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《書 誌》
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【文献番号】 25420395
【文献種別】 判決/神戸地方裁判所(第一審)
【裁判年月日】 平成19年11月20日
【事件番号】 平成18年(行ウ)第59号
【事件名】 処分取消並びに還付金請求事件
【事案の概要】 原告らが、原告らの被相続人の相続につき相続税の申告をして申告に係る相続税を納付した後、遺産を占有管理していた表見相続人からその一部の返還を受けられなかったことを理由に、処分行政庁に対して更正の請求及び納付した相続税の一部の還付請求をしたところ、処分行政庁から更正に理由がない旨の通知処分を受けたため、被告に対し、同通知処分の取消し及び納付した相続税の一部の還付を請求した事案で、相続開始後に遺産が滅失し又はその価額が減少したことを確認し又はこれを前提とする裁判上の和解がなされても、この和解は国税通則法23条2項1号にいう「和解」に当たらないとして、原告の請求をいずれも棄却した事例。
【判示事項】 〔TKC税務研究所〕
  1. 国税通則法23条2項1号にいう「和解」の意義。
(要旨文献番号:60046710)
  2. 僭称相続人に対する相続回復請求権の一部を放棄する内容の和解は、相続税に係る更正の請求事由に該当しないとされた事例。
(要旨文献番号:60046711)
  〔訟務月報〕
  1. 国税通則法23条1項と同条2項の関係
  2. 表見相続人に対して相続回復請求訴訟を提起した相続人らが相続回復請求権を取得遺産の一部に計上して相続税の申告をした後,同訴訟において成立した裁判上の和解につき,同和解は,実質的には,表見相続人が相続人らに対し遺産のうち一部を和解金名目で返還し,相続人らはその余の相続回復請求権を放棄することを内容とするものであり,被相続人の遺産の範囲及びその価額等につき,相続開始時にさかのぽって,表見相続人及び相続人らのした相続税の申告と異なるものであったことを確認し又はこれを前提とするものではないから,国税通則法23条2項1号の「和解」に該当しないとされた事例
【要旨】 〔訟務月報〕
    国税通則法23条2項1号所定の事由も,同条1項1号の「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額(括弧内省略)が過大であるとき」の一事由であるといえ,このような事由が同条1項所定の更正の請求の期間内において生じた場合は,同条1項に基づいて更正の請求をすることができる。
【裁判結果】 棄却
【上訴等】 確定
【裁判官】 佐藤明 島戸真 松下絵美
【掲載文献】 訟務月報55巻4号1933頁
税務訴訟資料257号順号10828
裁判所ウェブサイト
【参照法令】 国税通則法23条
【評釈等所在情報】 〔日本評論社〕
税理51巻10号127頁
相続税における更正の請求事由としての「和解」(判例紹介)
旬刊速報税理27巻30号36頁
裁判上の和解が更正請求の理由となるかどうかが争われた事例:処分取消並びに還付金請求事件(判例紹介)
月刊税務事例42巻12号
通則法:相続開始後の遺産の滅失等を確認する裁判上の和解と更正の請求の許否〈判例カード〉〈判例紹介〉
【全文容量】 約17Kバイト(A4印刷:約10枚)




