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《書 誌》
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【文献番号】 25500810
【文献種別】 判決/大阪地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 平成21年11月12日
【事件名】 消費税更正処分取消等請求事件
【事案の概要】 不動産賃貸を業とする原告が、課税期間に係る消費税及び地方消費税につき、還付税額があるとして確定申告をしたところ、処分行政庁が、還付税額を0円とする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、これらの各処分の取消しを求めた事案において、課税期間中の「資産の譲渡等の対価」は存在せず、課税標準額は0円となるから、課税期間における課税標準額に対する消費税額は及び控除対象仕入税額は0円であるから、控除不足還付税額は0円となり、更正処分は適法であるとして、原告の請求をいずれも棄却した事例。
【判示事項】 〔TKC税務研究所〕
  1. 資産の譲渡等と消費税の課税対象。
(要旨文献番号:60057992)
  2. 電化手数料という名目の支払は、謝礼又は報奨金としての性質を有するとされた事例。
(要旨文献番号:60057993)
  3. 電化手数料という名目の支払に役務提供の対価性があるとはいえないとされた事例。
(要旨文献番号:60057994)
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 確定
【裁判官】 吉田徹 小林康彦 仲井葉月
【掲載文献】 税務訴訟資料259号順号11310
【全文容量】 約29Kバイト(A4印刷:約17枚)




 《全 文》

【文献番号】25500810  

消費税更正処分取消等請求事件
大阪地方裁判所平成●●年(○○)第●●号
平成21年11月12日第7民事部判決

       判   決

原告 甲
同訴訟代理人弁護士 山名隆男
同訴訟復代理人弁護士 藤井宣行
同補佐人税理士 北野慎二
被告 国
同代表者法務大臣 千葉景子
処分行政庁 大阪福島税務署長 北口仁紀子
同指定代理人 豊田里麻
同 杉浦弘浩
同 中村嘉造
同 村上幸隆
同 中島孝一


       主   文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 処分行政庁が原告に対し平成18年10月12日付けでした原告の同年1月1日から同月31日までの課税期間に係る消費税及び地方消費税の更正処分のうち消費税の還付すべき税額1385万1807円及び地方消費税の還付すべき譲渡割額346万2951円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、不動産賃貸を業とする原告が、平成18年1月1日から同月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)につき、還付税額があるとして確定申告をしたところ、処分行政庁が、還付税額を0円とする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、これらの各処分の取消しを求めた事案である。
 原告は、本件課税期間中に電力会社から支払を受けた「電化手数料」が、消費税の課税対象である「資産の譲渡等」の対価に当たり(同期間中、原告には、他に課税対象となる「資産の譲渡等」はない。)、当該「電化手数料」に係る消費税額(7万2800円)から、同期間中に支払った賃貸マンションの建築請負代金等に係る消費税額(1392万4607円)を控除できるものとして、上記申告を行ったものである。
1 関係法令等の規定について
(1)消費税法(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)4条1項は、国内において事業者が行った「資産の譲渡等」には消費税を課す旨規定し、同法2条1項8号は、「資産の譲渡等」の意義について、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいう旨規定している。
(2)消費税法28条1項は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、「課税資産の譲渡等の対価の額」とする旨規定している。
