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《書 誌》
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【文献番号】 25503124
【文献種別】 判決/神戸地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 平成25年12月13日
【事件番号】 平成24年(行ウ)第6号
【事件名】 所得税更正処分等取消請求事件
【事案の概要】 原告らは、保有していた訴外会社の株式が有価証券報告書の虚偽記載の公表により暴落して、損害を被ったため、同社から損害賠償金等、同社の取締役から和解金の各支払いを受けたところ、処分行政庁が、原告らに対し、同損害賠償金等及び和解金は一時所得、雑所得に当たるとして、それぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことから、原告らが、各処分の取消しを求めた事案において、原告らの請求を一部認容、一部棄却した事例。
【判示事項】 〔TKC税務研究所〕
  1. 旧証取法21条の2にいう損害には虚偽記載と相当因果関係のある損害全てが含まれるか(積極)。
(要旨文献番号:60061435)
  2. 旧証取法21条の2第2項が推定する損害には、虚偽記載による取引所市場の評価の誤りに基づく損害が含まれるか(積極)。
(要旨文献番号:60061436)
  3. 旧証取法は、虚偽記載等の公表により有価証券の市場価額が下落したときに、取引所市場の評価誤りに基づく損害が、有価証券の譲渡等の処分を待たずして、下落部分の中に現実に発生するとの理解に立つものか(積極)。
(要旨文献番号:60061437)
  4. 旧証取法21条の2に基づく損害賠償金は取得時差額に相当する損害を補填する趣旨のものと認められるとした事例。
(要旨文献番号:60061438)
  5. 所得税法施行令30条2号の規定の趣旨。
(要旨文献番号:60061439)
  6. 旧証取法21条の2に基づく損害賠償金について、所得税法9条1項16号及び同法施行令30条の趣旨が当てはまるとした事例。
(要旨文献番号:60061440)
  7. 旧証取法21条の2に基づく損害賠償金が補てんした取得時差額に相当する損害は、損害が発生した年分の雑所得の計算上、必要経費に算入されないとした事例。
(要旨文献番号:60061441)
  8. 旧証取法21条の2に基づく損害賠償金が補てんした取得時差額に相当する損害は、損害が発生した年分の雑所得の計算上、必要経費に算入されないと解することは、所得税法37条1項が必要経費を控除することとした本来の趣旨にも合致するか(積極)。
(要旨文献番号:60061442)
  9. 旧証取法21条の2に基づく損害賠償金が補てんした取得時差額に相当する損害は、損害が発生した年分の雑所得の計算上、必要経費に算入されないと解することは、同法施行令30条柱書き括弧書きの趣旨にも合致するか(積極)。
(要旨文献番号:60061443)
  10. 実際に要した費用の全額を必要経費に計上して申告したことは、それが損害賠償金により補てんされる金額が必要経費に算入されると解する理由になるか(消極)。
(要旨文献番号:60061444)
  11. 旧証取法21条の2に基づく損害賠償金につき、「収入金額に代わる性質を有するもの」に該当しないとした事例。
(要旨文献番号:60061445)
  12. 損害賠償金及び弁護士費用賠償金に係る遅延損害金は非課税所得には該当しないとした事例。
(要旨文献番号:60061446)
  13. 弁護士費用賠償金の全てが所得税法施行令30条柱書き括弧書きに定める非課税所得の除外事由に該当しないとした事例。
(要旨文献番号:60061447)
【裁判結果】 一部認容、一部棄却
【上訴等】 確定
【裁判官】 東亜由美 遠藤浩太郎 和田山弘剛
【掲載文献】 判例時報2224号31頁
【参照法令】 所得税法9条(平成22年法律6号改正前)
所得税法施行令30条(平成22年政令50号改正前)
所得税法施行令94条(平成22年政令50号改正前)
金融商品取引法21条の2(平成18年法律65号改正前)
【評釈等所在情報】 〔日本評論社〕
週刊税務通信3305号8頁
有報の虚偽記載に係る損害賠償金は非課税:神戸地裁 税務当局の更正処分等を一部取消し
藤原眞由美・税研JTRI29巻6号96頁
有価証券報告書の虚偽記載による損害賠償金等の非課税所得該当性〈TAINS推薦判例〉
藤原眞由美・税理57巻9号104頁
有価証券報告書の虚偽記載による損害賠償金の非課税所得該当性〈判決インフォメーション〉
山名隆男・立命館法学353号1頁
損害金額の必要経費算入と損害賠償金の課税・非課税:神戸地方裁判所平成25年12月13日判決を契機として
佐藤孝一・月刊税務事例46巻11号10頁
金融商品取引法21条の2に基づく取得時差額に相当する損害賠償金は、非課税所得に該当するとした事例:所得税法51条4項の解釈・適用を中心として〈租税判例研究〉
【引用判例】 (当判例が引用している判例等)
最高裁判所第三小法廷 平成22年(受)第755号
平成24年 3月13日
最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)第280号
昭和44年 2月27日
福岡高等裁判所 平成21年(行コ)第33号
平成22年10月12日
最高裁判所第三小法廷 昭和55年(オ)第1113号
昭和58年 9月 6日
名古屋高等裁判所 平成21年(行コ)第55号
平成22年 6月24日
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 《全 文》

【文献番号】25503124  

所得税更正処分等取消請求事件
神戸地方裁判所平成24年(行ウ)第6号
平成25年12月13日第2民事部判決
口頭弁論終結日 平成25年10月22日

       判   決

当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり


       主   文

1 処分行政庁が平成22年6月24日付けで原告Aに対してした平成21年分所得税の更正のうち,総所得金額4289万1215円,納付すべき所得税額921万2300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち13万1000円を超える部分をいずれも取り消す。
2 処分行政庁が平成22年6月24日付けで原告Bに対してした平成21年分所得税の更正のうち,総所得金額771万4304円,納付すべき所得税額100万6400円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち1万9000円を超える部分をいずれも取り消す。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを4分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
1 処分行政庁が平成22年6月24日付けでした原告Aの平成21年分所得税の更正のうち,総所得金額2300万4445円,納付すべき税額125万7900円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。
2 処分行政庁が平成22年6月24日付けでした原告Bの平成21年分所得税の更正のうち,総所得金額198万5185円,納付すべき税額5万4900円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
1 原告らは,平成18年,保有していた株式会社C(平成19年4月2日に株式会社Dに,平成20年8月1日に株式会社Eにそれぞれ商号変更した。以下「C」という。)の株式が有価証券報告書の虚偽記載の公表により暴落して,損害を被ったため,平成21年,Cから損害賠償金等(以下「本件損害賠償金等」といい,これは,後述の本件損害賠償金,本件弁護士費用賠償金及び本件遅延損害金を総称する。),Cの取締役であったFから和解金(以下「G和解金」という。)の各支払を受けた。本件は,処分行政庁が,原告らに対し,本件損害賠償金等及びG和解金は平成21年分の一時所得,雑所得に当たるとして,それぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことから,原告らが,各更正処分のうち更正の請求により減額を求めた金額を上回る部分の各取消し及び各過少申告加算税賦課決定の各取消しを求めた事案である。
 なお,G和解金は,国税不服審判長の裁決により原告らの平成21年分の各所得から除外された。
2 関係法令の定め
 関係法令の定めは別紙2のとおりである(以下,「法」とは,所得税法(平成22年3月法律第6号による改正前のもの),「令」とは,所得税法施行令(平成22年3月政令第50号による改正前のもの。),「旧証取法」とは,平成18年法律第65号による改正前の金融商品取引法をいう。)。
3 前提事実(争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実)
(1)当事者及びC株式の売買(争いなし)
ア 原告Aは税理士業を営む者,原告Bはその事業専従者として勤務する者であるが,原告らは税理士業務の傍ら,営利を目的として継続的にC株式の取引を行っていた。原告らによる取引状況は別表2-1及び2-2のとおりである。
イ 原告らは,平成18年1月18日時点でC株式を保有していたが,同日,Cが関東財務局長に提出していた平成16年9月期の有価証券報告書中の重要事項の部分に虚偽記載(以下「本件虚偽記載」という。)があることが公表された(以下「本件公表」という。)ため,C株式の株価は暴落した。
ウ 原告らは,平成18年1月25日及び同月26日,同月18日時点において保有していたC株式の全てを売却した。原告らによる売却状況は別表3-1及び3-2のとおりである。
(2)別件事件の経緯(争いなし)
ア 原告らを含む多数人は,Cらを被告とする東京地方裁判所平成18年(ワ)第8743号外の損害賠償請求事件(以下「別件事件」という。)を提起し,同裁判所は,平成21年7月9日,Cらに対し,原告らを含む別件事件の原告らに損害賠償金を支払うことを命じる判決(甲3。以下「別件事件判決」という。)を言い渡した。