 《全 文》

【文献番号】25420395  

処分取消並びに還付金請求事件
神戸地方裁判所平成18年(行ウ)第59号
平成19年11月20日判決


       主   文

1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。


       事実及び理由

第1 請求の趣旨
1 洲本税務署長が平成17年3月9日付けでした,原告Aのした平成▲年▲月▲日相続開始に係る相続税の更正請求につき更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
2 被告は,原告Aに対し,2205万0600円及びこれに対する平成16年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 洲本税務署長が平成17年3月9日付けでした,原告Bのした平成▲年▲月▲日相続開始に係る相続税の更正請求につき更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
4 被告は,原告Bに対し,1499万5100円及びこれに対する平成16年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 洲本税務署長が平成17年3月9日付けでした,原告Cのした平成▲年▲月▲日相続開始に係る相続税の更正請求につき更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
6 被告は,原告Cに対し,1499万5100円及びこれに対する平成16年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告らが,原告らの被相続人の相続につき相続税の申告をして申告に係る相続税を納付した後,遺産を占有管理していた表見相続人からその一部の返還を受けられなかったことを理由に,処分行政庁に対して更正の請求及び納付した相続税の一部の還付請求をしたところ,処分行政庁から更正に理由がない旨の通知処分を受けたため,被告に対し,同通知処分(ただし,異議決定及び裁決による一部取消し後のものと解される。)の取消し及び納付した相続税の一部の還付を請求する事案である。
1 争いのない事実及び容易に認定できる事実(引用証拠等のない事実は争いがない。)
(1)平成12年4月27日,Dを養親,Eを養子とする養子縁組届出がなされた。
(2)Dは,平成▲年▲月▲日,死亡した。Dの親族関係(Eとの前記養親子関係を除く。)は,別紙「亡D相続関係説明図」記載のとおりである。
 相続開始時におけるDの遺産として,不動産,預金,現金,株式,投資信託,ゴルフ会員権及び動産類が存在していた(甲5,弁論の全趣旨)。
(3)Eは,洲本税務署長に対し,平成13年7月5日,Dの相続につき,唯一の相続人(養子)として相続税の申告をし(申告した課税価格3億8595万2000円),そのころ,その相続税として1億2572万7400円を納付した(甲5、弁論の全趣旨)。
(4)原告Aは,Eを相手方として,神戸家庭裁判所洲本支部に対し,平成14年3月4日,前記養子縁組の無効確認を求める調停の申立てをしたが(同裁判所平成▲年(家イ)第▲号),同調停申立事件は,同年4月15日,不成立となった(弁論の全趣旨)。 
 原告らは,Eを被告として,同年7月18日,神戸地方裁判所洲本支部に対し,前記養子縁組の無効確認訴訟を提起し(同裁判所平成▲年(タ)第▲号。甲2,弁論の全趣旨),同裁判所は,平成15年3月27日,原告らの請求を棄却する旨の判決を言い渡したが,控訴審の大阪高等裁判所(同裁判所平成▲年(ネ)第▲号)は,同年8月28日,原判決を取消し,同養子縁組は無効であることを確認する旨の原告ら勝訴の判決を言い渡し,これを不服としてEが上告及び上告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,平成15年12月19日,Eの上告を棄却し,上告受理の申立てを受理しない旨の決定(以下「本件最高裁決定」という。)をして前記控訴審判決が確定した。
(5)洲本税務署長は,原告らに対し,平成16年4月26日ころ,Dの相続につき同年10月19日までに相続税の申告書を提出して相続税を納付するよう記載した案内書面を送付した(甲7,弁論の全趣旨)。
(6)原告らは,平成16年6月4日,Eを被告として,Eは原告らに対してDの遺産のうち原告らに返還していない財産の価格相当額の返還義務があると主張して,原告Aが8036万5279円,原告B及び同Cが各4018万2640円の支払を求める訴えを提起した(神戸地方裁判所洲本支部平成▲年(ワ)第▲号相続回復請求事件。以下「本件相続回復請求訴訟」という。甲6の1・2)。
(7)原告らは,洲本税務署長に対し,平成16年10月18日,Dの相続につき,別紙「課税の経緯」「当初申告」欄記載のとおり相続税の申告をし(原告らは,同日,申告書を郵便により発信した(甲8,弁論の全趣旨)ので,同日,これを同税務署長に提出したものとみなされる(国税通則法(以下「通則法」という。)22条)。),それぞれ同欄記載の額の相続税を納付した。