 同法2条1項9号は、「課税資産の譲渡等」の意義について、資産の譲渡等のうち、同法6条1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨規定している。そして、同法6条1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、一定のものには消費税を課さないこととして非課税となる場合につき定めており、住宅の貸付けは非課税とされている(別表第1の13号)。
(3)消費税法においては、課税が累積的に行われることを排除する観点から、仕入税額控除制度を設けている。
 すなわち、同法30条1項1号は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合における納付すべき消費税額の算定に当たって、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の「課税標準額に対する消費税額」から、当該課税期間中の国内において行った「課税仕入れに係る消費税額」(当該課税仕入れに係る支払対価の額に105分の4を乗じて算出した金額をいう。)を控除する旨規定しており、同法2条1項12号は、「課税仕入れ」の意義について、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう旨規定している。
 そして、課税仕入れに係る消費税額のうち控除対象となる税額(以下「控除対象仕入税額」ということがある。)の算定方式は、次のとおり、その課税期間中の課税売上割合(資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合をいう。同法30条6項)により異なることとされている。
ア 課税売上割合が95パーセント以上の場合
 課税売上割合が95パーセント以上の場合、課税仕入れに係る消費税額の全額が控除対象仕入税額となる。すなわち、課税資産の譲渡等を行うために要する課税仕入れに係る消費税額のみならず、課税資産の譲渡等に対応しない課税仕入れに係る消費税額ついても控除の対象となる。(消費税法30条1項)
イ 課税売上割合が95パーセント未満の場合
 課税売上割合が95パーセント未満の場合、控除できる課税仕入れに係る消費税額は、課税仕入れに係る消費税額の合計額のうち課税資産の譲渡等を行うために要する課税仕入れに係る消費税額に限定される(消費税法30条2項)。
 この場合に控除する税額は、次のいずれかの方式によって算定することとされている(同条2項及び4項)。
(ア)個別対応方式
 個別対応方式は、〔1〕課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに係る消費税額の合計額、〔2〕課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに係る消費税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額、以上の〔1〕と〔2〕の合計額を控除対象仕入税額とする方式(同条2項1号)である。ただし、同方式によることができるのは、課税仕入れにつき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの、以上の3者の区分が明らかにされている場合に限られる。
(イ)一括比例配分方式
 一括比例配分方式は、課税仕入れに係る消費税額の合計額に課税売上割合を乗じて算定した額を控除対象仕入税額とする方式(同条2項2号)である。
(4)事業者のうち、その課税期間に係る基準期間(個人事業者についてはその年の前々年)における課税売上高が1000万円以下である者については、消費税を納める義務が免除されている(消費税法9条1項、2条1項14号)が、当該課税期間につき、同法9条1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書(以下「消費税課税事業者選択届出書」という。)を所轄税務署長に提出した場合には、当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間中は、消費税を納める義務は免除されない(同条4項)。
(5)「課税標準額に対する消費税額」は、課税標準額に100分の4の税率を乗じて算出される(消費税法45条1項2号、29条)。
(6)地方消費税の譲渡割額の課税標準は、消費税法45条1項4号に掲げる消費税額(課税標準額に対する消費税額から控除対象仕入税額等を控除した残額に相当する消費税額)であり(地方税法72条の77第2号)、地方消費税の税率は100分の25である(同法72条の83)。
2 前提事実等(争いがないか、証拠(乙3、5)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)
(1)当事者等
ア 原告は、不動産賃貸を業とする者である。