イ 同裁判所は,別件事件判決において,Cが平成16年9月期の有価証券報告書を提出した後に原告らが取得したC株式のうち平成18年1月18日当時原告らが保有していたものについて,旧証取法21条の2第2項により推定される額から,同第5項により相当な額を減じたC株式1株当たりの損害額を200円(ただし,同法19条1項の例により算出した額を超えない限度)と認定した上で,原告らのCらに対する請求について,〔1〕1株当たり200円に平成18年1月18日当時原告らが保有していた株式数を乗じ,後述のG和解金を控除した金額(以下「本件損害賠償金」という。),〔2〕弁護士費用のうち,相当因果関係の範囲内にある損害として,本件損害賠償金の5%相当額(以下「本件弁護士費用賠償金」という。),〔3〕本件損害賠償金及び本件弁護士費用賠償金の合計金額に対する平成18年5月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれらを認容した。
ウ 原告らは,別件事件判決に先立つ平成19年12月12日,Cの取締役であったFとの間で裁判上の和解を成立させ,同和解に基づき,原告Aは432万1095円,原告Bは124万8265円の和解金を取得した(G和解金)。
エ 原告らは,別件事件判決後の平成21年7月23日,Cとの間で,Cが原告らに対し,別件事件判決で認容された本件損害賠償金及び本件弁護士費用賠償金並びにこれらに対する平成18年5月28日から平成21年7月23日まで年5分の割合による遅延損害金(以下「本件遅延損害金」という。)を,同日限り,別件事件における原告ら訴訟代理人の指定する銀行口座に振込み,両者間の紛争を解決する旨合意をした(以下「本件和解合意」という。)。
オ 別件事件における原告ら訴訟代理人は,本件和解合意に基づいて,Cから支払われた本件損害賠償金等から同代理人に係る報酬金及び訴訟費用等(以下「本件弁護士費用実費」という。)を控除した金額を,原告Aについては平成21年8月10日及び12日の2回に分けて,原告Bについては,同月7日に,各人の銀行口座にそれぞれ振り込んだ。
カ 本件損害賠償金等及び本件弁護士費用実費の額は,別紙3のとおりである。
(3)課税の経緯(詳細は別表1-1及び1-2のとおりである。)(争いなし)
ア 確定申告
 原告らは,平成22年3月15日付けで,処分行政庁に対して,平成21年分の所得税の各確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)を提出した。本件各確定申告書において,原告らは,本件遅延損害金に係る所得を雑所得に含める一方,本件損害賠償金,本件弁護士費用賠償金及びG和解金については,確定申告の対象としなかった。
イ 修正申告
 原告らは,平成22年6月1日付けで,処分行政庁に対し,平成21年分の所得税の各修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)を提出した。本件各修正申告書において,原告らは,翌年以降に繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額を平成18年分について減額したが,納付すべき税額に異同はなかった。
ウ 更正の請求
 原告らは,平成22年6月9日付けで,処分行政庁に対して,それぞれ更正の請求を行った。この更正の請求において,原告らは,本件遅延損害金に係る所得についても非課税所得であるとして,同所得に係る所得金額を,本件各確定申告書における雑所得の金額から除外した。
エ 通知処分
 処分行政庁は,平成22年6月22日付けで,上記各更正の請求に対して,更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)を行った。
オ 更正処分及び加算税賦課決定処分
 処分行政庁は,平成22年6月24日付けで,原告らの平成21年分所得税について,所得税額等を更正する旨の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各加算税賦課決定処分」という。)を行った。本件各更正処分において,処分行政庁は,本件遅延損害金に相当する金額を雑所得の金額に含め(必要経費の金額は0円),本件損害賠償金,本件弁護士費用賠償金及びG和解金に相当する金額を,一時所得に係る総収入金額として(本件弁護士費用実費を,収入を得るために支出した金額として,一時所得の金額の計算上,総収入金額から控除している。)認定した。また,原告らが本件各修正申告書において減額した翌年以降に繰り越される平成18年分の上場株式等に係る譲渡損失の金額については,減額前の本件各確定申告書における金額を,当該譲渡損失の金額として認定した。
カ 異議申立て及び異議決定
 原告らは,平成22年8月20日付けで,処分行政庁に対し,それぞれ異議申立てを行い,本件各通知処分並びに本件各更正処分及び本件各加算税賦課決定処分の各取消しを求めた。
 これに対し,処分行政庁は,原告らに対し,同年11月16日付けで,上記各異議申立てをそれぞれ棄却する旨の各異議決定を行った。
キ 審査請求及び裁決
 原告らは,上記各異議決定を不服として,平成22年12月14日付けで,国税不服審判所長に対し,それぞれ審査請求を行い,本件各通知処分並びに本件各更正処分及び本件各加算税賦課決定処分の各取消しを求めた。
 国政不服審判所長は,平成23年12月2日付けで,上記各審査請求をそれぞれ棄却する旨の各裁決を行った。
 上記各裁決において,国税不服審判所長は,G和解金に係る所得について,その帰属年分を平成21年分ではなく平成19年分であるとして原告らの平成21年分の所得から除外したが,本件損害賠償金等に係る所得を,いずれも,原告らの平成21年分の課税所得に該当するとし,その所得区分については雑所得と認定した。
(4)本件訴訟の提起(当裁判所に顕著)
 原告らは,平成24年1月31日,本件訴えを提起した。
4 争点
(1)本件損害賠償金が令30条柱書き括弧書きが規定する「各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額」に該当するか(争点1〔1〕)
(2)本件損害賠償金が令30条2号括弧書きに規定する非課税所得の除外事由に該当するか(争点1〔2〕)
(3)本件遅延損害金が非課税所得に該当するか(争点2)
(4)本件弁護士費用賠償金が非課税所得に該当するか(争点3)
5 争点1〔1〕に対する当事者の主張
【被告の主張】
(1)基本的主張
ア 別件事件判決は,原告らの損害につき,潜在的には,C株式の「取得時点において,本来あるべき市場株価と現実の市場株価(取得株価)の差額(取得時差額)相当の損害を被ったということができる」と認定するから,本件損害賠償金は,原告らが平成18年1月18日時点で保有していたC株式に係る取得費を補てんするものといえる。
 原告らはC株式につき営利を目的として継続的に売買を行っていたから,その譲渡から生じる所得は譲渡所得に該当せず,雑所得以外のいずれの所得にも該当しないから,雑所得に該当する。
 そして,C株式の取得費は,雑所得の金額の計算上,「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」(法37条1項)として必要経費に算入されるものであり,実際にも,原告らは,平成18年分の所得税の確定申告において,C株式に係る取得費を,平成18年分の株式の譲渡に係る必要経費に計上し,平成18年分のC株式に係る譲渡収入から控除している。
 したがって,本件損害賠償金は,令30条柱書き括弧書きにいう「各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額」に該当する。
イ なお,最高裁平成24年3月13日第三小法廷判決・民集66巻5号1957頁(以下「C最高裁判決」という。)は,旧証取法21条の2第1項及び第2項にいう「損害」とは,一般不法行為の規定に基づきその賠償を請求することができる損害と同様に,虚偽記載等と相当因果関係のある損害を全て含むと解するとして,取得時差額損害以外の損害が含まれ得ることを判示するにすぎないから,個別の事件で被害者が賠償を受ける損害内容が前記の取得時差額であっても問題はなく,旧証取法21条の2についてC最高裁判決の立場を採用した場合における損害賠償金の実質的性質が変わるわけでもない。また,同条2項を適用するかどうかは損害の立証あるいは算定の問題であるから,その適用いかんによって損害賠償金の実質的性質が異なるとは考え難く,同項の規定によらずに損害賠償請求権が認められた場合の損害賠償金も,取得費を補てんする性質を有する。
(2)原告らの主張に対する反論
ア 取得費を補てんするものではないとの主張について
 原告らは,譲渡所得の金額を「売買差損」(株式の取得費と譲渡による収入金額との差額)と通常の取引によって生じた「譲渡損失」に区分して独自の理論を展開して,本件損害賠償金は売買差損を補てんするものであると主張する。しかし,所得税法上,売買差損について定めた規定は存在しない。そもそも,原告らの主張する売買差損は,詰まるところ,譲渡損失とイコールであり,C株式取得時点における本来あるべき市場株価と現実の市場株価の差額相当の損害額は,所得税法上,原告らがC株式を譲渡した時点では,当該株式の売却価格から差し引かれる取得価格に潜在的に含まれており,株式の譲渡に係る譲渡所得等の計算上,譲渡損失の一部として現れるにすぎないから,原告らの上記主張には理由がない。
 また,原告らは過大に出捐させられた生活用資産である金銭が損害であるとも主張するが,原告らがC株式を取得した際,その取得に係る金銭は証券会社との間で決裁されたところ,別件事件判決が認定するとおり,証券会社との取引には何ら瑕疵がないから,証券会社に対し本来支払う必要のない金銭を支払ったこと自体が損害となるわけではなく,C株式の取得費に本件虚偽記載がなければ本来あるべき市場価格で取得できたという要因が内包されているにすぎない。加えて,原告らは,C株式について,営利を目的として継続的に売買を行っていたものであるから,原告らが保有していたC株式は業務の用に供される資産であったということができる。したがって,本件損害賠償金の対象が生活用資産である金銭とはいえない。
イ 令30条柱書き括弧書きの趣旨に照らして,本件損害賠償金は同括弧書きに当たらないとの主張について
