者が限定承認をした場合に被相続人の債権者が遺留分減殺請求権を代位行使し得るかについては,民法起草者は否定説に立っていたが,近時では肯定説が一般である旨の被告の主張は,最高裁平成10年(オ)第989号同13年11月22日第一小法廷判決・民集55巻6号1033頁が,「遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができない」と判示して,それまでの論争に終止符を打ち,これにより,遺留分減殺請求権は特段の事情のない限り行使上の一身専属性を有するという解釈が定着したことを踏まえたものとは解されない。
(4)また,本件遺留分減殺請求により原告の指定相続分がその遺留分割合に相当する割合である20分の1に修正され,原告が承継するP5に課されるべき国税の額がこの割合によりあん分して計算した額になるとする被告の主張に対しては,以下のような問題も指摘できる。
ア 原告は,P5に課されるべき国税の額の20分の1に相当する額を国に納付しなければならなくなるところ,前掲最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決の判示するところからすれば,これを遺留分の額に加算することはできず,別途,他の相続人らに対して求償しなければならないことになる。このような帰結は,求償問題の発生を回避しようとする通則法5条2項の趣旨(前記(1))を没却するものである。
イ また,遺留分権利者は,遺留分減殺請求権を行使したとしても,価額による弁償を受けない限りは,多数の遺産の一つ一つから細切れの持分を回復するにすぎないのが通常であり,市場性の乏しい共有持分を売却して現金化するのは非常に困難であるから,直ちにその支払能力が向上するわけではない。すなわち,遺留分減殺請求権を行使したからといって,担税力が容易かつ早期に形成されるものではない。それにもかかわらず,遺留分減殺請求権の行使によって国税を納める義務が遺留分割合に応じて承継されるとすれば,遺留分権利者は,国税の納付に窮するのみならず,延滞税の増加から疲弊状態に陥ってしまうことになる。このような帰結は,担税力に応じた税負担を実現しようとする通則法5条2項の趣旨(前記(1))を没却するものであるし,ひいては遺留分減殺請求権の正当な行使を萎縮させる弊害すら引き起こしかねないものである。
ウ さらに,遺留分減殺請求権が行使されるか否かによって被相続人に課されるべき国税の額の承継割合が変動するとなると,遺留分減殺請求権の行使の有無が決まるまでは被相続人から承継する国税の額が未確定な状態が続くことになるから、法的安定性が害されることになる。
(5)以上によれば,本件遺言は原告の相続分を零と定めるものであるから,原告が承継するP5に課されるべき平成19年分の所得税の額は0円であり,このことは本件遺留分減殺請求によっても左右されるものではないというべきである。 
 これに対し,本件各処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)には,通則法5条2項の適用を誤り,原告が承継するP5に課されるべき国税の額を20分の1の割合によりあん分して計算した違法がある。
 よって,原告はその各取消しを求めるものである。
(別紙2)本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張
1 本件決定処分の根拠
(1)P5の平成19年分の所得税の課税標準等及び税額等
ア 総所得金額 3億0418万7219円
 上記金額は,次の(ア)から(エ)までの各金額の合計額である。
(ア)不動産所得の金額 1億1051万2801円
 上記金額は,次のaの金額からb及びcの各金額を控除した後の金額である。
a 総収入金額 1億7883万9916円
 上記金額は,P5が平成19年中に日本国及び大韓民国に所在する不動産を貸し付けて得た賃貸料及び名義書換料の合計額である。
b 必要経費の額 6822万7115円
 上記金額は,前記aの総収入金額を得るために直接要した費用,一般管理費その他業務について生じた費用及び減価償却費の合計額である。
c 青色申告特別控除額 10万0000円
 上記金額は,租税特別措置法25条の2第1項の規定により控除される金額である。
(イ)配当所得の金額 1095万5250円
 上記金額は,P5が平成19年中にタキゲン製造から支払を受けた株式の配当の金額である。
(ウ)給与所得の金額 1億7922万9576円
 上記金額は,P5が平成19年中にタキゲン製造,タキゲン産業及びタキゲン育英会からそれぞれ支払を受けた給与等の収入金額の合計額1億9045万2186円から,平成24年法律第16号による改正前の所得税法28条3項の規定により計算した給与所得控除額1122万2610円を控除した後の金額である。
(エ)雑所得の金額 348万9592円
 上記金額は,次のa及びbの各金額の合計額である。
a 公的年金等の金額 245万8866円
 上記金額は,P5が平成19年中に社会保険庁及び東京都電機厚生年金基金からそれぞれ支払を受けた公的年金等の収入金額の合計額377万8488円から,所得税法35条4項の規定により計算した公的年金等控除額131万9622円を控除した後の金額である。
b 公的年金等以外の金額 103万0726円
 上記金額は,P5が平成19年中に独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構から支払を受けた年金の支払金額及びP5が同年中に貸付利息として支払を受けた金額の合計額246万1296円から,必要経費として控除される独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構に対する払込年金保険料143万0570円を控除した後の金額である。
イ 株式等に係る譲渡所得等の金額 17億2531万8750円
 上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を控除した後の金額である。
(ア)収入金額 18億1612万5000円