 前記相続税の申告書において,原告Aは,取得した遺産の額1億8878万3376円,うち5326万8615円は相続回復請求権,原告Bは,取得した遺産の額9858万4414円,うち5326万8614円は相続回復請求権,原告Cは,取得した遺産の額9858万4414円,うち5326万8615円は相続回復請求権である旨記載した(甲8)。
(8)原告ら及びEは,本件相続回復請求訴訟において,平成16年11月22日,和解に至る経緯として「従前の審理の過程で被告(注・E)の支払限度額が3100万円であることが判明し,この状況下で当事者双方は受訴裁判所の和解勧告に従って和解するに至った。」旨を確認した上,「被告(注・E)は,原告ら(注・本訴原告ら)に対し,同日,和解金として3100万円を支払い,原告らはこれを受領した。原告らはその余の請求を放棄する。当事者双方は,他に債権債務のないことを確認する。」旨の裁判上の和解をし(以下「本件和解」という。),原告らは,Eから,同日,和解金3100万円を受領した(甲9)。
(9)原告らは,洲本税務署長に対し,平成16年12月13日,いずれも前記相続税申告書記載の相続回復請求権1億5980万5844円が裁判上の和解により3100万円に減額されたことを理由に,通則法23条2項1号に基づき,相続税の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をするとともに,これを前提とする還付請求をした(甲10の1ないし4)。
(10)洲本税務署長は,原告ら各自に対し,平成17年3月9日付けで本件更正の請求に理由がない旨の通知処分をした(以下「本件各通知処分」という。甲11の1ないし3)。
(11)原告らは,洲本税務署長に対し,平成17年4月19日,本件各通知処分に対する異議申立てをし,同税務署長は,同年7月8日,別紙「課税の経緯」「異議決定」欄記載のとおり,原告Aの異議申立てを棄却し,原告B及び同Cについては,本件各通知処分のうち同原告らの各通知処分の一部を取り消す旨の決定をした(甲14の1ないし3)。
(12)原告らは,国税不服審判所長に対し,平成17年8月8日,審査請求をし,国税不服審判所長は,平成18年7月6日,原告Aの審査請求を棄却し,原告B及び同Cについては,本件各通知処分のうち同原告らの各通知処分(前記異議決定により一部取り消された後のもの)の一部を取り消す旨の裁決をした(甲16)。
(13)原告らは,平成18年9月13日,本訴を提起した。
2 主な争点及びこれに関する当事者の主張
 本件の主な争点は,本件各通知処分の違法性の有無,すなわち,本件更正の請求につき更正の請求理由があるか否かである。
(1)原告らの主張
〔1〕本件には,「本来,法定相続人である原告らがDの相続人として相続するべきであったところ,Dの死亡前にDと養子縁組したと称するEがその届出をしたため,原告らは,真正な相続人であることを主張するために,Eを相手方とする調停,次いで訴訟という手続をとらざるを得ず,そのために平成14年3月4日から前記養子縁組を無効とする高裁判決に対する上告を最高裁が棄却した平成15年12月19日まで約1年10か月の期間を要した。その間,EがDの遺産の相当部分を費消していたため,Dの本来の遺産の額は3億2595万2000円であったのに,原告らが実際に取得した遺産の額は,和解金3100万円を加え合計1億9522万1441円であった。」等の事情がある。関係諸法令をみても,本件のような特殊な場合を予定し,これに対応するための規定は置かれていない。そのために,一般原則を適用すると,原告らが,Dの遺産のうち1億3073万0559円については実際に取得していないし,取得しようとしてもできなかったのに,その分まで余分に相続税を支払うことを余儀なくされるという,社会通念及び納税者感情から見ても甚だしく社会正義に反する奇妙な結果を招来させる。法が予想していない事例が出れば,規定がない場合であることを考慮して,納税者に不利益にならないよう配慮すべきである。
(以下「原告らの主張第1点」という。)
〔2〕本件のような特殊な事例の場合は,原告らの相続税の納付義務の発生がDの死亡時であるというのは,著しく事実関係に反するから,本件最高裁決定により原告らがDの相続人であることが確定した平成15年12月19日に原告らの相続税の納付義務が発生したと解すべきである。
(以下「原告らの主張第2点」という。)
〔3〕相続税法は,遺産を取得した者に対して取得財産を範囲として課税する「遺産取得方式」を採っているところ,Dの遺産は,僭称相続人のEが相当部分を費消したものであり,これにつき原告らには何の責任もない。このような状態の下で,原告らが遺産の全額を取得していないのに,取得していない財産の相続税を支払わなければならない理由はない。
(以下「原告らの主張第3点」という。)
〔4〕原告らは,念のため相続開始時のDの遺産に基づいて相続税を支払ったが(Eから未返還の遺産は将来いくら返還されるか不明のためこれをとりあえず相続回復請求権として計上して申告した。),僭称相続人Eの費消という行為により,原告らが取得すべきであった遺産が,判決と同じ効力を有する「和解」により3100万円に減縮された。このような場合,原告らは,各自が取得した範囲内で納税すれば足りると解釈すべきである。
(以下「原告らの主張第4点」という。)