 原告らは,令30条柱書き括弧書きの適用があるのは,必要経費として控除された金額が税額を減額させる効果(以下「税効果」という。)を有する場合に限られるとした上で,本件損害賠償金を必要経費に算入しても税効果が生じないから,本件損害賠償金は同括弧書きに当たらないと主張する。
 しかし,令30条柱書き括弧書きの趣旨は,必要経費に算入される金額が補てんされた場合,当該金額は必要経費として収入金額から控除され,課税の対象にはならない上に,当該金額を補てんする損害賠償金まで非課税になれば,所得計算上,二重に控除されることになるから,これを防ぐことにある。本件において,原告らは,平成18年1月25日及び26日に,同月18日時点で保有していた株式の全てを譲渡したことにより,譲渡に係る取得費は,平成18年分の株式に係る譲渡収入から必要経費として控除され,本件損害賠償金はその取得費を補てんするために支払われているから,本件損害賠償金については,上記の二重控除が正に問題となる。
 また,租税特別措置法37条の12の2(平成20年法律第23号による改正前のもの。以下同じ。)第6項は,ある年に上場株式等による譲渡損失の金額が生じた場合,その年の翌年以後3年以内の各年分の株式等に係る譲渡所得の金額から上記株式等の譲渡による譲渡損失の金額の繰越控除することを認めているところ,上記繰越期間の内に税効果が生じたかどうかをもって課税・非課税が判断されることとなれば,当該年分の所得税の金額が確定しないこととなる。このような事態は,所得税の納付すべき税額が確定するときは暦年の終了の時と定めた国税通則法15条,さらに収入金額の計上時期を定めた所得税法36条の規定に反し,到底認められない。
 さらに,令30条柱書き括弧書きを税効果がある場合に限り適用されるものと解すると,同一の文言について,個々の納税者における所得金額の個別発生状況に応じて法律解釈を異にすることにほかならず,課税の公平性,予見可能性を確保する観点からも相当でない。
 したがって,令30条柱書き括弧書きは,税効果があるか否かによって,その適否が左右されるものではない。
(3)平成18年分の申告との関係について
 原告らは,本件損害賠償金が,C株式の取得費を補てんするものであるとするならば,実際にC株式の取得に要した金額から本件損害賠償金を控除して(以下,これを「両落ち」という。),修正申告又は更正処分により,平成18年分の所得計算を是正すべきであると主張するが,損害賠償金について「両落ち」に係る法令上の根拠はなく,飽くまでも必要経費として申告された以上これを否認する根拠はないから,両落ちによる処理は不可能である。
 また,両落ちによる処理,つまり実際に必要経費として申告された取得費を事後になって否認しようとするとき,次のような不都合が生じる。すなわち,株式等の譲渡による譲渡所得等の計算上,譲渡収入から損害を含んだ取得費を控除した年分において,仮に,損害額を除く取得費を上回る譲渡収入があった場合,上記損害額を除く取得費を上回る譲渡収入は,損害額の一部に対応する取得費により譲渡収入が減算され,かつ,その余の損害額は,譲渡損失として翌年以後3年間繰り越されることになる。そうすると,その後において,当該損害額の一部を補てんするための損害賠償金を受け取った場合には,当該損害賠償金は,譲渡収入を減算させた損害額を補てんするものであるのか,翌年以降に繰り越された損害額を補てんするものであるのかが判断できないことになる。
 そもそも,法は収入金額の計上時期について権利確定主義を採用しているところ,本件損害賠償金の課税年分は平成21年分であるから,本件損害賠償金について,平成18年の所得計算是正で対処するのが相当とする原告の主張は失当である。
 さらに,原告らは,「所得の計算上必要経費に算入される金額」とは,所得計算において国税に関する法律の規定に従って必要経費に算入されるべき金額をいい,誤って必要経費に算入した金額を含まないと主張するが,法37条は,その年分の必要経費に算入できる費用は,原則としてその年において債務の確定しているものに限るという債務確定主義を採っており,必要経費に算入すべき金額について違法又は不当な支出であっても収入を得るために必要な支出であれば必要経費として控除できるものとされている。原告らがC株式の取得に要した費用は,その取得時点で債務が確定しており,平成18年分の株式等の譲渡による所得金額の計算上,原告らが間違えて取得費を過大計上したものではないから,修正申告により是正することはできない。
 原告らが主張する両落ちのような対応ができないことは,その根拠規定がないから,常識に反する結果が生じるとしても,現行法上の解釈論では救済されない,いわばやむを得ない結果として評価せざるを得ない。
(4)先物取引に係る裁判例との比較
 原告らは,商品先物取引に関し,不法行為に基づく損害賠償金として支払われた和解金が非課税所得であると判示した2件の高等裁判所の判決(福岡高等裁判所平成22年10月12日判決(平成21年(行コ)第33号所得税更正処分等取消請求控訴事件、同附帯控訴事件)及び名古屋高等裁判所平成22年6月24日判決(平成21年(行コ)第55号所得税更正処分取消等請求控訴事件。)。以下,それぞれ,「福岡高裁平成22年判決」及び「名古屋高裁平成22年判決」という。)からみても,本件損害賠償金は非課税所得に該当すると主張するが,本件はこれらの判決とは事案を異にする。
ア 福岡高裁平成22年判決について
 福岡高裁平成22年判決は,同事件における損害賠償金の実質について,全体として正常な取引を大きく逸脱した勧誘行為により被害者の金銭等の資産に加えられた実損害を補てんするもの,すなわち先物取引から生じた損失の金額を賠償するものと認定している。しかし,同判決における損害賠償金は,先物取引に係る必要経費を控除した後の金額を賠償する金員であり,当該損失の金額に相当する金額自体,各種所得の計算上必要経費として控除されることはあり得ないため,同損害賠償金について令30条柱書き括弧書きの適用が否定された。 
 これに対し,本件損害賠償金は,先物取引全体から生じた損失の金額を基に算定された同判決における損害賠償金とは異なり,C株式の売却による収入金額とその取得費との差額である取引全体の損失の金額を基に算定されているわけではなく,同株式に係る取得費の妥当性のみを基に,その金額が算定されている。また,本件損害賠償金は,福岡高裁平成22年判決における損害賠償金と異なり,売買から生じた損失を補てんするものではなく,取得費,すなわち,必要経費を補てんするための金額である。
 さらに,同判決は正常な取引を大きく逸脱した勧誘行為による取引が行われた事案であるのに対し,本件において原告らが行ったC株式の取引行為自体には瑕疵が認められない事案であって,この点においても同判決とは事案が異なる。
イ 名古屋高裁平成22年判決について
 名古屋高裁平成22年判決は,違法に委託手数料の支払をさせるなどしたこと自体が被害者に損害を発生させる不法行為であり,和解金はそのような不法行為によって被害者が被った損害に対する原状回復のための損害賠償金の一部であって,被害者が支払わされた多額の委託手数料等は,その取得のみを目的とする取引業者の違法な行為による損害そのものであり,売買差益を得るための必要経費などではないことを理由に,その損害を補てんする損害賠償金に令30条柱書き括弧書きの適用はないとした。
 これに対し,本件では,別件事件判決において,C株式の取得費を支払わせたこと自体が原告らに損害を発生させる不法行為と評価されたわけではなく,取引自体には瑕疵がないと認められたから,同判決とは事案が異なる。
【原告らの主張】
(1)基本的主張
ア C株式の売買により生じた損失(売買差損)の金額には,通常の取引によって生じた譲渡損失の金額と虚偽記載という不法行為によって生じた損害の両方が含まれるところ,本件損害賠償金は後者を補てんするものであって,前者を補てんするものではない。すなわち,過大に出捐させられた金銭こそが損害であるから,本件損害賠償金は,譲渡所得を得るための必要経費である取得費を補てんするものではなく,虚偽記載という不法行為がなければ原告らが支出しなくて済んだ金額を補てんするものであり,原告らの生活用資産である金銭に加えられた実損害を補てんするものであって,必要経費の概念を入れる余地がない。
 したがって,本件損害賠償金は,令30条柱書き括弧書きにいう「各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額」に該当しない。
イ そもそも,所得税は,利得の発生を捉えて担税力があるとして課されるもので,損害の回復に当たるものは純資産のマイナスをゼロにするだけで,担税力を増加させるものでないことから非課税とされるのである。本件損害賠償金は,虚偽記載という不法行為がなければ支出しなかった金銭を補てん・回復させるものであって,何ら原告らに利得を発生させるものでないから,本件損害賠償金に課税することは,利得のないところに課税するものであって,所得税の根幹に抵触し,許されない。
(2)被告の主張に対する反論
ア 被告は,別件事件判決がいわゆる取得時差額説の立場を採ることを理由に本件損害賠償金の実質が取得費を補てんするものであると主張する。しかし,別件事件判決で示された取得時差額の考え方は損害賠償金額の算定に関するものにすぎず,むしろ,原告らの主張の方が,虚偽記載が明らかになりC株式の市場価額が下落した時点で原告らが被った損害が顕在化したとする別件事件判決に沿うものである。
 また,被告は,原告らが,C株式の取得費を平成18年分の所得の計算上必要経費に算入したことを根拠にして,本件損害賠償金が金銭という生活用資産に加えられた損害であることを否認するが,原告らは,申告時に損害金額が認識できなかったためにそのように申告せざるを得なかったにすぎず,本件損害賠償金に相当する金額は本来取得費の一部ではなく,必要経費には算入されない金額である。
イ 被告は,本件損害賠償金は取得費として平成18年分の株式に係る譲渡収入から控除されているから,二重の控除を防ぐという令30条柱書き括弧書きの趣旨が本件損害賠償金にも妥当すると主張する。しかし,収入を非課税とすることが二重の控除に当たる場合とは,税効果がある場合に限られ,収入を必要経費に算入しても税額を減額させる効果が生じない場合には,収入を非課税とすることに何ら問題はなく,令30条柱書き括弧書きの趣旨は当たらないから,同括弧書きは適用されないと解すべきである。本件では,平成18年における原告らの所得金額は,所得計算上,本件損害賠償金を大きく上回る赤字であって,本件損害賠償金を必要経費に算入しても所得額が赤字であることに変わりはなく,税額は0円である上,租税特別措置法37条の10(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく分離課税がされており,税効果が生じないことが明らかである。したがって,本件損害賠償金には令30条柱書き括弧書きが適用されない。