イ B株式会社(以下「B」という。)は、集合住宅において、給湯、厨房及び空調設備等のすべての熱源を電気とすること(以下「オール電化」という。)の普及、促進に努めており、オール電化が採用された一定の場合に、当該物件の事業主や設計事務所等に対して、「電化手数料」という名目で金員を支払う制度を採用していた。
(2)本件マンションの建設
 原告は、平成17年2月4日、C株式会社(以下「C」という。)との間で、大阪市所在の原告所有の土地に、25戸の賃貸部分及び1戸の原告の自宅用部分(以下「原告居住部分」という。)の合計26戸からなる10階建てのマンション(以下「本件マンション」という。)を請負代金合計4億0337万8500円(うち消費税等1920万8500円。ただし、追加工事代金を含む。)で建築する旨の請負契約を締結した。
(3)オール電化の採用
 原告は、本件マンションの全住戸にオール電化を採用することを決め、平成17年3月ころ、Bとの間で、「給湯、厨房、空調設備の電化採用に関する覚書」と題する覚書(以下「本件覚書」という。)を作成した。
(4)届出書等の提出
 原告は、平成17年12月15日、処分行政庁に対し、消費税課税事業者選択届出書及び課税期間を1か月とする消費税課税期間特例選択届出書を提出した。その結果、原告は、1か月間を課税期間とする特例の適用を受けることになり、平成18年1月1日以後の課税期間について消費税を納める義務が免除されないこととなった。
(5)本件マンションの引渡し等
 原告は、平成18年1月26日、本件マンションの引渡しを受けるとともに、そのころまでに、上記(2)の請負代金及び建設業者からの借入金利息合計4億0477万0566円を支払った。
(6)電化手数料の支払
 原告は、平成18年2月20日、Bから、本件覚書に基づく電化手数料191万1000円(1戸当たりの基本単価7万3500円に本件マンションの戸数26戸を乗じて算出した額。いずれも消費税込み。以下「本件電化手数料」という。)の支払を受けた。なお、消費税等の額を除いた本件電化手数料の額は182万円である。
(7)原告による消費税等の確定申告
 原告は、平成18年3月31日、処分行政庁に対し、別紙2「課税等の経緯」(以下「別紙2」という。)の「確定申告」欄記載のとおり、本件課税期間に係る消費税等の確定申告をした。同申告において、原告は、本件電化手数料が本件課税期間の「課税資産の譲渡等の対価」に当たり、課税売上割合は95パーセント以上(100パーセント)になる(本件電化手数料以外の「資産の譲渡等の対価」はない。)から、課税仕入れに含まれる消費税額は全額が仕入税額控除の対象になるとして、本件電化手数料に係る消費税額から、本件マンションのうち原告居住部分を除いた部分の取得のために支払った対価等に係る消費税額を控除して計算し、税額の還付を求める申告を行った。
(8)処分行政庁による更正処分
 処分行政庁は、原告に対し、平成18年10月12日付けで、別紙2の「更正処分等」欄記載のとおり、本件課税期間の消費税等についての更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて、「本件各処分」という。)をした。
(9)原告による不服申立てと本訴提起
ア 原告は、平成18年12月4日、本件各処分の取消しを求めて異議申立てをしたが、処分行政庁は、平成19年3月1日付けで、異議申立てを棄却する決定をした。
 原告は、同年4月2日、本件各処分の取消しを求めて審査請求を行ったが、国税不服審判所長は、平成20年3月27日付けで、審査請求を棄却する旨の裁決をした。
イ 原告は、平成20年9月5日、本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
3 被告の主張する本件各処分の根拠
 被告の主張する本件各処分における原告の消費税等の課税標準及び納付(還付)すべき税額の計算根拠並びに過少申告加算税額の計算根拠は、別紙1「本件各処分の計算の根拠」記載のとおりである。
4 争点及び当事者の主張
 本件の争点は、〔1〕本件電化手数料が資産の譲渡等の対価(消費税法28条1項)に当たるか否か、〔2〕(本件電化手数料が資産の譲渡等の対価に当たるとした場合)本件電化手数料の支払に係る役務の提供を資産の譲渡等として計上すべき時期はいつかである。
(1)本件電化手数料が資産の譲渡等の対価に当たるかについて(争点〔1〕)
(被告の主張)
 本件電化手数料が資産の譲渡等の対価に当たるか否かについては、名目のいかんにかかわらず、実質的に対価関係があるか否かによって判断されるべきである。
 本件電化手数料は、実質的には、本件マンションがオール電化を採用したことそれ自体に対して支払われたものであり、オール電化の採用それ自体は資産の譲渡等に当たらないから、本件電化手数料は資産の譲渡等の対価に当たらない。