〔5〕原告らは,平成16年11月22日の本件和解成立時に「相続又は遺贈により財産を取得した個人」たる相続人(相続税法1条の3)と確定した。そして,原告らにとって,相続又は遺贈により取得した財産とは,本件和解成立により相続人となった時点で取得した3100万円である。
(以下「原告らの主張第5点」という。)
〔6〕被告は,通則法23条2項1号にいう「和解」について,和解の内容が将来に向かって新たな権利関係等を創設する趣旨のものとそれ以外のものとに分け,また,従前の権利関係等に異同を来すものでないと認められるときとそれ以外のときとに分け,いずれも同号にいう「和解」は,後者の「それ以外のもの」に限ると主張するが,根拠がない。
(以下「原告らの主張第6点」という。)
〔7〕本件和解において原告らが相続回復請求権を放棄したとの被告の主張は争い,原告AがDの遺産を減少させたとの被告の主張事実は否認する。
(2)被告の主張
〔1〕原告らの主張が,本件和解が通則法23条2項1号の「和解」に該当し,これが同条1項1号の事由に当たるとの趣旨であるとしても,本件和解は,同条2項1号の「和解」に当たらない。なぜなら,通則法23条2項1号の「和解」に当たるというためには,当該和解により課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係に遡って異同を来すものであることを要すると解すべきところ,本件和解は,相続開始時に遡ってDの遺産に異同を来すものではなく,その内容は,原告らが,Eに対して有する遺産の返還請求権(相続回復請求権)を放棄したものにすぎないからである。
〔2〕なお,原告らは,Dの死亡日である平成▲年▲月▲日にDの遺産を当然に取得し,これに基づき相続税の納付義務が成立している。その課税価格は,Dの死亡時における遺産の価値に基づいて算定されるべきものである。
〔3〕Dの遺産が減少した主な原因は,原告Aが遺産の一部である有価証券等の運用に失敗したことにある。
第3 当裁判所の判断
1 更正の請求の理由の有無
(1)更正の請求の法文上の根拠について
ア 通則法23条の解釈について
 原告らが,本訴において,本件更正の請求がいかなる法律上の規定に基づくものであると主張するのかは明確ではないが,同更正の請求においては通則法23条2項1号を根拠規定としていたことからすると,本訴においても,これを根拠規定として主張する趣旨とも解される。
 前記第2,1,(1)ないし(4)の経緯に照らすと,本件最高裁決定のあった平成15年12月19日をもって原告らが「相続の開始があったことを知った日」(相続税法27条1項)と解するのが相当であり,かく解すると,法定申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10月以内(同条項))は平成16年10月19日となり,通則法23条2項の適用を受けるのは,更正の請求期間の満了日である平成17年10月19日より後に,同項各号に掲げる期間の満了する日が到来する場合に限られることとなる(同項柱書)。ところが,本件和解は,平成16年11月22日に成立しており,その翌日から起算して2月(同項1号)を加えても,その満了日は平成17年10月19日より前であるから,同項を適用することはできない。しかし,翻って考えると,同項は,同条1項所定の期間内に更正の請求ができない事情がある場合に,同項所定の期間後であっても特に更正の請求を認める趣旨の規定であって,同項と別個の事由に基づく更正請求を認めたものではない。したがって,同条2項1号所定の事由も,同条1項1号の「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額(かっこ内略)が過大であるとき」の一事由であるといえ,このような事由が同項所定の更正の請求の期間内において生じた場合は,同項に基づいて更正の請求をすることができると解すべきである。
 したがって,同条2項1号の事由が同条1項所定の期間内に生じた場合は,同項に基づいて更正の請求をすることができるというべきであるから,この点で本件更正の請求が不適法とはいえない(仮に,原告らは,Eの養子縁組無効確認の訴えを提起した以上,相続開始時点(平成▲年▲月▲日)からこの養子縁組が無効であり,自己が相続人であることを知っていたので,Dの死亡日の翌日が原告らの相続税の法定申告期限の起算日であると解するとすれば,その満了日は平成▲年▲月▲日,同項による更正の請求期間は平成▲年▲月▲日までとなり,和解の成立はその後となるから,本件更正の請求につき同条2項1号を適用することが可能である。)。
イ 通則法23条2項1号にいう「和解」の意義
(ア)更正の請求が申告の過誤を事後的に修正する制度であること及び通則法23条1項1号,2項1号の文言に照らすと,相続税に関して言えば,同条1項1号の「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額(かっこ内略)が過大であるとき」に当たる同条2項1号の「和解」とは,遺産の範囲又は価額等の申告に係る税額の計算の基礎となった事実を争点とする訴訟等において,当該事実につき申告における税額計算の基礎とは異なる事実を確認し又は異なる事実を前提とした裁判上の和解をいうものと解すべきである。そして,前記の事実の異同は,遺産の範囲及びその価額について言えば,相続人の相続税納税義務が成立する遺産取得時期であり,前記税額計算においても取得する遺産の範囲を決定する基準時となり,かつ,その財産の価額評価の基準時でもある相続開始時における遺産の範囲及び価額と,申告書に記載されたそれとが異なることが確認等されたか否かによって判断することになる。したがって,例えば,相続開始後に遺産が滅失し又はその価額が減少したことを確認し又はこれを前提とする裁判上の和解がなされても,この和解は同号の「和解」に当たらない。