 被告は,上記のように解すると,当該年分の所得税が確定しないと主張するが,本件は,平成21年分の所得税の申告の時点で,損失繰越が認められる期間(平成19年から同21年)を通じても税効果がないことが確定していた事案であるから,本件においては失当の主張である。また,損害賠償金を取得した日の属する年の確定申告時には,その年の株式譲渡所得や配当所得の有無・金額が全て判明している上,当然のことながら必要経費控除した年の繰越損失の金額も判明しているのであるから,非課税部分を特定できないはずがない。
(3)平成18年分の申告との関係について(法51条4項により「両落ち」で処理するのが相当であること)
ア 本件損害賠償金が,C株式の取得費を補てんするものであるとするならば,原告らが平成18年分のC株式の譲渡に係る所得金額を計算するに際して,取得費として計上した額のうち,虚偽記載によって支出を強いられた損害が含まれることが後に判明したこととなる。そして,被告の主張によれば,C株式は,法51条4項の「雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産」に当たるから,本件損害賠償金は,同項の「損失の金額」となり,本件損害賠償金によって「補てんされる部分の金額」は必要経費から除かれる。そうだとすれば,実際にC株式の取得に要した金額から本件損害賠償金を控除して,修正申告又は更正処分により,平成18年分の所得計算を是正することで,本件損害賠償金が必要経費に算入される金額を補てんするための金額(令30条柱書き括弧書き)にならず,本件損害賠償金は非課税となるわけであり,実際,原告らは修正申告を行った。
 仮に平成18年に本件損害賠償金を取得したのであれば,その金額を取得費から控除することとなるところ,偶々,本件損害賠償金を取得したのが平成21年であったというだけで,同年の課税所得に当たるというのは明らかに不合理である。
イ 国税通則法23条,24条が,納税申告書に記載された計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき等に,更正又は更正の請求を認めていることに照らすと,令30条柱書き括弧書きにいう「所得の計算上必要経費に算入される金額」とは,所得計算において国税に関する法律の規定に従って必要経費に算入されるべき金額をいい,誤って必要経費に算入した金額を含まないと解されるところ,本件において,原告らはC株式の取得のためと思って支出したものが不法行為によって過大な支出を強いられたのであるから,必要経費には本来該当しないものが必要経費として過大に計上されただけである。被告は,取得費を事後になって否認するのは不都合が生じるとも主張するが,修正を要する年分の翌年分以降の申告所得金額も合わせて修正することで対処することとなるから,何ら不都合は生じない。
 また,被告は,本件損害賠償金の課税年分が平成21年分であることを理由に両落ちによる処理を否定するが,両落ちは法51条4項に基づく当然の処理であって,権利確定主義によって左右される問題ではない。この点,被告は違法又は不法な支出であっても必要経費として控除できるとされる旨主張するが,本件において原告らは何ら違法又は不当な支出をしていないから,被告の主張は当を得ない。
(4)先物取引に係る裁判例との比較
 被告は,本件と福岡高裁平成22年判決及び名古屋高裁平成22年判決とは事案が異なると主張する。
ア 福岡高裁平成22年判決について
 しかし,福岡高裁平成22年判決は,和解金のうち損害賠償金に相当する部分は,手数料等の実費を含む売買差損等によって実損害を補てんする損害賠償金であるとして,令30条柱書き括弧書きの適用を否定した。本件損害賠償金は,手数料等の実費損害を含まないものの,C株式の売買差損を補てんする点で同判決における損害賠償金と異ならない。
 同判決における事案でも,先物取引行為が無効とされたわけではないし,取引による結果を覆滅して投資金額の全額が損害賠償の金額とされたわけでもない。結局のところ,不法行為による損害を補てんするための損害賠償金について論じた同判決と本件とは,事案を同じくするものである。
イ 名古屋高裁平成22年判決について
 名古屋高裁平成22年判決は,違法に委託手数料の支払をさせるなどしたこと自体が不法行為であり,和解金はそのような不法行為によって被害者が被った損失に対する原状回復のための損害賠償金の一部であるとして,令30条柱書き括弧書きの適用を否定したところ,本件損害賠償金もCの不法行為によって原告らが被った損害に対する原状回復のための損害賠償金である。また,同判決は,同括弧書きの適用があり得る場合としては,和解金の中に被害者が得られるはずであった利益の補償など純資産の増加を伴う趣旨のものが一部でも含まれているような場合であるとするが,本件損害賠償金の中に,原告らが得られるはずであった利益の補償など純資産の増加を伴う趣旨のものは含まれていない。したがって,本件においても同括弧書きの適用はない。
 同判決の事案においても,取引自体が違法でなかったこと,不法行為による損害に対する賠償金が問題となったことは,本件と同じである。同判決は,取引行為に瑕疵があるなどとは判示していないから,別件事件判決が取引行為に瑕疵がない旨判示したことをもって,本件と名古屋高裁平成22年判決における事案とを区別することはできない。
6 争点1〔2〕に対する当事者の主張
【被告の主張】
(1)令94条1項柱書き該当性について
 仮に本件損害賠償金の実質が必要経費を補てんするものでなく,C株式の売買により生じた損失の金額を補てんするものであるとしても,前記5【被告の主張】(1)イのとおり,C株式の譲渡から生じる所得は雑所得であり,同株式は雑所得を生ずべき業務に係る資産といえるため,C株式は棚卸資産(商品)(令3条1号)に準ずる資産(令81条1号)に該当し,本件損害賠償金は,同資産が損害を受けたことにより取得した損害賠償金と認められる。このとおり,C株式が「商品」(令3条1号)に準ずる資産であり,「令3条各号に掲げる資産に準ずる資産」(令81条1号)に当たることについては,法2条1項16号における棚卸資産の定義上,有価証券が除外されていることから疑問がないわけではないが,同号に規定する棚卸資産と,実定法上に定義規定のない「たな卸資産に準ずる資産」とは資産の範囲を異にすると考えられること(このことは,令81条2号において,減価償却資産で138条の規定に該当するもの,同条3号において,減価償却資産で139条1項の規定の適用を受けたものと規定されており,減価償却資産についてもたな卸資産に準ずる資産として取り扱われていることから,明らかである。),法2条1項16号における棚卸資産は事業所得以外の所得については用いることのできない概念であることからすれば,法が棚卸資産から有価証券を除外していることはC株式が令81条各号に掲げる資産に該当しないことの理由にはならない。
 そうすると,本件損害賠償金は,正に同資産を売却した場合の収入に代わって得られるものであり,「収入金額に代わる性質を有するもの」(令94条1項柱書き)に当たる。
(2)令94条1項1号該当性について
 上記のとおり,C株式は,令3条1号が規定する「商品」に準ずる資産(令81条1号)に該当するから,令94条1項1号が規定する「81条各号(譲渡所得の基因とされないたな卸資産に準ずる資産)に掲げる資産」となる。
 なお,原告らは,「損失」を生じる原因は物の損壊や権利侵害により受けるものに限る旨主張するが,そのように解すべき条文上の根拠はない。
(3)したがって,仮に本件損害賠償金の実質がC株式の売買により生じた損失の金額を補てんするものであるとしても,令94条1項の適用があるから,令30条2号括弧書きに規定する非課税所得の除外事由に当たる。
【原告らの主張】
(1)令94条1項柱書き該当性について
 法2条1項16号は棚卸資産から有価証券を除外した上で,その定義の細則的事項について令に委任し,令3条が棚卸資産の範囲を規定しているところ,令81条に規定されたたな卸資産に準ずる資産に有価証券を含めることは,明らかに法の委任の範囲を逸脱する解釈である。
 本件損害賠償金は,譲渡損失の金額を補てんするものではなく,売買差損の金額のうち損害金額を補てんするものであるところ,これが「その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するもの」(令94条1項柱書き)に該当しないことは明らかである。
(2)令94条1項1号該当性について
 令94条1項1号が予定している「損失」を生じる原因は,棚卸資産や山林といった有形資産,工業所有権等の無形資産が限定列挙されているとおり,物の損壊や権利侵害などであるところ,Cによる虚偽記載によってC株式が損傷されたわけでも権利侵害されたわけでもないから,本件損害賠償金は同号にいう「損失を受けたことにより取得する損害賠償金」に当たらない。
(3)したがって,本件損害賠償金は,令94条1項に該当しないから,令30条2号括弧書きに規定する非課税所得の除外事由に当たらない
 なお,被告の主張を前提としても,租税特別措置法37条の10が規定する本件損害賠償金は株式等の譲渡に係る所得になるはずであって,租税特別措置法37条の12の2第6項に基づき繰越損失の金額を控除できるから,所得金額が生じないことは明白である。
7 争点2に対する当事者の主張
【被告の主張】
 本件遅延損害金は,債務の履行遅滞による損害賠償金であり,得べかりし利益に対する収益補償金であることから,法9条1項16号が規定する「心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するもの」に該当しない。不法行為による損害賠償金と,単なる貸付金の場合とで,遅延損害金の性質が左右される合理的な理由はない。
 したがって,本件遅延損害金は非課税所得に該当しない。
【原告らの主張】
 本件遅延損害金もCによる不法行為により原告らが被った損害であり,不法行為による損害賠償金に対する遅延損害金と貸付金等運用が予定された金銭債権に対する遅延利息とは,全く異質のものである。すなわち,不法行為による損害賠償金の支払の遅滞は,運用益を生むものではなく,それ自体新たな不法行為として,新たな損害を発生させ続けるものである。