 このことは、〔1〕中高層集合住宅のオーナーは、本件覚書に記載された役務を行うことを想定し得ないこと、〔2〕本件電化手数料が役務の提供の履行確認なしに支払うものとされ、実際にもその確認なしに支払われたものであること、〔3〕本件覚書には、本件電化手数料がオール電化採用後の役務の対価であれば当然記載されてしかるべき当該役務の提供期間が記載されていないこと、〔4〕本件電化手数料の算定方法からして、電化設備の設置戸数等を重要視している反面、役務の提供の有無や量等は問題とされていないこと、〔5〕本件電化手数料を算定するに当たり、原告居住部分をその算定の基礎に含め、賃貸部分と同様に扱っているが、原告居住部分に係る何らかの役務を原告が原告自身に対して行うことは想定し得ないこと、以上の事実等から明らかである。
 そして、資産の譲渡等としての「役務の提供」とは、各種の契約により労務・便益その他のサービスを提供することをいうから、本件マンションにオール電化を採用したこと、すなわち、本件マンション建設の際に、その給湯、厨房、空調等の設備について、複数の選択肢の中から、ガス等を利用する設備ではなく、電化設備を選択したという単なる事実が「役務の提供」に当たらないのは明らかである。
 したがって、本件電化手数料は、オール電化を採用したことに対する謝礼ないし報奨金であり、資産の譲渡等の対価には当たらない。
(原告の主張)
 広く薄く課税する仕組みの付加価値税である消費税の性質からすれば,資産の譲渡等の反対給付は、厳格な対価性が要件とされるわけではなく、仮に反対給付に謝礼又は報奨金の趣旨が含まれていたとしても、役務提供の対価であることを否定することはできない。
 そして、本件電化手数料に、オール電化の採用に対する報奨金的要素があるとしても、役務の提供がされることを支払条件にしているのであるから、原告の役務の提供に対する対価としての性質を含んでおり、対価性を否定して無償の給付と認定しなければならない根拠はなく、資産の譲渡等の対価に当たる。 
 すなわち、原告とBが交わした本件覚書(乙2、3)には、原告がコンサルティング等の業務を行うことが本件電化手数料支払の対価であると明記されている。また、原告は、現に、本件覚書に定められた業務(電化設備機器の使用方法等に関するコンサルティング業務等)を実行している。
 他方、Bは、原告の役務提供の対価であることを認識して本件電化手数料を支払い、課税取引として税務・会計処理をしていることからすれば、原告において本件電化手数料を非課税として扱うことは、消費税の転稼の連鎖を切断することにもなる。
 したがって、本件電化手数料は、資産の譲渡等の対価に当たる。
(2)本件電化手数料の支払に係る役務の提供を資産の譲渡等として計上すべき時期について(争点〔2〕)
(被告の主張)
 いずれの課税期間における課税資産の譲渡等に該当するかは、当該課税資産の譲渡等をした時期により判定することになる。そして、当該課税資産の譲渡等をした具体的な時期の判断においては、権利確定主義が妥当する。
 本件において、本件覚書に基づく役務提供契約は、準委任契約であるところ、準委任契約に基づく受任者の報酬請求権は、委任事務を履行した後に生じるから、その役務の提供が完了して報酬請求権が確定した時をもって資産の譲渡等の時期と解するのが相当である。
 そして、本件覚書によると、契約の有効期間は平成18年3月2日までとされているので、同日に契約は終了し、それによって原告の報酬請求権が確定する。
 したがって、本件電化手数料の支払に係る役務の提供を資産の譲渡等として計上すべき時期は本件課税期間ではない。
(原告の主張)
 課税資産の譲渡等をした具体的な時期の判断において権利確定主義が妥当すること、本件覚書に基づく役務提供契約が準委任契約であることは争わない。
 しかし、本件覚書に定められているのは、契約の「有効期間」であり、原告の役務提供の終期ではない。当該「有効期間」が過ぎても、本件マンションに新たな入居者が現れることがあり得るし、その者に本件覚書に定められたコンサルティング等の業務を行うことも当然に予定されているから、原告の役務提供が完了することはない。
 一方、本件電化手数料の支払には、条件が付されており、報酬支払に係る特約がある。すなわち、Bでは、オール電化等の採用が決定した段階で覚書を作成することを「支払条件」としており(甲1)、本件覚書においては、対象物件にオール電化が採用されていること等を確認したことが支払の条件とされている。
 Bが本件マンションにオール電化が採用されていることを確認をしたのは平成18年1月25日であり、この時点で収入すべき金額が確定したものといえるから、権利確定主義からは、同日が計上時期となる。