(イ)これに対し,原告らは,表見相続人(僭称相続人)であるEが遺産の一部を相続開始後に費消した本件においては,本件最高裁決定のあった平成15年12月19日に原告らの相続税の納付義務が発生したと解すべきである(原告らの主張第2点)と主張し,他方では,原告らは平成16年11月22日の本件和解成立時に「相続又は遺贈により財産を取得した個人」たる相続人(相続税法1条の3)と確定し,原告らの取得した財産は3100万円である(原告らの主張第5点)とも主張するが,そのような見解は,本件の事案における限定的な解釈としてでも,相続に関する民法の諸規定と隔絶し,また,通則法の他の規定との整合性を無視するに等しいもので,いずれも採用できない。特に,原告らの主張第5点の主張は,原告らが和解金3100万円以外にEから返還を受けた財産の存在を自認することを失念している点はともかく,原告らが,本件和解前に相続税の申告をして納税義務を確定させ,同申告に係る相続税を納付したことと相容れない。
 また,原告らは,通則法23条2項1号にいう「和解」には,従前の権利関係等に異同を来さず,将来に向かって新たな権利関係等を創設する趣旨のものも含まれる旨主張するが(原告らの主張第6点),申告の過誤の是正という更正の請求の制度趣旨を逸脱する解釈であり,採用できない。
ウ 本件和解の意義
 本件和解は,実質的には,Eが原告らに対し占有管理していたDの遺産のうち3100万円を和解金名目で返還し,原告らはその余の相続回復請求権を放棄することを内容とするものであり,Dの遺産の範囲及びその価額等につき,相続開始時に遡って,E及び原告らのした相続税の申告と異なるものであったことを確認し又はこれを前提とするものではない。
 原告らは,原告らが相続回復請求権を放棄したことを争い,原告らが取得すべきであった遺産が本件和解により3100万円に減縮された旨主張する(原告らの主張第4点)。しかし,「その余の請求を放棄する。」との和解条項により原告らが放棄した請求権は,相続回復請求権以外にはあり得ず,本件和解は,遺産の範囲自体は事後的にせよ変更することなく,逸失した遺産をどの範囲で返還させるかにつき互譲の上合意したものであるから,原告らの前記主張は採用しない。
 前記第3,1,(1),イ,(ア)説示によれば,本件和解は,通則法23条2項1号の「和解」に該当しないというべきである。
(2)原告らの更正請求の理由該当性について
 原告らの主張第1点ないし第6点が主張するところは,通則法23条1項及び2項の他の更正の請求の理由及び相続税法32条の更正の請求の理由のいずれにも該当しない。
(3)「社会通念」,「納税者感情」及び「社会正義」について
「関係諸法令をみても,本件のような特殊な場合を予定し,これに対応するための規定は置かれていない。」などの原告らの主張第1点及び原告らの主張第3点の主張からすると,原告らは,本件につき法定の更正の請求の理由が存在しないことを認めた上で,本件の事案においては,「社会通念」,「納税者感情」及び「社会正義」の観点から,更正の請求を認めるべきであると主張する趣旨とも解される。
 しかし,現行租税法の採用する申告納税制度においては,過大に申告した過誤があっても,申告どおり納税義務を確定させるのを原則としつつ,申告の適正化及び租税法律関係の早期確定等の要請から,特定の場合に限って一定の期限を設けて例外的に過大申告の過誤を是正する更正の請求制度を設けたものと解されるから,通則法及び他の個別の租税法規が認める理由以外の理由による更正の請求は認められないと解すべきである。原告らは,更正の請求を認めない場合の不合理さをるる主張するが,相続開始前から第三者が占有管理する遺産につき通常の評価をして相続税の申告をしたところ,当該第三者がこれを費消しかつ無資力となった場合や,遺産である債権につき債権額を評価額として相続税の申告をしたところ,債務者が無資力化した場合及び相続開始後に遺産が第三者により滅失毀損された場合等にも,相続人にとって本件の原告らと類似の状況が生ずるのであり,本件に限って,法律の規定を超えた救済を必要とする理由があるとはいえない。
(4)まとめ
 したがって,本件更正の請求には更正の請求の理由がないといわざるを得ないから,本件各通知処分に違法はない。
2 還付請求の可否
 前記第3,1,説示のとおりであるから,原告らの還付請求は理由がない。
3 結論
 以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 佐藤明 裁判官 島戸真 裁判官 松下絵美



 

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