 交通事故の被害者が損害賠償金に加えて遅延損害金を得た場合に,遅延損害金に対して所得税が課税された実務例などない。
8 争点3に対する当事者の主張
【被告の主張】
(1)本件弁護士費用賠償金は,原告らが別件事件において要した弁護士費用を補てんするものである。本件損害賠償金は雑所得に該当するところ,雑所得の金額の計算上総収入金額に算入されることからすれば,別件事件判決を得るために原告らが支払った弁護士費用は,「総収入金額を得るため直接に要した費用の額」(法37条1項)として,雑所得の金額の計算上必要経費に算入される。したがって,本件弁護士費用賠償金は,令30条柱書き括弧書きに該当することとなり,非課税所得に該当しない。
(2)原告は,本件損害賠償金が非課税所得であり,本件遅延損害金が課税所得である場合においても,本件弁護士費用賠償金が必要経費に当たらないと主張する。しかし,本件弁護士費用実費のうち本件遅延損害金に対応する部分は,本件遅延損害金を得るために要した費用であるといえるのであって,本件遅延損害金が弁護士費用をかけずに得られた収入であるとはいえないし,弁護士の役務提供と因果関係や対価関係がないともいえない。したがって,上記のような場合,本件弁護士費用実費のうち本件遅延損害金に対応する部分については雑所得の計算上必要経費に算入されるから,本件弁護士費用賠償金のうち本件遅延損害金に対応する部分は,令30条柱書き括弧書きに基づき,当該部分は非課税所得に該当しない。
【原告らの主張】
(1)本件損害賠償金及び本件遅延損害金は,被告の主張する雑所得ではなく,損害賠償金として非課税所得であるから,そもそも必要経費を観念し得ない。したがって,本件弁護士費用賠償金は,令30条柱書き括弧書きに該当しない。そもそも,原告らは,本件弁護士費用賠償金を得たところで何ら損害額を超える利得を得たわけではない。
(2)本件損害賠償金が非課税所得であり,本件遅延損害金が課税所得である場合においても,不法行為に基づく損害賠償に対する遅延損害金は,法定利率によって定められており,時の経過により発生するものであって,弁護士の役務提供とは因果関係も対価性もないから,遅延損害金を取得するために弁護士費用が必要になることはあり得ず,遅延損害金に対する必要経費など存在しない。したがって,本件遅延損害金が課税所得と認められた場合であっても,本件弁護士費用賠償金はその全てが令30条柱書き括弧書きに該当しない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1〔1〕について
(1)本件損害賠償金が補てんする損害の性質及び発生時期について
ア 本件損害賠償金が,別件事件判決において認容された本件損害賠償金を本件和解合意によって支払うこととしたものであり,別件事件判決が,旧証取法21条の2第2項により推定される額から同第5項により相当な額を減じることによりその損害額を算定したことは,前記前提事実(2)イ及びエのとおりである。
イ ところで,旧証取法21条の2は,有価証券報告書の虚偽記載によって損害を被った投資者の保護の見地から,一般不法行為の規定の特則として,その立証責任を緩和した規定であって,同条所定の損害賠償債務は一般不法行為に基づく損害賠償債務の性質を有し,同条にいう損害には虚偽記載と相当因果関係のある損害全てが含まれる(C最高裁判決)。
 もっとも,同法21条の2第2項は,虚偽記載の事実の公表がされた日(公表日)の前後各1月間の当該有価証券の平均額の差額をもって損害額を推定することができるものとしているところ,このように公表日をもって損害額の推定基準時としているのは,その公表によって,当該有価証券に対する取引所市場の評価の誤りが明らかになることが通常期待できるという趣旨によるものと解される。また,同第3項にいう「虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項」について多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたというためには,虚偽記載のある有価証券報告書等の提出者等を発行者とする有価証券に対する取引所市場の評価の誤りを明らかにするに足りる基本的事実について措置がとられれば足りると解される。(以上につき,C最高裁判決参照)
 これらのことからすると,同条は,虚偽記載と相当因果関係のある全ての損害を賠償の対象とするものであるが,同第2項が推定する損害には,虚偽記載による取引所市場の評価の誤りに基づく損害が含まれることは明らかである。そして,同第2項及び3項の上記趣旨からすると,旧証取法は,この虚偽記載による取引所市場の評価の誤りに基づく損害が,当該虚偽記載等の公表により,取引所市場の評価の誤りが明らかになり,当該有価証券の市場価額が下落したときに,当該有価証券の譲渡等の処分を待たずして,その下落部分の中に現実に発生するとの理解に立つものと解される。このことは,旧証取法21条の2に基づく損害賠償の要件として当該有価証券の譲渡が必要とされておらず,むしろ,同第1項において限度額を画することになる同法19条1項が,1号において譲渡前の損害賠償を予定していることからも明らかである。
ウ これを本件損害賠償金についてみると,別件事件判決は,旧証取法21条の2第2項に基づいて,C株式に係る本件公表の日の前後各1月間の平均額の差額を585円と算定し(甲3・別件事件判決第3の6(2)ア・149頁),同項の趣旨につき,「『虚偽記載等の事実の公表』がされた場合には,その虚偽記載等の市場価額への影響が排除されて虚偽記載等がなかったと仮定した場合の本来あるべき価額に回復すると考え,公表日前後1月間の平均額の差額(下落額)を,有価証券取得時における取得価額と虚偽記載等がなかったと仮定した場合の取得時の想定価額(本来あるべき価額)の差額と推定する趣旨の規定」と解し,そうだとすると,同第4項,5項にいう「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情」とは,「虚偽記載等の事実の公表,すなわち,真実情報(本来記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実)の公表が当該有価証券の市場価額に反映したことに伴う値下がり以外の事情による値下がり」をいう(同イ(ア)・150頁)とした上で,同第4項の証明を否定して(同(イ)及び(ウ)・151~155頁),同第5項により,本件虚偽記載以外の事情により生じた株価の値下がり(損害)を約3分の2の385円として控除し,1株当たり200円という損害額を算定したこと(同(エ)・155~156頁)が認められる。
 これによれば,別件事件判決は,C株式の取得時における取得価額と本件虚偽記載がなかったと仮定した場合のC株式の取得時の想定価額(本来あるべき価額)の差額,すなわち,取得時差額に相当する損害として,上記損害額を算定したものと解される。このような損害は,正に,虚偽記載による取引所市場の評価の誤りに基づく損害として,旧証取法21条の2が賠償の対象とする損害に含まれるものと解される。また,その取得時差額に相当する損害は,その性質上,C株式の譲渡を待つまでもなく,本件公表によりC株式の市場価額が暴落したときに,その下落部分の中に現実の損害として発生するものと解される。すなわち、取得時差額に相当する部分は,虚偽記載による取引所市場の評価の誤りに基づく損害として,本件公表によりC株式の市場価額が暴落したときに現実の損害に転化し,原告らがその譲渡による収入金額を得る以前において,その後の譲渡とは無関係に,C株式の価値として失われるものであると解される。
 そして,本件和解合意は,別件事件判決が認容した本件損害賠償金を支払うこととしたものであるから,これにより支払われた本件損害賠償金は,上記のような取得時差額に相当する損害を補てんする趣旨のものと認めるのが相当である。 
エ 本件損害賠償金が補てんする損害について,原告は,C株式の売買により生じた損失(原告によれば,売買差損)の中に,通常の取引によって生じた譲渡損失の金額と,虚偽記載という不法行為によって生じた損害の両方が含まれており,本件損害賠償金は後者を補てんするものであると主張するところ,その主張は,上記イ及びウと同趣旨であれば理由がある。これに対して,被告は,所得税法には売買差損について定めた規定がないと主張するが,ここで検討しているのは,本件損害賠償金が補てんする損害の私法上の性質とその発生時期であり,所得税法の規定の有無によって,その性質や発生時期が左右されるものではない。
(2)令30条柱書き括弧書き該当性について
 上記(1)を前提に,本件損害賠償金が令30条柱書き括弧書きに該当するか否かについて検討する。
ア 非課税所得該当性について
 令30条柱書き括弧書きは,同条所定の非課税所得に例外的に課税をする趣旨の規定であるところ,法9条1項16号が,損害賠償金で突発的な事故により資産に加えられた損害に起因して取得するものその他の政令で定めるものを非課税とし,これを受けた令30条2号が,不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(令94条の規定に該当するものを除く。)について,非課税と定めているのは,上記のような損害賠償金は,納税者が被った損害を回復させるものにすぎず,納税者に担税力のある利得をもたらすものではないことに基づくものと解される。
 前記前提事実(1)及び前記(1)イ及びウで認定,説示したところによれば,原告らは,本件虚偽記載という不法行為に起因する取引所市場の評価の誤りに基づいて,C株式の取得時に,本件虚偽記載がなかったならば支払う必要のなかった取得時差額を支払っており,これによる損害が,本件公表によりC株式の市場価額が暴落したときに,その下落部分の中に現実の損害として発生したことになる。そして,原告らは,本件損害賠償金により,その補てんを受けたものであって,本件損害賠償金は,C株式の価値が失われることによって原告らが被った損害を回復させたものにすぎず,原告らに担税力のある利得をもたらすものではないから,本件損害賠償金については,正に,所得税法9条1項16号及び令30条が損害賠償金を非課税所得とした趣旨が当てはまるものというべきである。
イ 令30条柱書き括弧書き該当性について