 したがって、本件電化手数料の支払に係る役務の提供は本件課税期間中の資産の譲渡等として計上すべきである。
第3 争点に対する判断
1 本件電化手数料が資産の譲渡等の対価に当たるかについて
(1)認定事実
 前記前提事実(第2の2)、証拠(甲1から4まで、乙2から8まで)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 原告は、平成17年2月4日ころ、Cとの間で、本件マンションを請負代金4億0337万8500円(うち消費税等1920万8500円。ただし、追加工事代金を含む。)で建築する旨の請負契約を締結した。
イ Bは、同社のホームページや広告等で、オール電化住宅の普及を推進していたところ、Bが配布していた「電化手数料制度のご案内」と題するパンフレット(以下「本件パンフレット」という。)には、以下の記載がある。
(ア)冒頭部分
Bでは、オール電化住宅を推奨していること、その方策として、マンション等の集合住宅において、オール電化住宅の採用を推奨してもらい、採用された場合には、電化手数料を支払うこと。
(イ)制度概要
 マンション等の中高層集合物件において、Bからの要請により、オール電化住宅等の勧奨・PRを実施し、採用した物件を対象とすること、当該物件の電化採用に協力した事業主、設計事務所等に電化手数料を支払うこと。
 オール電化等の採用が決定した段階で「給湯、厨房、空調設備の電化採用に関する覚書」等の覚書を作成すること、覚書の作成時と電化手数料請求時に設計図面を提出すること、当該物件について所定の電気需給契約が締結されていること及び電気温水器の契約電力を確認することを、電化手数料の支払条件とすること。
 電化手数料については、給湯器の種類や契約電力による区分ごとに一戸当たりの基本単価が定められており、同一の物件についての支払箇所(電化手数料の支払先)が複数になった場合には、当該基本単価を総額として支払うこと。
(ウ)電化手数料の請求及び支払方法
 当該物件が竣工した後に、電化手数料請求書の提出を受け、対象機器の設置状況等の上記(イ)の支払条件を確認した後、事業主、設計事務所等に対して電化手数料を支払うこと。
ウ 原告は、Bの広告等で電化手数料の制度を知り、本件マンションの計画段階からオール電化を採用することを予定しており、Cの担当者を介して、オール電化に関する詳しい説明を受けていた。原告は、平成17年2月10日、Bに対し、本件マンションの設計図を提出した。
エ 原告は、Bとの間で、平成17年3月ころ、「給湯、厨房、空調設備の電化採用に関する覚書」と題する覚書(本件覚書)を作成した。なお、オール電化について作成される覚書の書式に、事業者用、設計事務所等用といった区別はなく、同一のものが使用されている。
(ア)本件覚書には、以下の記載がある。
a 冒頭部分
 原告とBが、本件マンションに関し、オール電化等の採用に係る勧奨活動等を実施することについて、覚書を作成する。
b 設備の具体的内容
 本件マンションの各住戸における給湯、厨房、空調設備の電化の各具体的内容(2条)、電化温水器及び厨房設備の具体的種類(3条)。
c 業務委託内容
 Bは、原告に対し、「対象物件の建設に関する情報の提供、並びに全電化等の採用に関する勧奨活動の実施」(以下「本件覚書役務〔1〕」という。)及び「ユーザーに対する電化設備機器の使用方法等に関するコンサルティングの実施」(以下「本件覚書役務〔2〕」といい、本件覚書役務〔1〕と併せて「本件各覚書役務」という。)の業務を委託する(4条)。
d 本件電化手数料の支払
 Bは、原告に対し、本件電化手数料を本件各覚書役務の提供の対価として支払う(5条1項)。
 本件電化手数料は、原告が、電化手数料請求書を提出するとともに、対象物件のオール電化設備採用を証する設計図面を提出し、Bが、対象物件にオール電化等が採用されていること及び所定の電気需給契約が締結されていることを確認した場合に支払われる(同条3項)。
e 契約の解除
 Bは、原告が破産等の申立てをしたとき、強制執行等を受けたとき、その他本件覚書に基づく債務を原告自身において履行することができないとBが認めたときは、催告を要しないで契約の全部又は一部を解除することができる(9条)。
(イ)本件覚書には、「有効期間」の記載欄(6条)及び日付の記載欄(末尾)があるところ、Bが所持している覚書(乙3)には、「有効期間」につき平成17年3月3日から平成18年3月2日までと、末尾の日付につき平成17年3月3日と、それぞれ手書きで記入されているが、原告の所持する覚書(乙2)では、いずれについても空欄となっている。
オ 原告は、平成17年12月25日までに、Bとの間で、本件マンションの全住戸について、季節別時間帯別電灯契約及び従量電灯A契約を締結した。