 上記金額は,P5が平成19年中にタキゲン秀英会に対しタキゲン製造の株式を1株当たり75円で譲渡したことにつき,所得税法59条1項を適用し,その時における価額に相当する金額1株当たり2505円を,当該譲渡した株数72万5000株に乗じた金額である。
(イ)取得費 9080万6250円
 上記金額は,租税特別措置法通達37の10-14の定めにより,前記(ア)の収入金額18億1612万5000円に100分の5を乗じて計算した金額である。
ウ 所得控除の額の合計額 153万8374円
 上記金額は,次の(ア)から(カ)までの各金額の合計額である。
(ア)医療費控除の額 22万4914円
 上記金額は,P5が平成19年中に支払った医療費の合計額32万4914円のうち,所得税法73条1項に規定する金額10万円を超える部分の金額である。
(イ)社会保険料控除の額 71万8460円
 上記金額は,所得税法74条1項の規定により,P5が平成19年中の給与から控除された社会保険料等の金額64万8260円及びP5が同年中に負担した介護保険料7万0200円を合計した金額である。
(ウ)生命保険料控除の額 5万0000円
 上記金額は,P5が平成19年中に支払った生命保険契約等に係る保険料又は掛金38万5728円について平成22年法律第6号による改正前の所得税法76条1項の規定により計算した金額である。
(エ)地震保険料控除の額 5万0000円
 上記金額は,P5が平成19年中に支払った損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金7万9000円について所得税法77条1項の規定により計算した金額である。
(オ)寄付金控除の額 11万5000円
 上記金額は,P5が平成19年中に支払った日本ユニセフ協会に対する寄付金12万円を平成20年法律第23号による改正前の所得税法78条1項の規定により計算した金額である。
(カ)基礎控除の額 38万0000円
 上記金額は,所得税法86条1項に規定する金額である。
エ 課税総所得金額 3億0264万8000円
 上記金額は,前記アの総所得金額3億0418万7219円から前記ウの所得控除の額の合計額153万8374円を控除した後の金額(ただし,通則法118条1項の規定により,1000円未満の端数金額を切り捨てたもの)である。
オ 株式等に係る課税譲渡所得等の金額 17億2531万8000円
 上記金額は,前記イの金額と同額(ただし,通則法118条1項の規定により,1000円未満の端数金額を切り捨てたもの)である。
カ 納付すべき税額 2億7988万7100円
 上記金額は,次の(ア)及び(イ)の合計金額から(ウ)から(オ)までの各金額を控除した後の金額(ただし,通則法119条1項の規定により,100円未満の端数金額を切り捨てたもの)である。
(ア)課税総所得金額に対する税額 1億1826万3200円
 上記金額は,前記エの課税総所得金額3億0264万8000円に所得税法89条1項に規定する税率を乗じて計算した金額である。
(イ)株式等に係る課税譲渡所得等の金額に対する税額 2億5879万7700円
 上記金額は,前記オの株式等に係る課税譲渡所得等の金額17億2531万8000円に平成20年法律第23号による改正前の租税特別措置法37条の10第1項に規定する税率を乗じて計算した金額である。
(ウ)配当控除額 54万7763円
 上記金額は,前記ア(イ)の配当所得の金額1095万5250円に所得税法92条1項の規定により計算した金額である。
(エ)源泉徴収税額 6994万8575円
 上記金額は,P5が平成19年中に受けた配当所得から徴収された所得税の金額219万1050円,P5が同年中に給与所得から徴収された所得税の合計金額6769万0613円及びP5が同年中に雑所得から徴収された所得税の合計金額6万6912円の合計額である。
(オ)予定納税額 2667万7400円
 上記金額は,所得税法104条の規定によるP5の平成19年分所得税の予定納税額(第一期分及び第二期分)の合計額である。
(2)原告が承継する納付すべき税額 2798万8700円
 原告が承継する納付すべき税額は,P5に係る平成19年分の所得税の納付すべき税額2億7988万7100円を,原告の法定相続分である10分の1の割合によりあん分して計算した金額(ただし,通則法119条1項の規定により,100円未満の端数金額を切り捨てたもの)である。
2 本件決定処分の適法性
 被告が本件訴えにおいて主張する,原告が承継する納付すべき税額は前記1(2)のとおり2798万8700円であるところ,この金額は,本件決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)に係る原告が承継する納付すべき税額1399万4300円(別表のEの欄の順号17)を上回るから,本件決定処分は適法である。
3 本件賦課決定処分の根拠及び適法性
 上記2で述べたとおり,本件決定処分は適法であるところ,原告は,所得税法125条1項の規定に基づくP5の平成19年分所得税の申告書を提出しなかったことから、原告に対しては,通則法66条1項及び同条2項の規定に基づき無申告加算税が課されることになる。
 原告に課される無申告加算税の額は,本件決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)に係る原告の納付すべき税額1399万円(ただし,通則法118条3項の規定により,1万円未満の端数金額を切捨てたもの)に対して,同法66条1項及び同条2項の規定に基づき計算した金額277万3000円となるところ,本件賦課決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの)における原告の納付すべき無申告加算税の額(別表のEの欄の順号18)は,これと同額であるから,本件賦課決定処分は適法である。 
(別表)課税処分等の経緯


 

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