(ア)もっとも,令30条柱書き括弧書きは,「これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合」には,「当該金額を控除した金額に相当する部分」を非課税所得から除外することとしている。そして,被告は,本件損害賠償金について,「取得時点において,本来あるべき市場株価と現実の市場株価(取得株価)の差額(取得時差額)相当の損害」を補てんするものと主張し,これが取得時差額に相当する損害を補てんするとの前提に立ちつつ,それがC株式の「取得費」を補てんするものであり,当該「取得費」が,C株式の譲渡による原告らの雑所得の金額の計算上,必要経費に算入されることを根拠として,本件損害賠償金は,令30条柱書き括弧書きに該当すると主張している。
 原告らが営利を目的としてC株式を継続的に売買していたことは,前記前提事実(1)アのとおりであって,原告らのC株式の譲渡から生じる所得は,譲渡所得や一時所得には該当せず,その他の雑所得以外の所得に該当すると認めるような事情もないから,雑所得に当たるものと解される(法35条1項)。そうすると,その所得金額は,総収入金額から必要経費を控除して算定されることとなるから(同条2項2号),本件損害賠償金が補てんした取得時差額に相当する損害が,原告らの雑所得に係る必要経費に算入されるものであれば,本件損害賠償金は令30条柱書き括弧書きに該当することになる。
 上記のとおり,被告は,それが必要経費に算入されると主張するが,その根拠は,本件損害賠償金がC株式の「取得費」を補てんするものであり,当該「取得費」が原告らのC株式の譲渡による雑所得の金額の計算上,必要経費に算入されるものであるという点にある。しかし,被告が主張する「取得費」とは,その用語の通常の意味及び被告の主張からして,原告らがC株式の取得に実際に要した費用を意味するものと解されるものの,所得税法には,雑所得に関して,被告が主張する「取得費」の意義やこれが必要経費に含まれること及びその含まれる範囲を明らかにする規定はない。したがって,本件損害賠償金が令30条柱書き括弧書きに規定する「必要経費に算入される金額を補てんするための金額」に当たるか否かは,直接,「必要経費」の意義やその範囲に関する所得税法の規定に即して検討するよりほかはない。
(イ)そこで検討すると,法37条1項によれば,「必要経費」とは,「別段の定め」があるものを除き,「収入金額を得るため直接要した費用」をいうところ,原告らがC株式の取得に実際に要した費用は,収入金額を得るため直接要した費用たり得るものとは解される。ところで,別段の定めである法51条4項は,「雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産」の損失の金額で,損害賠償金により補てんされる部分の金額は,その損失の生じた日の属する年分の雑所得の金額の計算上,必要経費に算入しない旨を定めるところ(同項2つ目の括弧書き),C株式が原告らの「雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産」に当たることは明らかである。そして,本件損害賠償金が補てんした取得時差額に相当する損害は,前記(1)ウで説示したとおり,失われたC株式の価値に係る損失であり,それが本件損害賠償金により補てんされる以上,別段の定めである法51条4項により,その損害が発生した本件公表の日の属する平成18年分の雑所得の金額の計算上,必要経費には算入されないものとなると解される。
(ウ)原告らがC株式の取得に実際に要した費用のうち,本件損害賠償金により補てんされた取得時差額に相当する損害が必要経費に算入されないと解することは,法37条1項が必要経費を控除することとした本来の趣旨にも合致する。すなわち,課税所得の計算上必要経費の控除を認めることは,所得の源泉となる収入金額のうち投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避ける趣旨と解されるが,原告らがC株式の取得に実際に要した金額のうち,本件虚偽記載がなければ支払う必要のなかった取得時差額に相当する部分は,本件公表後のCの譲渡による収入金額には寄与しておらず,その収入金額によって回収されたものでもなく,単に,譲渡以前に失われたC株式の価値を本件損害賠償金によって回収したにすぎないものであるからである。
 また,以上の理解は,令30条柱書き括弧書きの趣旨にも合致する。すなわち,同括弧書きは,非課税所得の中に,各種所得の金額の計算上必要経費として算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合に,当該金額が必要経費として控除されるとともに非課税として控除されることにより二重の控除がされることを防ぐ趣旨に出たものと解されるが,法51条4項の2つ目の括弧書きの損害賠償金が非課税所得であることは明らかであり,同項は,「雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産」の損失について受ける損害賠償金について,必要経費に含めた上で令30条柱書き括弧書きにより損害賠償金に課税するのではなく,法51条4項において先に必要経費の方から除くことによって,二重の控除を回避していると解されるからである。
(エ)以上のとおり,「必要経費」の意義及び範囲に関する所得税法の規定に即して検討すれば,本件損害賠償金によって補てんされる部分の金額は,法37条1項の「別段の定め」である法51条4項(2つ目の括弧書き)に基づき,必要経費から除かれることになるから,本件損害賠償金は,「必要経費に算入される金額を補てんするための金額」(令30条柱書き括弧書き)に該当するものではない。
ウ 平成18年分の申告との関係について
(ア)法51条4項により取得時差額が必要経費から除かれる場合,原告らのC株式の譲渡による収入からは,原告らがC株式の取得の際に実際に要した費用から本件損害賠償金を控除した金額が,必要経費として控除されることになるところ,〔1〕原告らがC株式を譲渡した年に本件損害賠償金を受けた場合や,〔2〕原告らが本件損害賠償金を受けた後の年にC株式を譲渡した場合には,C株式の取得に実際に要した費用のうち取得時差額に相当する部分が本件損害賠償金によって回収される時期が譲渡収入を生じた年(上記〔1〕)又はそれ以前の年(上記〔2〕)となるため,譲渡収入を生じた年分の課税所得の計算では,譲渡収入を得るために直接要した費用(必要経費)として,これを控除した後の金額が残ることになって,必要経費との関係でも,特段の問題は生じないものと解される。
 これに対し,本件では,原告らは,C株式の譲渡収入が生じた平成18年に本件損害賠償金を受けておらず,同年分の本件各確定申告において,C株式の取得に実際に要した費用の全額を必要経費に計上したことがうかがわれる。しかし,本件損害賠償金により補てんされたC株式の損失が,法51条4項により,原告らの平成18年分の譲渡所得の計算上必要経費に算入されないと解されることは,これまで説示したとおりであって,原告らが過去に上記のような申告をしたとしても,そのことから,本件損害賠償金により補てんされる金額が必要経費に算入されると解する理由になるとは思われない。
(イ)この点について,被告は,いったん申告された「取得費」を後から否認する根拠はないと主張するが,所得税法に,雑所得について,被告が主張する「取得費」の意義等についての規定がないことは,前記説示のとおりである上,所得税の確定申告後に,確定申告時に前提とされていた事実関係とは異なる事実関係が生じることは,通常あり得ることであり(国税通則法23条参照),法51条4項により必要経費に算入された損失に係る金額につき,後になって損害賠償金を得た場合,遡って損失が生じた年分の必要経費の金額を修正することは,同項が当然に予定していると解される。
 被告は,実際に必要経費として申告された取得費を事後になって否認しようとするとき,損害賠償金が,譲渡収入を減算させた損害額を補てんするものであるのか,翌年以降に繰り越された損害額を補てんするものであるのかが判断できないという不都合が生じ得るとも主張するが,本件損害賠償金は,法51条4項に基づき,その全額が,原告らの平成18年分の雑所得の計算上必要経費から控除されるのであり,繰越損失を翌年以後の所得の計算において株式譲渡にかかる所得金額から控除していた場合には,その分も併せて修正すれば足りるものと解され(原告らの主張によれば,本件各修正申告における翌年以降に繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額の平成18年分の減算(前記前提事実(3)イ)は,そのようなものであったことがうかがわれる。),被告が主張する不都合が生じるとも認められない。
 仮に被告の主張によるとすれば,本件損害賠償金は,本来は非課税所得として原告らに担税力のある利得をもたらすものではなく(前記ア),原告らのC株式の譲渡による収入金額に寄与したわけでも,その収入金額によって回収されたわけでもなく(前記イ(エ)),〔1〕原告らがC株式を譲渡した年に本件損害賠償金を収受した場合や,〔2〕原告らが本件損害賠償金を受けた後の年に本件C株式を譲渡した場合には,これに課税されることはなかったと解される(前記(ア))のに,原告らが本件損害賠償金を受けたのがC株式を譲渡した平成18年より後の年であり,原告らが,過去の年分の確定申告でこれを「取得費」として必要経費に算入していたというのみで,令30条柱書き括弧書きに当たるものとして,原告らは課税を免れないことになる。しかし,前記のとおり,一方で,所得税法に雑所得について被告が主張する「取得費」の意義等についての規定がなく,他方で,法51条4項があるのに,過去の確定申告の是正を一切許さないとする合理的な根拠は見出し難い。
 この点について,被告は,権利確定主義の下で,本件損害賠償金に対する課税が問題となるのが平成21年分であるとも主張するが,本件では,権利確定主義の下で平成21年に損害賠償金を収入すべき権利が確定したことから,過去の課税関係の修正が問題とされているのであって,権利確定主義から直ちにその修正が許されないと解する根拠も見当たらない。なお,被告は,本件損害賠償金が,法51条4項の2つ目の括弧書きにいう「資産の譲渡により又はこれに関連して生じたもの」に当たり,これについては同項の適用がないと解しているものともうかがわれるが(乙3・14頁),本件損害賠償金が補てんした損害が,C株式の譲渡を待たずに発生する損害であることは,これまで説示したとおりであって,取得時差額に相当する損害が「資産の譲渡により又はこれに関連して生じたもの」に当たるものとも認められない。