カ 原告は、平成18年1月13日、Bに電化手数料請求書を提出したところ、Bは、同月25日、本件マンション内で機器設置の検査を行い、電化手数料支払の要件が満たされていることを確認した上、同年2月20日、原告名義の普通預金口座に振り込む方法で、本件電化手数料を支払った。
(2)具体的検討
ア 消費税法の定めは、前記関係法令等(第2の1)でみたとおりであって、本件電化手数料のような金銭の支払を受けた場合に、それが「資産の譲渡等の対価」に当たるというためには、資産の譲渡等(資産の譲渡、貸付け及び役務の提供)の反対給付としてその支払を受けたことが必要であり、それが反対給付に当たらない場合には、消費税の課税対象とはならない。
 原告は、本件マンションにおいてオール電化を採用することそれ自体が「資産の譲渡等」に当たり、本件電化手数料がその反対給付に当たる旨の主張はしていない。したがって、本件においては、専ら、本件各覚書役務の提供が「資産の譲渡等」であり、本件電化手数料がその対価(反対給付)として支払われたものであるかどうかが問題となる。
イ まず、本件パンフレットの冒頭部分にもあるとおり、Bは、マンション等の集合住宅において、オール電化の採用を推奨し、採用された場合に電化手数料を支払うこととしているものであって、オール電化の住宅を普及させることで、将来的に安定した電力需要を確保することを目的として、電化手数料を支払っているものと認められる。
 そして、電化手数料の算定方法は、役務の履行回数や、履行期間に応じて定められるのではなく、専ら給湯器の種類や契約電力による区分で定まる基本単価に、採用した戸数を乗じて得られる額とされている(例えば、同じようにオール電化を採用した場合でも、契約電力ベースが「2kW以上4kW未満」である場合には電化手数料は1万円とされているのに対し、「4kW以上8kW未満」である場合には7万円とされていること等、将来得られる電力需要に応じた額とされている。甲1。)のであり、本件電化手数料が、オール電化の採用それ自体に対する謝礼又は報奨金としての性質を有することは疑いのないところである。
ウ これに対し、原告は、本件電化手数料に、オール電化の採用に対する報奨金的要素があるとしても、本件各覚書役務との対価関係は否定できないと主張しており、実際に、本件覚書でも、本件電化手数料を本件各覚書役務の提供の対価として支払う旨が定められている(5条1項)。確かに、契約当事者間の合意内容を定めたものである本件覚書の文言は、本件電化手数料がいかなる性質を有するかについての重要な判断資料となるものであるが、その文言が実体を反映していないような場合には、その文言を離れて、実体に即して本件電化手数料の性質を判断していく必要がある。そして、被告は、本件覚書は実体を反映したものではなく、本件電化手数料が実質的に本件各覚書役務の対価として支払われたものではないと主張するので、その性質・実体がどのようなものであるかにつき更に具体的な検討を加える。
エ 本件覚書役務〔1〕について
 本件覚書役務〔1〕は、本件覚書上、「対象物件の建設に関する情報の提供、並びに全電化等の採用に関する勧奨活動の実施」を行うこととされているところ、原告は、本件マンションの事業主(施主・所有者)であり、オール電化の採用を自ら決定する立場にある。
 そして、本件覚書役務〔1〕のうち、原告がBに対して行う対象物件の建設に関する情報の提供としては、設計図面の提出が予定されており、実際、原告は本件覚書作成に先立つ平成17年2月10日にBに対して設計図面を提出している。とはいうものの、それは、配線や設備を設置する必要上行われたというのであり(甲4)、電気工事や電化設備を設置するに当たっての準備行為にすぎないというべきであるし、電化手数料請求時にも設計図面を提出することが予定されているが、これも電気温水器等の設置戸数及びオール電化等が採用されていることの確認のために行われる(前記1(1)イ(イ))というのであるから、いずれにしても、設計図面の提出をもって、オール電化の採用とは別個・独立の役務の提供であり、対価を支払ってその履行を義務付けるような性質のものであると評価することはできない。
 以上に加えて、原告は、エンドユーザーや他の事業者に対する勧奨活動を行うことも本件覚書役務〔1〕に含まれると主張するが、Bは、本件マンションにおいてオール電化が採用されたことをもって、本件覚書役務〔1〕が提供されたとみなしている旨回答していること(甲2)に照らしても、本件電化手数料が、原告主張の勧奨活動の対価としての性質を有するとはいえない。
 そうすると、本件電化手数料が本件覚書役務〔1〕の提供の対価である旨の本件覚書の記載は、原告とBとの間の契約の実体に即したものとはいい難いのであって、本件覚書の記載内容にかかわらず、本件電化手数料をもって本件覚書役務〔1〕の提供の対価ということはできない。
