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《書 誌》
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【文献番号】 25483530
【文献種別】 判決/東京高等裁判所(控訴審)
【裁判年月日】 平成23年 9月21日
【事件番号】 平成23年(行コ)第91号
【事件名】 譲渡所得税決定処分等取消請求控訴事件
【審級関係】 第一審 25483531
千葉地方裁判所 平成21年(行ウ)第39号
平成23年 2月18日 判決
【事案の概要】 処分行政庁である税務署長が、Aが共同相続人として法定相続分の割合で共有持分を有していた遺産に属する土地について行われた換価のための競売(家事審判法15条の4)に係る譲渡所得を申告しなかったとして、Aに対して所得税の決定処分等を行ったのに対し、Aの相続人である控訴人が、遺産分割により換価代金の分配を受けなかったAに同所得があるとすることは違法であるなどと主張して、これらの処分の取消しを求めた事案の控訴審において、「所得税法12条にいう、資産から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合に該当するとは認められないから、Aに課税することが、実質所有者課税の原則に反し、違法とはいえない」として、控訴を棄却した事例。
【判示事項】 〔TKC税務研究所〕
  1. 家庭裁判所の審判期日において、相続人の一人がその相続分を他の相続人に譲渡したとは認められないとした事例。
(要旨文献番号:60064028)
  2. 譲渡所得課税の趣旨。
(要旨文献番号:60064029)
  3. 所得税の課税時期。
(要旨文献番号:60064030)
  4. 家事審判法に基づいて未分割遺産が換価された場合、その換価の時点において、各法定相続人が相続分により当該遺産を譲渡したとして譲渡所得が生ずるとした事例。
(要旨文献番号:60064031)
  5. 遺産分割前に当該遺産が譲渡された場合、家庭裁判所の審判により具体的相続分がゼロとされた者も共有持分権を譲渡したことになり、相続分の割合による譲渡所得を得たというべきであるとした事例。
(要旨文献番号:60064032)
  6. 遺産管理者の法的地位と売却代金の帰属。
(要旨文献番号:60064033)
  7. 申告期限後の未分割遺産の換価代金の取得割合に基づく更正の請求を認めないことが相当であるとされた事例。
(要旨文献番号:60064034)
  〔訟務月報〕
    家事審判法15条の4の規定に基づく換価のための競売によって未分割遺産が売却されたことに係る譲渡所得は,その後の遺産分割審判において具体的相続分がないとされて当該売却代金を取得しなかった相続人に対しても,法定相続分の割合により帰属するか(積極)
【要旨】 〔訟務月報〕
    家事審判法15条の4の規定に基づく換価のための競売によって未分割遺産が売却されたことに係る譲渡所得は,その後の遺産分割審判において具体的相続分がないとされて当該売却代金を取得しなかった相続人に対しても法定相続分の割合により帰属する。
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 確定
【裁判官】 梅津和宏 中山顕裕 岩坪朗彦
【掲載文献】 訟務月報58巻6号2513頁
税務訴訟資料261号順号11770
【参照法令】 所得税法33条
所得税法36条
家事審判法15条の4
国税通則法15条
家事審判規則107条
民事執行法195条
民法909条
【評釈等所在情報】 〔日本評論社〕
税理別冊附録55巻15号18頁
(26)所得税に関するもの:(3)所得の発生時期〈租税判例の回顧(平成23年下半期)/第2章 実体法上の問題1〉
首藤重幸・ジュリスト臨時増刊1453号200頁
〔平成24年度重要判例解説〕換価分割の方法による遺産分割と譲渡所得課税
小田修司・税研JTRI30巻4号89頁
2 所得税 20 未分割遺産換価のための競売の場合の譲渡所得の帰属
佐藤孝一・月刊税務事例47巻3号12頁
遺産(土地)の換価代金の分配を受けなかった者に対して,換価時には法定相続分の割合で共有持分を有していたとしてなされた譲渡所得の課税が適法とされた事例:換価代金の取得割合の事後的確定と課税の是正を中心として〈租税判例研究〉
佐藤孝一・月刊税務事例47巻3号12頁
遺産(土地)の換価代金の分配を受けなかった者に対して、換価時には法定相続分の割合で共有持分を有していたとしてなされた譲渡所得の課税が適法とされた事例:換価代金の取得割合の事後的確定と課税の是正を中心として〈租税判例研究〉
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 《全 文》

【文献番号】25483530  

譲渡所得税決定処分等取消請求控訴事件
東京高等裁判所平成23年(行コ)第91号
平成23年9月21日判決
控訴人 X
被控訴人 国(処分行政庁 船橋税務署長)