エ まとめ
 以上のとおり,本件損害賠償金が,C株式の「取得費」を補てんするものであり,原告らの雑所得の計算上必要経費に算入される金額を補てんするものであるとの被告の主張は,所得税法上の根拠を見出せず,採用できない。そして,他に,本件損害賠償金が原告らの各種所得の計算上必要経費に算入される根拠となる事情は見当たらない。
2 争点1〔2〕について
(1)被告は,本件損害賠償金が株式が損害を受けたことにより取得した損害賠償金であるとした上,これはC株式を売却した場合の収入に代わって得られるものであるとして,令94条1項柱書きに当たると主張する
 前記1(2)のとおり,本件損害賠償金は,虚偽記載という違法行為がなかったとしたならば得られたであろう収益を補てんするものではなく,虚偽記載の公表によって失われたC株式の価値,すなわち資産に加えられた損失を回復させるものであるから,「収入金額に代わる性質を有するもの」(令94条1項柱書き)とはいえない。
(2)したがって,争点1〔2〕に関するその余の点について検討するまでもなく,本件損害賠償金は令94条1項1号に定める非課税所得の除外事由には該当しない。
3 争点2について
(1)本件遅延損害金は,本件損害賠償金及び本件弁護士費用賠償金に対する法定利率の割合による履行遅滞に基づく損害賠償金であるところ,このような遅延賠償は,元金の性質いかんにかかわらず元金の使用によって得られたであろう利益の喪失を補てんするものであるから,不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得した損害賠償金とはいえない。したがって,法9条1項16号に定める非課税所得には該当しない。
(2)これに対し,原告らは,不法行為による損害賠償金の支払の遅滞は,貸金等の履行遅滞とは異なり,運用益を生むものではなく,それ自体新たな不法行為として,新たな損害を発生させ続けるものであると主張する。
 しかしながら,金銭債務の不履行につき,その損害賠償の額を法定利率による旨定めた民法419条1項前段は,その対象とする金銭債務の種類について何ら制限していないから,旧証取法21条の2に基づく損害賠償債務あるいは不法行為に基づく損害賠償債務に対する遅延損害金の性質について,他の金銭債務に対する遅延損害金と異なると解することはできないし,金銭債務の不履行のうち,不法行為に基づく損害賠償債務の不履行に限って,それ自体を新たな不法行為と捉えるべき根拠もない。
 したがって,原告らの主張は採用できない。
4 争点3について
(1)被告は,本件損害賠償金が非課税所得であり,本件遅延損害金が課税所得である場合,本件弁護士費用実費のうち,課税所得である本件遅延損害金を得るために要した費用に相当する部分については,弁護士費用をかけずに得られた収入であるとはいえないし,弁護士の役務提供と因果関係や対価関係がないともいえないから,本件弁護士費用賠償金のうち本件遅延損害金に対応する部分は令30条柱書き括弧書きに当たると主張する。
(2)前記前提事実(2)イのとおり,本件弁護士費用賠償金は,別件事件判決が,原告らに生じた弁護士費用のうち,本件損害賠償金の5%相当額を相当因果関係のある損害と認めたものであるところ,不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用の賠償義務は,当該不法行為の時に,一個の損害賠償債務の一部を構成するものとして発生し,事案の難易,請求額等諸般の事情を考慮して,かつ,支払時までに生じ得る中間利息を含まないものとして算定されるものであって(最高裁昭和44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁,同昭和58年9月6日第三小法廷判決・民集37巻7号901頁参照),その金額は,いわば本件虚偽記載による損害額そのものである。そして,これに対して,時間の経過によって不法行為時からの遅延損害金が生じる関係にあるものである。
 上記のような本件弁護士費用賠償金は,原告らが本件損害賠償金を得るために弁護士費用として通常支出しなければならない金銭という損害を補てんするものというべきであり,これらの合計額を元本として時間の経過に伴い付されることになる遅延損害金が課税の対象となるとしても,その元本自体の中にその後の遅延損害金を得るための部分が含まれているとは解し難いものである。
 また,本件弁護士費用賠償金は,本件弁護士費用実費のうち,不法行為と相当因果関係のある部分を補てんするものであるところ,本件においては,本件弁護士費用実費を負担し,支出した原告ら自身が,遅延損害金は時間の経過と法定利率によって発生するものであり,これに対する必要経費は存在しないと主張している。
 以上によれば,本件弁護士費用賠償金の中に,本件遅延損害金を得るために直接要した費用(法37条1項)が含まれていたと認めることはできないから,これが「各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額」に当たるとはいえず,令30条柱書き括弧書きは適用されない。
(3)したがって,本件弁護士費用賠償金は,その全てが令30条柱書き括弧書きに定める非課税所得の除外事由に該当しない。
5 本件各更正処分及び本件各加算税賦課決定処分の適法性について
(1)以上のとおり,本件損害賠償金及び本件弁護士費用賠償金は非課税所得である。
 これに対し,本件遅延損害金は非課税所得に該当せず,雑所得以外の所得のいずれにも該当しないから,雑所得の金額の計算上収入金額とすべき金額であり,課税年分については,原告らが本件遅延損害金を得る権利が確定したのが平成21年7月の本件和解合意によってであることから,平成21年分とするのが相当である。
(2)弁論の全趣旨によると,原告らには,平成21年分の雑所得の金額として,本件遅延損害金のほかに貸付利息として,別表4中「更正請求」欄の「雑(その他)所得の金額」欄記載の各雑所得の金額があったことが認められ,その各金額に,原告らがそれぞれ取得した本件遅延損害金を加えた金額は,別表4中「裁判所認定額」欄の「雑(その他)所得の金額」記載のとおりとなる。
 次に,必要経費については,前記のとおり,原告ら自身が本件遅延損害金に対する必要経費は存在しないと認めており,他に雑所得に係る収入金額を得るために原告らが直接要した費用を認めるに足りる証拠はない。
 そうすると,原告らの平成21年分の雑(その他)所得の金額は,貸付金利息(原告らが更正請求において雑所得の金額として申し立てたもの)に,本件遅延損害金を加えた金額であると認められる。
(3)ア 原告らのその余の所得の金額は,証拠(乙11,12)及び弁論の全趣旨により,それぞれ別表4中「裁判所認定額」欄記載のとおりと認められ,これによれば,平成21年分における原告らの総所得金額は,原告Aについて,4289万1215円,原告Bについて,771万4304円となる。これらの金額から所得控除の金額を控除して法89条1項の規定による税率を乗じて計算すると,原告らの所得税額は,別表4中「裁判所認定額」欄の「課税総所得金額に対する税額」欄記載のとおりとなり,これから,証拠(乙11,12)及び弁論の全趣旨により認められる源泉徴収額及び予定納税額を控除して計算すると,原告らの納付すべき所得税額は,原告Aについて,921万2300円であり,原告Bについて,100万6400円である。
イ また,証拠(乙11,12)によれば,原告らは本件各修正申告において,それぞれ納付すべき所得税額として別表4中「修正申告」欄の「納付すべき税額」欄記載の金額を申告したと認められ,これらを上記アの納付すべき所得税額から控除した金額(ただし,国税通則法118条3項により1万円未満の端数を切捨てたもの)に100分の10を乗じた額は,原告Aについては13万1000円,原告Bについては1万9000円であり,これらが賦課決定すべき過少申告加算税の金額となる(なお,同法65条2項が規定する加重の過少申告加算税は生じない。)。
第4 結論
 よって,原告Aの請求のうち,処分行政庁が平成22年6月24日付けで原告Aに対してした平成21年分所得税の更正のうち,総所得金額4289万1215円,納付すべき所得税額921万2300円を超える部分の取消請求及び過少申告加算税賦課決定のうち13万1000円を超える部分の取消請求にはいずれも理由があるから,その限度でこれらを認容することとし,原告Bの請求のうち,処分行政庁が平成22年6月24日付けで原告Bに対してした平成21年分所得税の更正のうち,総所得金額771万4304円,納付すべき所得税額100万6400円を超える部分の取消請求及び過少申告加算税賦課決定のうち1万9000円を超える部分の取消請求にはいずれも理由があるから,その限度でこれらを認容することとして,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 東亜由美 裁判官 遠藤浩太郎 裁判官 和田山弘剛

(別紙1)当事者目録
原告 A
原告 B
上記両名訴訟代理人弁護士 山名隆男
同 山本洋一郎
同 藤井宣行
同 三木笑
同 菅野直樹
同 嶋津保
同 松田めぐみ
同 北谷裕惠
同 守田文美
同 中村和浩
同 長谷川正明
被告 国
同代表者法務大臣 H
処分行政庁 洲本税務署長 I
同指定代理人 ■■■■ 外7名
(別紙2)関係法令
1 法の定め
2条1項 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
16号 棚卸資産 事業所得を生ずべき事業に係る商品,製品,半製品,仕掛品,原材料その他の資産(有価証券及び山林を除く。)で棚卸しをすべきものとして政令で定めるものをいう。
7条1項 所得税は,次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について課する。
1号 非永住者以外の居住者 すべての所得
9条1項 次に掲げる所得については,所得税を課さない。
16号 損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの
33条2項 次に掲げる所得は,譲渡所得に含まれないものとする。 
1号 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得
35条1項 雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