オ 本件覚書役務〔2〕について
(ア)本件覚書役務〔2〕は、本件覚書上、「ユーザーに対する電化設備機器の使用方法等に関するコンサルティングの実施」を行うこととされているところ、原告は、その具体的内容として、電気機器等の経済的な使用方法の入居者への説明、電気料金についてオール電化の割引料金が適用されていることの入居者への説明、オール電化設備機器の使用方法に関するB主催の講習会の案内文を入居者へ配布することを挙げ、これらの役務を実際に行っている旨の供述をしている(甲4)。
 しかし、電化設備機器の使用方法や電気料金が通常と異なることの説明については、マンションの賃貸人が、賃借人に対して入居時に行う一般的な説明の範疇を出るものではないのであって、対価を支払ってその履行を義務付けるような性質の役務とはいい難い。
 むしろ、本件電化手数料は、本件マンションにオール電化が採用されていること及び所定の電力契約等が締結されていることを確認した場合に支払うこととされており、実際に、本件マンションにおけるオール電化設備設置等の確認検査後、原告が供述する本件覚書役務〔2〕の具体的内容につき、その履行状況について何ら確認することなく、Bから本件電化手数料が支払われていることからすれば、結局のところ、原告及びBは、オール電化の採用それ自体に対して本件電化手数料が支払われるものと位置付けていたと認めるのが相当であり、本件覚書役務〔2〕が提供されたことを本件電化手数料の支払条件としていたとは認め難いというべきである。
(イ)なお、Bの担当者は、本件覚書役務〔2〕の内容とされているコンサルティングに不備があり入居者からクレームがあった場合には、本件覚書9条の規定(前記(1)エ(ア)e)を適用し契約を解除して対処するかのように供述している(甲2)。
 しかし、本件覚書には、本件覚書役務〔2〕の履行状況を確認する方法についての規定、契約を解除した場合の本件電化手数料の返還金額、返還方法についての規定が置かれていないこと、一方で、本件マンションにオール電化等が採用され、所定の電力契約が締結されていることさえ確認できれば、本件電化手数料が支払われるものとされていること、そして、前記イのとおり、本件電化手数料がオール電化の採用それ自体に対する謝礼又は報奨金としての性質を有することからすれば、入居者からのクレームがあった場合等に、Bからの解除、本件電化手数料の全部又は一部の返還請求が可能であると解するには無理があり、契約当事者であるB及び原告において、そうした認識を有していたとは認められないというべきであって、B担当者の前記供述をそのまま採用することはできない。
カ 原告は、Bの担当者が、明確に本件電化手数料と本件各覚書役務との対価性を認める供述を行っており、実際に、Bにおいては、本件電化手数料の支払が課税取引に当たるものとして税務上、会計上の処理をしていることを、本件電化手数料が資産の譲渡等の対価に当たることの根拠として主張する。
 しかし、本件電化手数料の性質は上記イからオまでで検討したとおりであって、これを本件各覚書役務の対価ということはできないのであり、この結論は、Bの税務上、会計上の処理により左右されることはない。また、そもそもBが本件電化手数料を本件各覚書役務の対価として位置付けていたと認め難いことは前記オ(ア)のとおりであるから、Bの担当者の供述をそのまま採用することはできず、原告の上記主張も採用できない。
キ そうすると、本件電化手数料は、専ら本件マンションにオール電化を採用したことに対する謝礼又は報奨金として授受されたものと認めるのが相当であり、これに加えて、本件各覚書役務の提供の対価としての性質を有しているということはできず、「資産の譲渡等の対価」には当たらないというほかない。
2 結論
(1)以上からすれば、その余の点について判断するまでもなく、本件課税期間中の「資産の譲渡等の対価」は存在せず、課税標準額は0円となるから、本件課税期間における課税標準額に対する消費税額は0円となる。また、課税売上割合が0パーセントとなることから、課税資産の譲渡等を行うために要する課税仕入れの税額のみが仕入税額控除の対象となるところ,当該税額は0円である(なお、本件マンションの取得費用は課税資産の譲渡等に対応しない課税仕入れである。)。したがって、課税標準額に対する消費税額及び控除対象仕入税額はともに0円であるから、控除不足還付税額は0円である。なお、課税標準となるべき消費税額は0円であるから、地方消費税の譲渡割額は0円である。
 よって、消費税の還付税額及び地方消費税の譲渡割額はともに0円であるから合計税額も0円であり、原告の納付すべき税額は、原告が還付額として申告した額1731万4700円になるとして行われた本件更正処分は適法である。また、本件賦課決定処分について原告に「正当な理由」(国税通則法65条4項)があるとの主張・立証はないから、別紙1の7のとおり算定された過少申告加算税と同額の本件賦課決定処分も適法である。 