       主   文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。


       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 船橋税務署長が,Aに対して,平成18年分の所得税について平成20年2月29日にした,分離長期譲渡所得の金額を1264万5609円,納付すべき税額を170万8400円とする決定処分及び無申告加算税の額を31万5000円とする賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 処分行政庁である船橋税務署長が,Aが共同相続人として法定相続分の割合で共有持分を有していた遺産に属する土地について行われた換価のための競売に係る譲渡所得を申告しなかったとして,Aに対して控訴の趣旨第2項記載の所得税の決定処分等を行ったのに対し,Aの相続人である控訴人が,遺産分割により換価代金の分配を受けなかったAに同所得があるとすることは違法であるなどと主張して,これらの処分の取消しを求めた。
 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が請求の認容を求めて控訴した。
2 当事者の主張等
 関係法令,前提事実,税額の算出,争点及びこれに関する当事者の主張は,(1)のとおり補正し,当審における控訴人の補充的主張として(2)のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1ないし5に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決の補正
ア 6頁2行目の「本件において,」の次に「DとAが」を加える。
イ 10頁12行目の「処分行政庁の取扱いには合理性がないことについて」を「処分行政庁の取扱いには合理性がないとの主張について」に改める。
(2)当審における控訴人の補充的主張
ア 所得税法12条は,資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって,その収益を享受せず,その者以外の者がその収益を享受する場合には,その収益は,これを享受する者に帰属するものとして,この法律の規定を適用するとしており,実質所得者課税の原則を定めているところ,
(ア)控訴人は,第1回遺産分割審判期日において,Aは,他の相続人ら全員に対し,自己の相続分を譲渡したい旨を述べ,事実上(実質上)審判から脱退した。
(イ)多額の特別受益があり,Aには実質上の相続持分はない。
(ウ)本件売却代金は遺産管理者が保管しており,Aは,審判の途中で,本件共有持分相当の分配金の支払を受ける立場にはない。
(エ)その当然の結果として,Aは,課税庁によりAの譲渡収入とされた売却代金を受け取っていない。
 という事実関係の下では,所得の帰属者と目される者が外形上単なる名義人にしてその経済的利益を実質的,終局的に取得しない場合に該当するから,Aに課税をすることは,実質所得者課税の原則に反するものであって,違法である。
 なお,原判決は,「第2 事案の概要」の「5 当事者の主張」の(1)イにおいて,「Aに課税することは,実質所得者課税の原則に反するものであり,違法である。」と控訴人の主張を摘示したにもかかわらず,この点に対する判断を示しておらず,理由不備である。
イ 権利確定主義は,その権利について後に現実の支払があることを前提として,所得の帰属年度を決定するための基準であるにすぎず,所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」とは,後日,その収入が実現することを前提としているところ,Aにとっては,その譲渡収入は,実現しなかったのであり,競売時点において,Aが,譲渡収入とされる金額を受け取るという「収入の実現可能性」もなかった(または,限りなくゼロに近かった)のであるから,Aの譲渡収入に関して,競売時点において権利確定主義の基準を適用することはできないというべきである。
ウ 仮に,Aについて「収入すべき金額」が確定していたとしても,現実にその収入が実現しないことが確定した場合(本件の場合は,遺産分割審判が確定したとき)には,当然に救済措置がなければならないのであって,救済措置を適用する場合は,結果として,Aが譲渡所得の課税を受けないこととなるが,本件課税処分は,現実にAの収入が実現しないことが確定した後にされたものであるから,明らかに違法である。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も,控訴人の請求は,いずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」に説示するとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正
(1)12頁24行目の「前提事実2(3)オ及び同3のとおり」を次のとおり改める。
「前提事実(3)オ及びカのとおり,本件土地1の競落人であるS社が,本件売却に係る本件売却代金を納付し,本件土地1の所有権がS社に移転した時点において」
(2)15頁13行目の「処分行政庁の取扱いには合理性がないことについて」を「処分行政庁の取扱いには合理性がないとの主張について」に改める。
2 当審における控訴人の補充的主張について
(1)控訴人は,所得税法12条は,資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって,その収益を享受せず,その者以外の者がその収益を享受する場合には,その収益は,これを享受する者に帰属するものとして,この法律の規定を適用するとしており,実質所得者課税の原則を定めているところ,Aに課税をすることは,実質所得者課税の原則に反するものであると主張する。
ア しかしながら,まず,補正の上引用した原判決理由説示のとおり,Aが,本件売却時までに,自己の相続分を他の相続人らに譲渡したとは認められない。