2項 雑所得の金額は,次の各号に掲げる金額の合計額とする。
1号 その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額
2号 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額
37条1項 その年分の不動産所得の金額,事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち法35条3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
51条1項 居住者の営む不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものについて,取りこわし,除却,滅失(当該資産の損壊による価値の減少を含む。)その他の事由により生じた損失の金額(保険金,損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額及び資産の譲渡により又はこれに関連して生じたものを除く。)は,その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上,必要経費に算入する。
4項 居住者の不動産所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産(山林及び法62条1項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産を除く。)の損失の金額(保険金,損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額,資産の譲渡により又はこれに関連して生じたもの及び1項若しくは2項又は法72条1項(雑損控除)に規定するものを除く。)は,それぞれ,その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額(この項の規定を適用しないで計算したこれらの所得の金額とする。)を限度として,当該年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額の計算上,必要経費に算入する。
2 令の定め
3条 法2条第1項第16号に規定する政令で定める資産は,次に掲げる資産とする。
1号 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)
7号 前各号に掲げる資産に準ずるもの
30条 法9条第1項第16号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は,次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には,当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。
1号 損害保険契約に基づく保険金及び生命保険契約に基づく給付金で,身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)
2号 損害保険契約に基づく保険金及び当該契約に準ずる共済に係る契約に基づく共済金(前号に該当するもの及び令184条4項(満期返戻金等の意義)に規定する満期返戻金等その他これに類するものを除く。)で資産の損害に基因して支払を受けるもの並びに不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(これらのうち令94条(事業所得の収入金額とされる保険金等)の規定に該当するものを除く。)
81条 法33条第2項第1号(譲渡所得に含まれない所得)に規定する政令で定めるものは,次に掲げる資産とする。
1号 不動産所得,山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係る令3条各号(たな卸資産の範囲)に掲げる資産に準ずる資産
94条1項 不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行う居住者が受ける次に掲げるもので,その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは,これらの所得に係る収入金額とする。
1号 当該業務に係るたな卸資産(令81条各号(譲渡所得の基因とされないたな卸資産に準ずる資産)に掲げる資産を含む。),山林,工業所有権その他の技術に関する権利,特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの又は著作権(括弧内省略)につき損失を受けたことにより取得する保険金,損害賠償金,見舞金その他これらに類するもの(括弧内省略)
2号 当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの
3 旧証取法の定め
19条
1項 前条の規定により賠償の責めに任ずべき額は,請求権者が当該有価証券の取得について支払った額から次の各号の一に掲げる額を控除した額とする。
1号 前条の規定により損害賠償を請求する時における市場価額(市場価額がないときは,その時における処分推定価額)
2号 前号の時前に当該有価証券を処分した場合においては,その処分価額
21条の2
1項 旧証取法25条1項各号に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに,重要な事項について虚偽の記載があり,又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは,当該書類の提出者は,当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項8号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(括弧内省略)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し,旧証取法19条1項の規定の例により算出した額を超えない限度において,記載が虚偽であり,又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし,当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知っていたときは,この限りでない。
2項 前項本文の場合において,当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは,当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前一年以内に当該有価証券を取得し,当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は,当該公表日前一月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは,処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後一月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を,当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。
3項 前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは,当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により,当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について,旧証取法25条1項の規定による公衆の縦覧その他の手段により,多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。
4項 2項の場合において,その賠償の責めに任ずべき者は,その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が,当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは,その全部又は一部については,賠償の責めに任じない。
5項 前項の場合を除くほか,2項の場合において,その請求権者が受けた損害の全部又は一部が,当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ,かつ,当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。 
以上
(別紙3)本件損害賠償金等
1 原告A
(1)本件損害賠償金 1億2001万7705円
(内訳)124,338,800(200円×621,694株)-4,321,095円(G和解金)
(2)本件弁護士費用賠償金 600万0885円
(内訳)120,017,705(本件損害賠償金)×5%
(3)本件遅延損害金 1988万6770円
(内訳)(120,017,705+6,000,885)×5%×1152/365
(4)本件弁護士費用実費 2412万9362円
2 原告B
(1)本件損害賠償金 3457万5535円
(内訳)35、823,800(200円×179,119株)-1,248,265円(G和解金)
(2)本件弁護士費用賠償金 172万8776円
(内訳)34,575,535(本件損害賠償金)×5%
(3)本件遅延損害金 572万9119円
(内訳)(34,575,535+1,248,265)×5%×1152/365
(4)本件弁護士費用実費 700万6548円
以上
別表1-1 課税の経緯(A)
別表1-2 課説の経緯(B)
別表2-1【C株式の取引状況(平成17年1月1日~)】(A分)
別表2-2【C株式の取引状況(平成17年1月1日~)】(B分)
別表3-1【平成18年1月18日時点における保有C株式の売却状況】(A分)
別表3-2【平成18年1月18日時点における保有C株式の売却状況】(B分)
(別表4)総所得金額・納付すべき所得税額・過少申告加算税額


 

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