(2)よって、本件各処分は適法であって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官 吉田徹 裁判官 小林康彦 裁判官 仲井葉月

(別紙1)本件各処分の計算の根拠
1 課税標準額
 原告は、182万円を課税標準額として確定申告をしたところ、これは、本件電化手数料を「資産の譲渡等の対価」であるとして計上したものである。
 しかし、本件電化手数料は、消費税法における「資産の譲渡等の対価」には該当しないから、本件課税期間中の課税標準額は0円である。
2 消費税額
 課税標準額が0円であることから、消費税額は0円である。
3 控除対象仕入税額
(1)消費税法30条によれば、課税売上割合が95パーセント以上の場合は、課税仕入れに含まれる消費税額全額が控除できるのに対し、課税売上割合が95パーセント未満の場合は、課税資産の譲渡等を行うために要する課税仕入れに係る消費税額のみが仕入税額控除の対象となる。
(2)本件の控除対象仕入税額は以下のとおりとなる。
ア 本件課税期間における「資産の譲渡等の対価」は存在せず、したがって当然に「課税資産の譲渡等の対価」も存在しないから、課税売上割合は95パーセント未満である(0パーセント)。
 そして、個別対応方式若しくは一括比例配分方式により控除対象仕入税額を算定すると、次のとおり、いずれの方式によっても0円となる。
(ア)個別対応方式によると、「資産の譲渡等」、「課税資産の譲渡等」が存在しない以上、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れもいずれも存在しないから、控除対象仕入税額は0円となる。
(イ)一括比例配分方式によると、課税売上割合は0パーセントであるから、これを課税仕入れに係る消費税額の合計額に乗じ、控除対象仕入税額は0円となる。
イ 原告は、本件電化手数料が本件課税期間の「課税資産の譲渡等の対価」に当たり、課税売上割合が95パーセント以上であるから(100パーセント)、課税仕入れに係る消費税額については全額が控除できるものとして、1392万4607円(本件マンションの取得費用等の消費税額)を控除対象仕入税額として確定申告をした。
 しかし、本件電化手数料は、「資産の譲渡等の対価」には当たらず、課税売上割合は95パーセント未満であるから、控除できる課税仕入れに係る消費税額は、課税仕入れに係る消費税額の合計額のうち、課税資産の譲渡等を行うために要する課税仕入れに係る消費税額に限定される。
 そして、本件マンションは賃貸マンションであるところ、住宅の貸付けは非課税とされている(消費税法6条1項、別表第1の13号)とおり、本件マンションの取得費用は課税資産の譲渡等に対応しない課税仕入れであるから、仕入税額控除の対象とならない。
4 控除不足還付税額
 課税標準額に対する消費税額及び控除対象仕入税額はともに0円であるから、控除不足還付税額は0円である。
5 地方消費税の譲渡割額
 本件においては、課税標準となるべき消費税額は0円であるから、地方消費税の譲渡割額は0円である。
6 消費税及び地方消費税の合計税額
 以上のとおり、消費税の還付税額及び地方消費税の譲渡割額はともに0円であるから合計税額も0円である。
 したがって、更正処分により納付すべき税額は、原告が還付額として申告した額1731万4700円である。
7 過少申告加算税
 国税通則法65条1項は、過少申告加算税について、更正処分により納付すべきこととなった税額(ただし、同法119条3項により1万円未満切捨て)に100分の10の割合を乗じた額と定め、同法65条2項は、同条1項に規定する納付すべきこととなった税額が期限内申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、当該超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算する旨定めている。
 本件において、原告が更正処分により納付すべきこととなった税額は1731万円(1万円未満切捨て)であり、これに100分の10の割合を乗じた金額は173万1000円である。
 そして、原告は税額の還付を求める申告をしていることから、1731万円から50万円を差し引いた1681万円に100分の5を乗じた84万0500円を加算することとなる。
 したがって、過少申告加算税の額は、173万1000円と84万0500円の合計額である257万1500円である。
(別紙2)課税等の経緯


 

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