イ 次に,具体的相続分は,遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって,それ自体が実体法上の権利であるとは認められず,遺産分割によって初めて具体的相続分の有無及び割合が確定するのであるから,遺産分割によって具体的相続分がなくなった者についても,遺産分割前の時点では,具体的相続分がないことが確定しているわけではないのであるから,本件売却時において,Aの具体的相続分がなかったということはできない。
ウ また,家庭裁判所が指定した遺産管理者の地位は,相続人の代理人であり,遺産管理者の行為は相続人の行為とされるのであるから,本件売却代金を本件遺産管理者が管理し,Aが実際には換価代金を直接受け取ることがなかったとしても,本件遺産管理者がAら相続人を代理して本件売却代金を保管していたものと認められ,Aが本件売却代金に係る分配金を受ける立場にないとか,本件売却代金を受け取っていないなどということはできない。
エ さらに,Aは,本件共有持分を被相続人から相続により承継し,前記のとおり,本件売却前に自己の相続分を他の相続人らに対して譲渡した事実は認められないから,Aが,本件売却時において,本件土地1について法定相続分の割合に応じて共有持分を有する所有者であったことは明らかであり,また,本件売却後,Aが遺産分割審判により最終的には本件売却代金を原資とした金員を取得しないこととなったとしても,本件売却時点におけるAの本件土地1に対する共有持分が遡って存在しないこととなるものではないし,本件売却代金は,Aらの代理人である本件遺産管理者が取得・管理していたのであるから,本件売却時において,Aが本件売却に係る収益を支配していたと評価することができる。
 以上によれば,本件は,所得税法12条にいう,資産から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって,その収益を享受せず,その者以外の者がその収益を享受する場合に該当するとは認められないから、Aに課税することが,実質所有者課税の原則に反し,違法とはいえない。この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。
(2)控訴人は,権利確定主義は,その権利について後に現実の支払があることを前提として,所得の帰属年度を決定するための基準であるにすぎず,所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」とは,後日,その収入が実現することを前提としているところ,Aにとっては,その譲渡収入は,実現しなかったのであり,競売時点において,Aが,譲渡収入とされる金額を受け取るという「収入の実現可能性」もなかった(または,限りなくゼロに近かった)のであるから,Aの譲渡収入に関して,競売時点において権利確定主義の基準を適用することはできないと主張する。 
 控訴人の上記主張は,Aが本件売却代金を実際には受領していないことを根拠として,本件売却によって譲渡所得が発生していないとするものと解されるところ,譲渡所得課税は,資産の値上りによりその資産の所得者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税するものであって,不動産の売却によって譲渡人が直接受け取った現金を所得として課税するものではないから,Aが本件売却代金を自ら受け取っていないことを理由として,本件売却による譲渡所得が発生していないということはできない。
 そして,本件土地1は,本件売却により第三者への譲渡がされ,その代金は,Aら相続人の代理人としての本件遺産管理者が,取得・管理していたのであるから,本件売却時点において,Aは,本件売却代金のうち持分相当額を支配し,本件売却による譲渡益を実現していたといえるのであって,Aにとって,譲渡収入は,実現しなかったとか,競売時点において,Aが,譲渡収入とされる金額を受け取るという「収入の実現可能性」もなかったということはできない。この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。
(3)また,控訴人は,仮に,Aについて「収入すべき金額」が確定していたとしても,現実にその収入が実現しないことが確定した場合(本件の場合は,遺産分割審判が確定したとき)には,当然に救済措置がなければならないのであって,救済措置を適用する場合は,結果として,Aが譲渡所得の課税を受けないこととなるが,本件課税処分は,現実にAの収入が実現しないことが確定した後にされたものであるから,明らかに違法であると主張する。
 しかし,上記のとおり,本件売却代金は,本件遺産管理者が,取得・管理していたのであるから,本件売却時点において,Aは,本件売却代金のうち自己の持分を取得していたといえ,Aが現実に本件売却代金の配分を受けなかったのは,本件売却後にされた遺産分割審判がそのような内容であったからにすぎないし,〈証拠略〉によれば,本件の遺産分割審判においては,本件売却後に行われた鑑定の結果,相続開始時の特別受益に係る土地の価格が本件土地1及び2の相続開始時の価格よりも相当上回ったことから,結果として,Aについての特別受益の額が4800万円とされ,本来の相続分2926万円を超えているとされたものであり,鑑定の結果次第では,Aにも具体的相続分が発生し,現実的な代金の分配を受ける可能性があったということができるから,本件は,当然に救済措置がなければならない事案とはいえない。この点に関する控訴人の主張も,採用することができない。
(4)なお,控訴人の控訴理由におけるその余の主張及び当審において提出された証拠を考慮しても,控訴人の主張に理由がないとする前記の判断を覆すに足りない。
第4 結論
 以上によれば,控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとする。
(裁判官 梅津和宏 中山顕裕 岩坪朗彦)



 

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